魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~

八木山蒼

第27話 愚兄の目的と葛藤

 大陸の南端、古代魔科学の遺跡を改造した、イルオの研究所。
 俺、セイナ、ミーシャを前に――兄イルオはついにその思惑を語る。

「薄々わかっていただろうが……私がレイを魔科学兵器に改造した目的は軍事力や兵力を求めてのことではない」

 イルオは落ち着いた口調で語り始めた。その白衣の左胸には穴が開いており、体の大部分が人工物に置き換わっているこいつがどれだけ生きられるかは本人しか知らない。

「私の目的は、レイをサブリナ魔法女学園へと誘導することだった。少女の容姿と高い魔法能力を与え、動物に嫌われる性質を持たせれば、牧場を続けられなくなったレイは必ずサブリナ魔法女学園に至ると考えてのことだ。無論、セイナちゃんが帰省しているタイミングも狙っていたさ。路頭に迷ったレイを前にすれば、必ずサブリナ魔法女学園の特待生制度を思い出すと考えていた。君は優秀だからな」

 あいかわらずの得意顔のイルオ。俺にとってはある日突然イルオが現れて改造された感覚だったが、こいつにとっては全て計画の上だったらしい。

「それは想像ついてたよ。だが、その上で疑問が2つある。『なんでそこまでして俺をサブリナ魔法女学園に送り込んだ?』『なんでその思惑を俺にずっと隠していた?』」

 俺がさらに疑問をぶつけると、その疑問を予想していたのか兄貴はすぐに答えた。

「それらの疑問ついて語るにはまず、あの地下の封印について話さねばなるまい。あの封印こそが全ての発端だ」

 封印。いよいよ話が確信に近づく。サブリナ魔法女学園の地下に眠る謎の封印、その正体がわかるのだ。イルオの表情からも笑みが消えていた。 
 そしてついに、その口から真実が語られた。

「あの封印の中身、それは古代魔科学兵器。古代の戦争を敵味方見境ない殺戮という形で終結させ、現代において魔科学が失われている理由でもある、最悪の魔科学兵器……もしもその魔科学兵器が封印されていなければ、古代戦争のあった千五百年前に人類は滅亡していたと確実に言える。その名は魔神兵『ルイン』! 人間の英知の結晶にして愚かさの象徴だ」

 魔科学兵器――俺にとってすっかり日常となっていたはずのその言葉が改めてずしりとのしかかる。失われた技術、禁忌の法。それはまさに、世界を滅ぼす力だったのだ。
 魔神兵ルイン。それがサブリナ魔法女学園の地下に眠る封印の正体。

「暴走したルインは古代の人間に封印された。そしてその封印を維持するために封印へ魔力を供給し続ける施設が作られ……後に、その役目はサブリナ魔法女学園に受け継がれた。ここまではレイがラルプリムから聞いた通りの、事実だ」
「学園長が嘘を言っていたわけじゃないのか?」
「うむ。あの女も一枚岩の悪ではない……その話は後でするとしよう。サブリナ魔法女学園に集められた学生たちの魔力により、封印は300年もの間維持され続けた。だがな、その封印は元々完璧じゃあなかったんだ」

 兄貴の声にはだんだんと真剣味が増していく。それで気付いた、こいつが笑い飛ばしているのは、自分に関することだけなのだと。
 封印は――世界をも巻き込む、災厄なのだ。

「封印はいずれ……必ず解けるものだった。そのカウントダウンの速度を遅くすることはできても止めることはできなかったのだよ。遠い未来に必ず来る解放の時……それが、私たちの時代に来たというだけだ」

 断言しよう、とイルオは一呼吸置く。そして強い語調で言い切った。

「あの封印が解けた時、世界は滅ぶ」

 真っ直ぐに目を向け、恐れもためらいもない断言は、これまで兄が幾度となく繰り返してきた戯言や妄言とはまるで違った重みを持って俺らに響いた。世界が滅ぶ、というあまりにも非現実的な予言すら、まるで確定した現実のように俺には思えた。
 だが頭では理解できていても心では現実を受け入れきれず、俺は反論を口にする。

「滅ぶって……待てよ、今、世界にはいろんな魔術師がいるだろ。その人たちの力を借りれば……いや、そもそも千五百年前に封印できたんなら、不完全とはいえ今だって」
「準備をしてたなら、な」

 希望を込めた反論はあっさりと突き崩された。

「あの封印について知る魔術師は、学園の関係者以外いない。なぜかわかるか? あの学園長が隠蔽していたからだよ、混乱を避けるためと嘯いてな。しかもあの女、おそらくだが封印を維持すると嘘をつき、魔力を注ぎ逆に中の『ルイン』を強化していたようだ。現代のどんな魔術師だろうとルインには敵わんだろう……奴には『死の光』がある」

 死の光? イルオが呟いた意味深な言葉を繰り返す。イルオは頷き、ふとセイナを見た。

「セイナちゃん、私が学園にばらまいた毒があっただろう。あの研究は進んだか。解毒法は解明できたか」
「え、あ、いえ……先生方も協力してるんですけど、まだ……」
「そうか……医療魔法界でも名高いマグー・ニューリーブスとパマディーテ・クロノスがいればあるいはと思ったが、やはり無理か」

 毒、とは、イルオがオーリィという少女兵器を使ってサブリナ魔法女学園にばらまいた毒のことだ。学園の全生徒はその毒にひどく苦しめられた。学園に対する嫌がらせのようにしか思えなかったあの行為も、やはり意味があったのだ。

「あの毒さえなんとかなればルインの脅威も薄れる……そう思い、私は荒療治で学園に対し毒の恐ろしさを知らしめ、その解決法を探させたんだ。だがそれでも無理ならば仕方がないな」
「兄貴、『死の光』っていうのは、その毒のことなのか」

 そうだ、とイルオは頷いた。

「魔神兵ルインの動力装置は特殊でな、説明は省くがとある莫大なエネルギーを体に満たし動いている。そして焚き木を燃やすと煙が立つように、ルインがそのエネルギーを消費する際には残滓が出る……それが『死の光』。いわばルインは存在するだけで毒をばらまく死神なわけだ。ルインによって人間が滅ぼされる最たる理由もそこにある。光による毒は防ぎようがない、光魔法によって一時的にかわせても、ルインは動く限り毒を発し続け、そのエネルギーは尽きることがない。どんな魔術師だろうとやがて毒に侵され、必ず死に至る」

 そしてイルオは『死の光』について、衝撃的な事実を俺たちに突きつけた。

「私が学園にまいた『死の光』は、本物を10万倍に薄めたものだ。もしも本物を受けたならば激しい頭痛とめまい、嘔吐に襲われ……それは永遠に終わらない。死ぬまでな」

 光による致死の毒。薄めたものですら簡単に学園全体を行動不能に陥れるほどの毒性を持ち――『ルイン』はその10万倍の強さの毒を、永遠に放ち続ける。俺は戦慄した。

「改めて言おう、ルインが目覚めた時、この世は破滅へと導かれる。もっとも『死の光』が侵すのは人間だけだから、人の作った兵器によって人が自滅するだけかな」
「人間だけを……ルインは、殺すのか」
「当然だろう、戦争のため、人間を殺すために作られた兵器なのだからな」

 冷酷に現実を告げるイルオ。もう諦めているのか、世界の終末を語るその声は落ち着いていて、表情も冷静そのものだった。
 だが俺らはいきなりそんなことを伝えられて冷静でいられるはずはなかった。むしろ俺は簡単に世界を見捨てるイルオに対し怒りすら抱いていた。

「なにを他人事みたいに言ってんだよ! 世界が滅ぶんだぞ、それでいいのかよ!」

 俺が怒鳴り立てると、イルオは再び笑った。不気味に、そして悲し気に。

「私はもう済ませたんだよ、弟よ。世界の滅亡を知り、嘆き、もがき、苦しみ……そしてなんとか術はないかと探し続けた。だがどうあがいても封印はやがて解ける。ルインは解放され、『死の光』が世界に放たれる……世界が滅ぶことはもはや、運命なんだ。私はその点については諦めている。諦めたらこそ、この計画に至ったんだ」
「……どういう意味だ」
「フッハッハ! 教えてやろう、レイよ、我が弟よ!」

 兄貴はまた笑って俺を見る。今度は楽し気に、俺だけを真っ直ぐに見て、笑っていた。

「私の最大にして唯一の目的! それはレイ、お前の幸福だった!」

 俺の、幸福? 思わぬ発言に俺は面食らった。今まで話したこととそれがいったい何の関係があるのか、問いただそうとする前に兄貴は続けた。

「レイ……魔科学兵器となったお前は『死の光』に侵されることはない、そのためにお前を改造したんだ。そしてサブリナ魔法女学園に送り込んだ理由は3つある、1つはお前ほどの魔力の持ち主を学園に留まらせることで封印解放を遅らせること。2つ目はお前に魔法を学ばせ、魔科学兵器としてより強力に育てること。そして3つ目、最大の目的は……」

 イルオはそっと、セイナを指差した。

「お前がもっとも慕う、幼馴染。世界が滅ぶ前に、彼女と、学友たちと……幸せな学園生活を送ってもらうこと。それが、私の目的だった」

 セイナが息を呑む。それとは対照的に、兄貴はにこりと穏やかに、満足そうに笑っていた。

「レイよ。学園での生活は、楽しかったか。幸せだったか。牧場で独りきりの生活は辛かっただろう。ほんの短い期間ではあったが……お前が幸福に生きることができたのならば、私はそれでいいのだ」

 兄貴はそう言って笑っていた。本当に満足げに、静かに。
 俺は思わず叫んでいた。

「バカヤロォッ!」

 そうだ、このバカ兄貴。なんであんたは昔からそうなんだ、優しいくせに、賢いくせに……不器用で、ズレていて。

「もっと……もっと他に、やれることがあっただろ! 俺なんかのために、世界を諦めたのかよ。それに、『独りきりで寂しかっただろう』なんてなんでお前が言えるんだよ! 5年前、俺をほっぽって家を出てったお前が! なんで、なんで……なんで!」

 俺は拳を握りしめ、怒りと悲しみを込め、言葉を兄貴に向けて叩きつけていた。
 兄貴はすっと笑みを消す。そしてふと、俺らに背を向けた

「……私がなぜ、魔神兵ルインの存在を知ったか、教えよう」

 顔を隠し語るその声は感情を押し殺していることがわかった。そのただならぬ雰囲気に俺も思わず口を紡ぐ。
 兄貴はそのまま少し止まった。だがやがて振り返ると、感情を排した冷たい瞳のままに言った。

「私が、世界を滅ぼそうと思っていたからだ。世界を憎み、人間を呪ってな……そのための方法として、ルインに辿り着いたんだ」
「なっ……」
「理由は勝手に想像してくれ。人が人を憎む理由などいくらでもあるだろう。それこそ昔の人間が、戦争の末にルインを生み出したようにな」

 兄貴はふっ、と笑う。今度はさっき学園長が見せたものに似た邪悪な笑み。己の欲望がいっぱいに現れた醜い笑みで、俺に迫った。

「レイ。私はお前も殺そうとしていたんだぞ。4年前、私が家を出て1年後……全人類抹殺を企てていた私は、私自身の痕跡を断つために、お前を殺しに戻ってきていたんだ」
「あ、兄貴が……俺を、殺しに……?」
「深夜の襲撃だ、覚えていまい。あの夜、人知れず帰郷した私は、懐かしき我が家の戸をそっと開け、眠りこけるお前に忍び寄り……全人類を滅ぼすその第一歩として、お前の首に刃を突き立てたんだ……!」

 兄貴はその時の状況を再現するかのように指を俺に突き立て、それを首元に持っていく。邪な笑みは本物だった。

「だが」

 そう言うと兄貴はすっと指を引っ込める。その笑みは邪悪なものから穏やかに変わっていた。

「その時、レイは目を覚ましたんだ。もっとも寝ぼけていて、夢か現かもわかっていなかったに違いない。それでも私を見て、私に気付き……レイは笑ったんだ。そして言った、『おかえり兄貴、どこ行ってたんだよ』『かえってきてくれたんだ、ありがとう』……と。わかるか? 私は今まさに実の弟を、己の勝手な憎悪のために殺そうとしていたというのに……レイは、自身を捨てて姿を消した愚かな兄を、あろうことか笑顔で迎え入れたのだ!」

 俺はそんなことがあったとはまるで覚えていなかったので心底驚いた。4年前ならなんとか牧場経営が軌道に乗り始めた時期だ、その頃は毎日が忙しく、夜はそれこそ死んだように眠りこけていたからだ。
 兄の穏やかな笑みは、苦悶に歪んでいた。

「私は己を恥じた! 逃げるようにその場を立ち去り、そして悔いた! 自分は何をしていたのだろうと、ルインという人の愚かさを知ってなお、その中に自らも堕ちようとしたいたのだと! そうだ……私は、レイに、救われたのだ……」

 苦悶の表情が俺を見てほっと和らぐ。兄貴が俺を殺そうとしたいたこと、そして俺がそれを止めていたこと……怒濤のように突きつけられ、俺は言葉を失っていた。

「その時から私の目的は180度変わった。レイを救う、レイのために世界を救う。そのために魔科学の研究を進め、ルインを止める方法を探し続けた……だが……」

 兄貴の表情がまた変わった。沈痛に、悔し気に唇を噛む。

「私は非力で……そして愚かだった。結局、救うことができたのはレイだけ……いやそのレイにすらも、孤独という未来を押し付けるだけに終わった……」
「兄貴……」

 俺はその時知った。秘密を隠していた時、兄貴がずっと笑っていた理由。さも愉快そうに、阿呆のように笑っていた理由。
 あれは自嘲だったのだ。兄貴は俺を殺そうとしたこと、そして世界を救おうとして救えなかったことを恥じ、自分で自分を笑っていたのだ。

「許してくれレイ……私はどこまでも……」
「あ……兄貴が、謝ることじゃない。兄貴はただ俺のためを思ってやってくれたんだろ? なら……」
「違うんだ、レイ」

 兄貴はいきなり俺の肩を掴む。驚く俺の前に顔を近づける兄貴。
 兄貴は、泣いていた。

「私は結局……人を、信じきれなかったんだ。お前に救われ、自分の愚かさを知ったはずだった。だがそれでも私は心の奥で人を憎んでいた。世界を救おうとしたなどというのは詭弁だ、実際には弟を救うことしか考えていなかった、それしかできなかった。私はもう、人を信じれないんだ……レイ、お前以外はな」
「そんな……兄貴……」
「フッハハ、これで私の行動理由もわかっただろう。私は最初からレイ『だけ』のために動いてたんだ」

 兄貴また笑った。それは明らかに自嘲だった。
 さらにその時、兄貴は隣にいた、それまでずっと黙って兄貴の話を聞いていたミーシャに首を向けた。

「ミシモフ。お前を作り育てた理由を教えてやろう。魔科学兵器の思考シミュレートのためだ、ルインのように人に作られた魔科学兵器がどういった思考プロセスを経て人に抗うのか、それを知るためだけにお前に意思を与えたんだよ。あるいは世界が滅んだ後、レイの話し相手くらいにはなるかもな……ハハハッ」

 兄貴をマスターと慕い、そのためだけに必死になって俺をここまで連れてきたミーシャにかける言葉としては、それはあまりにも残酷だった。兄貴は間違いなくそう言ってミーシャに嫌われ、己を傷つけるために言っているのだ。それは互いを傷つけるだけのあまりに痛ましい告白だった。
 だが。

「マスター。ならば、お聞きしましょう」

 ミーシャは――いや、ミシモフはまっすぐにイルオを見ていた。

「なぜレイに、ルインのことを黙っていたのですか。お答えください」

 ミシモフはいつもの無表情で問いかける。だが不思議とその瞳には、かつてない強い意志が宿っているように見えた。
 その行動が予想外だったのかイルオは動揺を見せていた。

「それは……レイに、余計な心配はせずに、学園生活を送ってもらいたかったからだ。それだけだよ」
「いいえ。それならば、秘密にすることで逆に、レイはあなたへの疑問を抱き続けることになりました。それはあなたもわかっていたはずです。マスター、どうか正直にお答えください。なぜ黙っていたのですか。ルインのこと……いえ、世界が滅ぶということを」

 ミシモフは真っ直ぐ、ひたすらに真っ直ぐにその瞳をイルオへ向けていた。決別され、嫌われようとされたにも関わらずに、自身のマスターを信じて見つめていた。
 イルオがその瞳に何かを思ったのかもしれない。沈黙の後、諦め気味に、呟いた。

「背負わせたくなかった……」

 その瞳にまた涙が溢れていた。

「私が世界を救おうとしていた時……私は、孤独だった。誰も信じられずに、かつ世界を救うため、たった独り研究を続けていた。辛かった。怖かった。もしも世界を、レイを救えなかったらと思うと怖くて……誰にも打ち明けられずに悩んでいた。孤独は、本当に辛かった」

 淡々と語る兄貴の瞳から涙がぼろぼろとこぼれていく。感情を持たないはずのミシモフが、兄貴の感情を呼び起こしたのだ。

「レイが……世界が滅ぶなんて知ったら、きっと同じことになる。私のように孤独ではないかもしれない、だが世界が滅ぶなんて話を他人はそう簡単には信じない。悩み、苦しむことになる。そしてやがて、世界が救えないと知り……私と同じ絶望を味わう。そんな苦しみを、背負わせたくなかった。だからずっと、秘密にしていたんだ……」

 兄の言葉を聞き、俺もまた涙を拭っていた。
 そしてミシモフが今一度、兄貴に問いかける。

「マスター。私にはそれを教えてもよかったはずです。レイの観察、そしてルインの思考シミュレートのためには、世界の滅亡について教えるのが自然だったはず。それをしなかったのは……」
「ああ、そうだよ」

 観念して、ついに兄貴は口にした。

「同じだ、ミシモフ。お前は私の娘だ。お前にだって、あんな孤独を、苦しみを、背負わせるわけないだろう!」

 涙と共に言い放つ言葉。それがイルオの本心だったのだ。
 人を信じ切れず、絶望し――それでも本当は他人を信じたかった。世界を救う使命を負い、その重さに潰されそうになりながら戦い、その願いは届かぬと知り絶望し、せめて弟だけでも救えればいいと己を納得させていた。そんな悲しい男がそこにいた。

「……兄貴。悪いけど、俺はやっぱり、世界を諦めるわけにはいかない」

 俺は改めて兄貴に語り掛ける。兄貴はうなだれたまま聞いていた。

「俺は、ルインと戦う。『死の光』が効かない俺だけが世界を救えるんだろ。勝ち目は薄いかもしれないけど……俺は兄貴の意思を継いで戦うよ。魔科学兵器にした俺の、異常な強さはそのためのものなんだろ?」

 兄貴がハッと顔を上げる。俺は涙で濡れたその顔を見て、笑ってやった。

「だって俺は兄貴が作った、最強の魔兵器少女なんだからさ!」

 兄貴は俺の笑顔を見て――またいつもの笑みを浮かべた。ただし今度は自嘲ではない、希望の笑みを。

「フッフッフ……ハッハッハ! それでこそ私の弟にして最高の魔科学兵器よ! よかろう! 魔神兵ルインを下し、世界を救おうではないか!」
「現金な奴だなまったく。さっきまで泣いていたくせに」
「なに、それはそれ、これはこれ……ぐっ!?」

 その時。いきなり兄貴は胸を抑えると膝をついて呻いた。

「あ、兄貴!?」
「ぐうっ……や、やはり私にはもう、限界が近いようだ。ただでさえ不完全な生命維持装置が破壊されているからな」
「だ、だが兄貴、さっき1年の寿命が1か月になったって……」
「ああ、あれもお前に責任を負わせたくなくて嘘をついたんだ。実際にはひとつずれている、1か月が1日だ……ぐうっ!」

 どこまでもこの男は。苦しみに呻く兄に俺はどうすることもできずにもどかしく思う。だが兄貴は苦しみつつも顔を上げ、笑った。

「なに気にするな、逆に言えば1日は必ずもつということだ。それに私は死など怖くない。レイ、お前がくれた希望があればな」
「兄貴……」
「それよりも封印の方の時間がない。サブリナ魔法女学園に向かうぞ。そうだミシモフ、あの、秘密兵器を持ってきてくれ」
「はい、マスター。すぐに」

 ミシモフが研究所の奥に駆けていく。秘密兵器? と俺が聞き返すと、イルオはニヤリと悪戯っぽく笑った。

「ルインへの対抗兵器を作っていたんだ。それを持ってルインに特攻すれば、私の無駄な命を少しでもレイのために使えると思ってな……」
「なんだよ、結局兄貴も諦めてなかったんじゃないか。ルインと戦うことをさ」
「む? なるほど……たしかにな。私もほとほと呆れた人間だ、自分のことすらわかっていない。ハッハハッ」
「ほんとだよ、まったく」

 俺は苦しそうな兄貴の肩を支え、セイナも反対側を持った。どこまでもバカで、不器用な、俺の兄貴だ。
 向かうサブリナ魔法女学園。そこにかつてないほどの災厄が待っている。
 兄貴は俺の為に――いや、全人類の為に世界を救おうとしてきた。
 だったら今度は俺が世界を救うんだ。兄貴の為に、そして全ての人間のために。

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