『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

12節

「さて、例の吸血鬼退治だが、あと二日だな」
「はい」
「明日、お前の村に行く。そこで私は吸血鬼ハンターと嘘の肩書を名乗って件の吸血鬼を退治する。お前が望んでいたことだろう?」
 カーミラは嬉しそうに語る。私にはそれが裏切りを意味することだと思った。
「ええ、お嬢様が『ちゃんと』約束を守ってくださればの話ですが」
「なんだ、私が約束を破る、そう言っているように聞こえるが」
 不機嫌な顔になった。怒っているのだろうか。逆光のせいでカーミラの目が光ったように見えた。私はそれを見て一瞬固まった。
「心配するな、約束はちゃんと守る。それぐらいお前のことが欲しいんだ」
「お知り合い……に似ているからですか?」
「それもあるが、何より気に入ったのが心だ。自分を犠牲にしてまで他者を取る、その考えがな。今の世界じゃそれは珍しい」
「私の村は、皆そうでした」
「ほう、ならばお前の村ごと、我が支配下に置こうか。手が増えればメイドや執事たちも楽に出来よう」
「それは止めろ!」
 大声で怒鳴った。しかし、カーミラは私が怒るのをわかっていたように話始めた。
「まだ召使いとしての自覚がないようだが、まあいい。時期にそうなる。これでも結構本気なのだがな、気に食わなかったか?」
 私はカーミラをにらみつけた。村の皆をこき使わされてたまるか!犠牲になるのは私で最後だ。
「犠牲になるのは自分だけでいい、そう思っているな。その考えが良い。やはり人間はいいな」
「ここの人達じゃ満足しませんか?」
「あいつらは私の心がわかっているから、自然に私が気に入るような選択肢を選ぶ。それではつまらない。私は純粋な人間が欲しいんだ。お前みたいな人間がな」
 カーミラは笑っていた。さっきの怒りが嘘のように笑った。
「今日はお前に新しい仕事をしてもらおうと思ったんだ。おい」
 パチンと指を鳴らすとカーミラの側に執事が立っていた。
「こちらに」
「今日はミナに裏庭の掃除をさせろ。必要があれば剪定させても構わん」
「御意」
 執事はこちらに来て、手を引っ張った。私は一人で歩けると怒ったがそうですか、と返してきた。何だか腹が立つな。しかし、手を引っ張るのは止めなかった。
 裏庭に来て私がすごいと思ったのはその花の綺麗さだ。綺麗に剪定されて、花の美しさがよく表現されている。私は花の美しさに見惚れながら裏庭を歩いていた。すると、そこに大きなはさみを持った李狼がいた。
「お前か」
「貴方、門番の仕事はどうしたの?」
「俺は門番と庭師を掛け持ちしている。今日は庭師の仕事の番だ」
 門番が庭師の仕事を掛け持っているなんて聞いたことがない。ここでは、そういう常識は通用しないのだろうか。しかし、こいつが今庭師をやっているなら門番は誰がやっているのだろうか。李狼は何事もなかったかのように剪定を再開した。
「じゃあ、今門番は誰がやっているの?」
「いや、いない」
「いないって、そんな不用心な……」
 ふと私は綺麗な花の側に少し大きい石が並んでいるのを見つけた。石の前には花束が添えられている。
「これは?」
「ああ……今までこの城を狙って来た奴らの墓だ。お前たちが来る前に大人数でここを攻めてきたが皆、俺に殺されてしまった。俺は命を安く思わない。だから殺した奴らはこうして墓に埋めているんだ」
「そう……」
「昨日、崖から落ちた奴の遺体を見つけた。所々魔物に食われていたが、何とか持ち帰った。……すまないな」
「貴方が謝ることじゃないわ。皆覚悟を決めてこの城に来たんだもの……」
「そう言ってくれると助かる……」
 その話の間でも彼は剪定を止めなかった。
「数年後、お前たちは大きな悲しみを背負うことになる。覚悟しておけ」
「え……?それはどういう……」
 話の途中で執事がやって来た。
「おや、李様。今日は庭師の仕事の日ですか」
「ああ」
「では、ミナに仕事を教えてやってくださいませんか?」
「構わん」
「そうですか、では私は仕事がまだ残っていますので、これで失礼します」
 そう言って、執事は城内に戻って行った。残された私はどうしたらいいのかわからなかった。
「私……どうしたらいいの……?」
「……お前は何しに来たんだ?」
「お嬢様から裏庭の掃除をしろと言われたのよ。でも、どうしたら……」
「……ハァ……」
 李狼はため息をつくと、城内に消えていった。しばらくして戻って来た李狼の手には箒が握られていた。
「これを使え」
「あ、ありがとう……」
「ここら一帯に落ちている落ち葉や木の枝を掃除してくれ。落ち葉を集めたら俺に言え」
「わかったわ」
 私は李狼に言われた通り、裏庭全体を掃除した。思ったより落ち葉や木の枝が多く、掃除するのは大変だった。それでも仕事はきちんと完璧にしなければならない。私は文句を言わずただひたすらに箒で掃った。
 大体掃き終わり、李狼に掃除したことを伝えると、李狼は再び城内に戻った。私は李狼が帰ってくるまでぼうっとしていた。帰って来た李狼の手には大量のサツマイモが握られていた。
「何それ?」
「サツマイモだ。知らないのか?」
「それぐらいは知ってるわよ。なんでそれを持ってきたのか聞いているのよ」
「まあ見てろ」
 李狼はそう言うと、サツマイモを集めた落ち葉の中に入れた。そして、それに火を点けた。
「焼き芋……?」
「そうだ。こういう時にしか出来ないものだからな。贅沢してもいいだろう」
 李狼は嬉しそうな顔をして焼き芋の焼き具合を見ている。私にはそれが微笑ましかった。でも油断はしてはいけない。こいつには今すぐ私を殺せる力があるんだから。
「……そんな顔をするな」
「え……?」
「俺はむやみに殺しはしない。人も虫も植物も、皆限られた命がある。それを奪うことは俺はしたくない」
 私は顔に出ていたのか、私が思っていたことをこいつはぴたりと当てたのだ。しかし、それよりもあれほどの力があるのに殺しをしないことに驚いた。こいつにはこいつなりのプライドがあるのだろうか。快楽を求めて虐殺するような男だと思っていたのだが、それは違うようだ。
「俺をただの快楽殺人者のような目で見るな」
「私の心の中がわかるの?」
「いや、お前は顔に出やすい。それだけだ」「そう……」
 どうやら私は顔に出やすいタイプのようだ。でも、こんな簡単に思っている事が人に知られるのはなんか嫌だ。
「そろそろ、いいだろう」
 そう言って李狼は焼き芋を燃えた落ち葉の山の中から出した。
「ほら、お前の分だ」
「あ、ありがとう」
 焼き芋を渡された。表面は熱く、とてもじゃないが素手で持つことは出来ない。私は熱い素振りを見せると、李狼は布を出してきた。
「熱ければこれを使え。少しマシになる」
「貴方って優しいのね。少し見直したわ」
「そうか。それは良かった」
 李狼はまた笑った。その笑顔は子供のように見えた。

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