Suicide Life 《スイサイド・ライフ》
■第14話:将軍ピクセル■
「歯車…歯車ぁ…っ!!!!!!
歯車ぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
……………………でしょう…
いいでしょう…いいでしょうぅ!!…いいでしょうぅうう!!!!
いいでしょうぅうううう!!!!!!!!!!
貴方を人間ではなく、その他のその“歯車”としてあつかいましょう…
この私自らが相手をして差し上げましょう!!!!
存分に後悔してくださいぃいい!!!!!!!!」
「後悔するのは、テメェだ!!!!!!」
ピクセルは腰にぶら下げた二本の“レイピア”を引き抜き、その二本をXの様にクロスさせ、体の“横”に、そのXを見せつけるかのように構えた…
「精霊王!!画素軍、将軍ピクセル!!!!
この私が私の持つ全力でぇ!!!!!!私に刃向かった貴方のその愚かなる魂を砕いてさしあげますぅうう!!!!!!
画素剣術!!!!!!十字の構え!!!!!!
とくと!!!!味わいなさぁいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」
ピクセルは謎の構えをした状態で地面を蹴り、裕翔に急速に接近する。
裕翔はそれを焦らず、静かに見極め、居合を構える…
全神経が、走り迫るピクセルのみを捉え、その他の物、音、視界を全て“シャットアウト”する…
まだだ…ギリギリまで精神を研ぎ澄ませろ…
集中しろ…一撃で仕留める…
そして、ピクセルの足が、裕翔の半径2m程の場所に踏み入れた瞬間…
「居合っ…!!!!!!」
渾身の力で剣を振るう…っ!!!!!!
だが…
「それを待っていましたぁあ!!!!!!」
「っ!?」
裕翔の振った剣がピクセルのレイピアに触れた瞬間、レイピアのクロスが離れ、片手のレイピアで、受け止められないはずの居合を受け止め、もう一方のレイピアで、いとも簡単に裕翔の持つ両刃剣を突き、“破壊”した…
砕け散る両刃剣の破片がスローモーション映像のように、宙に舞いながら、その破片が、鏡の様にピクセルの顔を映した…
その鏡の様に輝く破片の中心が、突然、“黄色い光を放ち出した”。
その映し出された光、全てが、突然、飛び出し、拡散レーザーの様に裕翔目掛けて撃ち出された。
それが目に入った瞬間、裕翔は後ろに飛び退き、避けようとする…が…
飛び退いた瞬間、何かが背中に当たって飛び退けない。
後ろに顔を傾け見ると…其処には“壁”があった…
ソレは紛れもなく壁、粘土のような土のような物が、造形されていた…
いつそこにできた…?
そんな場所に壁なんか…っ!!!!
そんなこと考えている間にも、レーザーは裕翔に急速に接近する。
「っ…!!!!」
砕けた両刃剣の残った刃を見ると、元々あった刃の4分の3を持ってかれていた…
裕翔はあることを思いついた。たが、それは成功するかどうかが分からない、一か八かの賭けだった。
歯車は歯が噛み合えば、上手く回る、噛み合わなければ、動かない。しかし、それは、“動かしてみないと分からないことだ”。
だったら、行動しないよりは行動した方がいい。
後悔をするかどうかはその後だっ!!!!!!!!
レーザーは何処からか両刃剣の刃の破片を反射して撃ち出された。それ即ち、“レーザーでは刃は砕けない”…!!!!
裕翔は折れた両刃剣を強く握り、そのほぼ零距離射撃とも言えるレーザーに刃を向ける。
打ち返さなくてもいい。
ただ、起動を変えればいいんだ!!!!!!
裕翔は刃を斜めに傾け、レーザーに打つける。
すると…
“噛み合った”…っ!!!!!!
レーザーは両刃剣の砕けた刃に触れた瞬間、鏡に当てた光のように屈折し、裕翔の背後に出現した謎の壁を貫通する。
だが、それは“一本”だけのレーザーだ。
瞬時に次のレーザーに刃を向け、起動を変える。
次   次   次!!  次!!!!   次!!!!!!   次ッ!!!!!!!!!!!!
全てのレーザーの起動を変え、壁に“円形”の点線を刻んでいく。
レーザーが円形を刻み終えた瞬間、地面を思いっきり蹴り、その円形に背中でタックルする。
すると、円形に“切り込み”を入れられた壁はいとも簡単に丸い穴を開けた。
その穴を素早く通り抜け、出た先で、砕けた剣を投げ捨て、落ちていた剣を拾い上げ、同時に飛び退く。
剣を自分の中心に構え、相手、ピクセルを見ると、ピクセルは丸い穴の空いた壁の上に立ち、舌を出して、レイピアをチロチロと舐めていた。
「そのような若さで、その剣の腕前…
良い…良い…!!良いぃ!!!!!実に良いぃ!!!!!!!!!
これ程の剣の撃ち合いをしたのは何年ぶりでしょうかぁ!!!!!!
素晴らしい腕前ですぅう!!!!!!敵ながらあっぱれぇ!!!!!!
実に見事ですぅうう!!!!!!」
「…そりゃどうも。」と裕翔は素直にそう返すと、ピクセルは「しかし…」と続けた…
「若き少年 ユート…いや、剣士 ユートよ。
貴方は何故“魔法”を使わないのですかぁ?
私は先程から疑問に思っているのですよぉ?
壁に穴を開ける程度の魔法、赤子でも出来ることですよぉ?
何故…?何故??何故何故??」
「……。」
「人間は“想像力”が特化した生き物ぉ!!
それは、つまり、“魔法の短縮化、具現化に特化している”ということですぅう!!!!
更に更にぃ!!!!我々人間は精霊王様のお力によりぃ!!!!他の種族ぅ!!!!エルフさえも成し得なかった力を得たのですよぉ!?!?
それは、己の“心”で唱えても発現するというすんばらしぃ力です!!!!!!
つまりそれはぁ!!!!無詠唱に等しいのでぇすぅうう!!!!
だから、私は先程から得意の魔法を貴方に見せつけているのにも関わらずぅ!!
何故貴方は私に魔法を返してくれないのですかぁ??
何故…?何故??何故何故??なーぜ???何故なーぜ???」
裕翔はピクセルに魔法について問われるが、何も答えない。
答えたところで、魔法が使えないのには変わりはないからだ。
そう思っている間にも、ピクセルは首を傾げるが、思考が読み取れないらしく、眉間にシワを寄せていた。
裕翔は、剣を強く握ると、今度は此方から攻めに入った。
レイピアの主な攻撃手段と言えば、突きである。
敵を突くことで最もその威力を発揮する武器だ。
それに対して、剣は振ると引くの2連撃だ。
敵に剣を振るい、当てただけではその威力は発揮されず、必ず降って突き刺した後、剣を引かなければならない。
そのため、モーションが多い。
そう考えると、この戦いではレイピアを扱う、ピクセルの方が有利に感じる。
だが、レイピアには大きな欠点がある。
それは、レイピアは近距離武器であるが、刀を交える程の距離には不向きであるという事だ。
レイピアは突くことに特化した武器である。
そのため、ある程度の距離、腕の長さ+レイピアの長さ弱の距離が必要である。
つまり、裕翔が攻めれば攻める程、裕翔が有利になっていくということだ。
ただ、一つ問題なのは、先程、ピクセルが砕いた剣、裕翔の居合の“カウンター”
何故、両刃剣が砕かれたのかが未だに、裕翔は分からない。
いくら、突きに特化したレイピアとはいえ、渾身の力を込めた居合をいとも簡単に砕けはしないだろう。
それに、砕けた破片を利用した、レーザービーム。
そして、回避を阻止した、壁。
どちらも、ピクセルが放っていることには間違いはないはずだが、心の中で魔法が詠唱できる、つまり無詠唱であるということは、いつ唱えられるかが分からない。
さらに言えば、何が起こるのかも分からない。
だが、魔法を恐れて動かぬのも、自分を苦しめる。
いつ魔法が使われるか分からないのだ。
鯔の詰まり、動かなければ、相手の恰好の的となるという事だ。
だったら、先手を撃つ他ないのだ。
自分が走り出した後、ピクセルは壁から飛び降り、同じように走り向かってきた。
先手を打つとカウンターが来る。逆に、後手を打てば魔法が来る。
どちらに進んでも、魔法を使えない裕翔にとっては不利となる。
だったら…
「ありがたく思いなさいぃいい!!!!
この私が止めを刺して上げましょうぅうう!!!!!!
画素剣術!!!!!!!!一剣の構えぇええええ!!!!!!!!!!
笑顔で死ぬが良いいぃいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ピクセルはレイピアを前方に構え、一直線に、弾丸の様に加速しながら突っ込んできた。
裕翔はそれが来た瞬間、足を止め、竹刀を構えるように、体の正面に、剣を構える。
呼吸を少なくし、集中する。
“あの時”を思い出せ…
あの時を思い出すんだ…
そして、ピクセルが一定の距離に入った瞬間…
ピクセルの手から“レイピアが消えた”。
「なっ!?!?!?!?」
あの時、高校を退学になった原因を作ったあの日。
剣道部の先輩方の1人、突き技を使おうとした先輩に食らわせた、“巻き上げ”だ。
この世界の人間、ピクセルは居合を知らなかった。
それ即ち、剣道や居合道、裕翔が元々いた世界の剣術、武術をこの世界の人間は知らないという事だ。
とどのつまり、見たことの無い、“未知”の剣技をピクセルに叩き込んだのだ。
そして、驚愕しているピクセルの見せた一瞬の隙を逃さず、脇腹に居合を撃ち込む。
ここで、初めて、ピクセルに攻撃が入る。
ピクセルに剣が突き刺さり、血が吹き出る…はずだった…
剣とピクセルの間に、巨大な壁が出現し、裕翔の居合を防いだかと思うと、剣ががその壁に触れた瞬間、“爆風”と共に裕翔が吹き飛んだ。
「ッ!?!?!?!?」
一瞬、何が起こったか分から無かったが、理解した。
体が宙を舞っていた。
何故?
剣が壁に触れた瞬間、地雷の様に“爆発”したからだ。
体が宙を舞い、地面に二三度叩きつけられ、転がった後、生えていた大樹に体を打ち付けられる。
その間、握られていた剣も吹き飛ばされた。
胃の中の物が逆流するような気持ち悪さと、耐え難い痛みが、身体中を蝕む。
確実に肋骨は何本かは折れている。
転がっている間、体中に擦り傷やら、打ち傷やらが刻まれていく。
痛みに苦しみながら、目を開けると、ピクセルがこちらに向かって歩いてきていた。
「今のは…少々、焦ってしまいましたぁ…」
ピクセルは冷や汗をかきながらも、前に進み、裕翔が足元に来るまで、進む。
「あんな剣技、初めて見ましたよぉお。
剣を奪う技。
魔法のなせる技のようで、魔法でない。
魔法を使用せず、あのような技が使えるとは、殺すのは惜しいような気がしてきましたぁ…
ですが、貴方は人間ではありません。
“歯車”…でしたねぇ…?
それは、即ち、私が助けるべきものの対象外なのですよぉ…
随分と手こずってしまいましたぁ…
やはり、強いですね、剣士ユートぉ…」
「ですが…」とピクセルは続けた…
「これで最後ですぅ…」
そう言って、片手に握ったレイピアを裕翔に突き刺した…
『全く…………世話の焼ける宿主じゃのぉ……』
ピクセルが突き刺そうとしたレイピアが裕翔の体に触れる直前、銀色の炎が吹き荒れた…
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