ヘーニルの半日

「何故、我は主人の誘いを断ったんだ！　どうして一人で村をまわってみたいなどと言ったのだ……まぁ、今更嘆いても仕方がないか」

　我は数十分前から、自分の行為に嘆きまくっている。
　それは、主人が一緒に村をまわってみないか、と誘ってくれたのを照れるのが勝ってしまい、やめておく、一人でまわってみたいなどと口にしたのだ。

　主人は優しいお方、本当に良いのかと何度も聞かれた。
　しかし、全て断ってしまい、主人は呆れたのか、ソラと一緒にどこかに出かけてしまった。
　そうして、我は部屋で一人ボッチとなってしまった。

　いや、する事がない訳ではない。
　主人と一緒にいるためには強くならなくてはいけない。
　そのための訓練などをしても良いのだが、何だか気が湧かない。

「……気分を変えるために、外に出るとするかぁ……」

　我は、主人から、何かあった時のためと渡されたお金を持って、外へと出た。

　村はそれなりに発展しているので、街ともほぼ変わらない。
　商店街があったり、飲食店があったり、武器屋があったり、冒険者ギルドがあったりと本当に街ともほぼ変わらない……もしかしたら、この村の方が発展しているかもしれない。

「……冒険者ギルドでも行ってみるか。もしかしたら面白いのがあるかもだし」

　そう思い、我は冒険者ギルドへと向かった。
　意外と宿からも近く直ぐに着いた。

　冒険者ギルドは見た感じ意外にも小綺麗だった。
　もう少し、汚く荒れていると想像していたのに。

　我は、早速建物の中へ入ってみることにした。
　扉は両開きの扉で、大きかった。

　この扉を押し、私は中へと入った。

　中には、宿のロビーよりも綺麗な部屋が広がっていて、ソファーが沢山向かい合わせに置かれていた。
　そこには、中年の男性が座っていたり、体格の良い男性が座ってたり、奥には女性もいた。
　そして、真ん中にはこの中で一番の覇気を放つエルフが、一人座っていた。

　しかし、他にも人はいるのだが、その人々はカウンターの横に置いてある、ある物の周りに集まっていた。
　私は、あれが何なのかと、カウンターにいた受付に聞いた。

「あれは、ゲームと呼ばれる物でございます。最近、勇者の方々が広めた物だそうです。ルールは至って簡単で、やる前にあの台に銀貨を入れます。するとゲームが開始されます。そして、剣を持っているサムライ、と呼ばれるパペットが端っこにいます。あのパペットを時間以内に倒し、後ろにあるボタンを押せば勝利です。しかし、敗北すると、入れたお金は戻って来ません。しかし、勝利するとーー」
「今まで敗北して来た者の金が貰える。そいう訳だな」
「はい。おっ刺しの通りです。余談ですが、あのゲームはまだ誰もクリアをしていません。なので、やられるなら、勝利すると、凄い量のお金が手に入りますよ」

　このゲームは面白そうだ。
　簡単に言えば、一種のカジノだろう。

　我は、暇潰しにこれをやることに決めた。

「あれをやってみようと思う」
「分かりました。では、あの方のお次でお願いします」
「あの者の次だなぁ。分かった」

　私は、今あのゲームをしようとしている者の後ろへと来た。
　この者を良く見ると、さっきのこの中で一番強い覇気を放っていたエルフだった。

「この者だったら、行けるのかもな。私の出番はないのかもしれぬな」

　我は小声で、そう言った。
　その時にエルフが一瞬、我の方へと振り返った。
　そして、多分、ウインクをした。

　これがカッコ良いとでも思っているのだろうか？　我は質前的にそう思ってしまった。
　しかし、このエルフは小声のは聞き取れた様だが、我の頭の中での考えまでは読み取れない様だった。

　そして、エルフはお金を台に入れて、ゲームのフィールドの中へと入っていった。
　それと同時にサムライは動き出した。

　目にも止まらぬ速さで、剣を抜き、エルフを斬りかかった。
　しかし、エルフは身軽な生き物だ。
　それをスルリとジャンプして交わした。

　しかし、あのサムライのパペットも中々やる様だった。
　上へと行くことを予測していたかの様な動きで攻撃を開始した。

　そこからは、正に一方的な戦いだった。
　エルフはあのパペットに攻撃を出来ないまま時間切れと最後はなった。

　周りの人達は戻って来たエルフに、「惜しかったな、ルーシー。今回は結構良い戦いだったんじゃないか」
　とか「もう少しだったな」などの励ましの言葉を掛けていた。

「あれは、ここのギルドの序列三位のルーシーです。あの方は強いです。しかし、あの方でもあんな戦いしか出来ないのです。今なら止めれますよ」

　さっきの、受付にいた女性が我に近付いてきてこう言ってきた。
　こう言えば、怖気付き逃げるとでも思っているのだろうか。

　それに、周りにいた者達からも、「嬢ちゃんは止めとけ」や「怪我してしまうぞ〜」更には、「あんなガキが出来るわけ無い」などど言われた。

　これは、ある意味、舐められてるという訳だ。
　こんな状況で我が、燃えない訳がない。

　やってやる、そう心で思い、我は台にお金を入れた。
　そして、ゆっくりとフィールドへ入った。

　このサムライ型のパペットは、さっきと同じ様に目にも止まらぬ速さで剣を抜いた。
　しかし、そう見えるのは、この野次を飛ばしている者達だけであろう。

　この時には既に我はボタンを押していたのだから。

　フィールドが黄色く光りだし、上にはクリアという文字が出てきた。
　これを見たのか、さっきの野次を飛ばしていた者達、それに、このギルドにいる者全ての物が急に黙り込んだ。

「さっきの受付の女性〜。これでクリアなのか？」
「「「「「「「見たら分かるだろおぉぉおおーー！！！」」」」」」」
「何故、お前らが言うんだ？　我は受付に聞いておるんだが、なぁ〜」
「あっ、はい。これでクリアの筈です？　お金は今から渡すので少し、あのソファーでお待ちください」

　我は、挙動不審となっている受付に聞いた。
　しかし、何故なのか、野次を飛ばしていた奴らが応えた。

　これは、わざと何だが。
　訳は、さっきの舐められてるにが気に食わなかった、からだ。

　あまり、可笑しく思われない様に我は、受付の言う通りソファーに座った。
　周りに座っていた者の達は、直様、違う場所へと行った。

　……気持ちが良いなぁ、これは。
　人を見下す気分になれる

　そうして、数分が経った頃、さっきの受付が我の元へと近付いて来た。

「あの〜、お金を渡したいので、ついて来てもらっても良いですか？」
「ああ、分かった。案内頼む」

　我は、前を歩く受付の後をついて行った。

　そして、階段を上がって行き、廊下を歩いて行って、一つの部屋へと辿り着いた。
　受付は扉を、コンコンッ、と二回ノックをした。

「開いてる。入って良いぞ」

　中からは、大人の男性の声がした。

「失礼します。ゲームのクリア者を連れてきました」
「ご苦労。戻っても良いぞ」
「かしこまりました」

　そう言い、受付は扉を開け、戻っていた。

　我の目の前にいる、者は強い。
　そう、感じさせる覇気を放っていた。

「お前があのゲームをクリアした者か。あれをクリア出来る感じが全くしないんだがなぁ。まぁ、それも神だからか？　神は人間とは違う覇気を放つというからなぁ」

　まさか、神という事が知られているとは……予想外だったなぁ。

「その通り、我は神だ。正式には邪神だな。名はヘーニルだ。お前は……」
「俺か、俺はグロッカス。ここのギルマスだ」
「成る程、ここの管理者か」
「そう考えてもらっていいぞ。……そうか、邪神か」

　このグロッカスと言う奴はギルマスという事もあり凄い覇気だ。
　もしかしたら、一番下の位の神にならば並ぶかもしれない、という程に。

「それで、賞金はーー」
「勿論渡す。しかし、大金が大金だけに、お前では持ちきれぬと思うのだが……そこも、神ならば何とか出来るのだろ」
「ああ、お金やアイテムなどをしまうのがあるぞ。だから心配はいらん」

　そう言って、グロッカスは違う部屋からお金を取りに行った。
　しかし、何も持たずに戻って来た。

「すまん。こっちに来てくれ。持ちきれん」
「分かった。じゃあ少し、出てくれ。ちょっとじゃまだからな」
「そうか、分かった」

　そう言って、グロッカスは部屋から出てきた。
　それと入れ替わる様に我が入っていった。

　我は山の様に積んである、銀貨に手を向けた。
　すると、一瞬にして銀貨の山が消えた。

「額は……十億八千万。銀貨だと、十億八千枚か。多いのか？」
「いや、それでもまだ、半分にも行っとらん。こっちの部屋にもあるぞ」
「じゃんじゃんこーい」

　我はそうしてお金を仕舞っていった。
　そうして、三部屋分、全てのお金を集め数えると、丁度六十億アースだった。
　いや、少し、残っていたがそれはギルドへ上げると言って置いておいた。

「悪いなぁ。お前の金なのに」
「気にするなぁ。そんなに金があっても要らないし」
「そうか。じゃあ、暇になったら来いよ。歓迎してやる」
「ああ、多分、またここに来ると思うぞ」
「そうか」
「ああ、こんな場所があると知ったら、絶対来る人を知ってるからの」

　そう言って、我は冒険者ギルドを後にし、集合場所の宿の食堂へと向かった。