『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

13節

「それじゃあ、こいつを皆に配るからお前も手伝ってくれ」
「え、あなた一人で食べるのだと思っていたんだけど……」
「俺はあまり食事を必要としない。その気になれば三か月は何も食わずに生きれる。それに……」
「それに?」
「これだけの量をお前は俺一人で食べると思っていたのか?」
 李狼は呆れた顔をした。それもそうだ。これだけの量、とてもじゃないが一人で食べきれる量じゃない。
 私たちは皆に配るためにお互いに焼き芋を半分ずつ持って、城内に入った。最初にフウさんとミイさんに会った。
「これ、李からの差し入れよ」
「わあ、ありがとう!」
「ありがたい、ちょうど小腹が空いていたんだ」
 二人はその場では食べずに、焼き芋を持ってどこかに行ってしまった。私は残りの分を渡す為に皆を探した。次に会ったのは教育係のヒイさんだ。
「ヒイさん、これ李から差し入れです」
「ありがとうございます」
 ヒイさんは軽く礼をした。ヒイさんもその場で食べずにどこかへ行ってしまった。残りの分は……
 残りの分はカーミラだけか。私は玉座の間に行った。扉を開けるとそこには、皆がいた。
「遅いぞ。皆待ちきれずに食べようとしていたところだ。早く私の分を寄越せ」
 これはどういうことだろうか。皆玉座の間の中の椅子に座って、焼き芋を持っている。まるで家族が一緒にご飯を食べるかのように。
「早く寄越せ。皆早く食べたくてしょうがないんだ。お前がくれないと私も食べれないじゃないか」
「あ、はい今すぐに……!」
 私は残った最後の一つをカーミラに渡した。
「皆全員貰ったな。では食べようじゃないか」
 カーミラがそう言うと、皆一斉に食べ始めた。
「これは……一体……?」
「ん?なんだ不思議そうな顔をして。これが何だかわからないか?」
「はい……皆ここに集まって一体何を……?」
「たまに李が持ってきてくれる差し入れは皆で一緒に食べることにしているんだ。その方が人間らしいだろ?な、李?」
「さあな、俺にはわからん」
「なんだつまらん奴だな。それは昔からか」
 カーミラはそう言うと、自分の分の焼き芋にかじりついた。
「うむ、やはり美味いな。ほら、お前もぼうっと立っていないで食え。美味いぞ」
「あ、はい」
 私は焼き芋にかじりついた。……美味しい。ここで食べているご飯も美味しいがこれもそれに匹敵するぐらい美味しい。すると、皆私の方を向いておどおどしていた。何でこっちを見ているの?
 気が付くと私は涙を流していた。あれ、なんでこんなことで涙を流しているんだろう……?
「どうした、そんなに美味かったのか?」
 カーミラは表情一つ変えずに焼き芋を食べている。私はなんで泣いているかわからなかった。焼き芋を食べると涙が自然に出てくる。焼き芋にこんな効果があったかな……?皆が私に慰めの言葉をかけてくるが私にはそれが聞こえなかった。ただただ焼き芋にかじりついた。
 焼き芋を食べ終えると私は大泣きした。それを見たカーミラは私の方にやってきて頭を撫でた。
「よしよし、泣きたいときは泣け。人間、泣きたい時は泣いてもいいんだ」
 カーミラのその行為と言葉が私をより一層泣かせた。私は泣けるだけ泣いた。
 私が泣き終わる頃には皆の焼き芋が冷めた頃だった。
「思う存分泣いたか?」
「はい……取り乱してすいませんでした」
「謝ることはない。さっきも言ったが聞こえてなかったようだからもう一度言う。人間、泣きたい時は泣いてもいいんだ。それが人間と化け物の違いだからな」
「そうだよ、泣きたい時は泣いてもいいんだよ」
 フウさんが私に言ってきた。
「こらフウ。私の言葉をそっくりそのまま言うんじゃない。私が真似したと思われるだろう」
「すいません、お嬢様」
 フウさんはあまり反省していない態度でカーミラに謝った。二人はまるで親子のようだった。
「そうだよ、ここにいる皆は私の子供みたいなものだ。前にも言っただろう、皆私が育てたと。私にとってここにいる皆は家族同然だ。もちろん、お前も含めてな」
 また心の中を読まれた。私の顔は一体どういう風になっているのだろうか。
「お嬢様、その言葉は少し恥ずかしいと思いますが……」
「なんだ、どこが恥ずかしいんだ?言ってみろ」
「いえ、結構です」
「なんだそれは」
 皆そのやり取りを聞いて大笑いした。まるで私がいた村のように、まるで私のように。
「で、お前は何で泣いていたんだ?びっくりしたぞ」
「それは……わかりません。ただ無意識に涙が流れて……」
「……それは暖かさを感じたからだろう。お前は死を覚悟してこの城に来た。でも、お前は死ぬこともなく、こうして私の召使いとして働いている。それがどんなに暖かいか私にはわからんが、きっとそれを感じたのだろう。」
「そう……ですか……」
「さて、皆食べ終わったか?それでは仕事に戻れ。あ、ミナと李はここに残れ。話がある」
「わかりました」
 皆そう言うと自分の持ち場に戻って行った。残された私たちは皆玉座の間から出ていくまでその場所に立っていた。
「明日のことだが、行くのは私と李、そしてお前だ」
「その間、城の警備はどうするんです?」
「あいつらにやってもらう。何、そこら辺の人間なんか相手にならないほどあいつらは強いぞ。見た目以上にな。それにここを攻めてくる奴なんていないだろう。お前達が負けたと思って皆怯えているだろうな。」
「そうですか……?」
「私がここを根城とした時は、化け物退治で名を上げようとした愚か者どもはいたんだが、最近そう言うのは見ないな。お前達の討伐隊というのか?そう言う者達が来たっきりだ」
「そうですか。話はそれだけですか?」
「いや、お前に聞きたいことがあってな。お前の村を襲っているという吸血鬼だが、そいつは男か?女か?」
 いきなり何の話をするかと思えば……意外な質問だった。私は当然のように、
「男です」
と答えた。
 カーミラはそう聞くと頭を抱え始めた。
「そうか、李の情報は間違っていなかったか……」
「どうするつもりだ、お前は?」
「どうもしない。変わらずアイツを殺す。それだけだ」
 アイツとは一体誰のことなのだろうか。もしかしてカーミラは私の村を襲っている吸血鬼の事を知っているのか……!?
「お嬢様、貴女は私の村を襲っている吸血鬼の事を知っているですか!?」
「……恐らくな。でも、お前が知る事ではない。それだけが聞きたかった。お前も自分の仕事に戻れ。李、こいつに剪定の手伝いをさせてやれ」
「もう終わった」
「仕事が早いな。じゃあ、ヒイに聞いてこい。あいつにまた教えてもらえ」
 そう言うと、カーミラは私たちを追い出した。だが、私にはカーミラが何か重大な事に直面しているように思えた。

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