オモテ男子とウラ彼女
第六十四話 『予行』
十二月二十九日。
ヒカルは起き上がり、時計を見ると六時半だった。今日は、ヒカリとのデートの前日。そして、その予行練習をしたらどうかと、良から呼ばれているのだ。
隣を見れば、ヒカリはまだ眠っている。勿論、ヒカリには今日のことは知らせていない。また急なバイトが入ったと伝えているが、流石に気づいているだろうか。
ヒカルは立ち上がるとクローゼットを開け、中から黒い鞄を取り出す。その中から更に白い袋を取り出し、洋服を出した。ヒカリに見つからないよう、店で買ったままになっていたのだ。彼女を起こさないように、そっとそれを持ち出すと、脱衣所へ行って着替えることにした。帰りはどうしようかと思ったが、その時になってから考えれば良いだろうとヒカルはそれに袖を通した。
脱衣所にあった鏡を見れば、自分でも驚くほど似合っていた。やはり、真理子に見てもらったことが幸いしたようだ。少し、良の反応が気になった。良も最近は色々な服を研究しているようなので、どんなことを言われるのか楽しみで仕方がなかった。
ヒカルは簡単に朝食を済ませ、七時にマンションを出た。突き刺すような厳しい寒風が、ヒカルの頬を撫でる。ヒカルは少し身震いしたが、エレベーターを使って一階へ降りた。そのまま良との待ち合わせ場所の駅へ向かう。
その途中、ヒカルは帰りのことを考えた。新しい服は明日の朝、ヒカリにお披露目する予定だ。今日は良に見せるために着てきたが、どうすれば明日まで彼女に見つからないで済むのだろうか。歩きながらそう考えていると、一つの考えがヒカルの脳裏に浮かんだ。鞄から携帯を出し、ある人物にメールを送る。ヒカルは返事を見て、これで安心だと足を速めるのだった。
駅に着くと、人は意外に多かった。朝が早いとはいえ、もう七時半になろうとしている。それに年末ということで、家族連れなども多く見られる。ヒカルは周りを見渡したが、良の姿はなかった。まだ来ていないのかと思ったヒカルは、その場で待機することにした。待ち合わせ時間は、五分ほど過ぎている。
しかし、良は一向に現れない。何をしているのだろうと携帯を取り出し、電話してみることにした。番号を打とうとした時、携帯が震えた。見ると、一件のメールが受信されている。それは良からであった。それには、このような内容が書かれていた。
『悪いな、あまりにも寒いから今喫茶店の中にいるわ。伝えるの忘れてた。○○まで来てくれ!』
(はぁ!?)
ヒカルは、思わず声が出そうになった。後ろを振り返ると、確かに喫茶店のような建物が見える。近づいて中を覗くと、中には確かに良らしき後ろ姿が見える。ヒカルは溜息をつき、入ろうとすると良の前の席に誰かが座っていることに気づいた。
もう一度、窓に顔を近づけるとなんとそれは真理子だった。何故、良が真理子と一緒にいるのだろうかという疑問がヒカルを襲ったが、とりあえず中に入ってきいてみることにした。
ドアを開けると、店員の「いらっしゃいませ」という声が店内に響いた。まだ客は数えるほどしかいない。良はすぐヒカルに気づき、手を挙げる。
「よう、やっと来たか」
「お前、待ち合わせ場所変えるなら変えるって、すぐ報告しろよ」
ヒカルは呆れ顔になりながら、良がいる席に行った。
「悪い悪い、ちょっとボケててな。いやあ、それにしても主役が来なかったらどうしようかと思ったぜ」
また、ヒカルから溜息が漏れる。良に振り回されるのは、これで何十回目だろう。二人のそんな様子を見ていた真理子は、笑いながらコーヒーをすすっている。ヒカルが良の隣に座りながら、真理子に尋ねた。
「ところで、どうしてあなたがここに?」
その質問に対し、真理子は笑顔で答えてくれる。
「彼に頼まれたんだよ。是非、今日つき合ってあげてほしいってね」
ヒカルは横を向くと、良が鼻を高くしたような顔をしている。まるで、礼を言えとでも言わんばかりに。ヒカルはそれを適当に無視し、真理子に向き直る。
「でも、いいんですか? 病院の方は?」
「あぁ、それなら大丈夫。うちの病院緩いから、今日から三が日は休みにしてるの。患者さんも少ないからね」
「これも俺のおかげだぞ、ちゃんと調べて上で頼んだんだからな」
良が、ヒカルの肩に手を回す。ヒカルは「はいはい」と言って、その腕を邪険に振り払った。それからヒカルもコーヒーを注文し、真理子と話を続けた。
「この間は、本当にありがとうございました。やっぱり、真理子さんに頼んで正解だったと思います」
ヒカルが言うと、真理子も嬉しそうな顔になる。
「どういたしまして。ヒカル君、カッコいいからよく似合ってるよ」
「お、そう言えば普段よりかなりいい感じの服着てるじゃねーか」
すかさず、良がヒカルのコーディネートを見てありきたりなコメントをする。良が言うと、褒めているのか嫌味を言っているのか、ヒカルには良くわからなくなる。
しかし、これも真理子のおかげだとヒカルは感謝した。どうしても自分一人だけでは、何を着て良いのかわからないからだ。女性が何を好むのか、どうすればヒカリの心を惹きつけられるのか見当もつかなかったので、真理子がいてくれて本当に助かったとヒカルは心から思うのだった。
「ところで、デート当日はどこ行くんだっけ」
「映画見て、食事して帰ろうと思ってるけど……」
良の質問にヒカルはそう答えるが、良は少し興ざめしたような、驚いた顔をしている。
「それだけ?」
「それだけって……、そうだけど何か問題あるか?」
「いやいやいや、もっと他に行くとこないのかよ? 呆気なさすぎるぞ。正直引く」
(お前にだけは言われたくない言葉だよ)
ヒカルは思うが、良は真剣に言っているようだった。ヒカル自身、それだけでは物足りないとは自覚していた。だから、どこか夜景が綺麗な場所はないかと探したりしていたのだ。ヒカリを楽しませたい、そして喜ばせたい。そう思いながら、これまで明日の予定を練ってきた。
「誰かのブログに、夜景が綺麗なスポットが紹介されてたからさ、夜にあいつと来ようと思うんだ。喜んでくれるかどうかわからないけど、それでも俺、あいつを笑顔にしたいから」
ヒカルは夜景が載っているページを開き、携帯の画面を良と真理子に見せた。
「おお、確かに綺麗だな!」
良は目を輝かせている。ヒカルはそれをあまり見ないようにしながら、真理子の方にも目を向ける。真理子もヒカルの心中を察したのか、このようなコメントをした。
「とても綺麗だと思う。きっと、彼女も喜んでくれるよ」
その言葉で、ヒカルは安堵する。きっとうまくいく、そう思えたのだろう。すると次に良が、こうきいてくるのだ。
「で、他に行くところはないのかよ?」
今度は、ヒカルが興ざめしてしまう。折角良い雰囲気だったのに、また良がそれを壊してしまった。ヒカルが考えていると、良は話を続ける。
「要するに、彼女が喜ぶにはお前のエスコートが必要ってことだ。わかるか? 女っていうのは思った以上に面倒くさい生き物だ。それをどう手懐けるかが、重要ってことだな。単に映画見て飯食って、夜景見て帰るだけじゃ満足しないってことだよ」
「じゃあ、一体どうしろって言うんだよ。ってか、お前もつき合ったことないだろ」
「ないけど、そのくらい常識ってもんだ。今までに数多のリア充カップルを見てきたからな、俺にだって女がどういうものかわかる」
自信満々に言う良を横目に、ヒカルはテーブルに運ばれてきたコーヒーを飲んだ。正直、今のプランのままでも充分ではないかとヒカルは思っていた。他に何が必要なのか、良くわからなかったのだ。
すると、良が何か閃いたように声を上げる。
「あ、そうだ。この近くに新しい遊園地がオープンしたって聞いたな。今から行ってみるか? 下見として」
(それ、お前が行きたいだけだろ……)
ヒカルは、白けた目を良に向ける。ヒカルは、遊園地にはあまり思い出したくない思い出があった。裏の世界線で異性になっていた時、崇大と形ばかりのデートをしたところだ。それは、今思えば誰にも掘り返されたくない記憶であった。それとは逆に、良はかなり乗り気のようだ。
「よし! じゃあ最初の予行練習として、行こうぜ!」
「何が予行練習だよ」
そんなヒカルのツッコミも無視し、良は席を立った。ヒカルもコーヒーを飲み干すと、仕方なく立ち上がった。真理子も、そんな二人を微笑ましそうな顔で見ていた。しかし、ヒカルにとってはそれも苦痛でしかなかった。
三人は店を後にすると、遊園地に向かった。ヒカルは、あの遊園地でないだけマシだと自分に言い聞かせ、良についていくことにした。
冬休みとあって、園内は家族連れなどで随分混雑していた。大学生二人と大人が歩いていたら、逆に目立ってしまいそうだ。ヒカルが危惧する一方、良は二人の前を歩きながら鼻歌を歌っている。余程、来たかったのだろうとヒカルは思った。
「楽しそうだね」
横では、真理子がヒカルに小声で話しかける。ヒカルは苦笑いで返し、出来るだけ他人を装おうと良と距離をとった。しかし良は戻ってきて、
「どうしたんだよ。折角なんだし、もっと楽しもうぜ!」
と、ヒカルに不思議そうな眼差しを送ってくる。それを見てヒカルは、やはり良本人が来たかったのだと確信した。それにしても、どうすればそのようにはしゃぐことが出来るのだろうとヒカルは不思議でならなかった。ヒカリの前では、常に笑顔でいないと彼女をかえって不安にさせてしまう。
そんなことを考えていると、隣から真理子が話しかけてくる。
「大丈夫。自分が楽しむことを優先して、ね。それだけで、彼女も楽しくなるはずだから」
さり気なくアドバイスをくれる真理子は、やはり笑っていた。それも無邪気で、悪意が全く感じられない笑顔であった。
「よし、じゃあお前も練習するか!」
良に腕をつかまれ、ヒカルは強制的にジェットコースターのところまで連れてこられた。ヒカルも、今日は今日で楽しもうと思うことにした。明日のことは、明日になってみないとわからない。今、目の前にあることに集中しよう。そう思うと、ヒカルの中にある不安が少しだけ和らいだような気がした。
結局、ジェットコースターの後はお化け屋敷に入ったりして満喫してしまった。遊園地を出ると、三人は駅まで戻って来た。
「じゃあ、明日はしっかりやれよ」
「ああ、遊園地は行かないかもだけど」
「要は気持ちだよな。お前が暗い顔してると、彼女の心まで暗くなっちまうぜ?」
良は、皮肉を含んだ眼差しでヒカルを見つめる。しかし、この時のヒカルはそんなことは気にしなかった。明日が、楽しみで仕方なかったのだ。
「わかってるよ。お前も、絶対に邪魔しに来るなよ?」
「お、おう! 男と男の約束だ。それよりも、今日は彼女部屋にいるんだろ? その恰好で大丈夫なのか?」
「あぁ、今日は友達の家に行ってるから」
ヒカルはここへ来る途中、綾にメールを送り、ヒカリを遊びに誘ってくれないかと頼んでみたところ、また快く了承してくれたのだった。良もその話を聞くと、ホッとしたような素振りを見せていた。
真理子からも、
「頑張ってね、応援してる」
と、声をかけてもらった。
ヒカルは、ますますやる気が漲ってくるのを覚えた。こんなに皆から応援してもらっているのだから、失敗するわけにはいかない。彼女のために、一肌脱がなければ。そう意気込み、二人と別れてマンションへ帰ることにした。
ついに、明日が決戦の日である。
ヒカルは起き上がり、時計を見ると六時半だった。今日は、ヒカリとのデートの前日。そして、その予行練習をしたらどうかと、良から呼ばれているのだ。
隣を見れば、ヒカリはまだ眠っている。勿論、ヒカリには今日のことは知らせていない。また急なバイトが入ったと伝えているが、流石に気づいているだろうか。
ヒカルは立ち上がるとクローゼットを開け、中から黒い鞄を取り出す。その中から更に白い袋を取り出し、洋服を出した。ヒカリに見つからないよう、店で買ったままになっていたのだ。彼女を起こさないように、そっとそれを持ち出すと、脱衣所へ行って着替えることにした。帰りはどうしようかと思ったが、その時になってから考えれば良いだろうとヒカルはそれに袖を通した。
脱衣所にあった鏡を見れば、自分でも驚くほど似合っていた。やはり、真理子に見てもらったことが幸いしたようだ。少し、良の反応が気になった。良も最近は色々な服を研究しているようなので、どんなことを言われるのか楽しみで仕方がなかった。
ヒカルは簡単に朝食を済ませ、七時にマンションを出た。突き刺すような厳しい寒風が、ヒカルの頬を撫でる。ヒカルは少し身震いしたが、エレベーターを使って一階へ降りた。そのまま良との待ち合わせ場所の駅へ向かう。
その途中、ヒカルは帰りのことを考えた。新しい服は明日の朝、ヒカリにお披露目する予定だ。今日は良に見せるために着てきたが、どうすれば明日まで彼女に見つからないで済むのだろうか。歩きながらそう考えていると、一つの考えがヒカルの脳裏に浮かんだ。鞄から携帯を出し、ある人物にメールを送る。ヒカルは返事を見て、これで安心だと足を速めるのだった。
駅に着くと、人は意外に多かった。朝が早いとはいえ、もう七時半になろうとしている。それに年末ということで、家族連れなども多く見られる。ヒカルは周りを見渡したが、良の姿はなかった。まだ来ていないのかと思ったヒカルは、その場で待機することにした。待ち合わせ時間は、五分ほど過ぎている。
しかし、良は一向に現れない。何をしているのだろうと携帯を取り出し、電話してみることにした。番号を打とうとした時、携帯が震えた。見ると、一件のメールが受信されている。それは良からであった。それには、このような内容が書かれていた。
『悪いな、あまりにも寒いから今喫茶店の中にいるわ。伝えるの忘れてた。○○まで来てくれ!』
(はぁ!?)
ヒカルは、思わず声が出そうになった。後ろを振り返ると、確かに喫茶店のような建物が見える。近づいて中を覗くと、中には確かに良らしき後ろ姿が見える。ヒカルは溜息をつき、入ろうとすると良の前の席に誰かが座っていることに気づいた。
もう一度、窓に顔を近づけるとなんとそれは真理子だった。何故、良が真理子と一緒にいるのだろうかという疑問がヒカルを襲ったが、とりあえず中に入ってきいてみることにした。
ドアを開けると、店員の「いらっしゃいませ」という声が店内に響いた。まだ客は数えるほどしかいない。良はすぐヒカルに気づき、手を挙げる。
「よう、やっと来たか」
「お前、待ち合わせ場所変えるなら変えるって、すぐ報告しろよ」
ヒカルは呆れ顔になりながら、良がいる席に行った。
「悪い悪い、ちょっとボケててな。いやあ、それにしても主役が来なかったらどうしようかと思ったぜ」
また、ヒカルから溜息が漏れる。良に振り回されるのは、これで何十回目だろう。二人のそんな様子を見ていた真理子は、笑いながらコーヒーをすすっている。ヒカルが良の隣に座りながら、真理子に尋ねた。
「ところで、どうしてあなたがここに?」
その質問に対し、真理子は笑顔で答えてくれる。
「彼に頼まれたんだよ。是非、今日つき合ってあげてほしいってね」
ヒカルは横を向くと、良が鼻を高くしたような顔をしている。まるで、礼を言えとでも言わんばかりに。ヒカルはそれを適当に無視し、真理子に向き直る。
「でも、いいんですか? 病院の方は?」
「あぁ、それなら大丈夫。うちの病院緩いから、今日から三が日は休みにしてるの。患者さんも少ないからね」
「これも俺のおかげだぞ、ちゃんと調べて上で頼んだんだからな」
良が、ヒカルの肩に手を回す。ヒカルは「はいはい」と言って、その腕を邪険に振り払った。それからヒカルもコーヒーを注文し、真理子と話を続けた。
「この間は、本当にありがとうございました。やっぱり、真理子さんに頼んで正解だったと思います」
ヒカルが言うと、真理子も嬉しそうな顔になる。
「どういたしまして。ヒカル君、カッコいいからよく似合ってるよ」
「お、そう言えば普段よりかなりいい感じの服着てるじゃねーか」
すかさず、良がヒカルのコーディネートを見てありきたりなコメントをする。良が言うと、褒めているのか嫌味を言っているのか、ヒカルには良くわからなくなる。
しかし、これも真理子のおかげだとヒカルは感謝した。どうしても自分一人だけでは、何を着て良いのかわからないからだ。女性が何を好むのか、どうすればヒカリの心を惹きつけられるのか見当もつかなかったので、真理子がいてくれて本当に助かったとヒカルは心から思うのだった。
「ところで、デート当日はどこ行くんだっけ」
「映画見て、食事して帰ろうと思ってるけど……」
良の質問にヒカルはそう答えるが、良は少し興ざめしたような、驚いた顔をしている。
「それだけ?」
「それだけって……、そうだけど何か問題あるか?」
「いやいやいや、もっと他に行くとこないのかよ? 呆気なさすぎるぞ。正直引く」
(お前にだけは言われたくない言葉だよ)
ヒカルは思うが、良は真剣に言っているようだった。ヒカル自身、それだけでは物足りないとは自覚していた。だから、どこか夜景が綺麗な場所はないかと探したりしていたのだ。ヒカリを楽しませたい、そして喜ばせたい。そう思いながら、これまで明日の予定を練ってきた。
「誰かのブログに、夜景が綺麗なスポットが紹介されてたからさ、夜にあいつと来ようと思うんだ。喜んでくれるかどうかわからないけど、それでも俺、あいつを笑顔にしたいから」
ヒカルは夜景が載っているページを開き、携帯の画面を良と真理子に見せた。
「おお、確かに綺麗だな!」
良は目を輝かせている。ヒカルはそれをあまり見ないようにしながら、真理子の方にも目を向ける。真理子もヒカルの心中を察したのか、このようなコメントをした。
「とても綺麗だと思う。きっと、彼女も喜んでくれるよ」
その言葉で、ヒカルは安堵する。きっとうまくいく、そう思えたのだろう。すると次に良が、こうきいてくるのだ。
「で、他に行くところはないのかよ?」
今度は、ヒカルが興ざめしてしまう。折角良い雰囲気だったのに、また良がそれを壊してしまった。ヒカルが考えていると、良は話を続ける。
「要するに、彼女が喜ぶにはお前のエスコートが必要ってことだ。わかるか? 女っていうのは思った以上に面倒くさい生き物だ。それをどう手懐けるかが、重要ってことだな。単に映画見て飯食って、夜景見て帰るだけじゃ満足しないってことだよ」
「じゃあ、一体どうしろって言うんだよ。ってか、お前もつき合ったことないだろ」
「ないけど、そのくらい常識ってもんだ。今までに数多のリア充カップルを見てきたからな、俺にだって女がどういうものかわかる」
自信満々に言う良を横目に、ヒカルはテーブルに運ばれてきたコーヒーを飲んだ。正直、今のプランのままでも充分ではないかとヒカルは思っていた。他に何が必要なのか、良くわからなかったのだ。
すると、良が何か閃いたように声を上げる。
「あ、そうだ。この近くに新しい遊園地がオープンしたって聞いたな。今から行ってみるか? 下見として」
(それ、お前が行きたいだけだろ……)
ヒカルは、白けた目を良に向ける。ヒカルは、遊園地にはあまり思い出したくない思い出があった。裏の世界線で異性になっていた時、崇大と形ばかりのデートをしたところだ。それは、今思えば誰にも掘り返されたくない記憶であった。それとは逆に、良はかなり乗り気のようだ。
「よし! じゃあ最初の予行練習として、行こうぜ!」
「何が予行練習だよ」
そんなヒカルのツッコミも無視し、良は席を立った。ヒカルもコーヒーを飲み干すと、仕方なく立ち上がった。真理子も、そんな二人を微笑ましそうな顔で見ていた。しかし、ヒカルにとってはそれも苦痛でしかなかった。
三人は店を後にすると、遊園地に向かった。ヒカルは、あの遊園地でないだけマシだと自分に言い聞かせ、良についていくことにした。
冬休みとあって、園内は家族連れなどで随分混雑していた。大学生二人と大人が歩いていたら、逆に目立ってしまいそうだ。ヒカルが危惧する一方、良は二人の前を歩きながら鼻歌を歌っている。余程、来たかったのだろうとヒカルは思った。
「楽しそうだね」
横では、真理子がヒカルに小声で話しかける。ヒカルは苦笑いで返し、出来るだけ他人を装おうと良と距離をとった。しかし良は戻ってきて、
「どうしたんだよ。折角なんだし、もっと楽しもうぜ!」
と、ヒカルに不思議そうな眼差しを送ってくる。それを見てヒカルは、やはり良本人が来たかったのだと確信した。それにしても、どうすればそのようにはしゃぐことが出来るのだろうとヒカルは不思議でならなかった。ヒカリの前では、常に笑顔でいないと彼女をかえって不安にさせてしまう。
そんなことを考えていると、隣から真理子が話しかけてくる。
「大丈夫。自分が楽しむことを優先して、ね。それだけで、彼女も楽しくなるはずだから」
さり気なくアドバイスをくれる真理子は、やはり笑っていた。それも無邪気で、悪意が全く感じられない笑顔であった。
「よし、じゃあお前も練習するか!」
良に腕をつかまれ、ヒカルは強制的にジェットコースターのところまで連れてこられた。ヒカルも、今日は今日で楽しもうと思うことにした。明日のことは、明日になってみないとわからない。今、目の前にあることに集中しよう。そう思うと、ヒカルの中にある不安が少しだけ和らいだような気がした。
結局、ジェットコースターの後はお化け屋敷に入ったりして満喫してしまった。遊園地を出ると、三人は駅まで戻って来た。
「じゃあ、明日はしっかりやれよ」
「ああ、遊園地は行かないかもだけど」
「要は気持ちだよな。お前が暗い顔してると、彼女の心まで暗くなっちまうぜ?」
良は、皮肉を含んだ眼差しでヒカルを見つめる。しかし、この時のヒカルはそんなことは気にしなかった。明日が、楽しみで仕方なかったのだ。
「わかってるよ。お前も、絶対に邪魔しに来るなよ?」
「お、おう! 男と男の約束だ。それよりも、今日は彼女部屋にいるんだろ? その恰好で大丈夫なのか?」
「あぁ、今日は友達の家に行ってるから」
ヒカルはここへ来る途中、綾にメールを送り、ヒカリを遊びに誘ってくれないかと頼んでみたところ、また快く了承してくれたのだった。良もその話を聞くと、ホッとしたような素振りを見せていた。
真理子からも、
「頑張ってね、応援してる」
と、声をかけてもらった。
ヒカルは、ますますやる気が漲ってくるのを覚えた。こんなに皆から応援してもらっているのだから、失敗するわけにはいかない。彼女のために、一肌脱がなければ。そう意気込み、二人と別れてマンションへ帰ることにした。
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