魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~
第3話 到着、サブリナ魔法女学園
俺の住んでいたビリ村から馬車で約6時間。
「着いたよ、レイ」
「ああ」
簡素な荷物だけを持った俺はセイナと共に馬車を降り、長旅に疲れた体をぐっと伸ばした。
そこは大陸の北のはずれにある森の中。そばには湖、聞こえる鳥の声、文明から離れた自然の世界――だが馬車から降りた俺の目の前に飛び込んできたのは、そんな森の中に不思議に溶け込んだ、巨大な建造物だった。
ぱっと見石造りの城のようにも見えるその建物。周囲をぐるりと高い壁で覆われ、正面には金色の門が閉ざされている。正門の横に飾られた看板には、きれいな文字でサブリナ魔法女学園の名が刻まれていた。
「馬車の御者さんもお疲れ様でした。パパとママによろしくお願いします」
「ええ嬢ちゃん、そのご友人も、ご勉学がんばってください。しかしすみませんねえ妙に時間がかかってしまって、馬たちが今日は妙に暴れるもんで……」
「そういうこともありますよ、気にしてませんって。それじゃあ帰り道もお気をつけて」
「へい、それじゃあ失礼いたします」
セイナの家お付きの御者は手綱をぐっと引き、馬の足音と共に森の中を去っていった。
「……まさか、馬車に乗っているだけで馬が俺を嫌がるとはな……」
俺ははあとため息をついた。俺の魔科学兵器の体を動物たちは嫌う、それは馬車の馬も同様だった。馬たちが暴れたというのはそのためだ。ただそれも運行できないわけではなく、無事にサブリナ魔法女学園に辿り着けたのは幸いだった。
「牧場経営など夢のまた夢だな。やはり俺はここに入るしかないようだ」
「うん……ここなら街から離れていて、もし魔科学兵器だってバレても騒がれないはずだしね」
俺は改めてサブリナ魔法女学園の巨大な姿を見上げた。魔法の才もなく、というか男の俺には全く無縁のはずだった、セイナの通う魔法学校。俺が今からそこに踏み込む、それはやはり勇気のいることだった。
セイナが突然ここへの入学を提案したことは驚いたが、たしかにそれは合理的なアイデアだった。改造された俺には今まで通りの牧場経営はできず、下手に表に出て魔科学兵器ということがバレたら大騒ぎになる。唯一の頼りのセイナは全寮制のこの学校から離れられない――ならばいっそ俺が行ってしまえばいい、というわけだ。どうも特待生として認められればいかなる時期の編入でもよく、また学費もいらなくなるらしい。俺の魔科学兵器としての能力があればそれは簡単なことだった。
そして俺はセイナを通じて親しい牧場主に頼み、俺の牧場をしばらく預かってもらうことにした。元の体に戻った時にまた同じ生活ができるように――それができるだけ近い未来であると信じたかったが。
セイナは帰省を切り上げて荷物をまとめ、すぐに馬車を手配してくれた。俺もまた持っていく荷物は少なかったので準備はあっさりと終わり、俺らはサブリナ魔法女学園へ向かって発ち――今に至る、というわけだ。
「だが本当に大丈夫なのか? いくらセイナの紹介とはいえ、いきなり俺のような得体の知れない者が入っていったら怪しまれないか? それに街から離れているとはいえこの体の秘密が漏れたら……」
「大丈夫大丈夫! この魔法学校は実力があればだいたいのことは大目に見てもらえるから! それに下手すれば魔科学兵器よりよっぽど怪しい生徒もいるし」
「それはそれで不安だな……」
男の俺からすれば女学校などは完全に未知の世界だ。なんとなくのイメージだけだが、女だらけの空間というものは男にとって憧れでもあるが同時に恐怖でもある。それに魔兵器ということだけでなく、万が一男だということがバレては袋叩きにあうんじゃないか……なんて心配もあった。
だがそんな俺を、セイナは笑顔で後押しした。
「いざという時は私がなんとかするから! ここはいい学校だよ、私が保障する。それにレイはずっとビリ村の隅っこでがんばってきたんだもん、きっと大丈夫!」
「ま……今は、この体の能力もあるしな。とにかく飛び込んでみようか……!」
覚悟を決め、俺らはサブリナ魔法女学園へと踏み出した。
女学園内は思ったよりも明るかった。
セイナに連れられて歩く廊下には絨毯が敷かれ、大きな窓からは鮮やかな緑が覗き陽光も差し込んでいる。壁や床の作りもしっかりとしていて天井も高く、まさにお嬢様学校といった感じだった。
「まずは学園長のところに行くね。そしたら編入試験を受けることになるんだ、内容はその時々でまちまちなんだけど……今のレイなら全然問題ないと思うよ」
セイナは本当に心配なさそうにそう言った。
実はここに来る途中でセイナには俺の体の性能を簡単に披露している。その力には魔法学園生であるセイナも舌を巻いたほど、しかも俺には直感的にわかるのだが俺はまだこの体の力を半分も出していない。つくづくあの兄がこの技術力を良い方向に使わなかったことが悔やまれるばかりだ。
とその時、廊下の向かい側から2人の女生徒が歩いてきた。白を基調として赤や青のラインが入った、制服と思われるローブを身にまとっている。俺は思わずセイナの後ろに隠れ、直後に女生徒たちはこちらに気付いたようだった。セイナも彼女たちに手を振る。
「あれセイナちゃん、もう帰ってきたの? 休み中は帰省って言ってたじゃん」
「ちょっと用事があってね、早めに切り上げたの。というのもこの子のことでね」
「その後ろの子? セイナちゃんちのメイドさんかしら」
セイナはあっさりと身を避けて俺の姿を女生徒たちにさらした。ど、どうも、と俺はしどろもどろに挨拶する。見知らぬ場所でメイド服姿を他人に見られるなどというのは恥ずかしいことこの上なかった。
「メイドじゃなくてね、私の幼馴染でレイっていうの。ところで学園長って今いらっしゃるかな」
「学園長に用事? 普通に部屋にいると思うけど……あっ、てことはこの子ひょっとして編入するの? しかもこの時期ってことは特待生候補!? どっひゃー」
「レイちゃんっていうの? すごいのねぇ、さすがセイナちゃんの幼馴染ねえ」
「ま、まあ……まだ、決まったわけじゃないけど」
「この子初めてここに来たからちょっと緊張しててね、先に学園長のとこ行かせてもらうね、話はまた後で」
「そっか、じゃあまたねレイちゃん」
「ばいばい」
「あ、ああ……また」
2人の女生徒は去っていき、俺はほっと息をつく。どうやらバレずにすんだようだ。
「ね、大丈夫だよレイ。あとは特待生になれば誰もレイのこと疑ったりしないって」
「そ、そうだな……せめて着替えくらいしてくればよかった」
ひとまず俺らは先を急ぐことにし、セイナの案内に従って学園を進んでいった。
レイたちと話した後。先程の2人の女生徒はその後姿、揺れてたなびく銀色の髪をじっと見つめていた。
「かわいい子だったねえ。メイド服も似合ってたし」
「ええ。レイちゃん、きれいな人……まるでお人形さんみたいなかわいさだったわ」
「おやあシルフィ、ひょっとして惚れちゃった? いくら女子校だからってあんましそっちに手を出すと将来苦労するよ」
「ち、ち、違うわよおリルちゃん! そんな目で見てるわけじゃなくて、ただきれいな人だなって……」
「冗談だよ冗談。特待生試験ってことは中庭でやるはずだよね。せっかくだし見守ろうよ、あの子の実力も気になるしさ」
「もぉ……そうね、見に行きましょうか。じきに始まるはずだものね」
2人はまた廊下を歩いていった。先程出会った少女、その正体に気付く由もなかった。
「着いたよ、レイ」
「ああ」
簡素な荷物だけを持った俺はセイナと共に馬車を降り、長旅に疲れた体をぐっと伸ばした。
そこは大陸の北のはずれにある森の中。そばには湖、聞こえる鳥の声、文明から離れた自然の世界――だが馬車から降りた俺の目の前に飛び込んできたのは、そんな森の中に不思議に溶け込んだ、巨大な建造物だった。
ぱっと見石造りの城のようにも見えるその建物。周囲をぐるりと高い壁で覆われ、正面には金色の門が閉ざされている。正門の横に飾られた看板には、きれいな文字でサブリナ魔法女学園の名が刻まれていた。
「馬車の御者さんもお疲れ様でした。パパとママによろしくお願いします」
「ええ嬢ちゃん、そのご友人も、ご勉学がんばってください。しかしすみませんねえ妙に時間がかかってしまって、馬たちが今日は妙に暴れるもんで……」
「そういうこともありますよ、気にしてませんって。それじゃあ帰り道もお気をつけて」
「へい、それじゃあ失礼いたします」
セイナの家お付きの御者は手綱をぐっと引き、馬の足音と共に森の中を去っていった。
「……まさか、馬車に乗っているだけで馬が俺を嫌がるとはな……」
俺ははあとため息をついた。俺の魔科学兵器の体を動物たちは嫌う、それは馬車の馬も同様だった。馬たちが暴れたというのはそのためだ。ただそれも運行できないわけではなく、無事にサブリナ魔法女学園に辿り着けたのは幸いだった。
「牧場経営など夢のまた夢だな。やはり俺はここに入るしかないようだ」
「うん……ここなら街から離れていて、もし魔科学兵器だってバレても騒がれないはずだしね」
俺は改めてサブリナ魔法女学園の巨大な姿を見上げた。魔法の才もなく、というか男の俺には全く無縁のはずだった、セイナの通う魔法学校。俺が今からそこに踏み込む、それはやはり勇気のいることだった。
セイナが突然ここへの入学を提案したことは驚いたが、たしかにそれは合理的なアイデアだった。改造された俺には今まで通りの牧場経営はできず、下手に表に出て魔科学兵器ということがバレたら大騒ぎになる。唯一の頼りのセイナは全寮制のこの学校から離れられない――ならばいっそ俺が行ってしまえばいい、というわけだ。どうも特待生として認められればいかなる時期の編入でもよく、また学費もいらなくなるらしい。俺の魔科学兵器としての能力があればそれは簡単なことだった。
そして俺はセイナを通じて親しい牧場主に頼み、俺の牧場をしばらく預かってもらうことにした。元の体に戻った時にまた同じ生活ができるように――それができるだけ近い未来であると信じたかったが。
セイナは帰省を切り上げて荷物をまとめ、すぐに馬車を手配してくれた。俺もまた持っていく荷物は少なかったので準備はあっさりと終わり、俺らはサブリナ魔法女学園へ向かって発ち――今に至る、というわけだ。
「だが本当に大丈夫なのか? いくらセイナの紹介とはいえ、いきなり俺のような得体の知れない者が入っていったら怪しまれないか? それに街から離れているとはいえこの体の秘密が漏れたら……」
「大丈夫大丈夫! この魔法学校は実力があればだいたいのことは大目に見てもらえるから! それに下手すれば魔科学兵器よりよっぽど怪しい生徒もいるし」
「それはそれで不安だな……」
男の俺からすれば女学校などは完全に未知の世界だ。なんとなくのイメージだけだが、女だらけの空間というものは男にとって憧れでもあるが同時に恐怖でもある。それに魔兵器ということだけでなく、万が一男だということがバレては袋叩きにあうんじゃないか……なんて心配もあった。
だがそんな俺を、セイナは笑顔で後押しした。
「いざという時は私がなんとかするから! ここはいい学校だよ、私が保障する。それにレイはずっとビリ村の隅っこでがんばってきたんだもん、きっと大丈夫!」
「ま……今は、この体の能力もあるしな。とにかく飛び込んでみようか……!」
覚悟を決め、俺らはサブリナ魔法女学園へと踏み出した。
女学園内は思ったよりも明るかった。
セイナに連れられて歩く廊下には絨毯が敷かれ、大きな窓からは鮮やかな緑が覗き陽光も差し込んでいる。壁や床の作りもしっかりとしていて天井も高く、まさにお嬢様学校といった感じだった。
「まずは学園長のところに行くね。そしたら編入試験を受けることになるんだ、内容はその時々でまちまちなんだけど……今のレイなら全然問題ないと思うよ」
セイナは本当に心配なさそうにそう言った。
実はここに来る途中でセイナには俺の体の性能を簡単に披露している。その力には魔法学園生であるセイナも舌を巻いたほど、しかも俺には直感的にわかるのだが俺はまだこの体の力を半分も出していない。つくづくあの兄がこの技術力を良い方向に使わなかったことが悔やまれるばかりだ。
とその時、廊下の向かい側から2人の女生徒が歩いてきた。白を基調として赤や青のラインが入った、制服と思われるローブを身にまとっている。俺は思わずセイナの後ろに隠れ、直後に女生徒たちはこちらに気付いたようだった。セイナも彼女たちに手を振る。
「あれセイナちゃん、もう帰ってきたの? 休み中は帰省って言ってたじゃん」
「ちょっと用事があってね、早めに切り上げたの。というのもこの子のことでね」
「その後ろの子? セイナちゃんちのメイドさんかしら」
セイナはあっさりと身を避けて俺の姿を女生徒たちにさらした。ど、どうも、と俺はしどろもどろに挨拶する。見知らぬ場所でメイド服姿を他人に見られるなどというのは恥ずかしいことこの上なかった。
「メイドじゃなくてね、私の幼馴染でレイっていうの。ところで学園長って今いらっしゃるかな」
「学園長に用事? 普通に部屋にいると思うけど……あっ、てことはこの子ひょっとして編入するの? しかもこの時期ってことは特待生候補!? どっひゃー」
「レイちゃんっていうの? すごいのねぇ、さすがセイナちゃんの幼馴染ねえ」
「ま、まあ……まだ、決まったわけじゃないけど」
「この子初めてここに来たからちょっと緊張しててね、先に学園長のとこ行かせてもらうね、話はまた後で」
「そっか、じゃあまたねレイちゃん」
「ばいばい」
「あ、ああ……また」
2人の女生徒は去っていき、俺はほっと息をつく。どうやらバレずにすんだようだ。
「ね、大丈夫だよレイ。あとは特待生になれば誰もレイのこと疑ったりしないって」
「そ、そうだな……せめて着替えくらいしてくればよかった」
ひとまず俺らは先を急ぐことにし、セイナの案内に従って学園を進んでいった。
レイたちと話した後。先程の2人の女生徒はその後姿、揺れてたなびく銀色の髪をじっと見つめていた。
「かわいい子だったねえ。メイド服も似合ってたし」
「ええ。レイちゃん、きれいな人……まるでお人形さんみたいなかわいさだったわ」
「おやあシルフィ、ひょっとして惚れちゃった? いくら女子校だからってあんましそっちに手を出すと将来苦労するよ」
「ち、ち、違うわよおリルちゃん! そんな目で見てるわけじゃなくて、ただきれいな人だなって……」
「冗談だよ冗談。特待生試験ってことは中庭でやるはずだよね。せっかくだし見守ろうよ、あの子の実力も気になるしさ」
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