Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第6話:魔法■




村人達の集団を抜け、暫く歩くこと約15分したころ。

「もう大丈夫だよ?もう皆んないないよ?」

テラは優しそうな声で、そう呼びかけた。
それを聞くと、警戒しながらも、顔を上げた。

すると、目の前には、静かな文字通りの美しい自然が広がっていた。
空気は澄んでおり、程よい風が吹き、木々が少ない、自然にできた広場のようで、静かなところだ。
何故かボッコリと凹んだ、“クレーター”のできた小川は何事もないようにせせらぎ…………………何でクレーターがあるんだ…?

首を傾げながら、テラにそれを聞こうとしたが、テラの顔は (゜ω゜ ) といった、明らかに目を泳がせていた…
因みに、ゼプトはというと ( O Д O ) みたいな顔をしていた…どうやら驚いているらしい…

それから、カタカタと小刻みに震えながら、ゼプトはテラの方を向いた、すると、テラは、目線を晒すようにサッと顔を背けた…
俺とゼプトは察した…犯人はこいつか…

すると、俺とゼプトの冷たい視線に観念したのか、テラが諦めたように

「ええっと…その…何というか、ユート君を地面から引き抜いた時に、《沈降セダマンティシャン》を使って…それで、元に戻すのを忘れていたというか…テヘ。」

いや、そんな「テヘ」って可愛らしく頭を小突いても元に戻しておかなきゃいかんだろ…
流石に、ゼプトもこれは…


「うん‼︎いいよ‼︎ゼプト許しちゃう(きゃるん❤︎)」


よしわかった、こいつ“親バカ”だ。

「誰にだって失敗はある‼︎気にしない気にしない‼︎はっははは〜‼︎」

「ありがとう、お父さん(きゃるん❤︎)」

テラが、ゼプトと同じように(きゃるん❤︎)と態とらしくにヘラと笑っていたが、サッと顔を背けると、小声で「チョロい…」と言っていた…テラの裏の姿を見たような気がした…

そして、ゼプトはそれに気づくこともなく、ははは〜‼︎と笑い続けていた。

ふん、俺を助ける時にセダ何とかってのを使ったのか…?

再び、小川のクレーターを見て思った…


俺はどんな状態で助けられたのだろうか…



ちょっと、寒気がした…



■ ■ ■



「んじゃ、これから魔法の使い方を教える‼︎準備はいいか?ユート」

「…準備…と言われても…何を準備したら…」

「バカ、心の準備だよ、心。魔法を使うのに肝心なのは心だ。使いたい魔法のイメージ、そして、精霊様への感謝の念が大事なんだ。では、まず、俺が見本を見せよう。とりあえず、テラが凹ませた、あれを何とかしなきゃな。」


と言って、テラの方を向いた、テラはサッと顔を背けた。
息ぴったりかよこの親子…そんなことを思いながら、ゼプトは小川と向き合い、何のためらいもなくその中に入っていき、クレーターの中心部に立ち、川底に手をついた…

そして、俺に聞こえるように大きな声で…


「地の精霊たちよ‼︎私に力をお貸しください‼︎《隆起ヒィーヴァル》‼︎‼︎」


すると、川底が僅かに光り、ボコりとクレーターを埋めるよう、平らに膨らんでいき、周りと同じ高さになり、先程まであったクレーターが綺麗さっぱり消えた。

正に文字通りの魔法だった。本当に存在するとは思わなかった。ゲームの中だけの想像の産物だとばかり思っていた。「魔法は本当にあるんだ‼︎」と黄土色のワークキャップを被りながら言う小さな俺が脳裏に浮かんだ…

「と、こんなもんだな。どうだユート。これが魔法だ。」

「……す、すご…い…。」

「はっははは〜‼︎そうか凄いか‼︎でも、この魔法はユートには使えんぞ?土魔法だからな。そうだなぁ、魔法を初めて見るくらいだしなぁ…初めてなら木魔法が妥当だな…よし‼︎最初は木魔法だな‼︎テラ‼︎シード持ってきてるか?」

「うん‼︎持ってきたよ、お父さん。」

すると、テラは胸の内ポケットから何かを取り出そうとした…が…

「…あれ?どこにいったのかな…?」

シードってのが見つからないのか、テラは胸の内ポケットをゴソゴソと漁り始めた…
その際、テラの豊かに膨らんだアレが、チラチラと目に入った。内ポケットは服の上に来たベストの様なところについているので、その下には当然服があるわけだが、何というか、その、服のサイズが少々小さい様で…服が張って、形がくっきりと…
って、そんなことを考えていたら、目の前にいる親バカに何言われるか…


「(ニヤァ〜〜〜〜〜〜…)」←※ゼプト


うん。なんかもうダメだな。さっきまで俺が抱いていた父親として立派なゼプトの姿ははことごとく破壊された瞬間であった…

「あ、あったあった。」

と、テラがシード?ってのを胸の内ポケットから取り出した…
シードとは何だろうか?
この世界のものは聞いたこともない名前のものが多かったからな…色とか…
シードって言ったら、元の世界だと、英語で“種”って意味だけど…

「はいっ。これが、シードよ。」

と言って、テラは掌を俺の目の前で開いた…
テラの掌にあったものは、小さく、赤や、青、黄色、緑といった“豆”の様なもので…


「…って“種”じゃねえかよ‼︎そこは何のひねりもないのかよ⁉︎ちょっと期待しちゃったじゃねか‼︎異世界なんか中途半端だな本当に‼︎」


「「…………。」」

「…………あ。」

急いで、俺は口を手で覆った。
思ったことすべてを口にしてしまった…

テラとゼプトの顔を見ると、(・Д・)みたいな顔をしていた…

「ええっと…ユート君って意外と喋れるんだね…?」

テラは凍りついた空気を壊す様に、そう言った…
ここは、流石に、自分も話をしたほうがいいと思った…

「…………普段は、喋らない様にしてるんです…。誰かを傷つけない様に…誰かを苦しめる原因を作らない様に…」


誰かを…“死より辛い目に合わせない様に”…


それだけは、心の中で唱えた…

その瞬間、脳裏に焼き付いた、己の過去を見た…

自分の足元にに横たわる数人の先輩達…
泣き、恐怖し、「ごめんなさい」と何度も繰り返す先輩達…
自分の左手に握られた、“返り血”がにじみ、元々“歯車で作られたペンダント”だった、鉄の破片…
そして、自分の右手に握られた、わずかに血を滴らせた、“竹刀”……

もう…あんな事はしたくない…もう…冷たい視線を向けられたくない…もう…誰かを傷つけたくない…


もう…何も失いたくない…


そう決めた…そう決めたんだ…

震える、右手を握り、体を落ち着かせる…
だが、震えはそう簡単にはたまらない…止まるまでに、あの時、竹刀を握っていた感覚がリアルに蘇った…

テラとゼプトは、その姿をただ見ていることしかできなかった…
どう声をかけたらいいのかわからなかったのだろう…

だが、その予想は、見事に空振りしていた…


その時は…自分の中にある…いや、自分の中に“いる”何かに気づくよしもなかったからだ…



■ ■ ■



「もう、大丈夫…です…。」

「…本当に大丈夫か?無理はしないほうがいいが…」

「大丈夫です…問題ないです…」

暫く時間が経ってから、俺とゼプトはそんな会話をした…

そして、「んん‼︎」と、ゼプトが喉を鳴らした後、気合いを入れ直す様に、パンッ‼︎と頬に平手を打ち、「よし‼︎」と言った後…

「じゃあ、一番簡単な魔法とも言われている、木魔法の《栽培グロー》をやってみよう‼︎これは、俺にはできないが、ここには“村一番の魔法使い”、テラがいる‼︎しかも、テラは木魔法を含めたシクススユーザー‼︎そんなテラに魔法を教えてもらえるんだ‼︎ありがたく思えよ‼︎」

「お、恩着せがましく言わなくていいの‼︎魔法は簡単だから、多分すぐできると思うよ?」

「は、はい…‼︎」

「じゃあ、私の後に続いて、呪文を唱えてみて…」

「はい…‼︎」

『我、精霊王に使える者…我らのこの体…この命…我らの全てを精霊王様に捧げます…我らの全ては貴方のために…貴方のために尽くし…生きる事…全てに…感謝…感謝…木の精霊たちよ、私に力をお貸しください…《栽培》』

あやふやであるが、テラの言葉に続くように唱えた…
唱えた瞬間…不思議な感覚に襲われた…
何か…自分の中の何かが…“動かしてはいけない歯車”が…少し…動いた気がした…錆び付いた歯車が、無理矢理動こうとしたような…他の歯車と噛み合わず、永遠と空回りしていたはずの歯車が…僅かに引っかかった感覚だ…
何かが起きたことは確かだろう…だが、分からない…
魔法も、呪文も初めて唱えるはずだ…


なのに…初めて聞いた…いや、“初めて唱えた気がしない”…


「…どうしたの…?ユート君…?」

ぼーっとしていたのだろうか…テラがそう声をかけてきた…「大丈夫です…」と答えると、テラは説明を続けた…

「それで、この魔法を使う時に使うのが、このシードって言う木とか、植物が育つ元みたいなものかな…?で、コレを握って、さっきの呪文を植物が育つのをイメージしながら唱える。慣れてきたら、省略して『木の精霊たちよ、私に力をお貸しくさい《栽培》』って唱えても大丈夫。でもその分、イメージが重要になるから…と、とりあえず、やって見るね?」

と言って、テラはシードを握り、呪文を唱えた…すると、握った手のひらから光が漏れ、手の隙間から、蔦が伸び、テラの背丈くらいまで成長した後、美しい花が咲き、実を実らせた…見たところ、“トマト”だった…
すると、テラは「コレはトート」と、説明を加えた…
似ているけど、やっぱり名前が違うのか…

「じゃあ、ユート君もやってみようか?」

と言って、テラはシードを一粒手渡してきた。
初めてやるからな…イメージが大切なんだよな…

イメージ…イメージ……イメージ………イメージ………

「我、精霊王に使える者…我らのこの体…この命…我らの全てを精霊王様に捧げます…我らの全ては貴方のために…貴方のために尽くし…生きる事…全てに…感謝…感謝…木の精霊たちよ、私に力をお貸しください…《栽培》!!」

そう唱えた瞬間…錆び付いた歯車が…“噛み合った”…

すると、握った手のひらから勢いよく光が漏れ、明らかにテラのものとは違う、太く、禍々しいオーラを放ちながら、モンスターの様なつたが伸びた…そして、蔦は俺の背丈を超え、毒々しい色の花が咲いたのちトマト…とは言い難いほど巨大な、黒ぐろしいかろうじてトマトと呼べる果実が実った…

ただ…問題なのは…


『(ぐパァァァ………!!)』


トマトの皮が裂けるように開いた、“巨大な口”がある事だ…

例えるなら…そう…口裂け女のような……


そのトマトが、上から、唾液のようなものを垂らしながら、俺の方を向いた…
うわぁ…嫌な予感しかしない…

『(バックっ…………)』

そのトマトは、俺の上半身をそのまま、体の中に入れるように、噛み付いた…と言うか、“食べられた”…

因みに、食べられる直前、テラとゼプトの顔が(O⌓O;)みたいに見えた気がした…


「「っておい!!!!」」


ええ…拝啓、元の世界で俺を知っていた皆様…俺は異世界で上手くやってけるのか?どうせ心配すらしてくれないだろうけど…一様連絡しておきます…


俺は、今日、トマトにしょくされまた。


「「ユート(君)!?!?!?!?!?!?!?!?」」

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