Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第11話:真実■




どうなっているんだ…?
ここは、病院…?
さっきまで異世界にいたはずじゃあ…

ハッとなり、手や足、体をペタペタと確認した…が、特に異常はない…
目も見える…
体も暖かい。
そして、何より、確認すべきだろうか…いや、確認すべきだ…!!

恐る恐る、手を移動させる…そして、それに触れた…

「…あった…!!」

「…え?どうしたの裕翔?」

「あ、いや、…何でもありません…」

言えるわけがない、男のナニの有無を確認していたなど言えるわけがない…

それより、何故この世界にいる…?
それに、俺はここで…

ゆっくりと首を触ってみる…

「…痛っ…」

「あ、ごめんね裕翔。痛かった?」

と急変した母親がするりと腕を解き、裕翔を離す…
鈍い音と共に裕翔は頭から地面に倒れる。
痛い。
体が思うように動かない、筋力が低下しているのか…?

だが、それより、首に触れた瞬間、やはり痛みを感じた。

すなわち、それは、裕翔が“間違いなく首を吊っている”という証明である。

じゃあ、何故生きている…?

異世界にいた時、龍に会った時、確かに見たはずだ…
裕翔が死んだ後、死後の世界を。
それなら何故生きている?

自殺はした、だが、生きている…という事は…“自殺未遂”…?
という事は、異世界に行っていたのは全て夢?
いや、夢にしてはリアルすぎる。
痛覚は特にだ…

思い出しただけでもゾッとした…
何度も殴られる感覚、ナイフで肉を抉られる感覚、人に首を絞められる感覚。
それに、気絶している間に起きた、バラバラ殺人の様な暴行…

全て夢という一括りで縛れるなら縛りたかった…

次の瞬間までは…


「ヒャッッ!!!!!!!!?!?!?!?
に、人間ッ!?!?!?!?!?!?」


「落ち着いてください患者様!!」


「来ないで!!近づかないで!!!!!!」


何やらそんなやり取りが聞こえてきた…
1人は恐らく看護師さんの声だろう…
だが、もう1人の声は聞き覚えがあった…

ゆっくりと立ち上がり、前に進む。
母親が「あっ…」と言っていた、筋肉がやはり衰えているが、そんなことはどうでもよかった…

ゆっくりと歩き、騒ぎの起こっている病室を覗いてみる…

そこには、慌てる看護師と、その看護師に怯える、“美しい金髪とエルフのような細くはなく、丸いが、先の尖った耳の少女がいた”…


「“テラ”…?」


少女の名を口にした…瞬間、「え?」と少女、テラは振り向き、目が合った…


「ユート…君…?」


ハーフエルフのテラは裕翔を目にした瞬間、何故か涙を零した…


「生きてた…ユート君が生きてる…!!」


ツーと、涙が頬を伝い、テラは微笑んだ…
裕翔が生きていることがそれ程に嬉しいのか、自分の事のように喜んだ…

慌てていた看護師は「え?え?」と困惑するが、テラが落ち着いたので、ほっと胸を撫で下ろしていた。

「なんの騒ぎだねいったい…っと、おお裕翔君。体調はどうだい?」

と、白衣を纏った白髪の黒縁メガネの男性が病室に入ってきた…
どうやら、彼は、この病院の先生であり、名を津坂修つさかおさむというそうだ。
因みに、彼は名前を名乗らなかったが、胸ポケットに付いている名札にそう書いてあった。
ポケットの中に手を入れながら裕翔に歩み寄ると、ポケットから手を出し、裕翔の腕やら肩やらを軽く揉んだ後…

「うーん…筋力が大分低下しているねぇ…
ま、リハビリと病院の食事をしっかり取れば元に戻るだろうけど。
最初は、結構筋肉質だったからね。
まぁ、まさか君が、黒薔薇の剣姫と神の手の息子だとは思ってもみなかったが…
それと…」

彼はキョロキョロと当たりを見た後、耳元でこう言った…

「君の体。誰にやられたんだい…?
見たところ、暴力を振るわれていたように思われるが…
まさか、“虐待”を受けているのかい…?」

裕翔は、その言葉に黙り込む…
彼は、「ま、言いたくなければそれでいいんだけどね?まぁ、助けが欲しい時には言いなさい。力になるよ。」と言ってくれた。
とても優しい人だと思ってしまった。

が…


「“嘘です”。」


と、テラがハッキリと言った。

「うん?あ、君も目が覚めたのかい?
で、何が嘘なのかい…?」

「貴方がユート君の力になると言った事です。
貴方はユート君、いえ、神の手という方の弱みを握り、その方の座を引きずり下ろしたいだけです。」

「な、何を馬鹿なことを言うんだね…?
私は神崎教授の事を師のように敬い、尊敬しているのだよ。」

「それも嘘です。貴方は若かった頃の“異名”を取り戻したいだけです。
その為に、ユート君を利用するのは傲慢ではないですか?」

「くっ…!!何を言っているのかさっぱりだ!!
大体なんだね君は!!
助けてもらった人に礼も言えないのかね!!」

「ほら、本性を見せましたね?“話し方が、心と一致しましたよ”?」

彼は眉間にしわを寄せ、「此奴っ…!!!!」と呻いていた後、怒って部屋を出ていってしまった…

そんな様子を見ている事しか出来なかった裕翔は呆然としていた。

「あ…」と裕翔の顔を見ると、顔を赤くし、布団で顔を隠してしまった。



■ ■ ■



「何で、テラがこの世界に…?」

「…分からないの。気づいたらココで寝てた…」

テラの気持ちがおさまったあと、テラがこの世界にいる原因について考えた。
裕翔に関しては、恐らく、ジョーカーのゲームの影響だろうと考えはすぐに行き着いた。
だが、テラに関しては全く見当もつかない。
そもそも、テラは異世界の住人であり、ジョーカーの存在など知らないだろうし、ゲームの参加者でもないだろう。

では、何故テラはこの世界に居るのか?
恐らくは、裕翔もそうであったように“召喚”されたのだろうが、何のために…?

ふと、気になることが思い浮かんだ。
テラがこの世界にいる原因とは全く関係ないのだが、興味本位でテラに尋ねたいことがある。

「そういえば、テラ」

「なにか分かったの…!?」

「あ、いや、話は変わるんだけど…何で津坂先生が嘘を言っているって思ったのかなぁ〜て…」

「あぁ、その事ね。
実は私の村では村長の血を受け継ぐ者には“特別な能力”が与えられるの。」

「特別な能力…?」

「“相手の心を読む能力”よ。」

「あ、相手の心を読む!?」

「ええ。何でそんな能力が村長の血を受け継ぐ者に与えられるのかは分からないけど。
私のお父さんは村長だから、私の体にも村長の血が流れているの。
だから、私もこの能力が使えるの。」

「へぇー。」

納得したことが一つある。
裕翔が異世界に来てすぐの事、ゼプトが嘘はついていないようだというような事を言っていたのだ。

という事は、あの津坂先生はそうとう父親に恨みを持っているという事になるな…
何したんだ家の父親…?
と裕翔は考えるものの、嫌いな奴の事など知る訳もなく、考える事を放棄したのである。

『他事を考えるのもいいが、さっさと疑問の解決に励んだらどうだ。』

「あ、ごめんなさい。話の腰を折って…」

テラがいえいえと答えているが、裕翔にはこう聞こえていた。

『まぁ、我が答えを言ってもいいのだが…』

「え!?テラ、答え知ってるの!?!?」

「え!?」と裕翔の言葉にテラが慌てふためくと、違和感を感じた…

「ん?…『“我”』…?」


『“我は我だ”、忘れたとは言わせん。“宿主”よ。』


その声を聞いた時、テラの口は動いていなかった。
と言うより、まだ、ワタワタと混乱していた。
そして、何より、その声には聞き覚えがあった…


「この声…あ、“しょぼい名前の龍”か!!」


『誰の名前がしょぼいだと!?!?
我に対しての挑発か!!!!
我の名は、スペード!!四天龍 白銀龍のスペードだ!!!!』


「やっぱり、しょぼい…。」


『クヌォオオオオオオオ!!!!!!』


そんな、見えない相手、スペードとのやり取りをしている間、テラは急に1人で話し出す裕翔に困惑していた。

「いや…だって、スペードですよ…?それ程カッコ良くも無い…ですよね…?」

『クヌゥオオ!!言わせておけばぁあ!!!!』

とスペードが言った後、突然裕翔の胸の中心から白銀の炎が吹き出した。
その炎はテラにも見えているらしく、裕翔とテラは二人揃って慌てるが、次の瞬間、その炎から何かが飛び出し、炎が消えた。

“何かが飛び出した”、というのは率直な感想であったが、その何かが少し問題であった。

と言うより…


『ふぅ…やっと外に出られたわい…』


と、白銀の長く美しい髪に、白銀の瞳、雪のように真っ白な肌、何もかもが、白銀の“全裸”の少女が目の前にたってそう言った…

少しではなかった、大問題だ。
今だったら『そんな装備で大丈夫か?』という問に、ハッキリと『大丈夫じゃない、大問題だ。』とハッキリと答えれる気がする。

とりあえず、その大問題少女に硬直する二人に、その大問題少女は驚いていると勘違い(実際は驚いているんだけど…)したらしく、『ふふん。』と得意気に鼻を鳴らすと。

『我が名は四天龍、白銀龍のスペードだ!!!!
頭が高い!!控えよ!!!!』

と、何処ぞの黄門様の様な言葉を言った。
そして、テラと裕翔は2人の息が合わさるように、まるで、いっせーのーでとタイミングを図ったかのように…


「「服を着ろ(なさい)!!!!!!!!」」


■ ■ ■



スペードが服(鱗を変化させた物?)をきた後、おっほんとスペードが言った。

『宿主よ。其方そなた何故なにゆえハーフエルフの小娘が宿主の生まれた世界に居るか本当に分からんのか?』

裕翔は正直に「分からない」と答えた。
するとスペードは『はぁー…』と呆れたように触れたら肉が切れるのではないかと思うほどナイフのように研ぎ澄まされた鋭い爪のついた親指と人差し指で眉間みけんを摘み揉んだ。
危なくないのだろうか…?と裕翔とテラは真剣に心配するが、特に傷がつくことも血が吹き出ることもなかった。

『宿主、“其方のせいに決まっておろう”?』

「は…?」


『ふん…その様子だとジョーカーは詳しくは言わなかったようじゃのぅ…』とスペードは柔らかそうなしっとりとした唇を指の腹でなぞりながら言った。


『ここから我が話すが、口を挟まずに聞け。
其方はゲーム開始から1年間、“どう足掻いても死ぬ事は出来ぬ”。
いや、違うか。
死ぬ事は出来る。
だが、死ぬ度に、異世界に居たなら元の世界、元の世界に居たのなら異世界に“自動的に召喚される”。
そして、その召喚された世界の宿主が“死ななかった”世界、もしくは、死ぬ直前に召喚される。
つまるところ、宿主が死んだ世界とは“違う選択をした世界”。ある意味では別の世界じゃな。』


「違う選択をした世界…?」


『そう、人間、いや、万物、森羅万象は常に選択に選択をし、時が流れておる。
その目の前に現れた選択に悩み考えた末、生きておると考える頭の賢い者もいるが、それは否じゃ。
その者は確かにその選択した世界に生きておる。
但し、その世界のみでな。
この世界、いや、全ての世界はいくつものその世界にそっくりな世界があると考えて良い。
そのいくつもの世界は全てが異なる選択をし、生きておる。
そして、宿主、其方はその異なる選択をした世界の宿主を“食って”生きておるのじゃ。
宿主が死ぬ度に異なる世界の宿主は食われる。
だが、その食われる宿主の選択も何万、何億、何兆と無量大数、無限に存在する。その選択を選べば、新たな世界が生まれる。
つまり、宿主は1年間、絶対に死ぬ事は無い。
一時的に不死の存在になったと言ってもいい。
それがジョーカーの用意したゲーム、ゲームプレイヤーの運命だ。』


「……じゃあ、テラがこの世界にいる理由は…?」


『ふん。コレはジョーカーが“面白半分で付け加えた”ルールであろう…
宿主、其方が死んだ頃、“カルコ村で何があったか”知っておるか?』


カルコ村…?
何故カルコ村…?
裕翔の頭の上に無数のクエスチョンマークが発生した。
当然知るはずもなく、首を横に振る。

すると、スペードは『おい、そこのハーフエルフ、其方が話せ。この中で1人、“身をもって”知っておるでろう?』とテラに言った。
裕翔がテラの方を向くと、テラは顔を暗くし、俯いていた。
テラは俯いたまま、首を小さく縦に降った。


「…カルコ村は…人間、将軍ピクセルによって…“焼き払われた”…」


「-ッ!?!?」

裕翔は驚愕した。
カルコ村が焼き払われた…?
裕翔は村人、エルフ達によって、目玉を奪われていたため、周りを見る事は出来なかった。
だが、穂のかに炎の熱や、パチパチと散る火花の音が聞こえていた。
その熱や音は単なる、松明や焚き火の物では無かったのだ。



“将軍ピクセルによる意図的な放火”



それが真実であった

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