『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~
27節
カーミラが戻ってきた頃には私は全員分の死体を集め終えていた。
「これで全員か……?」
「はい……四十五人、全員います……」
「わかった……お前は見なくてもいいが、この光景をしっかりと目に焼きつけておけ。これが化け物の仕業だと……!」
そう言って、カーミラは村人たちの死体から一人引きずり出し、そして剣で首を斬った。首から血が飛び出る。カーミラは返り血を浴びても顔の表情を変えなかった。それから次々とカーミラは死体を斬っていった。私は途中で吐きそうになったが、堪えた。全員分の死体を斬り終わった頃にはカーミラの前身は血まみれだった。
「これで……終わりか……」
「はい……」
「せめて……墓を作ってやろう……いいな?」
私は返事をせずに首だけ動かして答えた。そして私たちは村の奥で村人たちの墓を作った。何十人分もの墓を作るのは大変だったが、そんなことを気にしてはいられない。私は、出来た墓に手を合わせた。カーミラは悔しさで唇を噛んでそこから血が流れている。
「帰ろう……城へ……」
「……」
私たちは村で唯一の生存者である赤ん坊を連れて城へ戻った。城へ戻るとカーミラは持って帰ってきた薬を皆に飲ませた。薬は効いたようだ、皆回復した。……私を除いて。
私は村を失ったショックを隠し切れなく数日間部屋に閉じこもった。
ある日、部屋をノックされたと思ったらカーミラが部屋に入って来た。
「ミナ……大丈夫か……?」
「お嬢様……」
私はあの日から部屋を出ていない。悲しみが私を蝕んでいった。
カーミラは私のベッドに座り、私の手に自分の手を重ねた。
「村の事は……すまなかった……」
「謝らなくてもいいです……」
その後、私たちは無言だった。先に口を開いたのは私だった。
「お嬢様は……後悔していますか……?」
「今は……後悔している。あの宴会の前に皆に言っておけばよかったと。私が再び退治してやると……すまないな……後悔しない生き方をすると言っておきながら……」
コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「ミナ、いるのでしょう。ご飯ですよ」
ヒイさんだ。でも私は……
「行こう、ミナ。皆心配している」
「……はい」
私は久しぶりに部屋の外に出た。
食堂に行くと、そこには皆がいた。
「ミナ……!」
「……ごめんなさい、私……」
「ほら、お前がいないと始まらないぞ」
「え……?」
壁の方を見てみると『ミナ・復活おめでとう』の文字が飾られていた。
「これは……?」
「これは皆がお前の為に用意した宴だ。そろそろ気も休まっているだろうと思ってな。だが、主役がそう凹んでいてはこの宴も台無しだな……」
カーミラは皆の所に行き、
「さあ、ミナ。悲しむのはもう止めよう。これからは皆の分までお前が生きるんだ。だから、な?一緒に楽しもうじゃないか?」
と言った。
「でも……私は……」
私はあと一歩が踏み出せなかった。その時、後ろからトンと誰かに押し出された気がした。後ろを振り返ると、そこには私を育ててくれたおじさん、おばさん、皆の姿があった。私が一歩踏み出すと、皆は、
『大丈夫だよ』
と言って消えてしまった。幻のように思えたが、それは皆の魂が私を前に押し出したのだと感じた。ありがとう……皆……
私は城の皆がいる場所に踏み出した。皆からはおかえり、と声をかけられた。私は、
「ただいま」
と答えた。
それから宴が始まった。
カーミラは禁酒した分、料理を多く食べるようになった。フウさんと料理の取り合いをしている。私は見慣れた光景だが、それが面白かった。カーミラがお酒に手を伸ばそうとしていると、ヒイさんがカーミラからお酒を遠ざけていた。カーミラはそれで泣いていた。料理はカーミラの手によって次々に無くなっていった。私の為の宴会なのに、まるでカーミラが主役のようだ。
「そうだ、せっかくミナも復活したことだ。あれを決めるとするか!」
「そうですね、あれを決めましょう!」
あれ?あれとは一体何だろう。
カーミラが食堂から出て行った。その後すぐに戻ってきたがその手には赤ん坊がいた。
「この子の名前を決めるんだ!」
カーミラは満面の笑みで赤ん坊を私の前に突き出した。
「この子の……名前?」
「ああ、まだこの子の名前を決めていないんだ。だからこの際、皆で決めようと思ってな」
皆拍手で赤ん坊を迎えた。
さっきまでぐちゃぐちゃになっていた椅子もいつの間にか綺麗に並べられている。皆、一列に並び、椅子に座った。
「はい、では進行役としてこの私、ヒイが務めさせていただきます」
皆、お酒のせいでテンションが上がっているのだろうか、いつにも増してハイテンションだ。
「では、案がある人は言ってください」
執事の一人が手を挙げた。
「はい、ミラと言うのはどうでしょう!」
「ほう、私の名前からとったのか」
「いい名前ですね、候補に入れておきます」
執事は候補に選ばれたと知ると小さくガッツポーズをした。続いてフウさんが手を挙げた。
「はい!エリザはどうでしょう!」
「却下だ」
カーミラの冷たい一言が出てきた。
「何でですかお嬢様!?」
「知人が同じ名前をしている。それとごちゃ混ぜになったら私が困る、以上」
フウさんが名前を拒否されてショックで倒れている。その間にも名前の候補はドンドン出てくる。その時間は宴会よりも長くかかった。
結局、皆が賛成したのは最初に出てきた『ミラ』だった。
「お前の名前はミラだぞ。わかったか?ミ・ラだ」
ミラと名前を付けられた赤ん坊はまるでその名前だと言うように笑顔で喜んでいる。
「おー、よしよし。いい子だな、ミラは?ああ、お前たちの時もこんな風に育てたなぁ……懐かしいな」
「お嬢様、私の事絶対に喋らないでくださいよ!」
フウさんがお嬢様に面と向かって話している。
「お前の場合、寝小便がひどかったからな、忘れたくても忘れないぞ」
「だから!喋らないでって言ったじゃないですか!」
「いや、今のはフリだと思って……」
カーミラは赤ん坊をヒイさんに預けてフウさんと戦っている。私はフウさんの意外なところを聞けて満足していた。
私はこの宴、皆のお蔭で立ち直ることが出来た。それは感謝しなくちゃいけない。
「皆……!」
「ん?どうしたミナ?」
カーミラはフウさんと決着がついたのか、赤ん坊を抱いている。フウさんは床で伸びていた。
「あの……私の為に宴を開いてくれて……ありがとうございます!」
「気にしなくていいよ」
「ああ、気にしなくていい。私たちが勝手にやったことだ」
「気にしないでください」
「皆……!」
私は涙が出そうになった。
「また泣くのか。全く……お前は本当に泣き虫だな」
カーミラは赤ん坊をヒイさんに渡して私の頭を撫でた。
「いいんだ、泣いても。泣いていいんだ」
「お嬢様……!ありがとう……ございます……!」
私は泣いた。それにつられてミラも泣き出したので、私はすぐに泣くのを止めた。
「おい、泣かなくていいのか?」
「ええ、もう大丈夫です」
「そうか。じゃあ後片付けを頼む。私はミラを寝かせてくる」
カーミラはそう言って自分の寝室に戻っていった。残った人は宴の後片付けをしていた。私も手伝うと言ったのだが、皆に、
「今日の主役がこんなことしなくていい。自分の部屋に戻ってゆっくり休んでね」
と言われたので私は食堂を出て、自分の部屋に戻った。ベッドを見てみると、泣いた跡がよく見られた。私はこんなに泣いていたのだろうか。床や布団は涙で濡れていた。今から布団を干しても意味がないので、私はそのまま布団を被って眠ることにした。明日から普通の生活に戻る。そのことをよく確かめながら私は深い眠りに落ちた。
「これで全員か……?」
「はい……四十五人、全員います……」
「わかった……お前は見なくてもいいが、この光景をしっかりと目に焼きつけておけ。これが化け物の仕業だと……!」
そう言って、カーミラは村人たちの死体から一人引きずり出し、そして剣で首を斬った。首から血が飛び出る。カーミラは返り血を浴びても顔の表情を変えなかった。それから次々とカーミラは死体を斬っていった。私は途中で吐きそうになったが、堪えた。全員分の死体を斬り終わった頃にはカーミラの前身は血まみれだった。
「これで……終わりか……」
「はい……」
「せめて……墓を作ってやろう……いいな?」
私は返事をせずに首だけ動かして答えた。そして私たちは村の奥で村人たちの墓を作った。何十人分もの墓を作るのは大変だったが、そんなことを気にしてはいられない。私は、出来た墓に手を合わせた。カーミラは悔しさで唇を噛んでそこから血が流れている。
「帰ろう……城へ……」
「……」
私たちは村で唯一の生存者である赤ん坊を連れて城へ戻った。城へ戻るとカーミラは持って帰ってきた薬を皆に飲ませた。薬は効いたようだ、皆回復した。……私を除いて。
私は村を失ったショックを隠し切れなく数日間部屋に閉じこもった。
ある日、部屋をノックされたと思ったらカーミラが部屋に入って来た。
「ミナ……大丈夫か……?」
「お嬢様……」
私はあの日から部屋を出ていない。悲しみが私を蝕んでいった。
カーミラは私のベッドに座り、私の手に自分の手を重ねた。
「村の事は……すまなかった……」
「謝らなくてもいいです……」
その後、私たちは無言だった。先に口を開いたのは私だった。
「お嬢様は……後悔していますか……?」
「今は……後悔している。あの宴会の前に皆に言っておけばよかったと。私が再び退治してやると……すまないな……後悔しない生き方をすると言っておきながら……」
コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「ミナ、いるのでしょう。ご飯ですよ」
ヒイさんだ。でも私は……
「行こう、ミナ。皆心配している」
「……はい」
私は久しぶりに部屋の外に出た。
食堂に行くと、そこには皆がいた。
「ミナ……!」
「……ごめんなさい、私……」
「ほら、お前がいないと始まらないぞ」
「え……?」
壁の方を見てみると『ミナ・復活おめでとう』の文字が飾られていた。
「これは……?」
「これは皆がお前の為に用意した宴だ。そろそろ気も休まっているだろうと思ってな。だが、主役がそう凹んでいてはこの宴も台無しだな……」
カーミラは皆の所に行き、
「さあ、ミナ。悲しむのはもう止めよう。これからは皆の分までお前が生きるんだ。だから、な?一緒に楽しもうじゃないか?」
と言った。
「でも……私は……」
私はあと一歩が踏み出せなかった。その時、後ろからトンと誰かに押し出された気がした。後ろを振り返ると、そこには私を育ててくれたおじさん、おばさん、皆の姿があった。私が一歩踏み出すと、皆は、
『大丈夫だよ』
と言って消えてしまった。幻のように思えたが、それは皆の魂が私を前に押し出したのだと感じた。ありがとう……皆……
私は城の皆がいる場所に踏み出した。皆からはおかえり、と声をかけられた。私は、
「ただいま」
と答えた。
それから宴が始まった。
カーミラは禁酒した分、料理を多く食べるようになった。フウさんと料理の取り合いをしている。私は見慣れた光景だが、それが面白かった。カーミラがお酒に手を伸ばそうとしていると、ヒイさんがカーミラからお酒を遠ざけていた。カーミラはそれで泣いていた。料理はカーミラの手によって次々に無くなっていった。私の為の宴会なのに、まるでカーミラが主役のようだ。
「そうだ、せっかくミナも復活したことだ。あれを決めるとするか!」
「そうですね、あれを決めましょう!」
あれ?あれとは一体何だろう。
カーミラが食堂から出て行った。その後すぐに戻ってきたがその手には赤ん坊がいた。
「この子の名前を決めるんだ!」
カーミラは満面の笑みで赤ん坊を私の前に突き出した。
「この子の……名前?」
「ああ、まだこの子の名前を決めていないんだ。だからこの際、皆で決めようと思ってな」
皆拍手で赤ん坊を迎えた。
さっきまでぐちゃぐちゃになっていた椅子もいつの間にか綺麗に並べられている。皆、一列に並び、椅子に座った。
「はい、では進行役としてこの私、ヒイが務めさせていただきます」
皆、お酒のせいでテンションが上がっているのだろうか、いつにも増してハイテンションだ。
「では、案がある人は言ってください」
執事の一人が手を挙げた。
「はい、ミラと言うのはどうでしょう!」
「ほう、私の名前からとったのか」
「いい名前ですね、候補に入れておきます」
執事は候補に選ばれたと知ると小さくガッツポーズをした。続いてフウさんが手を挙げた。
「はい!エリザはどうでしょう!」
「却下だ」
カーミラの冷たい一言が出てきた。
「何でですかお嬢様!?」
「知人が同じ名前をしている。それとごちゃ混ぜになったら私が困る、以上」
フウさんが名前を拒否されてショックで倒れている。その間にも名前の候補はドンドン出てくる。その時間は宴会よりも長くかかった。
結局、皆が賛成したのは最初に出てきた『ミラ』だった。
「お前の名前はミラだぞ。わかったか?ミ・ラだ」
ミラと名前を付けられた赤ん坊はまるでその名前だと言うように笑顔で喜んでいる。
「おー、よしよし。いい子だな、ミラは?ああ、お前たちの時もこんな風に育てたなぁ……懐かしいな」
「お嬢様、私の事絶対に喋らないでくださいよ!」
フウさんがお嬢様に面と向かって話している。
「お前の場合、寝小便がひどかったからな、忘れたくても忘れないぞ」
「だから!喋らないでって言ったじゃないですか!」
「いや、今のはフリだと思って……」
カーミラは赤ん坊をヒイさんに預けてフウさんと戦っている。私はフウさんの意外なところを聞けて満足していた。
私はこの宴、皆のお蔭で立ち直ることが出来た。それは感謝しなくちゃいけない。
「皆……!」
「ん?どうしたミナ?」
カーミラはフウさんと決着がついたのか、赤ん坊を抱いている。フウさんは床で伸びていた。
「あの……私の為に宴を開いてくれて……ありがとうございます!」
「気にしなくていいよ」
「ああ、気にしなくていい。私たちが勝手にやったことだ」
「気にしないでください」
「皆……!」
私は涙が出そうになった。
「また泣くのか。全く……お前は本当に泣き虫だな」
カーミラは赤ん坊をヒイさんに渡して私の頭を撫でた。
「いいんだ、泣いても。泣いていいんだ」
「お嬢様……!ありがとう……ございます……!」
私は泣いた。それにつられてミラも泣き出したので、私はすぐに泣くのを止めた。
「おい、泣かなくていいのか?」
「ええ、もう大丈夫です」
「そうか。じゃあ後片付けを頼む。私はミラを寝かせてくる」
カーミラはそう言って自分の寝室に戻っていった。残った人は宴の後片付けをしていた。私も手伝うと言ったのだが、皆に、
「今日の主役がこんなことしなくていい。自分の部屋に戻ってゆっくり休んでね」
と言われたので私は食堂を出て、自分の部屋に戻った。ベッドを見てみると、泣いた跡がよく見られた。私はこんなに泣いていたのだろうか。床や布団は涙で濡れていた。今から布団を干しても意味がないので、私はそのまま布団を被って眠ることにした。明日から普通の生活に戻る。そのことをよく確かめながら私は深い眠りに落ちた。
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