『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

6節

「さて、それじゃあ主の元に戻るとするか」
「貴方も一緒に来るの?」
「お前をここに寄越したとすれば俺に話があるんだろう」
 李狼は嫌そうな顔をして付いてきた。まさか、私を門に通した罰を受けるんじゃないだろうか。私はそれを言いたかったが、李狼はわかっているという素振りを見せた。
 玉座の間に戻ると、カーミラは遅いと言わんばかりの顔をしていた。
「随分話が弾んだようだな。結構結構。ここに住む者同士、仲良くするのはいいことだ」
 カーミラは口では笑っているが目は笑っていなかった。
「俺に話があるんだろう。さっさと話せ」
「相変わらず口の利き方がなっていないなお前は。まあ、今更言っても無駄か……」
 カーミラは呆れた顔をした。
「でも、話をする前にミナにこの屋敷の構造を覚えてもらわないとな」
 カーミラは指を鳴らすと、どこから現れたのか、メイドがカーミラの側にいた。
「ミナを案内してやれ」
「かしこまりました」
 メイドはカーミラに頭を軽く下げると私の方に向かって来た。
「ほら、行きますよ」
「あ、ああ」
「ああ、じゃなく『はい』です!」
「は、はい!」
 私はメイドに口の利き方に注意させられた。もう、自分はもうすっかり召使いになっていることに気付かずにいた。
 扉から出る時、カーミラは李狼に何か説教をしていたような話が聞こえた。
 メイドに屋敷内を案内してもらい、部屋の場所、数、そして使用人の数を教えてもらった。
 大体城の構造がわかってきた。どこに行けば二階、三階に上がれるのか。地下への入り口はどこなのか。食堂はどの階にあるのか。厨房は食堂の中にあるとか。
 私は城の構造を頭に叩き込んだ。もし、あの吸血鬼が約束を破った時、どうやって殺すかどうか考える為に。
 メイドに案内してもらい、私は再びカーミラの元へ行った。
「なんだ、案内はもう済んだのか」
「……はい」
 私はギクシャクしながら返事をする。さっきまでいた李狼はいなかった。
「まあ、敬語なんてその辺の村じゃしないだろう。たとえ少し無礼な口の利き方をしても構わん、許す」
「次……私はどうしたら……?」
「ん?ああ、そうだな。んー……何をしようか……」
 カーミラは座りながら何かを考えていた。もうこの際なんでも来い。完璧にこなして見せる。
 カーミラは指をパチンと鳴らして、
「そうだ。お前の話が聞きたい!」
と言って来た。
「え、私の話……ですか?」
「そう、お前自身の話だ。他人の考えなんていらん。お前自身が思っていたこと、感じたことを話せ。主は部下の事情も知っておかないといけないからな」
 カーミラはどうだ?と言っているような顔でこちらを見つめてきた。
「私は――」

 私は捨て子だった。赤ん坊の時に捨てられたそうだ。村の人に拾われなければ私は死んでいたかもしれない。もしかしたら私は魔物の餌になっていたかもしれない。
 私は村の人達から愛情を受けて、育っていった。何も知らずに。しかし、十歳の時、私はここで産まれた子供では無いことを知った。そして村を飛び出した。自分の本当の両親に会いたかったからだ。私は昼も夜も関係なしに走った。
 近辺の村々に行ったとき、私は両親を探した。しかし、私の顔など誰も知らない。誰も応えてはくれなかった。それに私の事を邪魔者扱いし始めた。仕方なく私は拾ってくれた村に帰った。途中で魔物に襲われることもあったが、何とかして帰れた。
 村に帰ると、皆私を心配していたらしい。帰って来た途端、大人たちから抱き着かれた。そして、こう言われた。
「お前がこの村で産まれた子供でなくても、お前はこの村の者だ。皆の子供だ。捨てた親など気にすることもない」
 そう言われた瞬間、私は涙を零した。無意識だった。無意識に流れる涙を私は止められずにいた。私は泣いた。大声で。村の皆に慰められながら、私は大泣きした。私が泣き終えるまで、村の人たちは私にお前は私たちの子供だよと言われ続けた。
 そうして、慰められながら私は『修行』と言う試練に挑戦する歳が来た。この村の伝統的なもので、それを乗り越えた者が初めて一人前として認められ、名前を貰うのだ。それまで私たちは皆にこう呼ばれていた。『ナナシ』と。
 それに挑む子供は私を含め、十人だった。だが、その試練の最中、命を落とした者は五人。私を含めた五人は何とか生き延びた。そして、修行が終わった私たちに課せられたのは、カーミラ、貴女を討伐する任務だった。
 厳しい試練を乗り越えた私たちなら出来ると思っていた。だが、結果は全滅。あの門番の李狼にさえ勝てなかった。
 私は李狼と戦い、試験に合格した。そして貴女を目の前にして、負けた。それで今に至る。

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