イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

3

「ただいまぁぁー」
 勢い良くドアが開き、腹が減って思考力が低下した俺にとっては嬉しい声が聞こえてきた。
その声は快活で明るく、周りの人間さえも明るくできそうな感じがしてくる。
ってかいつからお前の家になったんだよ!

「はぁ……疲れたー。今日は焼きそばでいいわよね? 今からすぐに作るから箸とかコップの準備よろしくね! ソラ」
 制服姿でご登場とはさぞかし忙しかったことだろう。一人で納得しつつ、彼女への日頃の感謝を思い出す。

「おう。よろしく頼む。あ、じゃあ今からすぐに咲を呼んでくるよ」

後、一応風華にも声を掛けてみるか。
多分だけど風華は一緒に食べる事は無いと思うけど。俺はそんなことを思いながら、階段を上り始める。その間にトントントントンという見事な包丁音が軽快に鳴り響き、流石だと思う。
 ちなみに紹介は遅れたけど彼女は俺の母親でも無ければ、おばさんでも無い。勿論、家政婦でも無い。彼女は俺の幼馴染だ。
名前は小春コハル結花ユカ
見た目は綺麗というよりも可愛い系。
軽くウェーブしている茶色の髪は今時の女子というのを感じさせる。
彼女は俺がオタクという事を知る数少ない存在だ。
普段はコンタクトとしているが、オフモードの時は赤の眼鏡を着用している。そのギャップに少しだけ惹かれている気がしない訳でも無い。
胸は普通の人に比べたらデカイがそこまでデカイという事は無い。普通の人よりも可愛くて、普通の人よりも勉強ができて、普通の人よりも社交性がある。
もしかしてユカってハイスペックじゃね?
と思う気持ちもあるが、彼女はそれだけ努力している。天才という言葉と馬鹿という言葉があるのならば、確実に彼女は天才である。
天才と言えど、努力の天才であるが。
彼女はテスト前になれば、毎日6時間は勉強をする。それは並大抵の人間ではできない。
だけど彼女は集中力が持つらしい。
それは素晴らしいことだ。

「咲、飯だぞ。すぐに来いよ」
咲の部屋に来たもののドアを開ける事を躊躇してしまい、トントンとノックをしてから言葉をかけた。

「はぁ〜い。分かった。今行くー」
そんな声が聞こえ、俺は左側の部屋にも声をかける。

「おーい。風華、飯だぞ。一緒に食べるか?」
声をかけてみたが返事は無い。
多分だけど、一緒に食べないという事だろう。

俺は一人納得しつつ、階段を降りた。
俺が妹達に声をかけている間にユカは焼きそばを炒めていた。仕事人は早い。

「後、8分ぐらいでできそう」
俺は慌てて箸とコップをテーブルに並べる。
焼きそばの香ばしい匂いが充満し、食欲が増してくる。本当に楽しみだ。

「おっはー! ユカさん! 今日は焼きそばだぁー。わぁ〜い」
 テンションがやけに高い咲。
何か良いことでもあったのだろうか?
もしかして男ができた?
まさかな。いや、まさかな。
ってか、俺も一応彼女……ができたんだよな。
あまり実感が沸かないけど。

「おっはー! 咲ちゃん、今日もテンション高いね? 何かあったの?」
フライパンを横に縦にポンポンと振る姿はレストランのシェフを連想してしまう。
それほど素晴らしいフライパン捌きだという事だろう。ってかフライパン捌きって何だよ。
それとどうでもいいけどIHはわざわざフライパンを面から離したら消えちゃうんだよね。
本当に困るものだ。

「別に何もないよぉ〜。ちょっと、ね」
俺の方を見てウインクをしてくる咲。
何を意味しているのか全く分からない。

「おぉ、それは嬉しい限りだ。お兄ちゃんと何かあったのかなぁ〜」
全てお見通しと言った感じのユカはニヤニヤとしている。何か俺だけ話についてこれて無いんだけど。

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