女神の加護を持つ死神

つうばく

聖女の護衛 11

「ハハ。ハハハ。ハハハハハッッ!!」

 そんな奇妙であり、不気味であり、気持ち悪いと感じる声を護衛隊長はあげた。

 いや、護衛隊長ではない。

 もう護衛隊長という名の彼は消えた。完全に力に呑み込まれている。

 聖女もそれを気付いたのだろう。僅かだが、頬の辺りに透明な雫が流れていた。今まで共にしてきたであろう者が、行って仕舞えば死を迎えたのだ。
 こうなってしまうのも仕方のない事なのだろう。

 だが、聖女はしっかりと自分の今の立場を弁えている。今は戦闘中であり、そんな感情に浸っている場合ではないと。

「今の私は最強だぁアアアアア!! 貴様ら如きがこの私に叶うとでも思っているのかぁアアアアア!!」

 もう護衛隊長の声さえもが消えていた。

 聖女はその事に、涙を流したいと一瞬思ったが、なんとか耐え、前を振り向く。


 ……だが、こんな状況でさえキラリは「自分で死亡フラグたててんじゃん」と呟いた。

 これにはソラさんは『この状況で何を仰ってるのですか?』と冷たい言葉を浴びせた。聖女に至っては首を傾げているし、もう護衛隊長ではなくなった化物は「……」という感じである。

 こんな状況でもいつもと変わらないキラリであった。



 だが、それがきっかけで聖女は落ち着きを取り戻していった。

 仲間であるキラリがまだ諦めていない。そう思う事で聖女の心はどんどんと正常の時の様に戻って行く。

 聖女の落ち着きが戻って行くのが分かり、キラリは作戦通りと心の中で呟いた。
『偶々ですよね?』なんていうソラの遠慮の無い突っ込みは無視して。

「……き、貴様ッ! この状況で何をほざいているんだぁアアアアア!!」

 物凄い遅れで、化物がキラリに突っ込みをする。

 ここまで遅れてくると、もう逆に凄いなぁ、なんていう意味不明な感心をしているキラリを放っておき、聖女が化物の言葉を返す。

「貴方こそ、立場を分かってないのですか! 私たちを襲えばどうなるかなんて分かっているでしょう!」

「フハハハハハ!! 私は魔人族に協力をしている身だ。もう人間としての立場など捨てたわぁアアアアア!!」




 嘲笑う様に化物は嗤う。




 その笑い声をキラリは……とても不愉快だ。

 そう感じた。




 ーーだから、




「フハハハハハ…………………は?」

 化物の右肩から先が綺麗に、一滴も血を垂らさずに無くなっていた。それも切られたことを自覚していない様に。

 そしてキラリの右手には神度剣が。
 左手には、真っ赤な切り口がある長い棒……もとい化物の右肩から先にあるはずだった手があった。


 隣にいる聖女でさえ、キラリが動いた、なんて事を分からなかった。
 今、キラリが左手に化物の手を持っているから気付いたのである。

 化物も、目の前にいる、キラリが持っている物を見て気付いた。

 脳もそれで自覚したのだろう。





 自分が切られたという事実を。




 その瞬間に切り口からは血が吹き出し、瞬く間に床が血の海と化していく。

「あぁー、悪い。本当は一撃で決めようって決めてたんだけどなぁ? ちょっと考えが変わったわ」


 化物も、それに聖女でさえ感じた。


 三日月の様に嗤うキラリを見て。



 ーーこの人間は、人間とは違うと




「ーー存分に痛めつけて……殺してやるよ」

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