Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第8話:龍■




心地の良い太陽の光…
人気の無い、静かな小川…
そこで少女は1人、“あの人間”を探していた…

エメラルドのように輝く、緑色の瞳をキョロキョロとさせながら、少女は探していた…
心地よいそよ風に淡い緑色の髪がサラサラと揺れる…

少女は探していた…


“地面に突き刺さった人間を”…


少女は探していた…


あの不思議な力を宿す人間を…


少女は探していた…


そして、やっと見つけた…


探していた、人間を…
傷だらけの人間を…
どこまでも腐っている人間を…

その人間はエルフ達と一緒にいた…

少女は思い出した…
エルフは怖い…
私達を簡単にあの世に送ってしまう…
見つけてしまったのなら、直ぐに逃げろ…
見つかってしまったのなら逃げろ…
エルフには関わるな…


少女は思い出した…


そんな“父”の教えを…


少女は考えた…
どうすれば、あの人間と話せるのか…

エルフは怖い…

そして、少女は、時間を待つことにした…

あの人間が、一人になるのを…

少女は、決めた…


あの人間が一人になるまで一緒にいることを…


だから少女は……………………


■ ■ ■



こんな夢を見た…


ある一人の少年、神崎裕翔…つまり俺だ。
俺が、自分の部屋…元々の世界の自分の部屋で首を吊り、死んでいた…
今、俺は生きている…だから、今見えている夢にいる俺は、俺では無い。
だから俺は、その元の世界の俺を裕翔と呼ぶことにした。
しばらく時間が経つと、大嫌いな兄が帰ってきた…
だが、兄は裕翔が死んでいることにも気づくこともなく、自分の部屋に入っていった…

またしばらく時間が経つと、大嫌いな母親が家に帰ってきた…
母親はリビングの裕翔が幼い頃以降、座ることの無かった豪華なソファーにふんぞり返り、自分の隣に竹刀を置いた。そして、首に掛けたタオルで汗をぬぐっていた。裕翔の母親は日本でも五本指に入るほどの剣道家であった。自らが道場を持ち、若き剣道家の指導をしていた。彼女が竹刀を振ると誰もが恐怖し、勇気を持ち、立ち向かう者も一本も取れず完敗するという、凄腕の剣道家だ。その美貌と剣さばきを兼ね揃えた彼女は世界で『黒薔薇の剣姫』と謳われていた。
本気で強くなりたいという者は誰もが彼女の道場に入ったところまでは良いが、その薔薇の棘のような厳しい指導についていけず、大半が辞めてしまう。だが、それでも、負けずと食らいつく者は、全国大会でも優秀な成績を残している。
それゆえに、彼女の道場は人気が耐えない…

そんな彼女、裕翔の母親はソファーに座り、ふと台所を見た。そして、彼女は違和感を覚える。料理をしているはずの“裕翔”が居ないのだ。彼女はスッとソファーから立ち、竹刀を握ると、眉間にシワを寄せながら階段を登り、二階にある裕翔の部屋の前に立つと、鋭い目でその扉を見つめ、ギュッと右手の竹刀を強く握ると、勢いよくそれを開いた…

すると予想外の光景が広がっている…

裕翔は死んだのだから。
母親が裕翔を見つけたのは、首を吊ってから2時間半程経った頃だ。とっくに事切れている。

カランッ…

彼女は思わず竹刀を手から落とし、膝から床にへたりこんだ。彼女の顔は真っ青に血の気が引いていた…
彼女の瞳から自然と涙が落ちる…
いくら裕翔が嫌い、裕翔を嫌う母親と言えども、所詮は母親。我が子が死んでいれば悲しむという事を俺は知った…

しばらく時間が経つと、腹をすかした兄が顔を真っ青にした母親を見つけた。そして、彼女が見る方を同じように見ると、彼もまた、血の気が引く。
勢いよく部屋に入ると、机の上に放置されたハサミを取り、首を縛るロープを切る。
裕翔は死んでいるため、重力に逆らえるわけもなく床に頭から落下する…

通常、首を吊り死んだ者からは胃や腸や膀胱などに溜まった尿や糞などが、死後硬直が解けて自然と体の外に零れでるのだが、そもそも裕翔はまともな食事を取っておらず、首を吊る前日から食事を抜いていたためそんな現象は起きなかった。

兄は裕翔の方に触れ激しく揺すり、大声で叫ぶが、当然反応するはずもなく、肌に触れた冷たさが残るだけだった。その冷たさに触れ、カタカタと小刻みに手を震えさせながら、その触れた手をま見つめると、勢いよく部屋から飛び出し、病院で働く父親に電話をかけた。だが、受話器に向かって怒鳴ると受話器を叩きつけ、電話を切った…

裕翔の父親は、世界的に有名な名医だった。自ら病院を経営し、医院長を務め、数々の高難度の手術をこなし、不可能とされた手術も限界まで手を尽くし、その手術に勝利してきた、強者であった…
今では癌細胞のトリアージを多く行っており、更には、癌細胞の特効薬を作り出そうとしている男であった。いずれ、この男が癌細胞の突破口を開くのではないかと世界的に注目されていた。
その繊細な腕とその天才的頭脳を兼ね揃えた彼は、世間で『神の手』と謳われていた。

そんな父親は家の中で特に裕翔を嫌っているその人であった…

彼は特に仕事熱心であった。仕事の事で家に帰ってくるのも遅く、そして、神崎家で最も“家族に”興味が無い人であった…

彼にとって仕事場、つまり病院は自分の“私生活”の場であり、“家とは”自分の“寝るための場”である…

恐らく、兄が怒鳴った理由は、自分の息子ある裕翔が死んだにも関わらず、家に帰ってこれないのであろう…

兄は父親似で、知性のある、天才的頭脳に恵まれた。
父親と違う所を挙げるなら、父親とは違い、面では両親の様に裕翔に強く当たるが、影では家族を心配するといった、彼の大きなクマの付いた死んだ魚の目のような目に似合わぬ、優しさだろう…

優秀な成績、人を気遣う配慮。その二つの才能を兼ね揃えた彼は父親にも信頼され、次期、父親の病院の後継者となるであろうと思われる。

そんな、優秀な兄に対して、裕翔は母親の才能を引き継いだ。
剣道の才能。竹刀を振る速さ、一撃の重さ、狙い、戦術、足の運び、素早さ、その全てが、母親に匹敵していた。
だが、彼はその才能を活かすどころか、剣道自体がそれ程好きではなかった。
それに付け加え、彼は高校を中退していた。母親に剣道部に入部するよう言われ入部した所までは良かったが、他の部員と性格が噛み合わず、いざこざを起こし……

彼の話はここらでやめておこう。
思い出すだけで吐き気がする…

そんな映像を見た後、ふと、背後に気配を感じた。

後ろを振り向くと、一人の男性が立っていた…
その男性は少年にも見えるが、老人にも見える。青年にも見えれば、赤ん坊にも見える…

ノイズが走るように、そんな姿が不確定な男性が立っていた…


『これが“宿主”が死んだ後の世界だ…』


男はそう言って、逆立つ白銀色の髪をガシガシと掻きながら血のように真っ赤な瞳で俺を見た…


『宿主は選ばれた…』


そういうと、彼はゆっくりと足を前に進める…
“肉を斬り裂く爪”と“尖った白銀の鱗の付いた手足”を前に進める…

そんな彼に疑問を投げかける。


“誰に”選ばれたのかと…


彼は口に並ぶナイフの様に尖った牙を輝かせながら言った…


『“運命”にだ…』


そう答えた…

彼は前に進む…
尾骶骨に繋がるように生えた白銀の鱗のついた“尾”を翻しながら…


『誰が選んだ訳でもない。我が選んだ訳でもない。
況してや、“ジョーカー”が選んだ訳でもない…
まさに運命…愉快な事だ。我は天には贖えても運命には贖えん…
そして、運命は宿主に向いた…
我の力を受け入れし者…それが其方、宿主だ。』


彼が俺のそばで足を止めると、肩甲骨の当たりから巨大な白銀の“翼”を広げた…


『我の名は“スペード”…
四天龍、白銀龍のスペードだ…!!!!』


そう言い放った瞬間。白銀の炎が男を包み込み、炎の塊が膨らみ巨大化する。
その炎が弾け飛ぶと、中から白銀の巨大な龍が咆哮した…

龍の吹く銀炎の熱気で、空間が焼けるように暑く燃え上がり、ジリジリと肌を焼き付ける。
その巨体が動く度に空気が揺らぎ、真黒の鞏膜きょうまくに真紅の瞳が、俺を見つめる…
鋭くナイフのように尖った輝く口に並ぶ牙は、上下の歯が当たる度に、火の粉を散らし、息を吐く度に、銀のが吹き出す…

その巨大な口を開き、龍、スペードは言った…


『宿主よ…“我の復讐の糧となれ”!!!!』



■ ■ ■



肌に突然、氷のように冷たい液体が体にかかり、裕翔の視界が覚醒する…

ゆっくりと目を開けようとした瞬間、前髪が何者かによって掴まれ、無理やり上を向かせれる…

前髪を掴む手を振りほどこうとするが、手の自由が聞かない。
手どころか、首から下が縄か何かに圧迫され、身動きが取れない…

目を開けると、目の前に二つの瞳が目に映る…

驚いて首を後ろに避けると、頭に何かが当たり、避けられない…

痛みと共に、段々と視界がクリアになっていく…

すると、松明たいまつに揺らぐ炎と、それを持つ何人もの人…と言うより、エルフ。老若男女、松明を持つ者、桑や鎌や武器を握るもの…
それぞれが、殺意を持ち、睨みつけているのが分かる…

何がなんだかわからない…

どうなっているんだ…?

確か俺は、テラとゼプトと魔法を……

ハッとなり、辺りを見渡す…


「な、何でこんなことをするんですか!!テラとゼプトはどうしたんですか!!!!」


その問の答えは直ぐに帰ってきた…


「ここだよ、ユート。」


すると、エルフ達が俺の目の前に道を作るように避け、そのエルフ達で囲まれた道をゆっくりと歩いてきた…

その顔はニコやかに…
“影のある満面の笑み”…

その毛深い体と父親に似た顔立ち…


俺はその男の名を呼んだ…



「“ゼプト”…」


「やぁ、ユート。元気かい?元気そうだねぇ~?
いやぁー、良かった良かった、急に見たこともない魔法使って、途中で気絶しちゃうんだからさぁ~心配したんだよ~
良かった良かった~
ハッハハハハ!!!!
元気そうだからゼプト、お願いしちゃうね?」


その言葉からは、あの暖かさは感じられなかった…
笑顔なのに、冷たく、突き刺すような殺気が込められていた…


ニッコリと笑ったゼプトはこう言った…



「君はこの村に不必要な存在だ。
大人しく死んでくれるかな…?」



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