女神の加護を持つ死神

つうばく

聖女と妖精族

「キラリ様。この度は本当にありがとうございました!」

 ボロボロになった広い部屋。
 額縁に飾られていた絵は破け、タンスはひっくり返り物が散乱し、ベットが壊れ周りには羽の様な物が落ちている。
 そして真ん中には、ボロボロになった者達がロープで縛られていた。

 そんな光景の中、キラリの目の前には、もう90度以上って程までに深々と頭を下げている、完全に自分の立場を忘れていらっしゃる聖女がいた。

 キラリはきょどりながらも、聖女の言葉に返事を返す。

「大丈夫だって! だから、早く頭を上げてくれ!」
「いえ、唯の依頼だったはずなのに、こんな事件に巻き込んでしまって……それに私を助けてももらったのです! これぐらいじゃ全然足りません!」
「お、おう、そうか」
「だから、絶対に顔は上げません!」

 いや、それは違うだろ! という突っ込みをキラリは心の中でしていた。
 感謝を仕切れないからって頭を上げないのはどうかとも思うが、それ程までに感謝しているという、少しズレている聖女の精一杯の感謝なのだろう。
 そう思う事で、キラリは少しだけだが納得をした。

「とりあえず、本当にもう良いんで頭あげてください。お願いします」
「……そこまでキラリ様に言われては仕方ないですね」

 そんなことを言いながら、頭をあげる聖女。
 そんな聖女の行動に、キラリもほぉっとした様子を見せた。

 それには聖女を助けられてよかったと気持ちなど色々な感情が含まれていた。

 聖女の意図に気付き、聖女を助けに来たキラリだが、実際のところ結構ヒヤヒヤとしていたのだ。
 ラノベ主人公の様に、ギリギリで現れるのは絶対にしないでおこうと決意していたキラリなのだが、実際の所は現れた時は、結構危ない場面だった。

 一秒でも遅れてたら本当にダメな状況だった。

 そんな状況だったからか、戦闘だけは素早く終わらせて、聖女に安心してもらおうとしようとはしたのだが、護衛隊長の行動がいちいち腹立たしく、絶対にキレないでおこうっと思っていたのに、キレてしまった。

 しまいには、護衛隊長だけでなく周りで寝ている奴にも八つ当たりをしてしまったのだ。

 絶対に引かれた。
 そう思ったのだが、意外と聖女はキラリの事を引いてはいない様子だったので、良かった良かったという様な感じであった。

 自分がキレた時は結構ヤバいんだな、と再確認したとも言えよう。
 ちなみに最近でキレた時は、アルがキラリにちょっかいを出した時であった。

 ……意外とキレ症なのか? とキラリは悩むのであった。

「キラリ様」

 聖女のキラリを呼ぶ声。その声に反応し、キラリは考え事を一旦やめた。
 そもそも考え事とも言えない様な内容なのでは? という超冷静なソラさんの声はスルーして。

「護衛隊長が犯したこの失態は、私にも原因があると思っています。なので、この方達の身柄は私が処分を下しても良いですか?」

 確実に聖女は何も関係ないだろうに。
 そうキラリは思うが、聖女もこの事に責任を感じているのだろう、とも思い、口に出すのを止めておいた。

 その代わりに、

「分かった。あとの事は全て聖女様に任せる」
「はい、ありがとうございます。……それとですが」
「……? 何かあった?」

 そうキラリが何の事? という様な感じで返すと、聖女は笑顔を見せながら、言った。

「私のことは聖女ではなく、イリスと呼んでください!」
「え?」

 あの話マジだったの? と言いたげな様子を見せるキラリ。
 だが、そんなことは御構い無しと言わぬがばかりに、聖女は話を続ける。

「ですからイリスとお呼びください! あっ、アデルと呼んでくださっても構いませんが、それはキラリ様のお住まれていた国でいう苗字ですので、出来ればやめていただけると……いや、キラリ様に呼んでもらえるなら、それでもアリかも……!?」
「いや、アリなわけないだろ!」

 聖女ーーイリスのもう何とも言えぬ様な凄い発言にキラリは思わず突っ込みを入れてしまった。
 まさか、それが駄目な一言とは思いもせず。

「アデルは駄目なのですね! ではイリスと呼んでくださるという事ですよね!」

 キラリが後ろにどんどん下がっていると知りながらも、イリスはどんどんとキラリに詰め寄る。
 次第に壁まで行きそうな勢いだったので、キラリはどうにか止めようとソラさんの知恵を借りようとするが……

『御自身でどうにかしてください』

 と、なんとも冷たい反応をされてしまった。
 詰まる所、これはソラさんでも対応仕切れないから逃げた、という事なのだ。

「あっ、もうこれ無理だわー」となんとも情けない表情をしながら、思うキラリ。
 仕方ない、と心を決め、キラリは小さくだが言う。

「……イリス……」
「はいッ!!!」

 とても元気な声で返事をしてくださったなぁー、とキラリはもう心ここに在らずと言う様な感じの表情ながらも思った。
 それでもニッコリとしているイリスを見て、「まぁ……良いか」と思ってしまうのであった。

「では、私はキラリ様ではなく……あなた様とお呼びしますね!」
「それだけは止めてくれ!!」
「はい! あなた様!」
「……話聞いてねぇー」

 思わずそう言ってしまったが、イリスは「きゃー! 言っちゃったぁー!」と言う様な感じで頬を赤らませながら、テンション高めで喜んでいた。
 ……つまりは全く聞いていなかったのである。

 流石のキラリもお手上げという状態であった。
 とりあえずやめてはもらおうと何度も挑戦したが……

「やっぱり私には『あなた様』などと呼ぶ資格がありませんか?」

 と、上目遣いで可愛らしい目を涙目にしながら言ってくるので、断るにも断りきれず。
 結局は『あなた様』と呼ぶことを許してしまった。



 ーーこれ、絶対に後で怒られるわー



 キラリはそう心で思い、今の内から覚悟を決めるのであった。

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