Creation World Online
89話
カリカリと文字を書く音が部屋に響く。
ある程度書き終えたところで部屋の主であるテロウスは、すっかり冷めた紅茶を飲む。
立ち上がって窓の外を眺めれば、現実ではあり得ない双子の月から放たれる月光が古城の中庭を照らしていた。
そんな静かな時間をぶち壊すように部屋の扉が開かれる。
扉を開いたのは彼の部下であるクロッドであった。
「ハァハァ…!ほ、報告します…!敵です!敵の襲撃に遭いました!下でイドリスが抑えているうちに逃げましょう!さあ、こちらへ!」
クロッドはボロボロの身体でそう言う。
テロウスは舌打ちすると、自身の所属する組織【Slaughter Works】へ敵襲があったという事を連絡すると、先程まで書いていた書類を纏めてアイテムボックスに放り込む。
その中には組織の他の拠点の事、組織の構成員などの重要なことが書かれていた。
テロウスはクロッドに連れられて城内を歩きながら違和感を覚える。
そして、テロウスは気づく。
「なぜ襲撃されているというのにこんなに静かなんだ?」
「…気づかれちゃったー」
クロッドはダラリと上半身を反らして、背後にいるテロウスを見る。
その顔は悪辣な笑顔に歪んでいた。
「お前はクロッドではないな。何者だ!」
「流石ここの責任者だけのことはあるな」
パチパチと拍手をしながら暗闇の中から1人の青年が現れる。
黒コートを羽織った、黒い少し跳ねた髪、男性の平均的な身長、容姿はそれなりに整っているが性格の悪さが滲み出した顔の青年。
【Slaughter Works】の重要危険人物の1人、全プレイヤー最強の称号を持つ男【鬼畜】シュウだった。
☆
「なっ…!貴様は【鬼畜】!なぜここに、いやクロッドに何をした!」
「ははっ、勘違いするなよ。俺は何もしていない。なあ?フラジール」
「その通りだねー」
クロッドがそう言って口を開くと、口の中から靄のようなものが噴出してサラサラとした金髪の雪のように白い肌をもつ半透明の少女_フラジールを形作る。
フラジールが抜けた瞬間、クロッドは地面に崩れ落ちて呻き声を上げる。
そんなクロッドをもう不要だと判断したフラジールが【ソウルイート】を発動して、クロッドの身体を青白い塊へと変えると、食事を始める。
魂が奏でるおぞましいメロディーにテロウスは耳を塞ぎ、目を背けていた。
やがて食事を終えたフラジールは、暇だったのか俺の頭に抱きついて遊びだす。
「フラジール、暇ならアイツの身体を乗っ取って逃げられないようにしておけ」
『わかったー!』
フワフワとテロウスの前に立ったフラジールは、未だに硬直しているテロウスの口に腕を突っ込むとその身体を乗っ取る。
「できたー」
「よし、アイテムボックスからさっき入れた紙を取り出せ」
「はぁーい」
ガサゴソとアイテムボックスを弄ると、数枚の紙を取り出し俺に手渡す。
中を確認すると、そこには【Slaughter Works】の拠点、構成員、その他の計画などなどの重要なことが書かれていた。
俺はそれをコピーすると、自身のアイテムボックスにしまい込む。
これは後でこいつと一緒におっさんに渡すべきだな。
こうして【Slaughter Works】の拠点侵入および情報入手の作戦は成功したのであった。
☆
ドサリと音を立てて男の身体が崩れ落ちる。
これで何人目だろうか?
周囲を見渡して溜息を吐く大柄な骨_エンリベルの足元には何人もの同じ服装をしたプレイヤー達が気絶していた。
彼らは全員【Slaughter Works】と呼ばれる組織に所属するプレイヤー達で、彼らの計画に必要な器であるアンリを奪うために襲撃してきたのであった。
そんな敵の拠点にエンリベルの主人であるシュウが乗り込み、情報を入手している間にアンリ達を守る任を与えられたのであった。
本来ならば自分も彼について行き、そのサポートを行う予定だったのだが、主人から「任せた」と言われこの場に残る事を決めたのであった。
例え敵が強くとも、自身の主人が最強である事を信じているエンリベルは彼が敗北するという考えは微塵もなかった。
なにより、後輩であるシュウの配下の内一体が付いて言っているため、負ける事など万が一にもあり得ないの事なのだ。
そんなエンリベルの【感知】に1人のプレイヤーが引っかかる。
その方向、正面の建物の屋根の上を見てみると、月を背後に立っているプレイヤーがいた。
『ふむ、今夜は来客が多いな』
「君には用はない、悪いけど退いてもらえるかな?」
外套に隠れて顔は見えないが、声からしてどうやら若い男のようだった。
『クカカカ!残念ながら主様の命によりここを通すわけにはいかん!』
エンリベルがそう言うと相手は溜息を吐いて、屋根の上から飛び降りる。
男が着地するタイミングを見計らってエンリベルは3本の闇色の剣を創造し、放つ。
3本の剣は男を貫き、裂く…はずだった。
飛んで言った剣は全て、男の目の前で真っ二つに割れ、靄へと変化すると、そのまま闇の中に溶けるように消える。
その中心に立つ男の手には、装飾の施された薄い蒼銀色の片手剣が握られていた。
『なかなかのモノだな』
「はははっ、あのくらいなら余裕だよ」
『そうか、それは良かった【黒器】』
エンリベルが手を掲げると、更に数十本の闇色の剣が生み出される。
驚愕の表情を浮かべる男目掛けてエンリベルが手を振り下ろすと、男目掛けて数十本の剣は一斉に射出される。
男はギリっと歯を鳴らすと、剣を構え直し、リアルではあり得ないような速さで次々と闇色の剣を切り裂いていく。
そして、最後の一本を切り裂くと同時に爆発的なスピードでエンリベルへと突っ込んでくると、下から斬りあげる。
咄嗟に【黒器】で盾を生み出してガードしようとしたエンリベルだったが、ゾクッとする感覚を覚えその身を思い切り反らすと、男の剣は盾をやすやすと斬り裂き、エンリベルの右腕を斬りとばす。
斬り飛ばされた腕が地面に落ちると、そこから黒い靄が発生する。
エンリベルやフラジールなどの不死者と呼ばれるタイプのモブは通常のモブとは違い、腕や足を切断された程度の損傷の場合、切断された部位を近づければ再生するのだ。
そのかわりと言ってはなんだが、回復魔法やHP回復ポーションを使用するとダメージを受けてしまう。
その為、彼らの回復方法はかなり特殊なのだ。
例えば、フラジールは魂を食べることによる回復、エンリベルは外部から魔力を取り込むことで再生するのだ。
しかし、エンリベルは腕を再生しようとはしなかった。
欠損部位を再生する場合、僅かな時間だが隙が生まれる。
そうなれば最後、エンリベルは目の前の男の剣によって真っ二つにされるだろう。
相手も当然それを理解しているようで、油断なくエンリベルの隙を伺っていた。
(アレを使うしかないようだな…)
エンリベルは残った左手を自身の胸の中心からやや左、人間でいう心臓の位置に置くと、そのまま自身の胸を貫いた。
バリバリと骨が砕ける音が鳴り、血液の代わりに大量の黒い靄が溢れ出す。
ズルリと引き抜いたエンリベルの手には、生々しく脈動する青黒い球体が握られていた。
それこそ不死者達の心臓とも呼ぶべき魔力供給機関『魔核』だった。
エンリベルはそれをグッと握りしめると、魔核にヒビが入り膨大な魔力が溢れ出す。
「…何をしている?」
『クカカカ、小僧。貴様が知る必要はない。…そろそろ良さそうだな。【夜明】』
「ガハッ…!」
エンリベルがスキルを発動した瞬間、何もない空間からいきなり針が飛び出し、男の腹を貫く。
更に無数の黒い紐のようなものが現れて男を縛ると、エンリベルは男から剣を奪い取る。
エンリベルが【鑑定】を行うと、武器は固有武器のようで『聖剣エクスカリバー』と名称が現れていた。
エンリベルはそれを自身の影に放り込むと、縛られて地面に転がりながらこちらを睨む男_ライトを見る。
「くそッ!卑怯者が!」
『敗者ほどその言葉を使いたがるものだ。矮小なる者よ、今は眠るがいい』
エンリベルの腕から漏れ出た靄がライトの口元を覆うと、その意識を刈り取る。
それと同時にエンリベルも地面に膝を着く。
(予想以上に魔力の消費が激しい…。魔核の修復にもそれなりに時間がかかるだろうな)
切断された腕を回収し、切断面をくっつけていると、エンリベルの索敵範囲内にあるプレイヤーの反応が入り込む。
『【影の牢獄】』
エンリベルが地面に掌を当てるとそこから黒い影が広がり、気絶したプレイヤー達がその中にズブリと沈んでいく。
「んぇ〜?えんりべるさん、なにしてりゅんですかぁ〜?」
『いえ、なんでもございませんよ。ほらほら、そんなに酔っ払って…。さ、行きましょう。アンリ殿』
空っぽのワイングラスを片手に、頬を赤く染めてふらふらとした足取りで歩いてきたアンリの呂律の回らない問い掛けを軽く流して、エンリベルは彼女を解放しつつ会場へと歩いて行くのであった。
ある程度書き終えたところで部屋の主であるテロウスは、すっかり冷めた紅茶を飲む。
立ち上がって窓の外を眺めれば、現実ではあり得ない双子の月から放たれる月光が古城の中庭を照らしていた。
そんな静かな時間をぶち壊すように部屋の扉が開かれる。
扉を開いたのは彼の部下であるクロッドであった。
「ハァハァ…!ほ、報告します…!敵です!敵の襲撃に遭いました!下でイドリスが抑えているうちに逃げましょう!さあ、こちらへ!」
クロッドはボロボロの身体でそう言う。
テロウスは舌打ちすると、自身の所属する組織【Slaughter Works】へ敵襲があったという事を連絡すると、先程まで書いていた書類を纏めてアイテムボックスに放り込む。
その中には組織の他の拠点の事、組織の構成員などの重要なことが書かれていた。
テロウスはクロッドに連れられて城内を歩きながら違和感を覚える。
そして、テロウスは気づく。
「なぜ襲撃されているというのにこんなに静かなんだ?」
「…気づかれちゃったー」
クロッドはダラリと上半身を反らして、背後にいるテロウスを見る。
その顔は悪辣な笑顔に歪んでいた。
「お前はクロッドではないな。何者だ!」
「流石ここの責任者だけのことはあるな」
パチパチと拍手をしながら暗闇の中から1人の青年が現れる。
黒コートを羽織った、黒い少し跳ねた髪、男性の平均的な身長、容姿はそれなりに整っているが性格の悪さが滲み出した顔の青年。
【Slaughter Works】の重要危険人物の1人、全プレイヤー最強の称号を持つ男【鬼畜】シュウだった。
☆
「なっ…!貴様は【鬼畜】!なぜここに、いやクロッドに何をした!」
「ははっ、勘違いするなよ。俺は何もしていない。なあ?フラジール」
「その通りだねー」
クロッドがそう言って口を開くと、口の中から靄のようなものが噴出してサラサラとした金髪の雪のように白い肌をもつ半透明の少女_フラジールを形作る。
フラジールが抜けた瞬間、クロッドは地面に崩れ落ちて呻き声を上げる。
そんなクロッドをもう不要だと判断したフラジールが【ソウルイート】を発動して、クロッドの身体を青白い塊へと変えると、食事を始める。
魂が奏でるおぞましいメロディーにテロウスは耳を塞ぎ、目を背けていた。
やがて食事を終えたフラジールは、暇だったのか俺の頭に抱きついて遊びだす。
「フラジール、暇ならアイツの身体を乗っ取って逃げられないようにしておけ」
『わかったー!』
フワフワとテロウスの前に立ったフラジールは、未だに硬直しているテロウスの口に腕を突っ込むとその身体を乗っ取る。
「できたー」
「よし、アイテムボックスからさっき入れた紙を取り出せ」
「はぁーい」
ガサゴソとアイテムボックスを弄ると、数枚の紙を取り出し俺に手渡す。
中を確認すると、そこには【Slaughter Works】の拠点、構成員、その他の計画などなどの重要なことが書かれていた。
俺はそれをコピーすると、自身のアイテムボックスにしまい込む。
これは後でこいつと一緒におっさんに渡すべきだな。
こうして【Slaughter Works】の拠点侵入および情報入手の作戦は成功したのであった。
☆
ドサリと音を立てて男の身体が崩れ落ちる。
これで何人目だろうか?
周囲を見渡して溜息を吐く大柄な骨_エンリベルの足元には何人もの同じ服装をしたプレイヤー達が気絶していた。
彼らは全員【Slaughter Works】と呼ばれる組織に所属するプレイヤー達で、彼らの計画に必要な器であるアンリを奪うために襲撃してきたのであった。
そんな敵の拠点にエンリベルの主人であるシュウが乗り込み、情報を入手している間にアンリ達を守る任を与えられたのであった。
本来ならば自分も彼について行き、そのサポートを行う予定だったのだが、主人から「任せた」と言われこの場に残る事を決めたのであった。
例え敵が強くとも、自身の主人が最強である事を信じているエンリベルは彼が敗北するという考えは微塵もなかった。
なにより、後輩であるシュウの配下の内一体が付いて言っているため、負ける事など万が一にもあり得ないの事なのだ。
そんなエンリベルの【感知】に1人のプレイヤーが引っかかる。
その方向、正面の建物の屋根の上を見てみると、月を背後に立っているプレイヤーがいた。
『ふむ、今夜は来客が多いな』
「君には用はない、悪いけど退いてもらえるかな?」
外套に隠れて顔は見えないが、声からしてどうやら若い男のようだった。
『クカカカ!残念ながら主様の命によりここを通すわけにはいかん!』
エンリベルがそう言うと相手は溜息を吐いて、屋根の上から飛び降りる。
男が着地するタイミングを見計らってエンリベルは3本の闇色の剣を創造し、放つ。
3本の剣は男を貫き、裂く…はずだった。
飛んで言った剣は全て、男の目の前で真っ二つに割れ、靄へと変化すると、そのまま闇の中に溶けるように消える。
その中心に立つ男の手には、装飾の施された薄い蒼銀色の片手剣が握られていた。
『なかなかのモノだな』
「はははっ、あのくらいなら余裕だよ」
『そうか、それは良かった【黒器】』
エンリベルが手を掲げると、更に数十本の闇色の剣が生み出される。
驚愕の表情を浮かべる男目掛けてエンリベルが手を振り下ろすと、男目掛けて数十本の剣は一斉に射出される。
男はギリっと歯を鳴らすと、剣を構え直し、リアルではあり得ないような速さで次々と闇色の剣を切り裂いていく。
そして、最後の一本を切り裂くと同時に爆発的なスピードでエンリベルへと突っ込んでくると、下から斬りあげる。
咄嗟に【黒器】で盾を生み出してガードしようとしたエンリベルだったが、ゾクッとする感覚を覚えその身を思い切り反らすと、男の剣は盾をやすやすと斬り裂き、エンリベルの右腕を斬りとばす。
斬り飛ばされた腕が地面に落ちると、そこから黒い靄が発生する。
エンリベルやフラジールなどの不死者と呼ばれるタイプのモブは通常のモブとは違い、腕や足を切断された程度の損傷の場合、切断された部位を近づければ再生するのだ。
そのかわりと言ってはなんだが、回復魔法やHP回復ポーションを使用するとダメージを受けてしまう。
その為、彼らの回復方法はかなり特殊なのだ。
例えば、フラジールは魂を食べることによる回復、エンリベルは外部から魔力を取り込むことで再生するのだ。
しかし、エンリベルは腕を再生しようとはしなかった。
欠損部位を再生する場合、僅かな時間だが隙が生まれる。
そうなれば最後、エンリベルは目の前の男の剣によって真っ二つにされるだろう。
相手も当然それを理解しているようで、油断なくエンリベルの隙を伺っていた。
(アレを使うしかないようだな…)
エンリベルは残った左手を自身の胸の中心からやや左、人間でいう心臓の位置に置くと、そのまま自身の胸を貫いた。
バリバリと骨が砕ける音が鳴り、血液の代わりに大量の黒い靄が溢れ出す。
ズルリと引き抜いたエンリベルの手には、生々しく脈動する青黒い球体が握られていた。
それこそ不死者達の心臓とも呼ぶべき魔力供給機関『魔核』だった。
エンリベルはそれをグッと握りしめると、魔核にヒビが入り膨大な魔力が溢れ出す。
「…何をしている?」
『クカカカ、小僧。貴様が知る必要はない。…そろそろ良さそうだな。【夜明】』
「ガハッ…!」
エンリベルがスキルを発動した瞬間、何もない空間からいきなり針が飛び出し、男の腹を貫く。
更に無数の黒い紐のようなものが現れて男を縛ると、エンリベルは男から剣を奪い取る。
エンリベルが【鑑定】を行うと、武器は固有武器のようで『聖剣エクスカリバー』と名称が現れていた。
エンリベルはそれを自身の影に放り込むと、縛られて地面に転がりながらこちらを睨む男_ライトを見る。
「くそッ!卑怯者が!」
『敗者ほどその言葉を使いたがるものだ。矮小なる者よ、今は眠るがいい』
エンリベルの腕から漏れ出た靄がライトの口元を覆うと、その意識を刈り取る。
それと同時にエンリベルも地面に膝を着く。
(予想以上に魔力の消費が激しい…。魔核の修復にもそれなりに時間がかかるだろうな)
切断された腕を回収し、切断面をくっつけていると、エンリベルの索敵範囲内にあるプレイヤーの反応が入り込む。
『【影の牢獄】』
エンリベルが地面に掌を当てるとそこから黒い影が広がり、気絶したプレイヤー達がその中にズブリと沈んでいく。
「んぇ〜?えんりべるさん、なにしてりゅんですかぁ〜?」
『いえ、なんでもございませんよ。ほらほら、そんなに酔っ払って…。さ、行きましょう。アンリ殿』
空っぽのワイングラスを片手に、頬を赤く染めてふらふらとした足取りで歩いてきたアンリの呂律の回らない問い掛けを軽く流して、エンリベルは彼女を解放しつつ会場へと歩いて行くのであった。
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