魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~

八木山蒼

第5話 4つの寮とお嬢様

 サブリナ魔法学園、学園長室。
 俺はセイナといっしょに、またラルプリム学園長とパマディーテ教頭と話していた。

「いやあヴィーンさん、見事な腕前でしたね。魔法は独学でお勉強なさったんですか?」
「あ、まあ、はい……」
「それでドラゴンを一撃でノックアウトとは本当にすばらしい! 今後も楽しみにしていますよ」

 学園長は子供のようにうきうきとして笑っていた。俺に対し厳しかったパマディーテ教頭も、俺の実力(魔科学兵器の能力)を見てはもう文句も言えないようだった。

「それでセントールさん、この後はどうされる予定ですか?」
「はい、まずレイに学園を紹介して……あとそうだ、制服をいただけませんか? この格好のままだとちょっと目立っちゃって」
「なるほどそうですね、家庭科のヒック先生に連絡しておきますよ」
「あと、レイにはまず、寮を決めてもらわないと……」

 とその時。
 俺たちの後ろから、うわああああ、という声と共に物凄い音が学園長室に響き渡った。
 驚いて振り返ると、そこには学園長室の戸を突き破ってなだれ込んできたが生徒たちが山となって積みあがっていた。

「ど、どいてどいて!」
「重い~!」
「これはこれで……ふひひ」
「ドア壊しちゃったよ、まずいって!」
「ひ、肘! 誰かの肘が、腹に……ぐへっ」

 20人くらいの女生徒たちが騒ぎ立てる。どうやら彼女たちは大挙して学園長室を覗いていて、扉の隙間から中を見ようと体を押し付けるあまりに戸を突き破ってしまったようだった。

「まあまあまあ! なんです皆さん、揃いも揃って! ここは学園長室なんですよっ!」
「いやあ教頭先生、やっぱりあたしたち、特待生ちゃんのことが気になって」

 1人のお調子者が言うとそうそうと多くの生徒たちが同調した。

「だってすごかったもん、あの試験!」
「ドラゴンと、ヘルガフ先生をあっさりワンパン!」
「かっこいいよね~」
「ねえねえ特待生さん、あれどうやったの?」
「どこの寮に入るの~?」

 女生徒たちは山積みのままにやんやと騒ぐ。褒められたり注目されたりで、俺は嬉しいやら恥ずかしいやらだ。パマディーテ教頭は口を尖らせていたが、学園長がなだめた。

「まあまあ教頭先生、新しい友達が気になるのは当然ですよ、ドアは後で直せばいいですからね。ではセントールさん、こんなところで話すよりも、まずは学園の皆さんにレイさんを紹介してあげてください。寮の選択も兼ねてね」
「はいっ、わかりました!」
「あの学園長、寮の選択とは?」

 俺は尋ねたが、学園長は悪戯っぽく笑ってこう返した。

「この学園にはいくつかの寮があるんです。その実態は学園長の私よりも、実際にそこで暮らす生徒たちがよくわかってますよ。なに行けばわかります、うふふ……皆さんも、待っているでしょうしね」

 美人の学園長の笑顔は妙に子供っぽく無邪気だ。俺はその笑顔に、微妙に不穏な気配を感じ取るのだった。



 サブリナ魔法女学園は全寮制の学校。生徒たちは全員寮に入り、授業だけでなく日々の生活も学友たちと共にする。

 寮は学園の裏に4つ、並んで立っている。いずれも同じ4階建ての綺麗な住居で、違いは正面の門の上にとりつけられた宝石だけ。そしてその宝石が寮の名前であり――その寮に入る生徒の性質を示しているのだ。

 それらの寮へと繋がる学園の裏庭。俺はその真ん中、寮へ繋がる四本道の分岐点にセイナと共に立たされていた。そしてそれぞれの寮の前には、1つにつき数十人以上という大勢の生徒たちが立ち、俺らを待ち構えていたようだった。全員が興味津々といった様子で俺を見ていた。

「セ、セイナ。これはいったい……」
「入寮の儀式。みんなレイを自分の寮に入れたいみたいだよ」

 セイナはくすくすと笑っているが、俺は合計100人以上の生徒たちにじっと見られているのでたまったものではない。特待生試験での活躍のおかげでその視線は温かいものだったが、それでもどうも目立ちすぎたかもしれなかった。

「サブリナ魔法学園には寮が4つあってね、生徒の特色によって振り分けられているの。普通はその生徒ごとに学園長が判断するんだけど、特待生だけは例外で、どの寮に入ってもいいんだよ。授業の中で寮別で競い合ったりもするから、みんな優秀なレイを自分の寮に入れたいんだよ。まあまずは、みんなの説明を聞いてみてねっと」
「ちょ、ちょっと……わわっ」

 セイナはそう言うと俺の背を押し、俺は一歩前に出される。するとそれに応じるように、各寮の代表と思われる4人の生徒たちが進み出て、俺の前に立った。

「初めまして、特待生さん。私はトパーズ寮の寮長、ルマリンです。トパーズ寮は知恵の寮、魔法の知識と学習に重きを置く生徒たちの寮です。特待生さん、私たちの寮で知恵を磨きませんか?」

 最初に挨拶したのは眼鏡をかけた落ち着いた印象の生徒だった。にこりと笑う笑顔は控えめだがかわいらしい。

「ダメダメ! この子はあたしら、ルビー寮に入るんだ! だってそうだろ? ルビー寮はパワーの寮、強い体と精神を持った生徒たちの集う場所! ドラゴンをワンパンしたこの子はあたしらルビー寮にこそふさわしい! だろ!」

 トパーズ寮のルマリンとは対照的に大きな声を張り上げたのは真っ赤な髪の活発な生徒だ。名前も名乗らず、とにかく力強い態度で俺に迫った。

「そ、その……あ、アクアマリン寮の、ノノです。寮長です、一応……わ、私たちアクアマリン寮は、ま、魔法が得意な生徒の寮です、はい……そ、その、できればでいいんですから、私たちの寮に入ってくれれば、嬉しいかな……」

 ルビー寮長に気圧され、本で顔を隠しつつ小さな女子はおずおずと言った。三つ編みのノノはかなり小柄で、セイナよりも小さくなった今の俺よりも背が低かった。

 トパーズ、ルビー、アクアマリン、その寮長たちはいずれも個性的だ。だが最後に来たのは彼女らの中でもぶっちぎりで個性の強い――というより、アクの強い生徒だった。

「オーホッホッホッホッホッ!」

 まずその高笑いに俺は面食らった。お手本のような高笑いを見せた生徒は他の寮長よりも俺の近くまで出てきて、さらに別の3人の生徒がそのそばにさっと控えた。
 その見た目も強烈だ。長い金髪をドリルのようにくるくると巻き、それが左右と後ろで3本。明らかに我の強そうなつり目は真っ赤で、自信たっぷりの笑みを浮かべながら俺を見ていた。

「わたくしこそが! ダイヤモンドの寮長にして、サブリナ魔法女学園もっとも高潔かつ高位なる魔導士……ユニコ・サマリーでございますわ! オーッホッホッホ!」
「サマリー様!」
「お美しいですー!」
「練習通り言えましたねー!」

 金髪ドリル――サマリーが名乗りをあげ高笑いをすると、お付きと思われる3人の生徒は彼女をはやしたて、1人などは手にした籠から金箔の紙吹雪など撒いていた。俺はただただ目をぱちぱちとやってそれを見つめていた。

「我がダイヤモンド寮、それは他の3つの寮とは一線を画する高貴なる寮。知性、力、勇気! そのいずれをも兼ね備える、最上級の学生のみが入寮できる寮なのですわー! レイ・ヴィーンさん! あなたの実力、拝見いたしましてよ。やや粗削りながらも才能はきらりと光り、我がダイヤモンド寮に入る権利は十分にございます! さ、このわたくしが言うのです、ダイヤモンド寮に入りますよね? このわたくしが言うのですよ! オーッホッホッホ―ッ!」
「サマリー様!」
「お見事ですー!」
「噛まずに言えましたねー!」

 また高笑いと紙吹雪。他の生徒は苦笑して彼女たちを見ていた。

「……ま、こんな感じね。ダイヤモンド寮は本当は寮の費用がとっても高い寮なんだけど、特待生のレイは気にせずに入れるから、サマリーちゃんはそれで誘ってるんだと思うよ」
「ちち、違うますわセイナさん! わたくしはレイさんを認めてもいいと言っているのです、このわたくしが! それは誇れることですのよ? 孫子の代まで語り継ぐといいですわー! オーッホ、エッ、えほっえほっ……」
「ああサマリー様!」
「短時間で高笑いを何度もするから!」
「のど飴ですー」

 俺をそっちのけで盛り上がるサマリーとその取り巻きたち。サマリーは取り巻きから飴を受け取ると、それをコロコロ舐めながら改めて俺と正対した。

「ま、そういうわけれひて、あなたはぜひダイヤモンド寮をおすすめいたひますわ。快適な学園生活と最高の学習環境をこのわたくひが保障いたひますわよ」
「いえ特待生さん、学習ならばぜひトパーズ寮に」
「楽しいのが一番だろ! ルビー寮は楽しいぜー!」
「えと、アクアマリンは……その……」

 寮長たちがぎゃーぎゃーとわめき立てる。だが実のところ、俺の意思は最初から決まっていた。
 俺はそっと一歩退くと、セイナに尋ねた。

「セイナ。お前はどこの寮なんだ?」
「え? 私はアクアマリン寮だけど……」
「じゃ、俺もそれでいい」

 え? といった感じで、セイナと、争っていた寮長たちが固まる。俺は改めて宣言した。

「俺が入るのはアクアマリン寮だ。ノノさん、よろしくな」
「あっ……は、はいっ! ありがとう、ございます……!」

 わあ、とアクアマリン寮の生徒たちから歓声が上がった。俺がこの選択をすることをどこかで予想はしていたのか、他の寮生たちは落胆しつつも「やっぱり」といった表情も見せていた。

「いいのレイ? あなたの意思で決めればいいのに」
「どの寮でも俺の住んでたボロ小屋に比べれば天国だよ。それに本当のところ、いざというときにセイナがそばにいないと、俺の正体がバレかねないしな……ほらその、ふ、風呂とか……」
「ああ、なるほどね……」

 まあそんなこんなで、諸々不安はあるが、俺はアクアマリン寮に入ることに決まった。
 喜ぶ寮長ノノと寮生たちは寮を案内すると、早速俺の手を引いて寮の中へと連れていくのだった。



 ――レイがアクアマリン寮の中に消え、その他の生徒もそれぞれの寮の中へと戻っていった後。
 ダイヤモンド寮の寮生たちもいなくなったというのに、唯一サマリーとその取り巻きだけが裏庭に残っていた。
 サマリーはレイがアクアマリン寮に決めた後ずっとその場で立ち尽くし、言葉もなく悔しさに震えていたのだった。

「わ、わ、わたくしが直々にお誘いしたというのに……! ぐぬぬぬぬぬっ!」
「サマリー様……」
「おいたわしいです……」
「せっかくがんばって口上考えましたのに……」
「くっ! レイ・ヴィーン!」

 サマリーはだんと地面を踏みつけた。

「このままじゃダイヤモンド寮の寮生たちに示しが立ちません……わたくしに恥をかかせたこと、必ずや後悔させてみせますわ! そしてきっと、そう無理矢理にでも、ダイヤモンド寮へと入寮し直させてみせますことよ! ユニコ・サマリーの名にかけて! オーッホッホッホッホッホーッ!」
「サマリー様ー!」
「たくましいですー!」
「いつもより高笑いも長いですねー!」
「ってあなたたち、今紙吹雪かけるんじゃありませんわ! TPOをわきまえなさいっ!」

 なんやかやひとしきり騒いだ後、サマリーとその取り巻きたちは学園のどこかへと去っていった。レイへの復讐心を胸に残して――

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