Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第12話:コンテニュー■




「…カルコ村が…焼き払われた…?」

テラは小さく頷いた。

「…跡形もなく…全焼した…」

『全く、万物は常に食う食われるの関係、弱肉強食とは言うが。皆殺しというのはタチが悪いのう…
まぁ我好みのやり方だがの。』

と、スペードはサラッととんでもない事を言ったが、裕翔は呆然としており、そんな事耳には入ってこなかった…

カルコ村が全焼。
それはつまり、カルコ村の村エルフの皆殺し、全滅を意味する。

裕翔はカルコ村の住民によって殺された。
だが、皆殺しにされた現状、それは、裕翔は喜ぶべきなのだろうか?
ざまあみろとでも言うべきなのだろうか?

“分からない”

カルコ村の住民の全滅は裕翔にとっても仇討ちをされたようなものだ。
なのに何故か喜べない。
獲物を横取りされたとか、そういうのじゃない。
何故か煮え切らない。
何故か喜べない。


『宿主よ。何故喜べないか分からぬか?』とスペードは裕翔の意を読む、的確な疑問をぶつけてきた。

だが、裕翔は答えを自力で、無理矢理作り出した…

「確かに、カルコ村の全焼、全滅は僕にとっては仇討ちをしてくれたように思えて、正直嬉しい…」

その言葉に、テラは俯き、小さく拳を握る…

「だけど」と裕翔は続けた。

「…だけど…僕は…“俺”は自分の始末は自分でつけたい。
皆殺しにするかどうかは“俺が決めることだ”。
ピクセルとかなんとかに、勝手に仇を打たせる筋合いは無い。」

その言葉に、テラは「え…」と言い少し驚いていた。
スペードは満足したような顔で拍手し、

『良い答えじゃ、宿主。
その答えは、其方の感情そのものじゃ。
森羅万象は己の感情、状態は己が良く分かっておると口を合わせて言うが、それは否じゃ。
己の感情は最も読取りづらい難問じゃ。
己は本当にその感情を抱い抱いているのか?それで間違いないのか?
その悩みは、その場その時で読み違える。
そして、その多くは間違いじゃと我は考える。
宿主は良く心に問いかけ、己の真の感情を読み取った。
流石は運命に選ばれた者じゃの。』

と素直にスペードは賞賛した。

運命に選ばれた…か……

『さて』とスペードは続ける。

『ハーフエルフの娘がこの世界に召喚された理由じゃが。
コレは先程も言ったように、宿主。
其方のゲームのルールじゃの。
ゲームのルール。
その中に、我も何の目的で作られたか未だに分からぬものか一つだけある。
我は、ジョーカーの気まぐれと仮定しておるが、その答えは恐らくは否じゃ。
そのルールの内容は、プレイヤーが異世界で死亡した時、“同時に死亡した半径1里以内の人物を強制的にプレイヤーの元の世界に全回復した状態で召喚する”。
また、元の世界で、“プレイヤーと異世界民が半径1m以内で同時に死亡した場合、その二人を異世界に召喚する”。といった内容じゃ。
どうだ?不可思議な内容じゃろ?』

とスペードはそう言った。
確かにそのルールの必要性が分からない。
ジョーカーは何を考えているのか?
何かの作戦?
それとも、スペードの言う気まぐれなのか?
首をひねり考えるが、全くわからない。

裕翔はそれを考えることを後回しにし、現状、テラがこの世界に居る原因は判明したので、その、対処、つまり、“これからどうするかという問”を考える。
だが、その問の答えは考えるまでもなかった。

「僕とテラ…僕達が同時に死ねば異世界に行けるんだな…?」

スペードはコクリと頷き肯定する。

『うむ。その通りじゃ。
じゃが、宿主よ。其方らはどうやって“同時”に死ぬか決めておるのか?
同時に死ぬとは、至極難しいことじゃぞ?』

「分かっている…」と裕翔が言った後、裕翔はテラの方を向くと…

「テラ、巻き込んですいませんでした」

頭を深く、深く下げた。

テラが頭を下げる裕翔に慌てふためき、「謝らないで!!元はと言えば私達が悪いんだし!!」と言った。

確かに、その通りかもしれない。
実際、今は殺された事に対して“感謝”している。
何故って?

「だけど、テラ」と裕翔は続けた…


「俺はカルコ村のエルフ達を絶対に許さない。
その事だけは覚えといて。」


■ ■ ■



風が強く吹き荒れる。
その勢いに煽られ、危うく倒れそうになる。
風は強いが、太陽は燦々(さんさん)と照りつける…
何故なら、もう時期夏が来るからだ。

青い空に浮かぶ巻層雲けんそううんが心臓の鼓動、波長を示しているように思えた…

「テラ…心の準備はいい…?」と裕翔はテラに尋ねる。

「…う、うん…本当に元の世界に戻れるんだよね…?」

「多分…いや、行ける。」

二人同時に死ぬのは難しい。
だが、二人同時に“即死”するのはそれ程難しくはない。

“病院の屋上”

この病院、裕翔とテラが入院していた病院は20階建ての大学病院。
屋上は解放されており、ベンチや洗濯竿が設置されていた…

高さは約50m…

飛び“降り自殺”するには十分な高さだ。

裕翔は飛び降り防止の手すりに手をかけ、よじ登り、病院の屋根、空中の1歩手前のコンクリートとの上に立つ。
テラも意を決したように、手すりによじ登った…

二人が同じ場所に立つと、心臓がバクバクと鼓動し、途轍もない緊張感に襲われる…

テラが突然キュッと裕翔の手を握った。
裕翔がテラを見ると、テラは瞳に涙をにじませていた…

“怖い”のだ当たり前だ…

人間もエルフも、死ぬのは怖い…

握られた手を裕翔は強く握り返す。

「大丈夫…大丈夫だ…」

裕翔は1度、深呼吸した。

そして…

「…いくぞ」

テラはその言葉に小さく頷いた…

そして、裕翔は足の力を徐々に抜いていき、飛び降り…


「待って…!!!」


突然かけられた声に動きを止めた。
その声はテラのものでも、ましてや、裕翔のものでも無かった…

裕翔はその声に振り向いた…

裕翔が振り向くと…母親、そして、兄がいた…

「…お母上様…兄上様…」

元々、裕翔はこんな呼び方はしていなかった…

学校を退学してから、家族は何々上様と呼ぶよう、父親から強調されていた…
最初は不自然に感じていたが、今ではその不自然さも忘れてしまった…

不意に、呼び方を誤ると、打たれるなり、蹴られるなり、首を絞められるなりと…まるで、奴隷のような扱いを受けた…

「裕翔!!」と兄が叫ぶがその声に被さるように…

「謝るから…謝るから…!!!!謝るから!!!!
行かないで…貴方は…裕翔は!!!!
私にとっては宝物なの!!!!
お父さんが、なんと言おうと、裕翔は母さんの宝物なの!!」

母親の本音の叫びだった…

「お願い…行かないで…!!」

泣きながら、母親は裕翔を、止めようとした…
裕翔はその言葉、叫びに動かされそうになる…
だが、裕翔は葉を食いしばり、言った…


「裕翔とは…“誰ですか”…?」


「お前何言ってるんだ!!
ふざけてないで戻ってこいよ!!
母さんをこれ以上寂しがらせるなよ!!」

兄は怒りと共に叫ぶ…

だが、それでも、裕翔は続ける…

「僕の名前は…歯車ギア歯車ギアです…
裕翔ではありません…
ですが、裕翔という人は知っています…
その人に貴方達に伝言を頼まれています…」

裕翔は震えながら…
泣きながらそれを口にした…


「沢山迷惑をかけてすみませんでした…
今まで、ありがとうございました…」


裕翔はテラの手を強く握り、そのまま頭から落下した…

「「裕翔ぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」」

足元の方から声が聞こえる。
そんな声がしてももう遅い。
公開してももう遅い。
前を見ろ。
今は、目の前の事だけを考えろ。

同時に死ぬ。
それは同時に即死ならば簡単なことである。
頭から同時に落下すれば、不可能な事じゃない。

裕翔はテラの体を抱きしめ、頭の高さを揃え、一つの塊になるように頭から、なるべく風の抵抗を受けないように落下した…

僅か数秒が、長い時間のように思える…


そして、裕翔、テラは同時に飛び降り…



同時に死んだ……



-ゲーム、再開コンテニュー-…



■ ■ ■



肌に突然、氷のように冷たい液体が体にかかり、裕翔の意識が覚醒する…

ゆっくりと目を開けようとした瞬間、前髪が何者かによって掴まれ、無理やり上を向かせれる…

前髪を掴む手を振りほどこうとするが、手の自由が聞かない。
手どころか、首から下が縄か何かに圧迫され、身動きが取れない…

目を開けると、目の前に二つの瞳が目に映る…

驚いて首を後ろに避けると、頭に何かが当たり、避けられない…

痛みと共に、段々と視界がクリアになっていく…

視界には、松明たいまつに揺らぐ炎と、それを持つ何人もの人…と言うより、エルフ。老若男女、松明を持つ者、桑や鎌や武器を握るもの…
それぞれが、殺意を持ち、睨みつけているのが分かる…

異世界で死ぬ前、同じ光景を見た…


嗚呼、そうか…成功したんだ…


裕翔は再び異世界に召喚されたのだ…
テラは…こっちの世界に来れたのかな…
そんな事を思うが、探して見るまでは分からない…

「ゼプト…聞きたいことがある…」

と裕翔は言うと…

「へぇー?動揺も見せないね。
気分はどうだいユート?」

すんなりと姿を現したゼプトは不吉な笑を浮かべながら、ユートに尋ねる…

それに、裕翔は答えた…


「嗚呼…最悪で…“最高”の気分だ…!!」


■ ■ ■


「うーん?ユートはマゾだったのかい?」

「この世界にマゾという概念がある事に正直驚いているが…
その問に対しての答えは否だ。
何故最高の気分か?
簡単だ。 
また、お前に会えたからだよ。ゼプト。」

「この状況下で、そんな言葉を言えるのはある意味凄い才能だと思うな。」

ゼプトは「やっぱりマゾなのかい?」と尋ねるが裕翔は「否」と答える…

「ゼプトは知らないだろうが、俺は3回死んでいる。
1回は自殺。3回も自殺。」

「へぇー?2回目は?」とゼプトは尋ねる…

「テメェらにバラバラ殺人の被害者にされてんだよ。
だから、何で今俺がこんな状態になっているかも知っている。
この後、俺がどうなるかも知っている。
“その後に起こることも知っている”。」

「君が死んだ後の事?それは村がお祭り騒ぎになるという事かな?」とニヤニヤしながら言った…

裕翔はそれに「否」と答える…


「テメェら全員あの世に行くんだよ」


「へぇー?君が死んだのにどうやってあの世に行くんだい?
まさか呪うのかい?呪い殺すのかい?
ハッハハハー!!無理だね。栽培グローもまともに使えない君がどうやって呪術を使うんだい!!」


ゼプトは笑いながらそう言った…
その笑い声は共鳴するように、村エルフ立ちに広がり、爆笑した…

まぁ、死ぬ原因は、嫌でも、エルフ達は後に知ることになる訳だが…

裕翔が内心そう思っていると…


「やめて!!お父さん!!」


その笑い声を打ち消すように、その少女は叫んだ…
その少女は紛れもなく、元の世界から異世界に召喚するために裕翔と同時に自殺を図った少女…
テラだった…

召喚は成功したんだ…

笑い声は一瞬にして静まった…
テラが、エルフ達の間をすり抜けるように、通り、父、ゼプトの前に立つ…

「テラ?どうしたんだいテラ?
家にいろって言っただろう?
こんな血腥い場所には来てはダメだろう?」

とゼプトは優しげな声でいうが、テラは言った…


「お父さん!!今すぐにユート君の拘束をはずして!!」


その声は、エルフ達をざわつかせた…

「な、何を言っているんだいテラ?
馬鹿なことは言うな。ユートは人間。カルコ村の住民、全員の敵だ。
さ、家に戻りなさい。」

「敵?人間は敵なの?じゃあ、私は?私はどうなるの?」

人間とエルフ、そのハーフであるハーフエルフのテラはゼプトの発言では敵と見なされてもおかしくはない…
ましてや、ゼプトの発言は自分の妻、その人を敵と見なす発言であった…

「て、テラはエルフだ!!エルフは味方に決まっているだろう!?」

すると、誰かが言った…

「いや、テラちゃんは“ハーフエルフ”だ。」

「-ッ!?」

ゼプトはその言葉に息をつまらせる…
その声のした方を向くと、そこには1人の男性がいた…

「ど、どういう意味だいナブラ?」

ゼプトはその男性、ナブラに恐る恐る尋ねる…

「どうもこうもない。
テラちゃんはハーフエルフ。人間とエルフのハーフだ。」

「な、何を馬鹿なことを言っているんだ!!テラはエルフだ!!それ以上でもそれ以下でもない!!テラはエルフだ!!」

「村長…もう、私達を騙すのはやめてくだせぇ…」

「テラちゃんがハーフエルフなのはこの村の住民、“全員が知っている事”ださかい。」

「村長が騙していた事は皆が知っている…」

「なっ!!何を…!!!!」

次々と発せられる住民達の言葉に、ゼプトは動揺を隠せなかった…

そして、ある住民が言った…


「この際…“テラちゃんも殺そう”…」


「そ、そうだ…!!ハーフとはいえ、人間の血を持つ奴は敵だ…!!」

「そうだ!!」

「何を馬鹿なこと…!!
テラは俺の娘だぞ!!」

とゼプトは怒り任せに叫ぶがもう遅かった…

「元はと言えば、人間を生かしていた村長が悪い…!!」

「そうだそうだ!!人間は敵だ!!」

「ハーフエルフも殺せぇ!!」

「穢れた血はこの村を滅ぼす!!」

「殺せ!!」

もう、住民達の声は止まらなかった…

ゼプトが押し寄せる住民達を押し返そうとするものの、たった1人で何十と居る村人達全員を相手できるわけもなく、何人かが、ゼプトをすり抜け、抵抗するテラを拘束した…

「やめろぉおおお!!」

ゼプトが叫ぶがそんな声も住民達には届かず、武器を取った…

そして、テラ、裕翔、2人に刃を向けた瞬間…


「はーい!!注目ぅうう!!!!」


そんな声が聞こえた…

その声の方向に住民達、エルフ達は向くと…
顔から血の気が下がっていった…


「やーやーやーやー!!エルフの皆さん!!!!
こんばんはー!!!!
突然、現れ、飛び出る、カルコ村を担当する将軍“ピクセル”の登場ですよぉー!!
はーい!!!!拍手ぅうー!!!!!!」


その馬に跨る青年の周りに立つ、武装した歩兵達が、一斉に拍手をし、武器を打ち付けたり、指笛を吹き、場を盛り立てる…


「はい!!拍手終わり!!
どうもありがとう僕の駒たち!!良い働きっぷりだねぇ!!!!
ハイハイ!!カルコ村の住民の皆さんん!!!!
僕は今日!!!!ここにあることを調査しに来ましたぁ!!!!
ジッつはですねぇー!!!!この村の中にぃ我々“人間様”の死骸を所持している愚か者がいると噂になってましてぇ!!!!
ちょっと気になったんですよぉ!!!!
まさかエルフの分際で人間を手にかけたなんて事があったらこの村、滅ぼさなくてはならないですからねぇ!!!!
更に更にぃ!!!!この村のエルフ達が人間様の少年を捕縛し武器を持ち寄っているとの噂を小耳に挟んだものでぇ!!!!
ってぇ、おやぁー!?
おやおやおやおやぁ!!!!
何ということでしょうかぁ!!!!
若き少年が大樹に縛り付けられているではありませんかぁ!!!!
そして、貴方方が持っているのは、キラリと光る刃ぁ!!!!!!!!
もしやもしやぁ!!!!
武器ではぁーありませんかぁ!?!?
これはどういうことでしょうかぁ!!!!
まさか!!!!エルフの分際で死骸を弄ぶだけでなく、少年までも手にかけようとしていたとはぁ!!!!!!
なんたる悲劇!!!!
こんな事はあってはならない事ですよねぇ!!!!
そうですよね!!歩兵の皆さん!!!!
そこで僕は考えましたぁ!!!!
あの少年を救い出し!!!!この村を焼き払えば!!!!少年の命を救え!!尚且つ少年の恨みを晴らすことができるのではないでしょうか!!!!!!
はい!!賛成の人は拍手ぅううう!!!!!!!!」


青年、ピクセルは、わざとらしく煽り、歩兵達は再び拍手をした…


「よろしいぃ!!!!
ではでは!!!!歩兵の皆さん!!!!好きに暴れちゃってくださぁい!!!!
人間様に刃向かったことを後悔させてあげましょう!!!!」



ピクセルは無邪気な子供のような笑顔をしながら、歩兵達にそう告げた…



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