オモテ男子とウラ彼女
第三十五話 『対面』
ガタゴトと電車に揺られながら、ヒカルは少女から話を聞いた。
「それで、何か手がかりは掴めたの?」
佳子という名の少女は、従兄を探しているのだという。その名前をきいたら、予想外の名前が佳子から飛び出した。「結城崇大」、それはヒカルが大学で出会った男と全く同じ名だったのだ。
果たして、そのような偶然があるのだろうかと思いつつ、ヒカルは佳子の人探しに協力することにした。
「はい。色々と調べてみたら、この近くの大学に通われてるそうなんです」
嬉しそうに話す佳子。この近くと言えば、ヒカルの通う大学以外にはない。ますます、その可能性が高くなった。まさか同じ大学に、同姓同名が二人もいるとは思えない。
佳子の話によれば、その大学に行く途中だったのだという。しかし最寄りからの行き方がわからず、また戻ってきてしまったらしい。
話を聞いて、ヒカルは放っておくわけにもいかず、案内することにした。それを佳子に伝えると、佳子も感激の笑みを浮かべた。
二人は次の駅で降り、引き返した。大学の最寄りに着くと、ヒカルは佳子にきいた。
「どうして、そんなに会いたいの?」
「小さい頃に、よく遊んでもらってたんです。手紙を見たら、それを思い出してしまって、それで会いにいこうと思ったんです」
淡々と話す佳子。もし、彼女が会いたがっているのが崇大ならば、ヒカルは出来るだけ会いたくないと思った。それでも引き受けてしまった以上、最後まで佳子につき合わなければならない。ついでに、佳子の探している相手が本当に崇大なら、デートの時の金を返そうとも思った。
ヒカルはまず、大学に佳子を連れていった。しかし、良の時と同様、広いキャンパスの中から一人を探すのは不可能に等しい。電話で呼んでも良いが、それではヒカルと崇大が知り合いだとわかってしまう。
迷っていると、横から佳子が不思議そうにヒカルのことを見つめてくる。取り敢えず、サークルの部室を訪ねてみることにした。誰かいれば、協力してもらおうと考えたのだ。ドアを開けてみると、中には良がいた。
「あ、ヒカル。帰ったんじゃなかったのか?」
「あ、うん。ちょっと、用事があって……」
自然と良の視線は、ヒカルの後ろで恥ずかしそうに立っている、佳子の方に向けられる。
「誰、その子」
「ちょっと、人を探しているらしい。手伝ってもらえると有り難いんだけど」
「あ、オッケー。じゃ、ちょっと待ってね」
良は愛想良く返事をし、テーブルに散らかっていた菓子やら雑誌やらを片付け始めた。それが終わると、カバンを持って部屋から出てきた。
「それで、誰を探してるの?」
「この子の従兄で、この大学に通ってるらしい」
「そうなの?」
良が尋ねると、佳子は目を合わさず、恥ずかしそうに頷いた。佳子が探している相手が崇大だと言おうかとも思ったが、本人が聞いている前では、やはり言い出し難かった。
それで思いついた方法は、良にメールを送ることだ。そうすれば、佳子に聞かれなくて済む。早速、出来るだけ佳子に怪しまれぬよう、メールで事情を良に伝える。良もすぐにそれを見たらしく、立ち止まるとヒカルの腕を掴んだ。
「あぁ! ごめんね、佳子ちゃん。ちょっと、ここで待っててくれる?」
良が佳子に告げ、ヒカルを引っ張っていった。
そこから少し離れた場所まで来ると、良が言った。
「おい、マジかよ。あの子が探してるのって、ほんとに結城さん?」
「多分、間違いないと思う。まさか、同じ大学に同じ名前のやつがいるなんて、そうそうないもんな」
ヒカルも、窓の外を目にしながら呟く。しかしそれを佳子に伝えても良いのかと、少しばかり躊躇っていた。すると、良は言った。
「じゃあ、こうしよう。あの二人を、うまく鉢合わせにするんだ」
「けど、そんなに上手くいくか?」
「任せとけって」
どうやら、良には何か秘策があるようだ。
良が考えた作戦とは、次のようになる。まず、ヒカルが佳子を食堂に連れていく。良が言うには、先程食堂に立ち寄った際、崇大が遅めの昼食をとっていたという。そのため、良が崇大に「久々に話したいから、そこを動かないで待っていてほしい」といった内容のメールを送信する。そして、崇大が良を待っているところに、ヒカルが佳子を連れてくるというものだ。
果たして上手くいくのかという気もしたが、ヒカルは了解した。そして、ヒカルは佳子のところに戻ると、
「ごめん。良、ちょっと用事ができたんだって」
と、佳子に嘘の事情を告げた。佳子も、ヒカルの話を聞いて納得したように頷く。良は崇大にメールを送った後、先に食堂に行ってしまったのだ。続いて、ヒカルは佳子にこう尋ねた。
「佳子ちゃん、お腹空いてない?」
「そう言えば、朝から何も食べてないから……」
ここまでは、良の計画通りだ。
「じゃあ、一緒に食堂行かない? 何か奢るから」
「でも、いいんですか? 今日知り合ったばかりなのに、悪いです」
「いいよ。私も何か食べたいと思ってたから、ついでに」
ヒカルが言うのを聞いて、佳子は少し顔を朱くしながら答える。
「じゃ、じゃあ……、お言葉に甘えて」
「よし、じゃあ行こっか」
ヒカルは佳子の手を引いて、食堂まで行った。ヒカルはその時、今更ながら良の行動力はすごいと思った。大抵のことは、良が計画した通りに事が進む。それはリア充退治の時にも、活躍したことだろう。ヒカルにとって、あまり考えたくないことだが。
ヒカルは食堂に着くと、崇大を探した。その時間は授業中ということもあり、食堂の中はガラガラだった。昼食をとっている学生も、かなり少ない。佳子の方もキョロキョロと、不安気に辺りを見渡している。すると、何かに気づいたようだ。ヒカルも、佳子の視線を追った。
崇大が、ポツンとテーブルに座っている。きっと、良を待っているのだろう。ヒカルは、佳子を崇大の前に連れていった。そして、崇大も二人の存在に気づく。
「ヒロ君……」
不意に、佳子が呟いた。やはり、佳子が探していた相手は崇大だったのだ。これで明確となった。崇大も驚きながら、
「なんで、君がここに?」
と、佳子に尋ねる。すると、ヒカルの耳に良の声が入ってくる。
『お~い!』
近くから、小声でヒカルのことを呼んでいるのだ。すぐにヒカルもその場を離れ、良がいるところまで行った。良は階段の陰に隠れて、待機していたらしい。そして、ヒカルにイヤホンを渡す。
「予め、近くのテーブルの下に仕掛けといたんだ」
(相変わらず、用意周到だな……)
ヒカルも半ば呆れつつ、二人の様子を見守ることにした。これは崇大にとっても、予想していなかっただろう。二人はしばらくの間、互いに見つめ合っていた。
「それで、何か手がかりは掴めたの?」
佳子という名の少女は、従兄を探しているのだという。その名前をきいたら、予想外の名前が佳子から飛び出した。「結城崇大」、それはヒカルが大学で出会った男と全く同じ名だったのだ。
果たして、そのような偶然があるのだろうかと思いつつ、ヒカルは佳子の人探しに協力することにした。
「はい。色々と調べてみたら、この近くの大学に通われてるそうなんです」
嬉しそうに話す佳子。この近くと言えば、ヒカルの通う大学以外にはない。ますます、その可能性が高くなった。まさか同じ大学に、同姓同名が二人もいるとは思えない。
佳子の話によれば、その大学に行く途中だったのだという。しかし最寄りからの行き方がわからず、また戻ってきてしまったらしい。
話を聞いて、ヒカルは放っておくわけにもいかず、案内することにした。それを佳子に伝えると、佳子も感激の笑みを浮かべた。
二人は次の駅で降り、引き返した。大学の最寄りに着くと、ヒカルは佳子にきいた。
「どうして、そんなに会いたいの?」
「小さい頃に、よく遊んでもらってたんです。手紙を見たら、それを思い出してしまって、それで会いにいこうと思ったんです」
淡々と話す佳子。もし、彼女が会いたがっているのが崇大ならば、ヒカルは出来るだけ会いたくないと思った。それでも引き受けてしまった以上、最後まで佳子につき合わなければならない。ついでに、佳子の探している相手が本当に崇大なら、デートの時の金を返そうとも思った。
ヒカルはまず、大学に佳子を連れていった。しかし、良の時と同様、広いキャンパスの中から一人を探すのは不可能に等しい。電話で呼んでも良いが、それではヒカルと崇大が知り合いだとわかってしまう。
迷っていると、横から佳子が不思議そうにヒカルのことを見つめてくる。取り敢えず、サークルの部室を訪ねてみることにした。誰かいれば、協力してもらおうと考えたのだ。ドアを開けてみると、中には良がいた。
「あ、ヒカル。帰ったんじゃなかったのか?」
「あ、うん。ちょっと、用事があって……」
自然と良の視線は、ヒカルの後ろで恥ずかしそうに立っている、佳子の方に向けられる。
「誰、その子」
「ちょっと、人を探しているらしい。手伝ってもらえると有り難いんだけど」
「あ、オッケー。じゃ、ちょっと待ってね」
良は愛想良く返事をし、テーブルに散らかっていた菓子やら雑誌やらを片付け始めた。それが終わると、カバンを持って部屋から出てきた。
「それで、誰を探してるの?」
「この子の従兄で、この大学に通ってるらしい」
「そうなの?」
良が尋ねると、佳子は目を合わさず、恥ずかしそうに頷いた。佳子が探している相手が崇大だと言おうかとも思ったが、本人が聞いている前では、やはり言い出し難かった。
それで思いついた方法は、良にメールを送ることだ。そうすれば、佳子に聞かれなくて済む。早速、出来るだけ佳子に怪しまれぬよう、メールで事情を良に伝える。良もすぐにそれを見たらしく、立ち止まるとヒカルの腕を掴んだ。
「あぁ! ごめんね、佳子ちゃん。ちょっと、ここで待っててくれる?」
良が佳子に告げ、ヒカルを引っ張っていった。
そこから少し離れた場所まで来ると、良が言った。
「おい、マジかよ。あの子が探してるのって、ほんとに結城さん?」
「多分、間違いないと思う。まさか、同じ大学に同じ名前のやつがいるなんて、そうそうないもんな」
ヒカルも、窓の外を目にしながら呟く。しかしそれを佳子に伝えても良いのかと、少しばかり躊躇っていた。すると、良は言った。
「じゃあ、こうしよう。あの二人を、うまく鉢合わせにするんだ」
「けど、そんなに上手くいくか?」
「任せとけって」
どうやら、良には何か秘策があるようだ。
良が考えた作戦とは、次のようになる。まず、ヒカルが佳子を食堂に連れていく。良が言うには、先程食堂に立ち寄った際、崇大が遅めの昼食をとっていたという。そのため、良が崇大に「久々に話したいから、そこを動かないで待っていてほしい」といった内容のメールを送信する。そして、崇大が良を待っているところに、ヒカルが佳子を連れてくるというものだ。
果たして上手くいくのかという気もしたが、ヒカルは了解した。そして、ヒカルは佳子のところに戻ると、
「ごめん。良、ちょっと用事ができたんだって」
と、佳子に嘘の事情を告げた。佳子も、ヒカルの話を聞いて納得したように頷く。良は崇大にメールを送った後、先に食堂に行ってしまったのだ。続いて、ヒカルは佳子にこう尋ねた。
「佳子ちゃん、お腹空いてない?」
「そう言えば、朝から何も食べてないから……」
ここまでは、良の計画通りだ。
「じゃあ、一緒に食堂行かない? 何か奢るから」
「でも、いいんですか? 今日知り合ったばかりなのに、悪いです」
「いいよ。私も何か食べたいと思ってたから、ついでに」
ヒカルが言うのを聞いて、佳子は少し顔を朱くしながら答える。
「じゃ、じゃあ……、お言葉に甘えて」
「よし、じゃあ行こっか」
ヒカルは佳子の手を引いて、食堂まで行った。ヒカルはその時、今更ながら良の行動力はすごいと思った。大抵のことは、良が計画した通りに事が進む。それはリア充退治の時にも、活躍したことだろう。ヒカルにとって、あまり考えたくないことだが。
ヒカルは食堂に着くと、崇大を探した。その時間は授業中ということもあり、食堂の中はガラガラだった。昼食をとっている学生も、かなり少ない。佳子の方もキョロキョロと、不安気に辺りを見渡している。すると、何かに気づいたようだ。ヒカルも、佳子の視線を追った。
崇大が、ポツンとテーブルに座っている。きっと、良を待っているのだろう。ヒカルは、佳子を崇大の前に連れていった。そして、崇大も二人の存在に気づく。
「ヒロ君……」
不意に、佳子が呟いた。やはり、佳子が探していた相手は崇大だったのだ。これで明確となった。崇大も驚きながら、
「なんで、君がここに?」
と、佳子に尋ねる。すると、ヒカルの耳に良の声が入ってくる。
『お~い!』
近くから、小声でヒカルのことを呼んでいるのだ。すぐにヒカルもその場を離れ、良がいるところまで行った。良は階段の陰に隠れて、待機していたらしい。そして、ヒカルにイヤホンを渡す。
「予め、近くのテーブルの下に仕掛けといたんだ」
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