超越クラスの異世界談義が花を咲かせたようです! 〜愚かな国の異世界召喚術にて〜

篝火@カワウソ好き

2 ルートB

「ルートBに移行。雅、外の衛兵から内部の王加担者共を制圧」

「うっしゃ! 行ってくるぜッ!!」

 紫蒼の言ったルートBとは、それこそ第1回異世界談義の内容である。

 ――

 ・召喚時

 ルートA……王族が救世主として見る場合
 ルートB……王族が道具として見る場合

 今回においては王族は、隷属化を行使しようとしたので、紫蒼はルートBを選択した。

 ルートB、それは王族の壊滅、すなわち国家転覆。

 はっきり言って、彼等にとっては、ルートBの方が都合が良かった。

 ルートAの場合、彼等は王族に従うつもりであった。良心を持つものをないがしろにはしてはいけない。そう思う者達であるからだ。

 彼らの異世界での欲望を満たすには、ルートB、つまり相手に敵意を持ってもらった方がありがたかった。

 今では、目の前には王族《敵》と、それに付き従うもの多数がいる。

 そして、この王を見るに、他国との繋がりもなさそうに思えた。

 よって、目の前にいる害虫を踏み潰す。

 とどのつまり、国家乗取大作戦なわけだ。

 ――

 雅は、紫蒼の指示に従い、索敵を使い、城門のある方角へ向かって壁をぶち壊し、飛び降りていった。

「うへぇ〜、アイツ五階から飛び降りていったぞ……」

 煎杜は、壊れた壁から外を覗いて呆れた顔をした。

 その視線の先には、平然と着地をして仕事を全うしている雅の姿があった。

「紫蒼、私は?」

「時雨には、城内にいる兵の無力化を頼めるかな?」

「もち!」

 時雨は、紫蒼の指示に返事すると、彼女の声の力(こっちに来てから手にした魔法)で、大半の城内にいる敵兵を眠らせた。

「時雨も凄いわね……他はどうするの、紫蒼君?」

 理緒が時雨の力に感嘆しながら、紫蒼に指示を促す。

「そうだね、理緒は眠っている兵を中心に縛り上げていって貰えるかな? あと君なら、相手が起きてなくても敵意があるかわかるよね? その時は頼んだよ」

「なる程ね……了解よ」

 理緒は、紫蒼の指示を理解して頷いた。

「他の皆は、各自フォローを頼むよ」

 紫蒼は、みんなの力をある程度把握していたので、今回は雅、時雨、理緒に指示を出し、他の皆にはそのサポートを頼んだ。

「分かったわ!」

 希咲が返事をして大きく頷くと、残りの皆も首肯した。

 そして各々が動き出した時に、紫蒼はひとりを呼び出した。

「クウト、多分いや確実にこの城内に暗殺部隊がいるだろう。頼めるか?」

 いつもと違う口調で紫蒼はひとりの青年に声を掛けた。

 そのクウトと呼ばれた青年は、影縫空翔かげぬいそらとだった。

 何故、クウトと呼ばれているのか、その答えは日本にいた時にある。

『暗殺者』

 それが空翔のもう一つの顔であったのだ。

 表向きは、絶対的な守護者を務め、裏ではクウトとして重罪人共を暗殺の対象として動いていた。

 実際に、この顔を引き出すことが出来るのは紫蒼一人だけだった。

 空翔は、心酔している紫蒼に襲いかかる敵といった光景を目の前にしてから、裏の顔と呼べるこの暗殺者モードが構成されていった。

 空翔にとって、紫蒼の指示は絶対である。

 それこそ主従関係のように……

 始めは、紫蒼は空翔のこのモードを引き出すことに乗り気はなかった。

 しかし、何度もこの兆候をそばで目にして、歯を食いしばって自分に襲い掛かってくる敵を睨む空翔に折れて、技術を身に付けさせる事にした。

 そういった経緯で、空翔の中にクウトという顔が確立するようになったのだ。

 紫蒼は意味無い暗殺はさせない。自分たちの害になる者達だけを任せることにした。

 それが今である。敵《国》には、いくつか潜む影の存在が感じられた。恐らく暗部であるのだろう。気配を潜めることに長けている。

 そんな明らかにこちらを狙っているだろう部隊にクウトを向けた。

「了解した。主」

 クウトは、そう口にすると気配を消して、紫蒼の前から消えた。

 紫蒼は、なんとか見ることが出来たが、他の者から見たクウトの存在を感じることは出来なかったであろう。

 ——

 他の皆が側からいなくなった紫蒼は、敵将と思って向かってくる者だけを返り討ちしていた。

 外では、雅が動き回り、城内は時雨の声の力で敵は一人また一人と倒れて行く。

 倒れた敵兵達を理緒を先頭に捕縛して行く。

 謁見の間では、ハゲの王は、面白いくらいに青に顔を染めていた。その他の王族貴族もまた然り。

 そこに歩み寄るのは一人の青年、水無月紫蒼みなづきしきである。

 この空間にいる者は皆、紫蒼のオーラに腰を抜かす。

 何を言おうとも、すぐそばにいる王様のオーラ、はたまた威圧感を圧倒的に凌駕する者が一歩また一歩と徐々に近づいてくるのだから。

「ま、待ってくれ!! お主らは何を望むッ!! 金か? 沢山渡そう! 女または男か? 国の美男美女をお主らに譲ろう! それとも土地か? 広大な地を約束しよう!! それで許しても得ぬのか!?」

「この国は本当に腐ってるな……金? バカ言え、美男美女? いらねーよ、土地? アホか!! まず、そこのハゲ、お前何様だ? いやそんな人を含めた物に頼る者に話が通じるわけがないよな? ハハッ、謝るよ。そこの華美な椅子に座ったオーク、許す? 何を言ってんだ? そんなことするわけねーだろうが!! 終わりだよこの国は。どうせお前は国を他人に任せた愚鈍な豚の王だろ、じゃあな豚王」

 紫蒼は王の目の前まで行くと、敵意を向けた相手だけに発する口調でデブを罵倒し、途中で拾った敵兵の鉄剣を王の首に向け、一思いに横へと振った。

 その光景を見た王族貴族は、何もできないまま全員紫蒼の威圧に飲み込まれ気絶していった。

 この国の悪の根源を絶った紫蒼は、気絶した者どもを縛り上げるていった。、

「皆の方は終わったかな……? それはそうと……」

 紫蒼は、一人の少女に横目を向け視線を離すと、踵を返し皆のいる方へと戻った。

 ——

 そして作戦が始まって三十分足らず



 王族、貴族、兵を含む約五万以上の敵は、たった十人の異世界人によって捕縛させられ、暗殺部隊はクウトによって静かに排除されることで


 一つの王国は、その者等よって陥落したのだった……



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