『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

26節

 数日経った今日、カーミラも完全に回復していつも通りの生活が始まった。カーミラはお腹に縫ってある糸を自分で引っ張り、勝手に治した。私は医者の診断に任せようと言ったが彼女は、
「大丈夫だ。もう完全に治った。だが、自分の腹に縫ってある糸を抜くと言うのは痛いな。もう少し楽な方法は無かったのか……?」
と、言ってまるで他人事のようにしている。
ある日、皆と朝食を食べた後、まずは一階の広間を掃除。そして二階へ。最後に城中の窓を拭いて私の仕事は終わりだ。でも、口で言うのは簡単だが、実際にやってみるとものすごく時間がかかる。午前と午後に分けないととてもじゃないが掃除しきれない。この仕事に慣れるまで結構かかったな……
 カーミラは相変わらず食費や経費、その他の書類に目を通している。別に書類を見なくてもいいと思うんだけど、彼女にとってはお金がかかることは問題らしい。
「何も無限に金があるわけじゃない。有限の金をどう使うか、それが問題なんだ」
などと言っていた。てっきりこの城のお金は沢山あると思っていたが、どうやらそうではないらしい。でも、どこからお金が出てきてるんだろう?そのことも彼女に聞いてみた。
「もともと、この城に住んでいた化け物が蓄えていた金を私たちが勝手に使っているだけだ。まだ貯蓄はあるからお前は気にするな」
と。その化け物は何の為にお金を蓄えていたんだろうか。その事はカーミラにもわからないらしい。
 それから数日後、ヒイさんが倒れた。それに続いてフウさん、ミイさん、ヨウさん、執事たちも倒れた。私とカーミラだけは無事みたいだった。
「何故皆倒れた!?何かの感染症ではないのか!?」
「わかりません……皆高熱を出しています。風邪によく似ていますが、原因はわかりません……!」
「お前は平気なんだな!?」
「ええ、何とも……」
「よし、李に診てもらう!何か知っているかもしれん!」
「はい!」
 私たちは門へ行った。でもそこには李狼の姿は無かった。
「くそ!こういう時に役に立たん門番だ!仕方ない、村の医者に診てもらうぞ!薬か何か持っているはずだ!」
 そして村へ行くことになった。カーミラは、
「急ぐぞ」
と言って私の手を引っ張り猛スピードで走った。人間の私では到底届きそうにない速さだ。これならすぐにでも村に着くことが出来るかもしれない……!
 村に着いた途端、カーミラはいきなり私の手を離した。それに釣られて私は地面に倒れた。
「いたた……お嬢様、いきなり手を離されても……」
「ミナ……お前、何か違和感を感じないか?」
「違和感……ですか?」
 そう言われると、いつも人の声が絶えない村なのに、今日は何も聞こえない。聞こえるのは風の音ぐらいだ。
「まさか……!」
「その予想は当たっているかもしれん……!家の中を見て回るぞ!」
 私はカーミラと別々に家の中を調べた。でも、そこに映っていたのは信じられない光景だった。家の住民が皆殺しにされている……!それも血まみれで……!隣の家にも行った。でも、そこにはさっきと変わらないものが映っていた。
「お嬢様……!」
「やられた……あいつが殺ったんだ……!」
 他の家も全滅のようだ。私の村が……!
「……すまない。謝っても許されないことだが……私の詰めが甘かったようだ……」
「……いえ、お嬢様のせいではありません……いつかはこうなる日が来たんです……ただそれが早まっただけで……」
「ミナ……」
 私の顔から水が落ちてきた。なんだろうと思って見てみるとそれは涙だった。私は泣いていた。
「お嬢様……」
「……すまない……」
 私はカーミラに抱き着いて泣いた。涙が枯れるまで。それが何時間経ったのか、いつまで泣いていたのかわからない。
 私が泣いているとどこかで泣き声がしてきた。私は泣くのを止めて、その声の主を探した。村の奥で聞こえる。私たちはそこへ向かった。
「赤ちゃん……?」
 その声の主は赤ん坊だった。家の中は荒らされていて周りにはその両親と思える二人の死体があった。その中に赤ん坊が一人だけ生き延びていたのだ。
 カーミラは赤ん坊を抱いた。
「よしよし、いい子だ。そんなに泣かなくても大丈夫だぞ」
 カーミラが抱くと赤ん坊は泣き止んで笑い始めた。
「こんな時でも……赤ちゃんは笑うんだね……」
 私はその光景を見た瞬間、再び泣いた。私が泣いている間にも赤ん坊は笑い続けている。その笑い声は私には大丈夫と言っているような気がした。
「……城へ連れて帰ろう。ここの医者の家は何処だ?」
「……ここを出て右に三つ目です……」
「そうか……ミナ、私の代わりにこの赤ん坊を抱いてやってくれ。私は薬を探してくる」
 そう言ってカーミラは私に赤ん坊を託した。
「キャッキャッ!」
「ハハ……楽しそうね……」
 私は赤ん坊を強く抱きしめた。赤ん坊は私を母親だと思っているのか、安心して眠ってしまった。
「ミナ……!有ったぞ!皆を……お前は見なくてもいい……」
「……いえ、お嬢様にだけ任せてはおけません」
「何をするのかわかっているのか?」
「……いえ。でも、お嬢様は皆に何かしようと思っていますよね?」
「ああ……吸血鬼に血を吸われた人間はしばらく経つと生きた屍になる。そうならない為にも村人たちに止めを刺さないと……」
「お手伝いします……!」
「そうか……だが、無理だと思ったらすぐに止めろ。止めを刺すと言っても首を切るんだからな。残酷だが、仕方がない……」
「大丈夫……です……」
「なら私は城に戻ってあの剣を取ってくる。お前は村の皆を全員わかりやすい位置に運んでくれ」
「わかりました……」
 そしてカーミラは城へ戻った。私は無残に殺された皆の死体を村の真ん中に置いた。赤ん坊だけはこの光景を見せたくなかったので、ある家の中に避難させておいた。

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