Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第15話:決戦■




「な、何ですかぁ!?この光はぁ!!!?!?」

ピクセルが裕翔の体にレイピアを突き刺した瞬間、銀の炎が吹き出し、ピクセルを驚愕させた。
裕翔の体は炎を吹き出しながら、胸部から引っ張られるように持ち上がり、レイピアが刺さったまま、糸で吊るされたあやつり人形のように、ふらりと立ち上がった…
立ち上がった裕翔の目は、瞳は見えない…
それほど目元を隠す程長くは無いはずの前髪が目元に不穏な影を生み出し、目は疎か、表情さえも、その不穏な影が隠していた…

「…ピクセルと言ったか…其方…?」

裕翔は“口元を動かさずにそう言った”…
ピクセルは驚愕のあまり、口を開いたまま、ただ、自分の握るレイピアに突き刺さりながら話す裕翔を呆然と見ていた…

「何も言わぬか…」と裕翔が言った後、ふらりと腕が持ち上がり、レイピアの刃を握る。
すると、バキッ!!と鈍い音を響かせ、握ったレイピアを刃をへし折った…
へし折った手のひらからは血など一切垂れず、その代わりに、手の甲に鱗のような亀裂が刻まれ、その亀裂の隙間から銀の炎が漏れだしているのが、ピクセルの目に映る…

「ま、まさか…」とピクセルの口から漏れだした…
その言葉が口から漏れだしたのは、裕翔の手の甲の亀裂を見た直後だった…

すると、裕翔はこう言った…

「宿主よ、“我の魔の力を其方に授ける”、その詠唱を我の力で其方の頭に刻み込んでやる…存分にもてなしてやれ…“白銀騎士ヴァイス・リッター”よ…」

裕翔はゆっくりと、顔を上げ、満月に照らされたその“銀の瞳”でピクセルを睨んだ…

「ああ、分かった…」

そう答えると、自然と頭に浮かぶ呪文を唱えた…

「我、天の支配し、神に贖う者、この体、この魂、この世の全てを捧げる。我の全ては精霊王を倒すために。
龍に尽くし、生きる物全てに終焉をもたらしたまえ…」

呪文を唱えるにつれ、体から銀の鱗粉が円を描くように吹き出し、天に舞い上がる。
それは幻想的でありながら、恐ろしくもある光景だった…

裕翔が呪文を唱えている間、瞳から黒色が抜けていき、左目は“銀”、右目は“水色”に輝いた…


「…美しき“氷の刃”、その斬撃で我が道を造りたまえ!!顕現せよ!!!我の力の元に!!!!!!《聖剣創造者ホーリーソード・クリエイター》!!!!!!!!!!!!」


そう叫んだ瞬間、点に待っていた銀の鱗粉が一斉に裕翔の目の前の1点に集まり、そして弾け、銀の鱗粉を放ちながら鞘に収められた純白の太刀がその姿を現す…
それを裕翔が掴むと、パチンッと鱗粉が弾けた。それを裕翔がズボンのベルトの間に差す。

「あ、貴方はぁ!!!!!!!!ま、まさかまさかぁ!!!!“白銀龍の騎士”ぃなのですかぁああ!?!?!?」

裕翔が驚愕するピクセルの問に答えずに黙ってそれを見ていると、徐々にピクセルが苛立ち始めた。

「黙りですかぁ!!!!黙りですかぁ!!!!それが白銀龍の騎士の余裕というやつですかぁあ!!!!ずーいぶんとナメられたものですねぇ!!!!!!」

すると、ピクセルが両手の指を突き立てるように裕翔に向けて構えると、穂のかに全身が黄色いオーラに包まれ、ピクセルの“月光を反射する爪”の光がレーザー銃のように10本の光線を裕翔に射ち放った。

なるほど、先ほどの剣の破片から射ち放たれたレーザーは月光を利用したものだったのか、と1人、静かに納得しながら、裕翔は鞘から刀を抜き、其の白肌の刃に月光を映す。
刀を抜いた瞬間、刃から氷のような冷気が漂い、その冷気が帯のようにユラユラと刀の周りで曲線を描き、刀から離れていくと薄れていくが、冷気は次々に刀から放出され真っ白な帯を生み出す。

そして、光線が裕翔に触れようとした瞬間…


カチッと音が鳴るとともに、刃が鞘に収められた。


それと同時に、ピクセルと裕翔の間に波のような形をした光線を阻むように形成された高さ2.5mを超える氷塊が造られ、それにぶち当たった光線が氷解の中を通過しようと侵入するが、“屈折し”、裕翔に擦り傷一つつけることなく、トシュゥ!!×10、と音を立て、地面に突き刺さる。

刀から生み出された氷塊を目の前にした裕翔は、へぇーと刀を顔の前に近づけ、マジマジと見る。
月光を閉じ込めたような、光り輝く美しい白肌の刃。
握ると手に馴染む柄。
重さも長さも自分に丁度いい。
冷気で少し手が冷えるが、それ程冷たく感じられない。夏になったら肌身離さず持っていたいと思える程の心地いい冷たさだ。

ピクセルが「なんなのですかぁ…」と呟いた…

「なんなのですかぁ…なんなのですかぁ!!貴方はぁ!!!!私の邪魔をしてぇ!!!!私の前に立つなぁ!!!!私はぁ!!!!!!私はぁ!!!!」

狂い始めたピクセルは地面に両手を叩きつける。その瞬間、ピクセルを押し上げるように地面が持ち上がる。
バキバキと音を立てながら地揺れを起こし、ピクセルを押し上げた地面は、段々と形を変え、人を象っていく…

__“百臂傀儡ゴーレム”__


最終的なその姿は、人…とは言い難い、何本もの腕を持つ、体長3mを上回る、“岩の操り人形”…
所々苔や、木の枝や動物の死骸が体に付着し、それが元々地面の土であったことを裏付ける。
体の中央に着いた巨大な奇怪な大顎から吐息が漏れ出す…
肩には、嘲笑うピクセルを乗せていた…
ピクセルが裕翔を睨むと、百臂傀儡が2本の巨大な腕を高く持ち上げ、地面に振り下ろした。
地面がその衝撃で地割れ、地揺れし、その衝撃と崩れた地面が裕翔のバランスを崩すと、1本の腕で地面を抉りながら、横に薙ぎ払う…
それを裕翔は刀を引き抜き、氷塊で防ぎ、氷塊に触れた百臂傀儡の腕を氷結させ、胴体へと侵食する…が、その瞬間、腕は粉のように、サラサラと消え去り、そこに何も無かったかのように、腕が移動し、バランスを整える…
ほぉーと裕翔は感心しながら、体制を立て直し、百臂傀儡目掛けて駆け出し、加速する。

急接近してきた裕翔を向かい撃つべく、百臂傀儡は太く、巨大な足を動かし、前進する。その姿は、幼子が小走りしているようにも見えた。
百臂傀儡は右半身の腕全てを持ち上げ、向かってきた裕翔目掛けて殴りつける。が、それを裕翔は軽々と後ろ飛びし、避け、拳が落下した瞬間に舞い上がった砂煙に紛れ、百臂傀儡の死角に地面を縫うように接近し、氷刀で右足を切り裂いた。
切り裂かれた足は両断され、倒れることはなく、氷結し、地面と接着された。
それに気づいたピクセルは驚愕する。

裕翔はその間にも、百臂傀儡の胴体に傷を刻んでいき、次々に氷結させていく。
そんな様子をピクセルが黙って見ているはずもなく、ピクセルは両ポケットの中から水晶のような親指ほどの大きさの不揃いないくつもの石を手のひらいっぱいに取り出し、それを天へ投げる。
その石らが、月の光に照らされた瞬間、そこからレーザー光線が放たれた。
それを見た裕翔は“ニヤリと不吉な笑み”を零した…
ピクセルはハッと裕翔が何かを企んでいたことに気づいたが、その時にはもう手遅れだった…

レーザー光線が迫り来る中、裕翔は集中し、刀を握る力を強める…
そして、一瞬息を噛み殺し、レーザー光線が一体の範囲に侵入した瞬間、それら全てを“自分の望む方向へと弾き”、余分なものは去なす。

そして、弾かれたレーザー光線は裕翔の狙い通りに、百臂傀儡に大量に刻まれた氷の傷に衝突し、氷の中で屈折、分裂を繰り返し、百臂傀儡の体胴体を破壊していく。
そして、体内を荒し回ったレーザー光線が体を貫通し、空に打ち上げられた後、百臂傀儡の体は崩壊し、砕け散る…

崩れ落ちゆく百臂傀儡の肩からバランスを崩し、ピクセルが落下した瞬間…


『宿主に着いていたくば、其方そなたも宿主の糧となれ。』


と胸の奥で、そんな声が聞こえた瞬間、自分の口が勝手に動いた…


『我、天の支配し、神に贖う者、この体、この魂、この世の全てを捧げる。我の全ては精霊王を倒すために。
龍に尽くし、生きる物全てに終焉をもたらし、全てに恐怖、破壊、破滅を与える
木の精よ、我にお前達の持つ全ての力を寄越せ《霊樹監獄プリズン・オブ・ユグドラシル》!!!!!!』


それが唱えられた瞬間、地面が揺れ叫び、木々が叫び、地面から荒れ狂う真っ黒なオーラを纏った大樹がボコボコと地面に亀裂を走らせながら急成長し、蔦の先がピクセルを閉じ込めるように絡まり合い球体を造りあげ、それを天高く持ち上げ、球体を頂上とした大樹の塔が造られた。
更には、その頂上の球体と地面をつなぐように、蔦で橋がかけられていた。

その蔦の橋に向かい、裕翔は走り出す。
蔦に足を踏み入れた瞬間、その蔦は球体に近づくように動き出し、まるでオートウォークのように裕翔の足を加速させた。

球体が4m程まで近づいた瞬間、球体の隙間から光が炸裂し、それを破壊した。中から怒り狂うピクセルが這い出てきた。
だが、ピクセルが急速に接近していた事に気がつくのは、ピクセルの体に氷刀の刃が当てられたその時であった…

空に赤い鮮血の花が咲き、その花びらは、氷刀によって氷漬けられ、飛び散った血液も赤い結晶となり、降雹する。

そして、裕翔が地面に降り立つと、歩兵がビクリと身体を震わせ、一目散に逃げ出した…

それは、裕翔が精霊王国、画素軍に勝利し、精霊王国軍に宣戦した事を意味していた。



■ ■ ■



ユート君が…ピクセルに勝った…

テラが目にしたものは、自分には想像すらできなかった結果であった…
自分は、裕翔を解放し、父にピクセルが来ることを伝える事で場を収める事ばかり考えていた。
だが、現実はそう上手くは行かなかった、村のエルフ達、全員がテラ自身が半魔、ハーフエルフである事を知っていた事が原因だろう。まさか、自分が標的になってしまうなど思ってもみなかったのだ。
そこにピクセルがやって来て、もうお終いかと思った…

だけど、裕翔がそれをぶち壊してくれた。

他のエルフ達も「あのピクセル将軍に勝った…?」「嘘でしょ…」「あんなに強かったのか…」「白銀龍の騎士とは何者なんだ…」と小声をこぼしていた…

テラは、裕翔にゆっくりと歩み寄った…
なんと言えばいいのだろう、なんと感謝すればいいのだろうとそう考えながら…

だが、その考えはその直後簡単に崩壊した…

喉元に氷刀の鋒が突きつけられたのだ。喉に刺さるか刺さらないかの境目に、“裕翔はテラに刃を向けた”。

何が何だかわからない。何で、ユート君が私に刃を向けるのか、わからない…

すると、裕翔はこう言った…

「…借りは返した…だから…動くな、動いたら…殺す…」

冷ややかにそう言った…
分かったというように小さく頷くと、裕翔は刀を下ろし、ゆっくりと歩き、テラの横を通り過ぎた…

ゆっくりと足音が遠ざかり、ピタリと、足音が止んだ後、サクッと何かが地面に刺さった音がした…

そして、そこから数分が過ぎ、裕翔は再び歩き出し、テラの横を通りかかったその時、裕翔は小声で言った…

「…二度とこの村に近づかない…今まで世話になった…
そして、生きる術を考えろ…」

そう言った裕翔はゆっくりと歩み、茂みの中に入っていき、テラの視界から消えるのをじっと黙って、それを見ていた…


そして、しばらく経った後、振り返るとそこには信じられない光景が広がっていた…


“村全体が氷結していた”のだ…


エルフ達は膝を落とし、何も言えずに、ただ呆然としていた…
自分の父は、目から涙がこぼれ落ち、母の名を読んでいた…

『生きる術を考えろ…』

そう言っていた裕翔の言葉を理解し、自分もただ呆然とし、その凍りついた村をただ見ていた…



■ ■ ■



茂みの中を歩き続け、一本道に辿り着いた裕翔は頭の中にこんな声が聞こえてきた…

『宿主も甘い奴じゃの。我だったら、エルフ達を皆、氷漬けにしておったのぉ〜。』

と、呑気なスペードの声だった。

『ま、やる事は其方の勝手じゃがのぉ〜』とカカッ…と笑った…

「別に甘くはない…」と裕翔が言うと

『村全体を凍らせ、扉の閉められたゼプト家の家の出入りを封じ、ゼプトの嫁、小娘の母の存在を隠し、太陽によって氷が溶かされれば、地面がゆるくなり、家ごと崩壊し証拠隠滅罪。他の家も同じように凍らせれば、怪しまれない。
食料は、小娘やらが持つしゅを使えばそのは《栽培グロー》無限増殖。木を育てれば、狩りの道具が作れ、魚、獣が獲れる…
それを考えた上で“生きる術を考えろ”のぉ〜』

顔は見ることが出来ないが、スペードがニヤニヤと笑っているのがなんとなく分かった。
フンとそっぽを向き(スペードが体内にいるため、そもそも、そっぽが何処なのが分からないのだが…)言った…

「俺は復讐して、村を凍らせただけだ。後のことは彼奴らが勝手にやればいい…
生きるか死ぬかは、行動しだいだ…」

歩きながらそう言った…

生きるか死ぬかは行動しだい、か…その言葉は自分にも向けられているような気がした…
これからどうするかは自分の行動で変化する…


どう傾くかは自分の加減次第だ


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品