『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

37節

 お嬢様が泣き終わったのはそれから数日経てからだ。お嬢様は泣くだけ泣くとケロッとした顔で城内を歩いていた。
「お姉様、もう泣かなくていいんですか?」
「ああ、存分に泣いたからな。こんだけ泣いていたらヒイが心配して戻ってくるだろう。だから、私はもう泣かない」
「そうですか……本当、素敵な式でしたものね」
「私のお気に入りのドレスを着せたんだ。あれを着るのがまさかヒイだと思わなかったよ」
「そのドレスは?」
「ヒイにくれてやった。自分に娘が産まれたらその子に着せてやりたいと言ってきたのでな。私はミラに着せてやりたかったが、ミラも結婚するのがいつなのかわからんからな」
 お嬢様は妹様にそう言うと、いつも通り仕事をし始めた。私は休憩時間にお嬢様にお茶を持っていった。
「お、もうそんな時間か」
「お嬢様、あの式以来随分と仕事に熱中してますね」
「まあな。ヒイもいなくなったことで、お前達の仕事も増えただろう。それに比べたら私なんて……」
「そう言えばあの指輪はどうしたんです?」
「ああ、あれか。あれは街の加工屋に頼んでん特注で作らせたものだ。ヒイの指のサイズは私と同じだからな。簡単に出来たよ。でも、ヒイがいなくなると……さみしいな……」
「確かにヒイさんが抜けてしまい、その穴埋めをするのは大変です。でも、仕方ありませんよね」
「ああ、仕方がない。そうだ、お前にヒイの昔話をしてやろう!」
「いいんですか?途中で泣いたりするんじゃないですか?」
「お前は本当に直球だな。大丈夫だ、存分に泣いた。あとは笑うだけだ」
 そう言ってお嬢様はヒイさんの過去を話し始めた。
「あれは今から三十年前か――」

 その時、この城にいたのは私と李だけでな、退屈な日々を送っていた。李は突然来て一族のなんやかんやで私と戦って李は負けた。それから李はこの城の門番として生きてきた。だが、死のうにも李が許してくれなくて死ねなかったんだ。何故この場所を根城にしたのか、今の私ではわからないな。でも、人から避けるようにしていた。
 そんなある日、城の中で散歩をしていたんだ。するとどこからか泣き声が聞こえてきたんだ。私は空耳だろうと思って気にしなかったが、いつまで経っても聞こえるのでな。うるさくて気になって確かめに行ったんだ。声のした方に行くと、そこにはまだ赤ん坊だったヒイがいたんだ。私は何故こんなところに赤ん坊がいるのかわからなかった。李はどうしたんだろうか、その場にいたのかいなかったのか思い出せない。でも、いた記憶が無かったからいなかったんだろう。でも、ヒイは必死に泣いていた。私は可哀そうだと思ってな。気まぐれにそのヒイを拾って育てたんだ。だが、育ててみると意外と楽しくてな。私自身もヒイと同じように笑ったんだ。久しぶりに。
 それから毎日が楽しくてな。私はヒイに食べさせる飯を自分で作っては失敗して、作っては失敗しての繰り返しで、ヒイに満足に飯を食わせることも出来なかった。でも、あの子はいつも笑っていたんだ。その笑顔に私は救われたんだ。食料を確保の為に城に畑を作ったのも私だ。赤ん坊のヒイを背中に背負って畑仕事するのは大変だった。
 そして、ヒイが五歳になる頃は私の料理の腕も上達していた。私はいつも通り、畑仕事をしていた。すると、ヒイは突然消えたんだ。私に何も言わずに。私は必死になってヒイを探した。李にも聞いた。でも奴は知らないの一点張りだった。でも、城中を探してもヒイは見つからなかった。魔物に襲われたと思って私は絶望したよ。だが、ヒイは突然帰って来た。私は涙を流してヒイを抱きしめたよ。力いっぱい。で、どこに行っていたか聞くと、ヒイは三歳ぐらいだったフウとミイを連れて来てな。一緒に暮らしたいと言って来た。私はどこから連れてきたか聞くと、城の周りをウロついていたから声をかけた。そして一緒に遊んでいたが、暗くなっても家に帰らないので、どうしたの?て聞くと、二人とも捨てられたと言ったそうだ。それで、私に言って来たんだ。もちろん、私はその話を聞いてすぐに二人を城に招いた。それからだ、皆が集まって来たのは。

「どうだ?私たちの話はこれでお終いだ。何か感想はあるか?」
「お嬢様は……いつか別れが来るとわかっていて皆を育てたんですか?」
「変なことを聞くな?当たり前だろう。私が何百年ここに住んでいたと思う?人間と私はでは寿命が違う事ぐらいとっくの昔に嫌と言うほど味わっている。質問はそれだけか?」
「はい」
「そうか、では仕事に戻れ。ヒイがいなくなったお蔭で食費の計算をしないといけなくなったからな。忙しくてたまらん」
 お嬢様はそう言ったが、顔は嬉しそうだった。
「それでは失礼します」
 私は頭を軽く下げて、部屋から出て行った。それからと言うもの、私たちはヒイさんの担当だった仕事を分割して仕事をした。ヒイさんが仕事をしていたのは私の数倍の量だった。それを分割しても私の仕事の倍はあった。大変だったがヒイさんが幸せなら構わなかった。でも、掃除のやり直しや、指導を受けないと思うと少し悲しい。

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