『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

11節

 夜まで部屋でゆっくりしてから食堂に向かって行った。カーミラから知人に似ていると言われて部屋に戻って手鏡を見たが、別に変な顔ではなかった……ようだ。
 食堂で給仕の人に晩御飯を貰い、名前を聞いた。
「私はフウ、こっちはミイよ。よろしくね、ミナ」
「ええ、よろしくお願いするわ」
「固いな~、もうちょっと柔らかくならない?」
「え、固い?」
「うん、顔が」
 顔を言われるとどうしようもない。私は造り笑いをしてみたが、引かれた。きっとすごい顔をしていたんだろう。
「そう言えば、貴女達はお嬢様に育てられたの?」
「うん、育ててもらったよ。それが?」
「いや、育ててもらったのに皆カーミラのことをお嬢様って呼ぶから気になって」
「ああ、それね。お嬢様は何でかお母さんて呼ばれるのがあまり好きじゃないみたいなの。だから皆お嬢様って呼ぶのよ」
 キッパリと言われた。
「私たちがお嬢様をどう呼ぼうと、私たちは育ててくれた恩があるし。その絆さえあれば他はどうでもいいんだ。ね?」
「そうね」
 フウさんとミイさんはお互い向き合って笑顔になった。この人達はカーミラの事を信じている。その思いはどんなものよりも頑丈で重いものなんだろう。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ」
「あ、うん!」
 私は急いで席に座り、ご飯を食べた。私の心が少しだけ、開いてきたのだろうか。私が座った席は皆と少し離れているが、遠くもない場所だ。
 晩御飯を食べて、自分の部屋に戻った。あと、三日。それで、私の運命が、村の運命が決まる。私はカーミラが約束を守るとは思っていなかった。でも、万が一約束を守ってくれるなら……私は寝巻に着替えて、その答えを探しながら私は眠りに入った。

 夢を見た。
 真っ白い空間に私一人だけいる世界だ。
 ここはどこだろう。私はそう思いながら前に歩いた。けれど世界は変わらない。白いままだ。
 目の前に突然、赤い塊が出てきた。その塊は形を変え、やがて人型になった。私は何故か動けなかった。そして、人型になった赤い塊はだんだん人の形をしていった。しばらくするとそれは私が知っている人になった。そう、カーミラだ。カーミラが目の前にいる。
 私はカーミラに手を伸ばした。しかし、彼女には届かない。どんどん離れていく。追いかけたが距離は一向に縮まらない。
 カーミラ……!
 距離が一定まで離れるとそこで目が覚めた。

 朝が来た。今度は皆に遅れないように早起きをした。まだ太陽が顔を出していない時間だ。この時間なら間に合うだろう。食堂へ行った。
 すると、まだ夜が明けていないのに、食堂には全員いた。
「お、今日は早いですね」
「そ、そうですか?皆さんの方が早いんじゃあ……」
「いつも不思議とこの時間に皆集まるんです。もう少し寝ていても大丈夫なんですが」
 執事の一人が笑いながら話しかけてきた。私は丁寧に話を返した。
 フウさんとミイさんから朝食を貰い、昨日の晩と同じ席に座った。そうすると、みんながやって来た。
「あ、ヒイさん、フウさん、ミイさん……と誰ですか?」
「あ、この子はヨウって言うの」
「よろしくお願いします」
 頭を軽く下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
 私たちはこの屋敷の数少ない女なので、自然に集まっていた。
「ミナさん、今日は早いですね」
「昨日みたいに皆に置いて行かれたくなかったので、今日は早起きしてみました」
「そうなの?えらいえらい」
 フウさんから頭を撫でられた。この年になってまだ頭を撫でられる自分が悔しい。そんな顔をしていたのか、フウさんはごめんごめんと言ってきた。
「ここの生活には慣れたか?」
 ミイさんが聞いてきた。
「もう慣れてきたと思っています」
 そう返した。皆はすごいねーと言って、皆同じタイミングでご飯を食べ始めた。
「料理が冷めちゃうからね」
「そう言えばお嬢様も料理が出来るって話を聞いたんですが……」
「あ、出来るよ。お嬢様に料理を教えてもらったのよ、私たち」
 そうか。ここの料理の味はカーミラの料理を真似したのか。こんなに美味しいものをカーミラは作れるのかと心の中で関心した。
「お嬢様もたまに料理を手伝ってくれるんだけど、私たちがいると邪魔みたいで……いつもお嬢様が料理を作るときは一人で作ってくださるの。私たちも手伝いたいんだけど……

「そうなの?カーミ……お嬢様の料理一度は食べてみたいな」
「しばらくすれば料理を作ってくれる機会があるかもしれないわ。その時まで気長に待ちましょう」
 ミイさんにそう言われた。確かに主であるカーミラに料理を作ってくださいと気安く言えない。
 朝食を食べ終えると皆は自分の仕事をし始めた。私はヒイさんからお嬢様の元に行くように言われた。
 食堂を出て、玉座の間に行った。扉を開けて中に入ると、カーミラは手を振って来た。
「おはよう。今日は早いんだな」
「皆に置いて行かれたくなかったので、早起きしました」
「うん、早寝早起きは大事だ。これからもそれを忘れないように」
「はい」
「ところで、ここの暮らしには慣れたか?まだ二日しか経っていないからまだと言っても構わんが」
「いえ、もう慣れました」
「そうか、それは良かった」
 カーミラは持っていた紅茶を一口飲むと、椅子の肘掛けに置いた。

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