Creation World Online
第65話
渓谷エリアに着いた俺達は、目の前で起こっている出来事に自分の目を疑った。
『クォオオオオン!』
「ハッハァ!どうしたどうしたァ!ヌルいぞ!」
怒りの咆哮を上げ、雷鳴を纏いながら1人の男性プレイヤーを殺そうとしているのは、谷底エリアに住む現時点で最強のエリアボスであるクルークルだった。
しかし、その姿は実に酷いもので生半可な剣や魔法は弾いてしまうであろう強靭な黒鱗は所々剥がれ落ち、空の支配者たる象徴の翼は飛膜を切り裂かれて使い物にならなくなっていた。
そんな竜の主の前で高笑いをしているのは迷彩柄のジャケットを羽織った片手斧使いの男_【戦闘狂】シラだった。
『クルォオオオン!』
「おっとォ!いいねいいね!そう来なきゃなァ!?」
飛んできた雷弾を片手斧で受け止め、後方に跳んで勢いを殺すと地面に跡を残しながら静止する。
「おい!なんだこの状況!」
「ん?おっ!鬼畜の!いや、なに強い奴がいるって聞いたんでなァ!ちょっくら相手してもらおうと思ってよ!」
「お前は…って!前!」
俺の問いかけにヘラヘラと笑って答えるシラを見て、好機だと思ったのかクルークルの口内が光りブレスを吐き出そうとしたところで、ズガガガガッ!とクルークルの横っ面に何かが多段ヒットすると、口の向きを強引に変えられてブレスは明後日の方向へと放たれる。
「おっ、確かにそろそろ終わらせないとなっ。【断投】」
弧を描いて空を舞ったシラの手斧が、まるで意思を持った生き物のようにクルークルの首の肉を削ぎ落とし、最終的に首に深々と突き刺さる。
流石に首を落とすまでは行かずとも、首の中腹まで深々と突き刺さった手斧によってクルークルは絶命。
光の粒子となって消え去った。
すると、近くの岩の上に何かが着地する音が聞こえた。
そちらを見れば、深緑のフード付きのコートを羽織り、深緑のヘルメットを被り、大きゴーグルをつけ、黒光りする大きな銃を担いだファンタジー感皆無の装備を纏った男が立っていた。
「おお、お疲れ。やったな!」
「はぁ…兄さん。いつも言ってるだろ、戦闘中によそ見をするなって。今回だって危なかったんだよ?わかってる?」
「悪かったって!いや、でも実際助かったぜェ。流石ユトだな」
ヘラヘラとシラが笑うと、ユトは溜息を吐いて地面に降り立つ。
「全く…シュウさんお久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。中々に苦労してるみたいだな」
「全くですよ…ところでシュウさん、そろそろアイテムの在庫がないので売ってもらっていいですか?」
アイテムというのは、俺が作成した【状態異常を引き起こすビンシリーズ】の改良版で、名を【簡易手榴弾〜状態異常を添えて〜】という。
名前に関しては完全に俺の悪ふざけだ、だが効果と扱いやすさは格段に向上していて、盗賊系統職のプレイヤーからは注文が殺到している。
ユトはこのアイテムを俺が初めて使用した攻略者パーティーを選定する大会_通称『初代選定戦』の頃から目をつけており、割と早い段階から売ってくれと言ってきていたのだ。
なのでユトは今現在、俺が納品している数少ない取引相手の1人なのだ。
「わかった、予算は?」
「じゃあ…80万でお願いします」
俺が予算を尋ねると、少し悩んだ末にそれだけの値段を提示してくる。
となると…80個ってところか。
「それだと80個だな」
「えっ、でもそれだとお金足りなくないですか?1つあたり1万5千だったんじゃ…」
「いいんだよ、友達だからな。安くしといてやる」
「それでも申し訳ないです…そうだ」
ユトがエアディスプレイを操作すると、アイテム受け取りの確認画面が目の前に表示される。
確認してみるとそこには黒竜の素材がいくつか入っていた。
「おいコレは…」
「足りない分のお代だと思ってください。シュウさんがオレのことを友達だと思ってくれてるのと同じように、オレもシュウさんのことを大事な友人だと思ってるんです。だからこそこういったところはきっちりしときたいんです」
これは何を言っても無駄だな。
こうなったユトは絶対に譲らない、それなりに長い付き合いでそこら辺は察している。
「わかった、それならこの素材はありがたくもらっておく。そしてアイテムなんだが…今手元にあるのが32個なんだ。いつもの【毒】と【麻痺】でいいんだよな?」
「はい、それであってます。じゃあ、お金だけ渡しておきますね」
「おう、それじゃ後で屋敷まで取りに来てもらっていいか?」
「はい、それではまた。兄さん、行くよ」
「おお、終わったか。それじゃ、鬼畜の今度俺とまた戦ってくれよ」
ヒラヒラと手を振りながら2人は街の方角へと歩いて行った。
さてと、危険もあの兄弟が排除してくれたわけだし俺達も狩を始めるかな。
☆
「よっ、と…ふぅ」
10体目のリトルワイバーンの喉笛を風の刃で掻っ切った俺は、一旦休憩をすることにした。
周囲は、アンリやナクと共に狩り続けた為、リトルワイバーンの姿は殆どなかった。
再出現までそれなりに時間はあるみたいだし、アンリ達の観戦ってのも悪くないだろ。
手頃な岩に腰掛けて観戦をすることにした。
「行きますよー!【ファイア】【セーブ】【コピー】」
火の初級魔法であるファイアを発動したアンリがそれに対して固有技能【セーブ】を発動すると、小規模な魔法陣が発生し火球を呑み込む。
そして、固有技能【コピー】によってドンドン増えていく。
「さあ!トドメですよ!【ロード】」
その瞬間、全ての魔法陣から同じサイズの火球が飛び出しリトルワイバーンを焼き尽くした。
まるでサイカみたいな戦い方だな。
さてと、次はナクか…
「んっ、止まれ【空縫】」
ナクの固有技能である【固定魔術】によって動きを封じられたリトルワイバーン。
最近【固定魔術】のスキルレベルが上がって固定時間が長くなったと言っていたな。
「歪め【空崩】」
パチンと、ナクが指を弾くとリトルワイバーンの胴体がズレて絶命する。
エゲツない技だな…
「あー、疲れましたー」
「休憩」
戦闘を終えた2人は岩に腰掛けると、手で自身の顔を扇ぎ始める。
スッと掌を上に向けて俺は風魔法でそよ風を起こす。
「おぉう…涼しいですね…」
「涼しい、風魔法を取るか悩むレベル」
「そんな理由で選ぶなよ…いや、認められて嬉しいんだけどさ」
『第6界層が攻略されました。国家システムが解禁されます。それでは残り84界層頑張ってください』
突然6界層攻略のアナウンスが鳴り響き、勝手に展開されたエアディスプレイのコミュニティメニューに【所属国会:ナシ】の欄が追加された。
おっ、攻略されたのか。意外と早かったな。
必要数も狩り終わったわけだし、そろそろ帰るとするか。
こうして俺達は合計38体のリトルワイバーンを討伐して、多額の報酬を手に入れたのであった。          
『クォオオオオン!』
「ハッハァ!どうしたどうしたァ!ヌルいぞ!」
怒りの咆哮を上げ、雷鳴を纏いながら1人の男性プレイヤーを殺そうとしているのは、谷底エリアに住む現時点で最強のエリアボスであるクルークルだった。
しかし、その姿は実に酷いもので生半可な剣や魔法は弾いてしまうであろう強靭な黒鱗は所々剥がれ落ち、空の支配者たる象徴の翼は飛膜を切り裂かれて使い物にならなくなっていた。
そんな竜の主の前で高笑いをしているのは迷彩柄のジャケットを羽織った片手斧使いの男_【戦闘狂】シラだった。
『クルォオオオン!』
「おっとォ!いいねいいね!そう来なきゃなァ!?」
飛んできた雷弾を片手斧で受け止め、後方に跳んで勢いを殺すと地面に跡を残しながら静止する。
「おい!なんだこの状況!」
「ん?おっ!鬼畜の!いや、なに強い奴がいるって聞いたんでなァ!ちょっくら相手してもらおうと思ってよ!」
「お前は…って!前!」
俺の問いかけにヘラヘラと笑って答えるシラを見て、好機だと思ったのかクルークルの口内が光りブレスを吐き出そうとしたところで、ズガガガガッ!とクルークルの横っ面に何かが多段ヒットすると、口の向きを強引に変えられてブレスは明後日の方向へと放たれる。
「おっ、確かにそろそろ終わらせないとなっ。【断投】」
弧を描いて空を舞ったシラの手斧が、まるで意思を持った生き物のようにクルークルの首の肉を削ぎ落とし、最終的に首に深々と突き刺さる。
流石に首を落とすまでは行かずとも、首の中腹まで深々と突き刺さった手斧によってクルークルは絶命。
光の粒子となって消え去った。
すると、近くの岩の上に何かが着地する音が聞こえた。
そちらを見れば、深緑のフード付きのコートを羽織り、深緑のヘルメットを被り、大きゴーグルをつけ、黒光りする大きな銃を担いだファンタジー感皆無の装備を纏った男が立っていた。
「おお、お疲れ。やったな!」
「はぁ…兄さん。いつも言ってるだろ、戦闘中によそ見をするなって。今回だって危なかったんだよ?わかってる?」
「悪かったって!いや、でも実際助かったぜェ。流石ユトだな」
ヘラヘラとシラが笑うと、ユトは溜息を吐いて地面に降り立つ。
「全く…シュウさんお久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。中々に苦労してるみたいだな」
「全くですよ…ところでシュウさん、そろそろアイテムの在庫がないので売ってもらっていいですか?」
アイテムというのは、俺が作成した【状態異常を引き起こすビンシリーズ】の改良版で、名を【簡易手榴弾〜状態異常を添えて〜】という。
名前に関しては完全に俺の悪ふざけだ、だが効果と扱いやすさは格段に向上していて、盗賊系統職のプレイヤーからは注文が殺到している。
ユトはこのアイテムを俺が初めて使用した攻略者パーティーを選定する大会_通称『初代選定戦』の頃から目をつけており、割と早い段階から売ってくれと言ってきていたのだ。
なのでユトは今現在、俺が納品している数少ない取引相手の1人なのだ。
「わかった、予算は?」
「じゃあ…80万でお願いします」
俺が予算を尋ねると、少し悩んだ末にそれだけの値段を提示してくる。
となると…80個ってところか。
「それだと80個だな」
「えっ、でもそれだとお金足りなくないですか?1つあたり1万5千だったんじゃ…」
「いいんだよ、友達だからな。安くしといてやる」
「それでも申し訳ないです…そうだ」
ユトがエアディスプレイを操作すると、アイテム受け取りの確認画面が目の前に表示される。
確認してみるとそこには黒竜の素材がいくつか入っていた。
「おいコレは…」
「足りない分のお代だと思ってください。シュウさんがオレのことを友達だと思ってくれてるのと同じように、オレもシュウさんのことを大事な友人だと思ってるんです。だからこそこういったところはきっちりしときたいんです」
これは何を言っても無駄だな。
こうなったユトは絶対に譲らない、それなりに長い付き合いでそこら辺は察している。
「わかった、それならこの素材はありがたくもらっておく。そしてアイテムなんだが…今手元にあるのが32個なんだ。いつもの【毒】と【麻痺】でいいんだよな?」
「はい、それであってます。じゃあ、お金だけ渡しておきますね」
「おう、それじゃ後で屋敷まで取りに来てもらっていいか?」
「はい、それではまた。兄さん、行くよ」
「おお、終わったか。それじゃ、鬼畜の今度俺とまた戦ってくれよ」
ヒラヒラと手を振りながら2人は街の方角へと歩いて行った。
さてと、危険もあの兄弟が排除してくれたわけだし俺達も狩を始めるかな。
☆
「よっ、と…ふぅ」
10体目のリトルワイバーンの喉笛を風の刃で掻っ切った俺は、一旦休憩をすることにした。
周囲は、アンリやナクと共に狩り続けた為、リトルワイバーンの姿は殆どなかった。
再出現までそれなりに時間はあるみたいだし、アンリ達の観戦ってのも悪くないだろ。
手頃な岩に腰掛けて観戦をすることにした。
「行きますよー!【ファイア】【セーブ】【コピー】」
火の初級魔法であるファイアを発動したアンリがそれに対して固有技能【セーブ】を発動すると、小規模な魔法陣が発生し火球を呑み込む。
そして、固有技能【コピー】によってドンドン増えていく。
「さあ!トドメですよ!【ロード】」
その瞬間、全ての魔法陣から同じサイズの火球が飛び出しリトルワイバーンを焼き尽くした。
まるでサイカみたいな戦い方だな。
さてと、次はナクか…
「んっ、止まれ【空縫】」
ナクの固有技能である【固定魔術】によって動きを封じられたリトルワイバーン。
最近【固定魔術】のスキルレベルが上がって固定時間が長くなったと言っていたな。
「歪め【空崩】」
パチンと、ナクが指を弾くとリトルワイバーンの胴体がズレて絶命する。
エゲツない技だな…
「あー、疲れましたー」
「休憩」
戦闘を終えた2人は岩に腰掛けると、手で自身の顔を扇ぎ始める。
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「おぉう…涼しいですね…」
「涼しい、風魔法を取るか悩むレベル」
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