イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

7

 俺が今日二度目の「送っていこうか?」の声を掛けたが、やはり夏影もとい三葉は「結構です。車が来ますので」の一言だった。
俺は「そっか」と適当に返事をして彼女と別れる。

「あ、そう言えば……咲がアイスを買ってこいとか言ってたよな。コンビニで買うか」
 俺はそう思い、近くにあるコンビニに入る。
そこには俺が良く知る紺色のスーツを来た人がいた。

梅雨桜ツユザクラ先生!」
 俺が声を掛けると先生はビクリと身体を揺らし、顔だけを後ろに向けた。

「秋月か……ビビらせるな。一般生徒だと思っただろうが!」
 先生は溜息を吐きながら怒る。
手には缶ビールとさきいかを大事そうに持っている。

「俺も一応一般生徒なんですけど……」

「まぁ、お前は少し特殊だからな。今回のテストも学年トップだったそうだが、アレをやっぱり使ったのか?」

「はい、ってか俺の場合見たものを忘れられないんで使うも何も勉強したらそうなるんですけど」

「でもお前の場合は勉強したらじゃなくて、教材を見たらの言い間違いだろ?」

「まぁ、そうですね」

「だろうな。羨ましぃーよ。そんな能力があれば、私はこの世界を変えてやるというのに」

「それは誇大評価し過ぎですよ。俺の能力って所詮一度見たものを忘れられないと言った所ですし」

「でもそれならいいじゃん。授業前にパラパラっと小説を捲って、授業中に頭の中で読めばいいんだからさ」

「教師がそんな事を言ってもいいんですか?」

「良いんだよ。それに頭の中で考える行為はどこかのお偉いさんが言ってたけど制限することはできないからね」

「表現の自由ってやつですか?」

「まぁ、そんなもんだったかな」
 梅雨桜先生。下の名前は覚えていない。
俺がオタクだという事を知っている限りない一人。そして彼女もオタク。某アニメのイベントでばったり遭遇してからというのが始まり。それからはお互いの秘密を隠し合いながら学園生活を共にしている。
年齢は20代前半に見えるが26歳。
口癖は「30までに結婚できなかったら負け組よね」だ。そんな考えを持っている方が負け組と思ってしまう。結婚願望はかなりある。
それに顔もスタイルもかなり良い方だが、彼氏はいない。その理由として挙げられるのは徹底的な面食いだからというのと高学歴じゃないと嫌っていう所だろう。それと酒癖が悪いって所。先生の家に行くといつも缶ビールやおつまみ系のお菓子が散乱していて入れる隙間は無い。こんな人が妻になったら夫が可愛そうだ。

「それで秋月、ここに何のようだ?」

「普通にアイス買いに来ただけですけど」

「私の愛は要らないか?」

「あの、結構です。俺彼女できたんで」

「はぁ? 嘘つくなって。悪い冗談は寄せ。お前みたいなオタクに彼女などができる訳が無いだろう? 笑わせんなよ」

先生は笑いだした。
そんなにも俺に彼女ができる事がおかしかったのだろうか?

「いや、それなら良いですよ。そう思っておけばいいじゃないですか」
 俺はそっけなく言う。

「まぁまぁ、分かった。彼女ができたんだな。それで彼女はやっぱり小春か?」

「いや、ユカでは無いですよ。俺の彼女は夏影です」

「な、夏影?」
開いた口が塞がらないみたいに先生は笑いだした。

「そんなはずが無いだろ? 夏影は人と接する事が嫌いなんだぞ。それなのにオタクであるお前と付き合うなんて……そんな冗談」

「まぁ、冗談だと思うならそう思ってくださいね。非リアさん」
そう言って、雪見だいふくとジャイアントコーンとスーパーカップバニラを取り、レジに向かった。

ピピピとレジの音が景気良く鳴り、俺は千円札を取り出す。店員が待ち構えていた様にお釣りを渡され、俺はアイスが溶けない様に走って家に戻った。先生はまだおつまみを物色中だった。あの人、本当に結婚できるか心配である。


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