魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~
第24話 百合の花の咲く季節
それはある日、俺がいつものようにセイナやシルフィ、リルリーン、ミーシャと寮から校舎に向かっていた時だった。
俺らが校舎に入ろうとした時、柱の陰に隠れていたポニーテールの生徒が飛び出てきて、俺の前に立ち塞がった。そして。
「あの、レイさん! これ、読んでくださいっ!」
と、頭を下げながら俺に何かを差し出した。俺は「え、ああ」と動揺しつつも思わず受け取る。それを渡すとその生徒は顔を赤くしながら逃げるように去っていった。
「あ!」
「ちょ、ちょっとレイレイ!」
「それって……」
セイナ、リルリーン、シルフィが驚いて俺が受け取ったものを見ている。俺もそのときようやく冷静に手に取ったものを見つめる。そして思わず、
「は?」
と口に出した。
それは、薄桃色の便箋を綺麗にたたみ、『愛しのレイ様へ』と綴られた――ラブレターだった。
教室にて。
「はあああぁぁ~……」
このクラスの人間ですらないセイナが、なぜか今日は俺の前の席に居座り、これまたなぜか絶望的な表情をしてため息をついていた。もちろんその原因はあのラブレターである。
「ついにこの時が来たかーって感じ……いつかは来ると思ってたけどなあ」
「この時って……ラブレターが来る時ってことか?」
「つまりねえ、レイちゃん」
シルフィは楽しそうににこにこしている。結構デバガメなところのある子だ、面白そうなことになったと楽しんでいるのだろう。
「この学園って、先生までみんな女の人の完全女子校でしょ? しかも全寮制だから、休日に外出したりしない限り毎日毎日ずーっと、女の子とばかり顔を合わせることになるわけ。しかも思春期の多感な女子が。するとね……」
くすっ、とシルフィはかわいげに、かつ悪どく笑った。
「女の子同士で恋愛するようになっちゃうのよね~」
「百合って言うんだってな!」
面白がるシルフィに無邪気なリルリーンが乗っかる。田舎の牧場しか知らない俺としては驚きではあったが『そんなもんか』くらいの印象だったが、セイナはまた深く深くため息をついていた。
「特にね、男の子みたいな子が人気出るんだ……レイなんてしゃべり方も仕草もまんま男子だし、見た目も美少女だからいつかはそういう目で見られると思ってたんだけど……ついに来たかあ」
まあ俺は中身が男なのだから男みたいなのは当然ではある。顔も、兄貴が『作った』ものだから我ながら絵に描いたような美少女顔だ。たしかに条件は揃っている。
「レイちゃん見た目かわいいのに男らしいから、そのギャップがいいのかもね~。昔はリルちゃんにもラブレター来たりしたわあ。でもリルちゃんは私のものだから!」
「私はそういうのよくわかんないけど、シルフィがそういうからそうなんだろ。まあモテて悪いことじゃないってレイレイ!」
「まあ、な……」
俺としては当然ながら女の子にモテるというのは悪い気分ではない。魔科学兵器の体あってこそというのは複雑ではあるが、『それはそれこれはこれ』というのが悲しい男のサガである。
俺は今一度もらったラブレターを広げてみる。そこには短いながらも俺の容姿を「かわいい」を複数回用いて褒める言葉と、特待生であることの賞賛、そして最後に、先日の毒物事件を解決したくれたとして感謝が述べられていた。
「例の事件の時、屋上でオーリィを殴り飛ばしてるレイを見たって子がいてね、今や学園中で知れ渡ってるのよ。どうやらそれが決定的だったみたいねえ」
「学園中が苦しめられた事件を解決した特待生! モテるわけだねぇ~」
シルフィとリルリーンは実に楽しそうである。対照的にセイナはぶすっとしていた。
「なんでレイまで百合色に……レイ、わかってるよね。本気にしちゃダメよ、こんなの面白半分で恋愛ごっこしたいってだけなんだから」
「ん……いや、あまり無下にするのも悪くないか?」
「レイ!」
「わ、わかってるよ」
セイナは俺がモテることについて否定的である。俺とてセイナについては憎からず思っている、その理由はわかっている。だがやはり男は愚かな生き物で、女にモテるのを喜ばしく思うのを止められはしないのだった。
「ま、まあ、とりあえず授業の準備しないとな。テストも近いし……」
俺は話題を変えつつ机の中に道具を手を伸ばす。だがその時、すでに入れられていた何かに指が触れた。しかも複数ある。
取り出してみるとそれは――3通の、新たなラブレターだった。
「おお~」
「いやあモテる女はツラいねえレイレイ!」
「……もお……」
はやしたてるシルフィとリルリーン、睨むセイナ。俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで微妙な笑みでごまかすのだった。
なおちなみにミーシャはというと、現状がまるで理解できないらしく終始首をかしげていた。
先駆者が出て吹っ切れたのか、その日を境に、俺に対する告白は一気に出始めた。ラブレターもあればプレゼントもあり、直接告白してくる者もいた。
もっともセイナが言った通りその大半は遊び半分面白半分、いわば「すごーいかっこいー」くらいのノリであり本気で告白しているわけではなかった。愛情ではなく敬意や好意である。
だがそういったものに交じって――明らかに、他者とは熱量の違う子も何人かいた。本気で俺を恋愛対象として見ているのだ。
さすがにこれには俺も焦る。なにせ今の俺の見た目は本来のものじゃないのだ、本当の俺は美少女じゃないばかりか女子ですらない。彼女らを騙すわけにもいかないのでそういった子らには逐一断るのだが、中にはそれで引き下がらず、俺も魔科学兵器であることを隠して曖昧に断るので、諦めきれない子もいるようなのだ。
――もちろん俺も嫌ではない。嫌ではないのだが、騙しているようで気が引けるのだ。あとセイナの視線も少し怖い。
だがそんなある日のことだった。
放課後の教室。俺は渡されたチラシをセイナと共に見て、大いに驚いた。
「ファンクラブ!?」
はい、とチラシを渡した主、ダイヤモンド寮のユニコが頷いた。ちなみに彼女、俺と面識がある癖に最近は他の生徒に交じって俺へラブコールを送っている。
チラシにはレイ・ヴィーンのファンクラブ設立を知らせる文句が綴られていた。
「ここのとこ、レイ様に好意を持つ生徒が増加しており、レイ様もお困りかと思いまして。そこでファンクラブを設立することで、混沌とした現状をまとめ、収束に導こうと考えたのですわ。もうほとんどメンバーも決まっているのですが、やはりご本人に許可を頂いた方がよろしいと思いまして」
「メンバーって……たとえば?」
「会長はもちろんわたくしです。あとは副会長にシルリア様とセイナ様ですね。あとは一般会員が決まっているものだけで20人ですわ」
「……セイナ?」
俺はセイナを睨む。セイナは「てへっ」といかにもあざとく頭を叩いた。
「私もレイのファンには違いないし? それに近くであの人たちを監視するのが一番かなーって」
「お前なあ……てかシルリアまで何やってんだ」
「皆、レイ様を慕っているのですわ。どうですかレイ様、ファンクラブ設立、認めていただけますか?」
「ん……ま、まあ、俺も騒がれすぎて困ってたし……別に、断ることもないしな……正直恥ずかしいけど」
「では本決まりということで! これから忙しくなりますわあ、オーッホッホッホーッ!」
俺が承諾するやいなやユニコはいつもの高笑いをして早々に去っていった。どうもここ最近、俺は振り回されてばかりである。
「あ、レイ。私もファンクラブの取り決めとかいろいろあるから、今日はこれで。またねー」
セイナもその後を追って去っていく。俺はなんだか疲れ切ってしまい、ばいばいと手を振って見送った。
その時、ずっと後ろで黙っていたミーシャが口を開く。
「レイ。嬉しくないのですか」
「ん、嬉しいは嬉しいよ。人気者になるのは嬉しい。だけどさ、俺が褒められれば褒められるほど……」
俺はミーシャと顔を突き合わせた。
「あんのクソ兄貴が褒められてるみたいで、複雑なんだよ」
「……お気持ち、お察しいたします。マスターは気持ち悪いですね」
「まさしく」
弟をかわいい妹にし、自分に都合のいい美少女兵器をこしらえた兄。
俺はどれだけはやし立てられても、どこかで兄が勝ち誇る顔がちらつき、いまいち喜べないのだった。
俺らが校舎に入ろうとした時、柱の陰に隠れていたポニーテールの生徒が飛び出てきて、俺の前に立ち塞がった。そして。
「あの、レイさん! これ、読んでくださいっ!」
と、頭を下げながら俺に何かを差し出した。俺は「え、ああ」と動揺しつつも思わず受け取る。それを渡すとその生徒は顔を赤くしながら逃げるように去っていった。
「あ!」
「ちょ、ちょっとレイレイ!」
「それって……」
セイナ、リルリーン、シルフィが驚いて俺が受け取ったものを見ている。俺もそのときようやく冷静に手に取ったものを見つめる。そして思わず、
「は?」
と口に出した。
それは、薄桃色の便箋を綺麗にたたみ、『愛しのレイ様へ』と綴られた――ラブレターだった。
教室にて。
「はあああぁぁ~……」
このクラスの人間ですらないセイナが、なぜか今日は俺の前の席に居座り、これまたなぜか絶望的な表情をしてため息をついていた。もちろんその原因はあのラブレターである。
「ついにこの時が来たかーって感じ……いつかは来ると思ってたけどなあ」
「この時って……ラブレターが来る時ってことか?」
「つまりねえ、レイちゃん」
シルフィは楽しそうににこにこしている。結構デバガメなところのある子だ、面白そうなことになったと楽しんでいるのだろう。
「この学園って、先生までみんな女の人の完全女子校でしょ? しかも全寮制だから、休日に外出したりしない限り毎日毎日ずーっと、女の子とばかり顔を合わせることになるわけ。しかも思春期の多感な女子が。するとね……」
くすっ、とシルフィはかわいげに、かつ悪どく笑った。
「女の子同士で恋愛するようになっちゃうのよね~」
「百合って言うんだってな!」
面白がるシルフィに無邪気なリルリーンが乗っかる。田舎の牧場しか知らない俺としては驚きではあったが『そんなもんか』くらいの印象だったが、セイナはまた深く深くため息をついていた。
「特にね、男の子みたいな子が人気出るんだ……レイなんてしゃべり方も仕草もまんま男子だし、見た目も美少女だからいつかはそういう目で見られると思ってたんだけど……ついに来たかあ」
まあ俺は中身が男なのだから男みたいなのは当然ではある。顔も、兄貴が『作った』ものだから我ながら絵に描いたような美少女顔だ。たしかに条件は揃っている。
「レイちゃん見た目かわいいのに男らしいから、そのギャップがいいのかもね~。昔はリルちゃんにもラブレター来たりしたわあ。でもリルちゃんは私のものだから!」
「私はそういうのよくわかんないけど、シルフィがそういうからそうなんだろ。まあモテて悪いことじゃないってレイレイ!」
「まあ、な……」
俺としては当然ながら女の子にモテるというのは悪い気分ではない。魔科学兵器の体あってこそというのは複雑ではあるが、『それはそれこれはこれ』というのが悲しい男のサガである。
俺は今一度もらったラブレターを広げてみる。そこには短いながらも俺の容姿を「かわいい」を複数回用いて褒める言葉と、特待生であることの賞賛、そして最後に、先日の毒物事件を解決したくれたとして感謝が述べられていた。
「例の事件の時、屋上でオーリィを殴り飛ばしてるレイを見たって子がいてね、今や学園中で知れ渡ってるのよ。どうやらそれが決定的だったみたいねえ」
「学園中が苦しめられた事件を解決した特待生! モテるわけだねぇ~」
シルフィとリルリーンは実に楽しそうである。対照的にセイナはぶすっとしていた。
「なんでレイまで百合色に……レイ、わかってるよね。本気にしちゃダメよ、こんなの面白半分で恋愛ごっこしたいってだけなんだから」
「ん……いや、あまり無下にするのも悪くないか?」
「レイ!」
「わ、わかってるよ」
セイナは俺がモテることについて否定的である。俺とてセイナについては憎からず思っている、その理由はわかっている。だがやはり男は愚かな生き物で、女にモテるのを喜ばしく思うのを止められはしないのだった。
「ま、まあ、とりあえず授業の準備しないとな。テストも近いし……」
俺は話題を変えつつ机の中に道具を手を伸ばす。だがその時、すでに入れられていた何かに指が触れた。しかも複数ある。
取り出してみるとそれは――3通の、新たなラブレターだった。
「おお~」
「いやあモテる女はツラいねえレイレイ!」
「……もお……」
はやしたてるシルフィとリルリーン、睨むセイナ。俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで微妙な笑みでごまかすのだった。
なおちなみにミーシャはというと、現状がまるで理解できないらしく終始首をかしげていた。
先駆者が出て吹っ切れたのか、その日を境に、俺に対する告白は一気に出始めた。ラブレターもあればプレゼントもあり、直接告白してくる者もいた。
もっともセイナが言った通りその大半は遊び半分面白半分、いわば「すごーいかっこいー」くらいのノリであり本気で告白しているわけではなかった。愛情ではなく敬意や好意である。
だがそういったものに交じって――明らかに、他者とは熱量の違う子も何人かいた。本気で俺を恋愛対象として見ているのだ。
さすがにこれには俺も焦る。なにせ今の俺の見た目は本来のものじゃないのだ、本当の俺は美少女じゃないばかりか女子ですらない。彼女らを騙すわけにもいかないのでそういった子らには逐一断るのだが、中にはそれで引き下がらず、俺も魔科学兵器であることを隠して曖昧に断るので、諦めきれない子もいるようなのだ。
――もちろん俺も嫌ではない。嫌ではないのだが、騙しているようで気が引けるのだ。あとセイナの視線も少し怖い。
だがそんなある日のことだった。
放課後の教室。俺は渡されたチラシをセイナと共に見て、大いに驚いた。
「ファンクラブ!?」
はい、とチラシを渡した主、ダイヤモンド寮のユニコが頷いた。ちなみに彼女、俺と面識がある癖に最近は他の生徒に交じって俺へラブコールを送っている。
チラシにはレイ・ヴィーンのファンクラブ設立を知らせる文句が綴られていた。
「ここのとこ、レイ様に好意を持つ生徒が増加しており、レイ様もお困りかと思いまして。そこでファンクラブを設立することで、混沌とした現状をまとめ、収束に導こうと考えたのですわ。もうほとんどメンバーも決まっているのですが、やはりご本人に許可を頂いた方がよろしいと思いまして」
「メンバーって……たとえば?」
「会長はもちろんわたくしです。あとは副会長にシルリア様とセイナ様ですね。あとは一般会員が決まっているものだけで20人ですわ」
「……セイナ?」
俺はセイナを睨む。セイナは「てへっ」といかにもあざとく頭を叩いた。
「私もレイのファンには違いないし? それに近くであの人たちを監視するのが一番かなーって」
「お前なあ……てかシルリアまで何やってんだ」
「皆、レイ様を慕っているのですわ。どうですかレイ様、ファンクラブ設立、認めていただけますか?」
「ん……ま、まあ、俺も騒がれすぎて困ってたし……別に、断ることもないしな……正直恥ずかしいけど」
「では本決まりということで! これから忙しくなりますわあ、オーッホッホッホーッ!」
俺が承諾するやいなやユニコはいつもの高笑いをして早々に去っていった。どうもここ最近、俺は振り回されてばかりである。
「あ、レイ。私もファンクラブの取り決めとかいろいろあるから、今日はこれで。またねー」
セイナもその後を追って去っていく。俺はなんだか疲れ切ってしまい、ばいばいと手を振って見送った。
その時、ずっと後ろで黙っていたミーシャが口を開く。
「レイ。嬉しくないのですか」
「ん、嬉しいは嬉しいよ。人気者になるのは嬉しい。だけどさ、俺が褒められれば褒められるほど……」
俺はミーシャと顔を突き合わせた。
「あんのクソ兄貴が褒められてるみたいで、複雑なんだよ」
「……お気持ち、お察しいたします。マスターは気持ち悪いですね」
「まさしく」
弟をかわいい妹にし、自分に都合のいい美少女兵器をこしらえた兄。
俺はどれだけはやし立てられても、どこかで兄が勝ち誇る顔がちらつき、いまいち喜べないのだった。
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