オモテ男子とウラ彼女
第六十五話 『これからも』
十二月三十日、デート当日。
ヒカルが部屋のカーテンを開けると、曇り空が広がっていた。この日はこの冬一番の冷え込みだと、テレビの気象予報士が言っていた。しかし、ヒカルはこの日のために色々なことをやってきたのだ。彼女を喜ばせるために、新しい洋服も買った。彼女も、今日を楽しみにしていたはずである。
ヒカリはというと、起きてすぐに着替えを持って脱衣所に入っていった。それを見ると、やはり楽しみだったのだろうとヒカルは思う。それならば、尚更予定を変えるわけにはいかなかった。雨が降ろうが槍が降ろうが関係ないと、ヒカルは改めて意気込んだ。
そして、彼女が着替えている間に自分もリビングで着替えを済ませることにした。クローゼットを開け、洋服を取り出す。昨日の予行で着て、ヒカリが帰って来る前に着替え直し、そのまま中に仕舞っておいたのだ。ヒカルはまた、その服に袖を通した。果たして、彼女は気に入ってくれるだろうか。今になって、また不安がヒカルの脳内に浮かび上がる。
すると、ヒカリが着替え終わってリビングに戻ってきた。彼女が戸を開けると同時に、ヒカルと目が合った。ヒカリは、まじまじとヒカルの全体を見つめている。
「その服……、どうしたの?」
「あぁ、新しく買ったんだ。ちょっと、お洒落してみたくなってな」
すると突然、彼女がヒカルのところに歩み寄ってきた。そして、ヒカルに顔を近づける。二人の距離が、数センチになってヒカルは緊張した。
「ヒカ君……、すごく似合ってるよ」
彼女から、嬉しい言葉が飛び出した。
「ほ……ほんとか?」
ヒカリは笑顔で頷く。ヒカルも自信を取り戻した。これは、やはり真理子に感謝しなければならないと思った。
「私のは……どうかな」
ヒカリは一歩下がって、少し気恥ずかしそうに顔を俯かせながら、ヒカルにそう尋ねてくる。彼女のコーディネートは、白い生地に青と紫のラインが入ったセーターに、オレンジ色のカーディガンだった。改めて見ると、ヒカルは疑問に思うことがあった。
(こんなの持ってたっけ……?)
彼女の服装も、ヒカルにとっては初めて見るものだった。そんなヒカルの心情を察したのか、ヒカリは説明した。
「私も、今日のためにバイト代で買ったんだ。ヒカ君に、見せようと思って」
「そうか……。気持ちは、二人とも同じだったんだな……」
ヒカルから、ついそんな言葉が漏れた。彼女も嬉しそうに、また頷いている。ふと部屋の時計を見ると、針はまだ八時前を指していた。
「まだちょっとは早いけど、そろそろ行くか?」
映画は九時半からだった。マンションから徒歩で行ける距離なので、まだ時間には余裕がある。ヒカリは、少し迷っているようだった。今から出るにしても、映画が始まるまでは時間を潰さなくてはいけない。外は寒気に覆われ、とても散歩する気になどなれない。その時、何かを思いついたのかヒカリの顔が明るくなった。
「そうだ。映画館って、確か四階だったよね。だったら映画までの間、下の階のお店見て回りたいな……」
ヒカルも、その意見に賛成した。特に断る理由もない。今日は、可能な限り彼女の言うことを聞いてあげようとヒカルは思った。
二人は出かける準備を済ませると、外へ出た。そして部屋の鍵をかけて、エレベーターで下に降りるとマンションを後にするのだった。
十分ほど歩くと、ショッピングモールが見えてきた。その四階には映画館が入っており、他にも衣服やアクセサリーなどの専門店がいくつか入っていた。映画まで、そこで時間を潰すことにしたのだ。ヒカリは、女性向きのアクセサリーショップに興味関心があるようで、主にそれらの店を見て回った。ヒカルには少々入りにくい店もあったが、彼女のために一緒に入っていった。
ようやく一時間ほどが過ぎ、映画開始の十五分前になった。ヒカルにとってこの一時間は、かなり長く感じられた。二人で映画館へ足を運ぶとチケットを買い、シアターの中に入って上演を待った。
十分ほど後に映画は始まった。彼女の好みで恋愛映画だったが、ヒカルにとっても興味深い内容だったのであまり退屈しなかった。最後の方は、何気に隣を見ると感動したのかヒカリが指で涙を払っていた。それを見ると、ヒカルも少し感慨深い気持ちになった。
終わって出てくると、ヒカリは笑顔でヒカルに話しかける。
「良かったね!」
今までに見たことがない笑顔で話されたので、ヒカルは改めて映画の力は偉大だということを感じた。ヒカリはこの一ヶ月足らずで、笑うことがこれまでより遥かに多くなったとヒカルは思った。それまでは、何をしても笑うことはなかった。しかし、今は違った。これも、ヒカルとの交際を経験してこそ、乗り越えられたことだろう。
それから二人は外に出て、近くのレストランに入った。
「今日は俺が奢るから、好きなもの頼んでいいぞ」
席に着いてからヒカルが言うが、ヒカリは首を横に振るのだった。
「そんな、悪いよ。今日はヒカ君が私のために予定を練ってくれたんだから、私も払う」
これが、ヒカルに対する彼女なりの気遣いなのだろう。最近、彼女は笑うだけではなく、良く話してくれるようにもなった。無口だったあの頃と比べて、ヒカルから話されてただ答えるのではなく、ちゃんと自分の意見も言えるようになった。ヒカリは、成長したのだ。その成長を実感するだけで、ヒカルは嬉しさに浸った。
料理が運ばれてくるまでの間、ヒカリは御手洗いのため席を立った。彼女が戻ってくるまでの間、ヒカルは携帯を開いてこれからどこへ行くか詳細を決めることにした。勿論、ヒカリにも意見をきかなければならない。その時、また一件のメールを受信していることに気がついた。中身を確かめると、予想通り良からであった。
『よう。デート、楽しんでるか? 成功するように祈っておいてやるぜ』
それを見て、ヒカルは「余計なお世話だ」とだけ返信して送る。折角今まで嬉々としていたのに、また良に邪魔されたような気分になった。しかし、考えてみれば良のおかげで今のところヒカリとのデートを楽しめている。このまま何事もなく終われば、少しは良に感謝すべきかもしれないと、ヒカルは心のどこかで思っていた。
そしてヒカリが戻ってきて、やがて料理も運ばれてきた。彼女は携帯でその写真を撮ると、それを食べ始めた。「美味しいね」という彼女の言葉が、何度もヒカルの脳裏で繰り返し再生された。
その後、どこに行きたいかと尋ねたところ、彼女の希望で動物園に行くことになった。そして食事が済んでレストランを後にすると、二人は電車に乗って動物園へ向かった。
着くと二人は、とりあえず園内を一周することにした。キリンやゾウ、コアラなど目玉級の動物たちから、九官鳥など奥の一角で飼育されている動物までを一通り見て回った。動物園を出た時、すでに日は西の空に沈みかけていた。
ヒカルは、そろそろ今日の最大の目的を実行しようと考えた。
「もう遅いね。寒くなってきたから帰ろう」
ヒカリが、ヒカルの手を握りながら言った。冷たい風が吹き荒れ、街全体を凍らせようとしているようだった。ヒカルは、勇気を出してヒカリにこう告げる。
「ヒカリ……。ちょっと、これから行きたい場所があるんだ」
彼女は、不思議そうにヒカルを見つめてくる。数秒後、ヒカリの口が動いた。
「いいよ。行きたい場所って?」
それを聞いたヒカルは、嬉しさのあまり口角が吊り上がりそうになるのを必死で堪えた。今度はヒカルが彼女の手を握り、そしてその手を引いて歩き始めた。彼女も、黙って後をついてくる。
それから駅に行き、電車である場所まで向かった。どうしてもヒカリに見せたい、それだけがヒカルにその行動をとらせたのだろう。目的地の最寄駅で降車し、ヒカルは彼女をその場所まで案内する。ヒカリも、気になるといった表情をしている。
しばらくして、ヒカルは足を止めた。外は、もう真っ暗に等しかった。
「着いたぞ」
ヒカリも、目の前の光景を見て驚いていた。周りは草木に覆われているが、下を見ると街の灯かりが煌々と光っていった。
「ここ……、どうしたの?」
「どうしても、今日お前に見せたかったんだ。ネットで偶然見つけて、とても綺麗だったから」
ヒカルは、近くにあったベンチに腰かけた。ヒカリも、すぐに隣に腰を下ろす。そして、二人はしばらくその夜景を眺めていた。
「ほんとに、綺麗だね……」
不意に、ヒカリが呟く。彼女もその景色を見て、喜んでくれているようだった。そこで、ヒカルは再び安堵する。これを見せるため、ヒカルはここまで彼女をエスコートしてきたのだと言っても過言ではなかった。それだけに、その街灯かりで彩られた景色はヒカルの中において特別であったのだ。
すると、唐突に彼女はヒカルに寄り添ってきた。それを感じながら、ヒカルは心の中で自問していた。「自分は、本当に彼女のことを好きなのか」と。そして、返ってきた答えは一つだけだった。
……『彼女が好き』。
ヒカルは確認が終わると、改めてヒカリと向かい合った。彼女もまた、ヒカルのことを見ている。そして、唇をゆっくりと彼女のところへ近づける。そうすると、彼女もまた、目を閉じた。二人の唇が重ね合わさった瞬間、ヒカルは急に世界の色が変わってしまったと錯覚した。街から漂ってくる騒音でさえも、二人のこれからを祝福しているような音に聞こえた。
ヒカルは、彼女から顔を遠ざけた。その時、ヒカリの目が潤んでいるのがわかった。何か言いたそうに、唇を小刻みに震わしている。それを見つめながら、ヒカルが先に言葉を紡いだ。
「これからも……俺の側にいてほしい。ずっと、いてほしいんだ」
とうとう堪えきれなくなったのか、ヒカリから涙が零れ落ちた。そして、彼女は大きく頷いた。
ずっと一緒にいられないとは知っているはずなのに、ヒカルの中にはそれをどうしても受け入れられない自分がいるのだった。それは、ヒカリも同じであったことだろう。
近くを人が通ろうが、誰かに見られようが今は知ったことではない。そう思ってヒカルは、ヒカリを思いきり強く抱きしめた。ヒカリも、嬉しそうに額をヒカルの肩にくっつけていた。こんな時間が、ずっと欲しかっただけかもしれない。それでもヒカルは、永遠にこの時間が続いてほしい、終わらないでいてほしいと心から望んだ。今まで出来なかったことを、ようやく成し遂げられたのだから。
どんな未来が待っていたとしても、必ず彼女を守り抜く。誰が何を言おうと、ヒカルの決心が揺るぎないものであったことは間違いなかった。
ヒカルが部屋のカーテンを開けると、曇り空が広がっていた。この日はこの冬一番の冷え込みだと、テレビの気象予報士が言っていた。しかし、ヒカルはこの日のために色々なことをやってきたのだ。彼女を喜ばせるために、新しい洋服も買った。彼女も、今日を楽しみにしていたはずである。
ヒカリはというと、起きてすぐに着替えを持って脱衣所に入っていった。それを見ると、やはり楽しみだったのだろうとヒカルは思う。それならば、尚更予定を変えるわけにはいかなかった。雨が降ろうが槍が降ろうが関係ないと、ヒカルは改めて意気込んだ。
そして、彼女が着替えている間に自分もリビングで着替えを済ませることにした。クローゼットを開け、洋服を取り出す。昨日の予行で着て、ヒカリが帰って来る前に着替え直し、そのまま中に仕舞っておいたのだ。ヒカルはまた、その服に袖を通した。果たして、彼女は気に入ってくれるだろうか。今になって、また不安がヒカルの脳内に浮かび上がる。
すると、ヒカリが着替え終わってリビングに戻ってきた。彼女が戸を開けると同時に、ヒカルと目が合った。ヒカリは、まじまじとヒカルの全体を見つめている。
「その服……、どうしたの?」
「あぁ、新しく買ったんだ。ちょっと、お洒落してみたくなってな」
すると突然、彼女がヒカルのところに歩み寄ってきた。そして、ヒカルに顔を近づける。二人の距離が、数センチになってヒカルは緊張した。
「ヒカ君……、すごく似合ってるよ」
彼女から、嬉しい言葉が飛び出した。
「ほ……ほんとか?」
ヒカリは笑顔で頷く。ヒカルも自信を取り戻した。これは、やはり真理子に感謝しなければならないと思った。
「私のは……どうかな」
ヒカリは一歩下がって、少し気恥ずかしそうに顔を俯かせながら、ヒカルにそう尋ねてくる。彼女のコーディネートは、白い生地に青と紫のラインが入ったセーターに、オレンジ色のカーディガンだった。改めて見ると、ヒカルは疑問に思うことがあった。
(こんなの持ってたっけ……?)
彼女の服装も、ヒカルにとっては初めて見るものだった。そんなヒカルの心情を察したのか、ヒカリは説明した。
「私も、今日のためにバイト代で買ったんだ。ヒカ君に、見せようと思って」
「そうか……。気持ちは、二人とも同じだったんだな……」
ヒカルから、ついそんな言葉が漏れた。彼女も嬉しそうに、また頷いている。ふと部屋の時計を見ると、針はまだ八時前を指していた。
「まだちょっとは早いけど、そろそろ行くか?」
映画は九時半からだった。マンションから徒歩で行ける距離なので、まだ時間には余裕がある。ヒカリは、少し迷っているようだった。今から出るにしても、映画が始まるまでは時間を潰さなくてはいけない。外は寒気に覆われ、とても散歩する気になどなれない。その時、何かを思いついたのかヒカリの顔が明るくなった。
「そうだ。映画館って、確か四階だったよね。だったら映画までの間、下の階のお店見て回りたいな……」
ヒカルも、その意見に賛成した。特に断る理由もない。今日は、可能な限り彼女の言うことを聞いてあげようとヒカルは思った。
二人は出かける準備を済ませると、外へ出た。そして部屋の鍵をかけて、エレベーターで下に降りるとマンションを後にするのだった。
十分ほど歩くと、ショッピングモールが見えてきた。その四階には映画館が入っており、他にも衣服やアクセサリーなどの専門店がいくつか入っていた。映画まで、そこで時間を潰すことにしたのだ。ヒカリは、女性向きのアクセサリーショップに興味関心があるようで、主にそれらの店を見て回った。ヒカルには少々入りにくい店もあったが、彼女のために一緒に入っていった。
ようやく一時間ほどが過ぎ、映画開始の十五分前になった。ヒカルにとってこの一時間は、かなり長く感じられた。二人で映画館へ足を運ぶとチケットを買い、シアターの中に入って上演を待った。
十分ほど後に映画は始まった。彼女の好みで恋愛映画だったが、ヒカルにとっても興味深い内容だったのであまり退屈しなかった。最後の方は、何気に隣を見ると感動したのかヒカリが指で涙を払っていた。それを見ると、ヒカルも少し感慨深い気持ちになった。
終わって出てくると、ヒカリは笑顔でヒカルに話しかける。
「良かったね!」
今までに見たことがない笑顔で話されたので、ヒカルは改めて映画の力は偉大だということを感じた。ヒカリはこの一ヶ月足らずで、笑うことがこれまでより遥かに多くなったとヒカルは思った。それまでは、何をしても笑うことはなかった。しかし、今は違った。これも、ヒカルとの交際を経験してこそ、乗り越えられたことだろう。
それから二人は外に出て、近くのレストランに入った。
「今日は俺が奢るから、好きなもの頼んでいいぞ」
席に着いてからヒカルが言うが、ヒカリは首を横に振るのだった。
「そんな、悪いよ。今日はヒカ君が私のために予定を練ってくれたんだから、私も払う」
これが、ヒカルに対する彼女なりの気遣いなのだろう。最近、彼女は笑うだけではなく、良く話してくれるようにもなった。無口だったあの頃と比べて、ヒカルから話されてただ答えるのではなく、ちゃんと自分の意見も言えるようになった。ヒカリは、成長したのだ。その成長を実感するだけで、ヒカルは嬉しさに浸った。
料理が運ばれてくるまでの間、ヒカリは御手洗いのため席を立った。彼女が戻ってくるまでの間、ヒカルは携帯を開いてこれからどこへ行くか詳細を決めることにした。勿論、ヒカリにも意見をきかなければならない。その時、また一件のメールを受信していることに気がついた。中身を確かめると、予想通り良からであった。
『よう。デート、楽しんでるか? 成功するように祈っておいてやるぜ』
それを見て、ヒカルは「余計なお世話だ」とだけ返信して送る。折角今まで嬉々としていたのに、また良に邪魔されたような気分になった。しかし、考えてみれば良のおかげで今のところヒカリとのデートを楽しめている。このまま何事もなく終われば、少しは良に感謝すべきかもしれないと、ヒカルは心のどこかで思っていた。
そしてヒカリが戻ってきて、やがて料理も運ばれてきた。彼女は携帯でその写真を撮ると、それを食べ始めた。「美味しいね」という彼女の言葉が、何度もヒカルの脳裏で繰り返し再生された。
その後、どこに行きたいかと尋ねたところ、彼女の希望で動物園に行くことになった。そして食事が済んでレストランを後にすると、二人は電車に乗って動物園へ向かった。
着くと二人は、とりあえず園内を一周することにした。キリンやゾウ、コアラなど目玉級の動物たちから、九官鳥など奥の一角で飼育されている動物までを一通り見て回った。動物園を出た時、すでに日は西の空に沈みかけていた。
ヒカルは、そろそろ今日の最大の目的を実行しようと考えた。
「もう遅いね。寒くなってきたから帰ろう」
ヒカリが、ヒカルの手を握りながら言った。冷たい風が吹き荒れ、街全体を凍らせようとしているようだった。ヒカルは、勇気を出してヒカリにこう告げる。
「ヒカリ……。ちょっと、これから行きたい場所があるんだ」
彼女は、不思議そうにヒカルを見つめてくる。数秒後、ヒカリの口が動いた。
「いいよ。行きたい場所って?」
それを聞いたヒカルは、嬉しさのあまり口角が吊り上がりそうになるのを必死で堪えた。今度はヒカルが彼女の手を握り、そしてその手を引いて歩き始めた。彼女も、黙って後をついてくる。
それから駅に行き、電車である場所まで向かった。どうしてもヒカリに見せたい、それだけがヒカルにその行動をとらせたのだろう。目的地の最寄駅で降車し、ヒカルは彼女をその場所まで案内する。ヒカリも、気になるといった表情をしている。
しばらくして、ヒカルは足を止めた。外は、もう真っ暗に等しかった。
「着いたぞ」
ヒカリも、目の前の光景を見て驚いていた。周りは草木に覆われているが、下を見ると街の灯かりが煌々と光っていった。
「ここ……、どうしたの?」
「どうしても、今日お前に見せたかったんだ。ネットで偶然見つけて、とても綺麗だったから」
ヒカルは、近くにあったベンチに腰かけた。ヒカリも、すぐに隣に腰を下ろす。そして、二人はしばらくその夜景を眺めていた。
「ほんとに、綺麗だね……」
不意に、ヒカリが呟く。彼女もその景色を見て、喜んでくれているようだった。そこで、ヒカルは再び安堵する。これを見せるため、ヒカルはここまで彼女をエスコートしてきたのだと言っても過言ではなかった。それだけに、その街灯かりで彩られた景色はヒカルの中において特別であったのだ。
すると、唐突に彼女はヒカルに寄り添ってきた。それを感じながら、ヒカルは心の中で自問していた。「自分は、本当に彼女のことを好きなのか」と。そして、返ってきた答えは一つだけだった。
……『彼女が好き』。
ヒカルは確認が終わると、改めてヒカリと向かい合った。彼女もまた、ヒカルのことを見ている。そして、唇をゆっくりと彼女のところへ近づける。そうすると、彼女もまた、目を閉じた。二人の唇が重ね合わさった瞬間、ヒカルは急に世界の色が変わってしまったと錯覚した。街から漂ってくる騒音でさえも、二人のこれからを祝福しているような音に聞こえた。
ヒカルは、彼女から顔を遠ざけた。その時、ヒカリの目が潤んでいるのがわかった。何か言いたそうに、唇を小刻みに震わしている。それを見つめながら、ヒカルが先に言葉を紡いだ。
「これからも……俺の側にいてほしい。ずっと、いてほしいんだ」
とうとう堪えきれなくなったのか、ヒカリから涙が零れ落ちた。そして、彼女は大きく頷いた。
ずっと一緒にいられないとは知っているはずなのに、ヒカルの中にはそれをどうしても受け入れられない自分がいるのだった。それは、ヒカリも同じであったことだろう。
近くを人が通ろうが、誰かに見られようが今は知ったことではない。そう思ってヒカルは、ヒカリを思いきり強く抱きしめた。ヒカリも、嬉しそうに額をヒカルの肩にくっつけていた。こんな時間が、ずっと欲しかっただけかもしれない。それでもヒカルは、永遠にこの時間が続いてほしい、終わらないでいてほしいと心から望んだ。今まで出来なかったことを、ようやく成し遂げられたのだから。
どんな未来が待っていたとしても、必ず彼女を守り抜く。誰が何を言おうと、ヒカルの決心が揺るぎないものであったことは間違いなかった。
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