『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

32節

 一時間ぐらい経っただろうか。お嬢様達が帰って来た。それまで私たちは奇怪な目で見られ続けた。恥ずかしくて穴に入りたい気持ちだったが、妹様は何事もなかったかのようにふるまっていた。
「ん?どうした、何かあったのか?」
「いえ、何も」
 妹様はにっこりと笑っている。
「まあ、何事もなかったのならいいのだが、これでいいのか?」
「あ、はい。大丈夫だと思います」
「よし、店主に言ってこい」
「わかりました」
 私は材料を持って薬屋の元へ戻った。その後ろでお嬢様がしつこく妹様に、
「何か変な事言っていないだろうな?」
と聞いていた。妹様は何も、と言ってとぼけたふりをしていた。
 素材を薬屋の店主に見せると、店主は大急ぎで薬を作ってくれた。それを貰って、お礼に少しだけお金をもらった。
「報酬に薬代を負けてもらったか?」
「はい、お礼に少しだけお金をもらいました」
「よし。じゃあ、帰ろう」
「お姉様、せめてサーカスを見てから帰ってはいけませんか?」
「……そこまで言うのなら見に行ってやってもいい。ただし、見物料はお前が出せよ」
「わかってますって。それじゃ行きましょう!」
 妹様は嬉しそうに鼻歌を歌いながら歩いていた。
「あれ、この歌は……」
 以前お嬢様が歌っていた歌だ。私はその独特なメロディーに耳を傾けて聞いていた。
「あの歌はな、母から教えてもらった歌なんだ。私達姉妹にとって、あの歌は貴重な思い出なんだ。でも、私は母が嫌いだ。たぶんエリザも……」
「そうなんですか」
「いずれ私達の昔話をしてやろう。ただし長いぞ?」
「大丈夫です。その時はお茶でも入れて聞きます」
「うん、私の分も頼むぞ」
 そんな会話をしていたら目的のサーカスにたどり着いた。
 ちょうど演技が始まるらしく、私達は最前席に行った。
 そこで見たものは感動するほどのものだった。人が球の上に乗って器用にバランスを取っている。ジャグリングとか言うものは練習すれば私でも出来るのだろうか……人間の体がここまで曲がるなんて信じられない。
 サーカスの演目はどれも素晴らしいものだった。途中で妹様が乱入しなければ楽しいものだったが……
「あー、楽しかったですねお姉様?」
「そうだな……もう二度とサーカスを見たくなくなったよ……」
 お嬢様は疲れた顔をしている。妹様を取り押さえるのに苦労したんだろう……それもそうだ。なんせ妹様も一緒にジャグリングをして観客を喜ばせていたんだが、舞台裏で怒った人達にお嬢様は謝っていたのだから。もちろん、私も一緒だったが、私は少し楽しかった。ミイさんもジャグリングに興味を持ったのか、買ってきた野菜でジャグリングの練習をしている。初めてしたとは思えないほど、彼女は上手かった。隠れた才能だ。
 街から城に帰ってくるとミラがお迎えをしてくれた。
「おかえりなさいー」
「ああ、ただいま」
「ただいま、ミラ」
 ミラの笑顔を見たお蔭か、お嬢様はさっきとは違う表情、笑みを浮かべている。きっと疲れが吹き飛んだのだろう。
 ミラの手を引っ張ってお嬢様は城の中に戻って行った。毎日が充実しているなぁ……そう思っていた。

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