オモテ男子とウラ彼女
第二十話 『夏希』
翌日、俺はいつも通りの時間に登校した。
すると担任が入ってきて、ホームルームが始まる時にこう言った。
「え〜、今日は高田と斎藤が欠席のようだ。これからどんどん暑くなってくるから、みんなも夏バテしないように」
俺はそれを聞いて、後ろをふり向いた。夏希の席が空いている。そういえば昨日、体調が悪いとか言ってたな。それにしても、何故雪也まで休みなのかよくわからない。寝坊で遅刻することはあっても、ほぼ毎日学校には登校していた。というか、昨日帰る時はあんなに元気だったじゃないか。まあ、稀にわからないことをするのが雪也だからな。あまり気にしないでおこう、と俺は思った。
そしてこの日も、授業が滞りなく進んだ。帰りのホームルームが終了すると、また小谷が仕事を俺に押し付けてきた。小谷が言うには、
「高田が休みだからなあ、お前しか頼る奴がいないんだよ。他の奴らは部活で忙しいし、おまけに斎藤も休みだから、副委員長でかつ帰宅部のお前なら、引き受けてくれるだろうと思ってな」
だ、そうだ。虫が良すぎる。小谷の生徒使いに荒さは、他学年にまで噂になっている。ほんとに俺、なんでこんな面倒な役引き受けたのかな。まあ帰っても特にする事ないから、居残ってるんだけど。そういや、もうすぐテスト期間だけど小谷のことだから、お構いなしにまた面倒事押し付けてくるんだろうな。その時はどうすっかなぁ。目を盗んで帰るしかないのか。
俺は心の中でぼやきながら、頼まれた教卓の片付けなどを手伝った。時間が経つと教室の中を、眩いばかりの夕日が差し込んだ。夏の夕日は、鬱陶しくて仕方がない。いつまで経っても沈まないんだもの。
ようやく、その日の仕事が終わった。
「今日もご苦労さん。よかったら、斎藤に今日どうして休んだか聞いてきてくれないか?」
「え、聞いてないんすか?」
「うん。今日は休むとしか言ってなかった。一番仲いいのは真宮だと思うから、連絡してみてくれ。お前になら、あいつも事情、話せるだろう」
小谷から頼まれ、仕方なく俺は帰りに公園で雪也に電話をかけた。しかし、繋がらない。そして、また明日学校で聞けばいいやと思い、立ち上がって帰ることにした。駅が見えてくる頃、予想外の出来事があった。
俺が歩いていると、後ろの方からこんな会話が聞こえてきた。
「これ、お前に似合うんじゃね?」
「え〜、もっと可愛いのにしてよ」
仲のいいカップルが、また買い物でもしてるのかと思ったが、その時、いや待てよと思い、俺は足を止めた。それは、聞き覚えのある声だった。俺は気になり、ふり返って見た。そうすると、少し離れた先に店の表に並んでいる小物を、仲良く眺めている二人の男女が目につく。俺は一瞬、目を疑った。間違いない、それは雪也と夏希だったのだ。その時、昨日中庭で二人が会っていたことを思い出す。何かあるに違いない、俺はそう察して声をかけにいった。
「おい、何してんだよ」
そうしたら、真っ先に夏希が俺に向かって、
「あ、真宮君」
と挨拶してくるが、雪也が焦ったように夏希の手を引いた。
「おい、行くぞ」
夏希は戸惑いながらも、雪也に引っ張られていった。雪也の反応に俺は、
「おい、どうして逃げんだよ!」
と言ったが、二人は遠くへ離れていき、とうとう見失ってしまった。夏希は、俺のことを気にしていたのか、しきりに後ろをふり向いていた。
「何だったんだ……?」
俺は、二人があそこで何をしていたのか、気になって仕方がなかった。考えていると、嫌な予感も顔を出してきた。雪也が、俺がなかなか動かないのをいいことに、先に夏希に近づいたのではないか。いや、それならべつに俺のこと応援する必要なんてない。それに、今までの行動を見てきても、そんなことを考えられるような奴じゃなかった。
リア充を脅していた時点で、それは自分がリア充にはなれないと察知していたのだから。確かに、夏希のことが好きだって相談してきたことはあった。けどあいつは、自分は恋愛には向いてないから諦めると言った。そして、俺のことも応援すると言ってくれた。じゃ、なんでだ? なんで、逃げる必要があんだよ。俺はいくつかの疑問を抱え、モヤモヤしながら家に向かった。そのモヤモヤは、翌朝になってもまだ粘り強く残っていた。
俺は教室に入り、どちらかが来るのを待った。しかし先に小谷が入ってきて、
「え〜、高田は今日、病院に行ってから来るそうだ」
と、言った。すると、前のドアが開く。
「すみません、遅れました」
そう言いながら、雪也が俺の前の席に座った。
「昨日は何故休んだ? お母さんは特に何も言っていなかったが」
「あ、風邪っす」
小谷に質問され、雪也が軽く返答した。けど、俺にはわかった。風邪なら、外に出られるはずがない。あの時、夏希と何をしてたんだよ。小谷も雪也の話を聞いて納得したのか、それ以上は何もきかなかった。それから程なくして、授業が始まった。すると雪也がふり向いて俺に、
「あ、ヒカル。シャーペン貸してくんない? 今日、筆箱入れるの忘れちゃってさぁ」
と言うので、俺は替えのシャーペンを貸してやった。その時に俺は、
「それよりお前、昨日……」
と言いかけたが、雪也は向こうを向いてしまい、結局きけなかった。授業中は最悪だった。俺は内容が全く耳に入ってこず、昨日のことだけを考えていた。考えれば考えるほど、また頭の中がモヤモヤしてくる。夏希が学校に来る前に、どうしてもはっきりさせておきたかったのだ。
休み時間になり、俺にようやく雪也と話せる機会ができた。雪也が、手洗いから帰ってくると、特に俺を警戒する様子はなく、次の授業の用意を始めている。
「なぁ、雪也?」
「ん? 何だ?」
「お前、昨日何してたんだ?」
「え? 何が?」
雪也は、不思議そうに俺を見つめてくる。いや、ここまで言えば普通にわかるだろうよ。そう思いながらも、俺は雪也から昨日のことを聞き出そうと思った。
「いや、お前昨日夏希と一緒にいただろ」
「あ……、あぁ。あいつ、もうすぐ誕生日らしくてさ。自分用のプレゼント買いに来てたらしいぜ。で、俺、夏希が商店街で迷ってんの偶然見かけて、一緒に選んでやってたってだけさ」
「そうなんだ……。でもさ、お前が昨日休んでたのって、本当に風邪か?」
「あぁ、朝からちょっと目眩してさ。ってお前、もしかして俺のこと疑ってんのか?」
雪也が、苦笑しながらきいてくる。バカにしたような顔だ。疑ってないって言えば嘘になるけど……、それでもやっぱり、こいつが何を考えているのかわからなくなる時がある。
「そういうわけじゃねーけどよ、ちょっと気になってさ。それより、なんであの時逃げた? べつにプレゼント選んでたんなら、逃げる必要なかっただろ」
「あ、ごめん。まさか、あんなところでヒカルに会うとは思わなかったから……」
そうしていると、次のチャイムが鳴り、皆席に着いた。その授業の途中に、夏希が教室に入ってきた。授業が終わると、夏希は立ち上がり、部屋を出ようとドアを開けた。それを見逃さず、俺もそこへ行くと夏希に声をかけてみた。
「あ……、あの」
「何?」
「どこ行くの?」
「ちょっと、また気分が悪くなって。保健室へ」
「ついて行こうか? 一応、俺もクラス委員だから」
「ありがとう。でも、一人で平気」
夏希は言うと、廊下を歩いていった。その時、その近くを一人の女子が通りかかった。去年同じクラスで、夏希とは同じ部活に所属していた立花という女子だ。俺は立花と目が合うと、立花の方から俺に話しかけてきた。
「あ、久しぶり〜。三年になってから初めてじゃない?」
クラス替えをすると、友達以外前のクラスの奴とはほとんど話す機会がなくなるものだ。俺も突然声をかけられ、ドギマギしたが返事をした。
「あ、久しぶり」
「真宮君って、確か夏希と同じクラスだったよね? どう? あの子、元気にしてる?」
「あぁ……、まぁ。それより、あいつの誕生日って何日? もうすぐだって聞いたけど」
俺がきくと、立花がキョトンとした。
「え、まだまだだよ? だって夏希、十二月生まれだもん」
は? 十二月? でも、確か雪也は……。
「去年、部活の子たちと遊びに行ったから、はっきり覚えてるもん」
立花が言った。その話を聞くと、俺はふり向いて教室の中を見た。中では、雪也が他の奴らと楽しそうに会話している。
「……誰から聞いたの?」
「あ、いや、何でもない。じゃあな」
俺は立花と別れると、中に戻った。そして、何故雪也が嘘をついたのか考えた。いや、もしかすると夏希がついたのだろうか。となれば、ますます話がわからなくなる。どっちにきけばいいんだ……。悩んでいるうちに、また運悪く授業再開のチャイムが鳴る。結局、その時間も夏希は保健室から帰ってこなかった。
昼休み、俺は教室にいるのが嫌で、また中庭に足を運んだ。いや、自分でもわからないが、もしかしたら心のどこかで、夏希が来ると思っていたのかもしれない。しかし、そこに夏希は現れなかった。
教室に戻る途中、教室のドアの前に一人立っている女子が見えた。その女子は俺の気配に気づくと、
「あ、真宮君」
と、言った。案の定、それは夏希だった。
「何してんだ?」
「あ、ごめん。もしかしてお昼、いつも私がいるところで食べたの? あ、違ったらごめんね。でも、あそこいいよね。自然と一体になれるって感じがする!」
嬉しそうに話す夏希を前にし、俺は告白する決心をした。こんなんだから、ダメなんだ。変わる努力をしなければ、いつまで経っても変われるはずがない。それは、あまりにも突発的で、衝動的だった。それでも、俺の決心はすでについていた。
「なぁ、放課後空いてるか?」
「え、放課後?」
「話が、したいんだ」
「いいけど……」
夏希は、まじまじと俺のことを見つめてくる。その視線を逸らすように、俺は教室の中に入った。フられてもいい、やり遂げることに意味があるんだ。俺は自分にそう言い聞かせながら、席に着いた。どんな結果に終わっても、後悔はしないだろう。
すると担任が入ってきて、ホームルームが始まる時にこう言った。
「え〜、今日は高田と斎藤が欠席のようだ。これからどんどん暑くなってくるから、みんなも夏バテしないように」
俺はそれを聞いて、後ろをふり向いた。夏希の席が空いている。そういえば昨日、体調が悪いとか言ってたな。それにしても、何故雪也まで休みなのかよくわからない。寝坊で遅刻することはあっても、ほぼ毎日学校には登校していた。というか、昨日帰る時はあんなに元気だったじゃないか。まあ、稀にわからないことをするのが雪也だからな。あまり気にしないでおこう、と俺は思った。
そしてこの日も、授業が滞りなく進んだ。帰りのホームルームが終了すると、また小谷が仕事を俺に押し付けてきた。小谷が言うには、
「高田が休みだからなあ、お前しか頼る奴がいないんだよ。他の奴らは部活で忙しいし、おまけに斎藤も休みだから、副委員長でかつ帰宅部のお前なら、引き受けてくれるだろうと思ってな」
だ、そうだ。虫が良すぎる。小谷の生徒使いに荒さは、他学年にまで噂になっている。ほんとに俺、なんでこんな面倒な役引き受けたのかな。まあ帰っても特にする事ないから、居残ってるんだけど。そういや、もうすぐテスト期間だけど小谷のことだから、お構いなしにまた面倒事押し付けてくるんだろうな。その時はどうすっかなぁ。目を盗んで帰るしかないのか。
俺は心の中でぼやきながら、頼まれた教卓の片付けなどを手伝った。時間が経つと教室の中を、眩いばかりの夕日が差し込んだ。夏の夕日は、鬱陶しくて仕方がない。いつまで経っても沈まないんだもの。
ようやく、その日の仕事が終わった。
「今日もご苦労さん。よかったら、斎藤に今日どうして休んだか聞いてきてくれないか?」
「え、聞いてないんすか?」
「うん。今日は休むとしか言ってなかった。一番仲いいのは真宮だと思うから、連絡してみてくれ。お前になら、あいつも事情、話せるだろう」
小谷から頼まれ、仕方なく俺は帰りに公園で雪也に電話をかけた。しかし、繋がらない。そして、また明日学校で聞けばいいやと思い、立ち上がって帰ることにした。駅が見えてくる頃、予想外の出来事があった。
俺が歩いていると、後ろの方からこんな会話が聞こえてきた。
「これ、お前に似合うんじゃね?」
「え〜、もっと可愛いのにしてよ」
仲のいいカップルが、また買い物でもしてるのかと思ったが、その時、いや待てよと思い、俺は足を止めた。それは、聞き覚えのある声だった。俺は気になり、ふり返って見た。そうすると、少し離れた先に店の表に並んでいる小物を、仲良く眺めている二人の男女が目につく。俺は一瞬、目を疑った。間違いない、それは雪也と夏希だったのだ。その時、昨日中庭で二人が会っていたことを思い出す。何かあるに違いない、俺はそう察して声をかけにいった。
「おい、何してんだよ」
そうしたら、真っ先に夏希が俺に向かって、
「あ、真宮君」
と挨拶してくるが、雪也が焦ったように夏希の手を引いた。
「おい、行くぞ」
夏希は戸惑いながらも、雪也に引っ張られていった。雪也の反応に俺は、
「おい、どうして逃げんだよ!」
と言ったが、二人は遠くへ離れていき、とうとう見失ってしまった。夏希は、俺のことを気にしていたのか、しきりに後ろをふり向いていた。
「何だったんだ……?」
俺は、二人があそこで何をしていたのか、気になって仕方がなかった。考えていると、嫌な予感も顔を出してきた。雪也が、俺がなかなか動かないのをいいことに、先に夏希に近づいたのではないか。いや、それならべつに俺のこと応援する必要なんてない。それに、今までの行動を見てきても、そんなことを考えられるような奴じゃなかった。
リア充を脅していた時点で、それは自分がリア充にはなれないと察知していたのだから。確かに、夏希のことが好きだって相談してきたことはあった。けどあいつは、自分は恋愛には向いてないから諦めると言った。そして、俺のことも応援すると言ってくれた。じゃ、なんでだ? なんで、逃げる必要があんだよ。俺はいくつかの疑問を抱え、モヤモヤしながら家に向かった。そのモヤモヤは、翌朝になってもまだ粘り強く残っていた。
俺は教室に入り、どちらかが来るのを待った。しかし先に小谷が入ってきて、
「え〜、高田は今日、病院に行ってから来るそうだ」
と、言った。すると、前のドアが開く。
「すみません、遅れました」
そう言いながら、雪也が俺の前の席に座った。
「昨日は何故休んだ? お母さんは特に何も言っていなかったが」
「あ、風邪っす」
小谷に質問され、雪也が軽く返答した。けど、俺にはわかった。風邪なら、外に出られるはずがない。あの時、夏希と何をしてたんだよ。小谷も雪也の話を聞いて納得したのか、それ以上は何もきかなかった。それから程なくして、授業が始まった。すると雪也がふり向いて俺に、
「あ、ヒカル。シャーペン貸してくんない? 今日、筆箱入れるの忘れちゃってさぁ」
と言うので、俺は替えのシャーペンを貸してやった。その時に俺は、
「それよりお前、昨日……」
と言いかけたが、雪也は向こうを向いてしまい、結局きけなかった。授業中は最悪だった。俺は内容が全く耳に入ってこず、昨日のことだけを考えていた。考えれば考えるほど、また頭の中がモヤモヤしてくる。夏希が学校に来る前に、どうしてもはっきりさせておきたかったのだ。
休み時間になり、俺にようやく雪也と話せる機会ができた。雪也が、手洗いから帰ってくると、特に俺を警戒する様子はなく、次の授業の用意を始めている。
「なぁ、雪也?」
「ん? 何だ?」
「お前、昨日何してたんだ?」
「え? 何が?」
雪也は、不思議そうに俺を見つめてくる。いや、ここまで言えば普通にわかるだろうよ。そう思いながらも、俺は雪也から昨日のことを聞き出そうと思った。
「いや、お前昨日夏希と一緒にいただろ」
「あ……、あぁ。あいつ、もうすぐ誕生日らしくてさ。自分用のプレゼント買いに来てたらしいぜ。で、俺、夏希が商店街で迷ってんの偶然見かけて、一緒に選んでやってたってだけさ」
「そうなんだ……。でもさ、お前が昨日休んでたのって、本当に風邪か?」
「あぁ、朝からちょっと目眩してさ。ってお前、もしかして俺のこと疑ってんのか?」
雪也が、苦笑しながらきいてくる。バカにしたような顔だ。疑ってないって言えば嘘になるけど……、それでもやっぱり、こいつが何を考えているのかわからなくなる時がある。
「そういうわけじゃねーけどよ、ちょっと気になってさ。それより、なんであの時逃げた? べつにプレゼント選んでたんなら、逃げる必要なかっただろ」
「あ、ごめん。まさか、あんなところでヒカルに会うとは思わなかったから……」
そうしていると、次のチャイムが鳴り、皆席に着いた。その授業の途中に、夏希が教室に入ってきた。授業が終わると、夏希は立ち上がり、部屋を出ようとドアを開けた。それを見逃さず、俺もそこへ行くと夏希に声をかけてみた。
「あ……、あの」
「何?」
「どこ行くの?」
「ちょっと、また気分が悪くなって。保健室へ」
「ついて行こうか? 一応、俺もクラス委員だから」
「ありがとう。でも、一人で平気」
夏希は言うと、廊下を歩いていった。その時、その近くを一人の女子が通りかかった。去年同じクラスで、夏希とは同じ部活に所属していた立花という女子だ。俺は立花と目が合うと、立花の方から俺に話しかけてきた。
「あ、久しぶり〜。三年になってから初めてじゃない?」
クラス替えをすると、友達以外前のクラスの奴とはほとんど話す機会がなくなるものだ。俺も突然声をかけられ、ドギマギしたが返事をした。
「あ、久しぶり」
「真宮君って、確か夏希と同じクラスだったよね? どう? あの子、元気にしてる?」
「あぁ……、まぁ。それより、あいつの誕生日って何日? もうすぐだって聞いたけど」
俺がきくと、立花がキョトンとした。
「え、まだまだだよ? だって夏希、十二月生まれだもん」
は? 十二月? でも、確か雪也は……。
「去年、部活の子たちと遊びに行ったから、はっきり覚えてるもん」
立花が言った。その話を聞くと、俺はふり向いて教室の中を見た。中では、雪也が他の奴らと楽しそうに会話している。
「……誰から聞いたの?」
「あ、いや、何でもない。じゃあな」
俺は立花と別れると、中に戻った。そして、何故雪也が嘘をついたのか考えた。いや、もしかすると夏希がついたのだろうか。となれば、ますます話がわからなくなる。どっちにきけばいいんだ……。悩んでいるうちに、また運悪く授業再開のチャイムが鳴る。結局、その時間も夏希は保健室から帰ってこなかった。
昼休み、俺は教室にいるのが嫌で、また中庭に足を運んだ。いや、自分でもわからないが、もしかしたら心のどこかで、夏希が来ると思っていたのかもしれない。しかし、そこに夏希は現れなかった。
教室に戻る途中、教室のドアの前に一人立っている女子が見えた。その女子は俺の気配に気づくと、
「あ、真宮君」
と、言った。案の定、それは夏希だった。
「何してんだ?」
「あ、ごめん。もしかしてお昼、いつも私がいるところで食べたの? あ、違ったらごめんね。でも、あそこいいよね。自然と一体になれるって感じがする!」
嬉しそうに話す夏希を前にし、俺は告白する決心をした。こんなんだから、ダメなんだ。変わる努力をしなければ、いつまで経っても変われるはずがない。それは、あまりにも突発的で、衝動的だった。それでも、俺の決心はすでについていた。
「なぁ、放課後空いてるか?」
「え、放課後?」
「話が、したいんだ」
「いいけど……」
夏希は、まじまじと俺のことを見つめてくる。その視線を逸らすように、俺は教室の中に入った。フられてもいい、やり遂げることに意味があるんだ。俺は自分にそう言い聞かせながら、席に着いた。どんな結果に終わっても、後悔はしないだろう。
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