『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

16節

 村に帰ると、私を見た村人が大声を出して、
「皆~大変だ~!!」
と村の皆に呼び掛けていった。
「なんだ、どうしたのだ?」
「私が帰って来たことに驚いているでしょう。なにすぐにわかりますよ」
 しばらくすると、村の皆がやって来た。
「××、良く帰ってきてくれたねえ……!」「あ、おばさん、ただいま」
「どれだけ心配したか、もしかしたら殺されたんじゃないかと思って、夜も満足に眠れなかったぞ」
「ごめんなさい、おじさん。でもこの人たちが助けてくれたのよ」
 私はカーミラの方を向いて紹介した。
「こちらにいるのが……」
「カーミラだ。吸血鬼が騒いでいるんだろう?それを聞いて私が退治してやろうと思ってな」
「ほ、本当か……!?」
 村人が騒ぎ始めた。こんな女性に吸血鬼など退治出来るのかと。でも、カーミラも負けていなかった。
「私はこんななりをしているが一人前の吸血鬼ハンターだ。お前たちを襲っている怪物がいると聞いて来たんだが、これでは帰っても文句はないだろう」
 カーミラは本気で帰るつもりで言ったのだろうか。それとも村人たちをわざと挑発したのか、どっちかは私にはわからなかった。村の一人が彼女を引き留めると他の皆も同じ様に彼女を引き留めた。カーミラはこちらを向いてどうだ?と言う顔をしている。これはカーミラの方が一枚上手だった。
 カーミラの滞在の為、以前私が使っていた家に泊まることになった。村の人がいつ帰ってきてもいいように家を掃除してくれたみたいだ。私の家は綺麗になっている。
 私たちはそこで、村の情報を集めることにした。この村を襲った吸血鬼と言う話はあまりカーミラに話していなかったのと、新しい情報があるかもしれないという二つの理由だ。
 新しい情報は……無かった。やはり吸血鬼は一定の期間を待っているようだ。
 あと一日、明日、そこで運命は決まる。カーミラが負けるとは思えないが、不安は付き物だ。万が一と言う可能性も考えておこう。
 私が難しい顔をしている間、カーミラは村の人達から質問攻めを受けていた。
「お姉さん、そんな腕で剣なんて握れるの?」
「大丈夫だ。こう見えて私は力持ちだからな。気にすることではない」
 そう言ってカーミラは持ってきた剣を振り回した。
「どうだ?十分だろう」
 皆、オオ~と言った。
「随分お綺麗ですが、お相手などいらっしゃるんですか?」
「それは秘密だ」
 カーミラはニヤリと笑った。その笑みに惹かれたのか、次々と村の男どもが倒れていく。まるで主を迎える召使いのようだ。その他にも質問され続けていたが、私は私の用事があるので、カーミラを見捨てた。頑張ってね。
 朝に出ていったのに、カーミラが帰って来たのは、太陽が頂点を過ぎた頃だった。
「あー、人間と言うものはすごいな。あんな質問までしてくるなんて、好奇心旺盛過ぎるだろう……」
 カーミラはぐったりしていた。それもそうだ。慣れない人だかりに巻き込まれて、それに質問攻めを受けたのだから。
 それに比べて李狼は誰からも質問されなくて一人部屋の隅にいた。
「ここが、お前の村なのか。いいところだな」
「他の村もこんな感じよ。貴女の支配下に置くってのは無理なことだとわかった?」
「いや、いつかはしてみたいな。と言うより、他の村も見てみたい。あの子達が結婚したら私はもう一度旅に出てみようかな……」
「それに私も含まれている?」
「ああ、もちろんだ。一人旅がしたいんだ。自由に気ままに、流れる雲のように。でも、あと十数年は無理だな。まあ私にとってはすぐなんだが」
「吸血鬼になったら時間が進むのが早くなるの?」
「おいおい、むやみに吸血鬼なんて言うな。バレるかもしれん。だが、そうだな。私には人間の体感時間がわからんし、吸血鬼の体感時間もわからん。だが、私個人なら早く感じるな」
「そう。いつか人間になれたらいいね」
「ああ」
 私たちは笑い合って、武器の手入れをした。カーミラが城から持ってきたのは何でも『不死殺しの剣』とかいうものだ。これがあればたとえ不老不死であろうと斬れば死ぬと言う魔剣だと彼女は言っていた。どこで手に入れたのかは教えてくれなかった。李狼は何も持ってきていない。素手で戦うつもりなのだろうか。でも、こいつなら素手でも十分に戦えると思う。私は部屋から短剣二本持ってきた。カーミラは必要ないと言ったが、もしもの時の為に持っておくと言うとそうかと返した。
 その日の晩は村全体を挙げての大宴会だった。朝もしたのに……と言いかけたが、口を塞いで何とか誤魔化せた。危ない危ない。もし私があの城で働いているなんて知ったら村は宴会どころではないだろう。
 その宴会の中心にカーミラがいた。飲み比べをしていた。男の方はあっさり負けてしまい、次の男の人も同じ末路を辿った。カーミラは勝つと、空に向かってガッツポーズをしていた。
 明日は吸血鬼との対決だと言うのに呑気なものだ。私は離れてその光景を見ていると李狼が家の方にいたのを見た。私は李狼の所に行き、
「貴方は参加しないの?」
と言った。
 李狼は、
「人が多いのは……苦手なんだ……」
と返してきた。
 そう言えば、李狼はあまり人がいない場所を好んでいたが……あれはたまたまなのだと思っていた。
「いいじゃない、宴会なんて次いつできるかわからないし、楽しんでおけば?」
「今日はあいつの為の宴会だろう?俺なんか参加しても仕方がない。それに……」
「それに?何よ?」
「いや……なんでもない。忘れてくれ」
「ふーん、まあいいけど」
 そう言って私はカーミラの所に行った。
「ほら、カーミラ。飲み過ぎじゃない?」
「大丈夫だってこのぐらい。それよりもっと酒は無いのか!」
 これは聞く耳を持たないな……私はカーミラの事を諦めることにした。
「もっと酒を持ってこい~!私に勝てる奴はいないのか~!」
 カーミラはお酒を飲んで理性が壊れたようだ。部下を従える主君とは思えない口ぶりだ。酒瓶を持ち、丸々一本飲み干している。明日彼女が二日酔いになっていなければいいのだが……
 私が座ってカーミラを見ていると、肩を叩かれた。振り返るとそこにいたのは私を育ててくれたおじさんとおばさんだった。
「よう、楽しくやってるか?」
「うん、楽しいよ」
「それは良かった。お前だけでも帰ってきてくれて良かったよ。……他の奴は……」
「皆……死んじゃった……」
「そうか……残念だ……」
 私たちは無言だった。カーミラが酒を飲んで大声を出している事を除けば。
「でも、お前だけでも帰ってきてくれたのは奇跡だ。それにハンターさんも連れて来てくれて。お前、今までどこにいたんだ?」
「それは……えっと……」
 どうしよう、城の事を話す訳にはいかない。でも、どう答えて良いものやら……私は咄嗟に、
「あの城で戦っていたら谷から落ちて、そこであのカーミラと出会ったの。しばらくカーミラと生活してたんだけど、吸血鬼の話をカーミラにしたら私が倒してあげるって言うもんだから……」
 ハハッと苦笑いをした。
「そうか……本当に良かった」
 おじさんはその場で泣き始めた。でもそれは静かな泣き声だった。
「おじさん……人はね、泣きたい時は泣いてもいいんだよ。カーミラがそう言っていた」
「大丈夫よ、あんた。××ちゃんの言う通り泣きな。私も一緒に泣いてやるから」
「いや……大丈夫だ」
 おじさんは目についた涙を拭き取ると、どこに隠していたのかお酒を持っていた。
「お前ももう十五歳だから飲んでも大丈夫だ。さあ、今夜は飲むぞ!」
「ハハ……!勘弁してよおじさん……」
 今夜の宴は城にいた時よりも賑やかだった。この村がこんなににぎやかなのはいつぶりだろう……
 私は無理矢理おじさんにお酒を飲まされてフラフラしていた。おじさんもすごい勢いでお酒を飲んでいるが、さすがは無駄に年を取っていないだけはある。お酒を飲むペースが速い。でも、おばさんにこれ以上飲んだら体に悪いよ、と言われて泣く泣くお酒を手放していた。カーミラは最初から最後までお酒を飲んでいた。吸血鬼の体は人間と違うのかな……?

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