魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~
第11話 オニキス寮、その正体……?
アクアマリン寮の自室。
学園での初日を終えた俺はふかふかのベッドの上に寝転がり、今日のことを振り返っていた。
授業はまあなんとかこなせそうだ。優等生のシルリアが勉強を見てくれると言ってくれたし、リルリーンやシルフィといった隣席たちも補助してくれる。実技系はもはや言うまでもない。学園の雰囲気もいいし、これからの学園生活、楽しくやっていけそうだ。
ただ俺が少し気になるのはオニキス寮のことだった。昨日今日と俺の前に現れ(今日の方は俺が首を突っ込んだのだが)怪しげな示唆を残していくメアとミアの姉妹。俺は彼女らに完全に目をつけられてしまっているはずだ。今のところ彼女らが何をしに来ても俺は撃退できているが……第5の寮オニキス自体が俺を狙ってきた場合、どうなるかはわからない。魔科学兵器の体の限界はまだ見えていないが、不安は不安だった。
「なにやってんだろうな、オニキス寮って……」
ひとり呟き、俺は目を閉じた。
サブリナ魔法学園には地下があるが遥か昔に封鎖されており、普通の生徒はその行き方は誰も知らない。だが仮に行き方を知っていたとしても生徒たちはわざわざ行こうとは思わない。なぜなら学園の地下にあるのは――学園の闇、オニキス寮だからだ。
オニキス寮は正確には寮ではない。学園の地下、むき出しになった岩盤や基礎の端が見える空間で、じとじととした気配の中に三段ベッドがいくつも並ぶ異様な場所。だがそこには今日も大勢の生徒と、生徒でない者達が蠢いているのだ。
学園が寝静まった夜。漆黒の宝石たちは火を灯し、密かな儀式を行っていた。
「さあ……皆さん。今宵も魔力を送るのです。我らの為に、この世界の為に」
居並ぶ生徒たちに指示を出す黒衣の女性は生徒ではない。全身を顔まで真っ黒なローブで隠しているので年齢はわからないが、少なくとも教師の立場の人間だ。彼女を中心にずらりと並んだ100人ほどのオニキス寮生たちは、黒衣の女性の指示に合わせて一様に目を閉じ手を合わせ、魔力を送り始める。送る先は女性の背後にある――巨大な鉱石。
人2人分程度の高さのある地下、その下から上まで届く巨大な鉱石、その色は漆黒。火を写し艶やかに光るもののその雰囲気はどこか不気味で、周囲には鎖が幾重にも張り巡らされ、さらに魔法言語の他にも意味不明な言語が書かれた札や杖などが数えきれないほどに配置されていた。
鉱石は寮生たちからの魔力を受け、黒い光を放つ。
「……皆さん、ありがとうございます。これでまた我々は明日を迎えられるでしょう。さ、遅くまでお疲れさまでした、ゆっくりとお休みなさい……」
黒衣の女性は意外にも優しく生徒たちに声をかける。生徒たちもこれといった緊張は見せず、バラバラに背を向けて去っていこうとした。
だがその時。
「待て、みんな動くなッ!」
生徒たちの中から鋭い声が上がった。直後、群衆の中から1人が飛び出した。その生徒は紫色の髪をした子供のような背丈の生徒で、群衆の中高く跳躍したかと思うと、そのままくるりと体を反転させ、なんと地下空洞の天井にさかさまに立った。スカートや髪の毛も重力に逆らい、まるで彼女の周りだけ重力が逆になっているようだ。オニキス寮生たちは突然の行動に驚いて彼女を見上げる。
天井に立った女生徒は小柄な背に似合わぬ視線の鋭さで辺りににらみをきかせると、その集会場の入り口にあたる部分を指差し叫んだ。
「侵入者! 透明化の魔法を使ってもこのミニッツ・ペーパーの目はごまかせんぞ! 正体を現せッ!」
天井の少女――ミニッツの声に生徒たちがざわつき始める。だがミニッツが指さす先に視線を変えると固まっていた彼女たちはだんだんと散らばり、見えない敵に対して対抗する姿勢を見せ始めた。
バレたか。
それまで透明化しこっそりと彼女らを観察していた俺は、魔法を解いて姿を現した。それを見たオニキス寮生たちに驚きが広がり、天井のミニッツも動揺を隠しながら俺を睨みつける。
「貴様……件の特待生か。どうやってここに入った!」
「お前らが何をやっているか気になってな、夜分遅くだがお邪魔させてもらった。地下にいるらしいことは聞いていたから、あとは隠し通路を探してそのまま入ってきただけだよ」
そう――俺にとっては、というより魔科学兵器にとっては地下にある多数の魔力の気配を感じ取り、魔力が地下に満ちる気配から学園に隠された地下への扉を探すのはそう難しいことではなかったのだ。
実はさっき俺がオニキス寮のことを考えながら寝ようとした時。魔科学兵器の体は『オニキス寮のことが知りたい』という俺の意思を感知し、その機能を使って彼女らが今現在地下で活動をしていることを知らせてしまったのだ。少し魔科学兵器の機能をおせっかいにも思ったが、一度気になり始めた以上俺は寝てもいられず、気になるあまり寮を抜け出しここまで来てしまったというわけだ。
「グリズリー姉妹から報告は聞いている! 我らに与せぬばかりか幾度も邪魔をする敵だとな! みすみすここに乗り込んできたこと、オニキス寮への侮蔑と見なす! 相応の報いを与えてやるぞッ!」
ミニッツの声によりオニキス寮生たちの敵意、そして魔力が一層に膨れ上がった。サブリナ魔法学園の闇が、俺1人へとのしかかる。俺としては彼女ら全員でもなんとかできる自信があり、少なくとも地上まで逃げ切ることはできると確信していたので、俺も応戦の構えを見せる。一触即発の空気が地下に満ちた。
だがその時。
「待ちなさい、皆さん」
生徒たちの奥で沈黙を守っていた黒衣の女性が声を発した。すると敵意に染まっていたオニキス寮生たちが揺らぎ、天井のミニッツも俺を無視してそちらと顔を向ける。
「無益な争いはやめましょう。ヴィーンさんの力は先日の試験で皆さんも見た通りです、ここで戦っては徒に被害を増やすだけ。ここは私に任せてください」
「し、しかし先生! 先生には立場があるでしょう、せめてここは私が……!」
「そうニャそうニャ! この特待生には恨みがあるニャ、最低でも私たちがやるニャー!」
「先生、別に心配することもないにゃ、なんとかするにゃ~」
ミニッツ、そして生徒たちに紛れていたメア、ミアが声を上げる。だが黒衣の女性は彼女らに対しやんわりと手で制す仕草をとると、俺に向かって近づいてきた。オニキス寮生たちは女性を自然に避け、こつこつと、黒衣の女性は俺へと歩み寄る。俺は逃げるか迎撃するか迷ったが、相手の女性に敵意はないと考え、黙って彼女を待った。
やがて女性は俺の前で足を止める。
「ヴィーンさん。こうなっては仕方ありませんね。まずは説明しましょう、私たちの目的、オニキス寮の意義……そうすれば多少、警戒も和らぐと思います」
「そうか……じゃあまず、あなたのそのローブをとって、顔を見せてもらいたいな」
俺は軽く揺さぶりをかけたつもりだったが、黒衣の女性は動じることはなく、むしろふふっと微笑んだ。
「ええ、最初からそのつもりです。では驚かずにご覧ください……あなたの前の真実を」
黒衣の女性は顔にかかっていたローブに手を伸ばし、すっとそれを下ろした。そして露わになったその顔を見て、俺は自分の目を疑った。
ブラウンの短く切り揃えられた髪。堀の深いきれいな顔立ち。地位に対して若く美しいその女性は。
「学園……長……?」
俺が思わず漏らした声に、ラルプリム学園長は優しく微笑んだ。
「ヴィーンさん、あなたには順を追って説明しましょう。なんとなくですが、あなたには特別な気配を感じますから……さ、こちらへ来てください」
黒ローブ姿のラルプリム学園長は部屋の奥、謎の鉱石を手で示し、俺を誘った。
学園での初日を終えた俺はふかふかのベッドの上に寝転がり、今日のことを振り返っていた。
授業はまあなんとかこなせそうだ。優等生のシルリアが勉強を見てくれると言ってくれたし、リルリーンやシルフィといった隣席たちも補助してくれる。実技系はもはや言うまでもない。学園の雰囲気もいいし、これからの学園生活、楽しくやっていけそうだ。
ただ俺が少し気になるのはオニキス寮のことだった。昨日今日と俺の前に現れ(今日の方は俺が首を突っ込んだのだが)怪しげな示唆を残していくメアとミアの姉妹。俺は彼女らに完全に目をつけられてしまっているはずだ。今のところ彼女らが何をしに来ても俺は撃退できているが……第5の寮オニキス自体が俺を狙ってきた場合、どうなるかはわからない。魔科学兵器の体の限界はまだ見えていないが、不安は不安だった。
「なにやってんだろうな、オニキス寮って……」
ひとり呟き、俺は目を閉じた。
サブリナ魔法学園には地下があるが遥か昔に封鎖されており、普通の生徒はその行き方は誰も知らない。だが仮に行き方を知っていたとしても生徒たちはわざわざ行こうとは思わない。なぜなら学園の地下にあるのは――学園の闇、オニキス寮だからだ。
オニキス寮は正確には寮ではない。学園の地下、むき出しになった岩盤や基礎の端が見える空間で、じとじととした気配の中に三段ベッドがいくつも並ぶ異様な場所。だがそこには今日も大勢の生徒と、生徒でない者達が蠢いているのだ。
学園が寝静まった夜。漆黒の宝石たちは火を灯し、密かな儀式を行っていた。
「さあ……皆さん。今宵も魔力を送るのです。我らの為に、この世界の為に」
居並ぶ生徒たちに指示を出す黒衣の女性は生徒ではない。全身を顔まで真っ黒なローブで隠しているので年齢はわからないが、少なくとも教師の立場の人間だ。彼女を中心にずらりと並んだ100人ほどのオニキス寮生たちは、黒衣の女性の指示に合わせて一様に目を閉じ手を合わせ、魔力を送り始める。送る先は女性の背後にある――巨大な鉱石。
人2人分程度の高さのある地下、その下から上まで届く巨大な鉱石、その色は漆黒。火を写し艶やかに光るもののその雰囲気はどこか不気味で、周囲には鎖が幾重にも張り巡らされ、さらに魔法言語の他にも意味不明な言語が書かれた札や杖などが数えきれないほどに配置されていた。
鉱石は寮生たちからの魔力を受け、黒い光を放つ。
「……皆さん、ありがとうございます。これでまた我々は明日を迎えられるでしょう。さ、遅くまでお疲れさまでした、ゆっくりとお休みなさい……」
黒衣の女性は意外にも優しく生徒たちに声をかける。生徒たちもこれといった緊張は見せず、バラバラに背を向けて去っていこうとした。
だがその時。
「待て、みんな動くなッ!」
生徒たちの中から鋭い声が上がった。直後、群衆の中から1人が飛び出した。その生徒は紫色の髪をした子供のような背丈の生徒で、群衆の中高く跳躍したかと思うと、そのままくるりと体を反転させ、なんと地下空洞の天井にさかさまに立った。スカートや髪の毛も重力に逆らい、まるで彼女の周りだけ重力が逆になっているようだ。オニキス寮生たちは突然の行動に驚いて彼女を見上げる。
天井に立った女生徒は小柄な背に似合わぬ視線の鋭さで辺りににらみをきかせると、その集会場の入り口にあたる部分を指差し叫んだ。
「侵入者! 透明化の魔法を使ってもこのミニッツ・ペーパーの目はごまかせんぞ! 正体を現せッ!」
天井の少女――ミニッツの声に生徒たちがざわつき始める。だがミニッツが指さす先に視線を変えると固まっていた彼女たちはだんだんと散らばり、見えない敵に対して対抗する姿勢を見せ始めた。
バレたか。
それまで透明化しこっそりと彼女らを観察していた俺は、魔法を解いて姿を現した。それを見たオニキス寮生たちに驚きが広がり、天井のミニッツも動揺を隠しながら俺を睨みつける。
「貴様……件の特待生か。どうやってここに入った!」
「お前らが何をやっているか気になってな、夜分遅くだがお邪魔させてもらった。地下にいるらしいことは聞いていたから、あとは隠し通路を探してそのまま入ってきただけだよ」
そう――俺にとっては、というより魔科学兵器にとっては地下にある多数の魔力の気配を感じ取り、魔力が地下に満ちる気配から学園に隠された地下への扉を探すのはそう難しいことではなかったのだ。
実はさっき俺がオニキス寮のことを考えながら寝ようとした時。魔科学兵器の体は『オニキス寮のことが知りたい』という俺の意思を感知し、その機能を使って彼女らが今現在地下で活動をしていることを知らせてしまったのだ。少し魔科学兵器の機能をおせっかいにも思ったが、一度気になり始めた以上俺は寝てもいられず、気になるあまり寮を抜け出しここまで来てしまったというわけだ。
「グリズリー姉妹から報告は聞いている! 我らに与せぬばかりか幾度も邪魔をする敵だとな! みすみすここに乗り込んできたこと、オニキス寮への侮蔑と見なす! 相応の報いを与えてやるぞッ!」
ミニッツの声によりオニキス寮生たちの敵意、そして魔力が一層に膨れ上がった。サブリナ魔法学園の闇が、俺1人へとのしかかる。俺としては彼女ら全員でもなんとかできる自信があり、少なくとも地上まで逃げ切ることはできると確信していたので、俺も応戦の構えを見せる。一触即発の空気が地下に満ちた。
だがその時。
「待ちなさい、皆さん」
生徒たちの奥で沈黙を守っていた黒衣の女性が声を発した。すると敵意に染まっていたオニキス寮生たちが揺らぎ、天井のミニッツも俺を無視してそちらと顔を向ける。
「無益な争いはやめましょう。ヴィーンさんの力は先日の試験で皆さんも見た通りです、ここで戦っては徒に被害を増やすだけ。ここは私に任せてください」
「し、しかし先生! 先生には立場があるでしょう、せめてここは私が……!」
「そうニャそうニャ! この特待生には恨みがあるニャ、最低でも私たちがやるニャー!」
「先生、別に心配することもないにゃ、なんとかするにゃ~」
ミニッツ、そして生徒たちに紛れていたメア、ミアが声を上げる。だが黒衣の女性は彼女らに対しやんわりと手で制す仕草をとると、俺に向かって近づいてきた。オニキス寮生たちは女性を自然に避け、こつこつと、黒衣の女性は俺へと歩み寄る。俺は逃げるか迎撃するか迷ったが、相手の女性に敵意はないと考え、黙って彼女を待った。
やがて女性は俺の前で足を止める。
「ヴィーンさん。こうなっては仕方ありませんね。まずは説明しましょう、私たちの目的、オニキス寮の意義……そうすれば多少、警戒も和らぐと思います」
「そうか……じゃあまず、あなたのそのローブをとって、顔を見せてもらいたいな」
俺は軽く揺さぶりをかけたつもりだったが、黒衣の女性は動じることはなく、むしろふふっと微笑んだ。
「ええ、最初からそのつもりです。では驚かずにご覧ください……あなたの前の真実を」
黒衣の女性は顔にかかっていたローブに手を伸ばし、すっとそれを下ろした。そして露わになったその顔を見て、俺は自分の目を疑った。
ブラウンの短く切り揃えられた髪。堀の深いきれいな顔立ち。地位に対して若く美しいその女性は。
「学園……長……?」
俺が思わず漏らした声に、ラルプリム学園長は優しく微笑んだ。
「ヴィーンさん、あなたには順を追って説明しましょう。なんとなくですが、あなたには特別な気配を感じますから……さ、こちらへ来てください」
黒ローブ姿のラルプリム学園長は部屋の奥、謎の鉱石を手で示し、俺を誘った。
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