TUTORIAL-世界滅亡までの七日間-
第19話-最後の魔王-
コツコツコツ
石畳に響く足音。
その音を聴いた見回りの兵士二人は顔を見合わせる。その日城の見回りを任されているのはたったの四人。
基本的に二人一組で見回るので、もう一グループの足音だとしてもその足音は二つ聞こえる。
いや、足音以外にもフルプレートの全身鎧の擦れる音も聞こえるはずなのだが、今、彼らの耳に届いた音は一人分の足音のみ。
「誰か居るのか?」
見回る兵士もこの平和な街に暗殺を企てるような不埒な輩を想定しておらず、不審者ではなくメイド辺りだろうと思い声を掛けに行く。
だから見回りの兵士が何の躊躇いもなくその人物の目の前に出ていってしまったことは仕方の無いことだった。
「ごきげんよう。お父様を解放していただきにまいりましたわ。」
「なっ・・・」
ヒュッ
そこに居たのは、どこかの貴族らしき女だった。
「おい、どうした?」
兵士が動揺した気配が伝わったのか、もう一人も後に続くように彼女の前に姿を晒す。
パサッ
「ん?なんっ!」
兵士の肩に何かが触れる。
しかしその触れた何かを確認する前に床に倒れ、血溜まりを作る首の無い相方の姿を目にする。
「おい、どうし・・・」
ヒュンッ
兵士の意識はそこで闇に呑まれ、二人を殺した女は死体をそのまま放置して目的の場所へと足を進める。
コツコツコツ
深夜の城に響く足音は誰も居ない廊下を進み、目的地である宝物庫の前で停止し、その扉に手を伸ばす。
ガチャ、ガチャガチャッ
「くっ!?」
しかし、その扉の錠は女を拒むかのように強固に扉を繋ぐ。
「あらあら、おバカさんね。貴女には力を貸したでしょう?遠慮なく使いなさいな。」
廊下に姿無き声が響く。
その声を聞いた女は何かに集中するように瞳を閉じる。
ザワッ
女の意識に呼応するようにその髪が蠢く。
髪は徐々に長さを伸ばし、錠の鍵穴に入っていく。
ガチャッ、ゴトッ
そこから数秒後、宝物庫を塞いでいた錠は重々しい落下音を響かせて床に落ちる。
女はそのまま宝物庫に体を滑り込ませ、目的の物を探す。
「見つけた・・・」
そして部屋の一角に置かれる人一人が入れそうなサイズの箱を見つけ、蓋を押し開く。
その中には同じような形をしたガラス玉が数えるのも嫌になるほどたくさん詰められていた。
「くっ、これでは見分けがつきませんわ。もうここまででいいでしょう?後は貴女が探してくださいな。私はこのままお父様を解放しに向かいますわ!」
あまりの偽物の多さに女、ヒステリアはヒステリックに叫ぶ。
「あらあら、仕方ありませんわね。」
するとヒステリアの声に反応するようにその背後の空間が歪み、もう一人、女が出てくる。
「ここまで見つければ十分でしょう?貴女はここで本物でも探してなさいな。私はお父様の元へ向かいますわ。」
ヒステリアはもうここに用はないとばかりに踵を返す。
「そうだわ。どうしてもこの玉の中に隠れる秘宝を探してほしいと言うのなら、お父様の解放を手伝っていただけるなら手を貸すのも吝かではないのだけれど?」
女を通り越した辺りで、ヒステリアはこの強大な力を借りる誘惑に負けてそう口にする。
「はぁ、愚かね。」
ビシュッ
キザったらしく背中を向けて、肩越しに振り返っていたヒステリアの胸を一条の水が貫く。
「な、なんで・・・」
「ふふ、本当に愚かだわ。まさか私を利用しようとする人間が居るなんて。安心なさいな、すぐにこの世のすべての人間も貴女の元へと送って差し上げるわ。」
ドクドクと溢れる血の海に沈むヒステリアを一瞥し、女、水の魔王はその亡骸に向けて手を翳す。
するとヒステリアの出血が勢いを増し、体内の水分すべてが排泄されていき、水分を失った体は砂のように崩れていく。
「・・・これね、火が閉じ込められている封印は。」
ヒステリアから興味を失った水魔王は、百はあろうガラス玉のひとつを迷うことなく拾い上げる。
「馬鹿ね、形だけ真似しても溢れる魔力ですぐに分かってしまうのに。さて、これを破壊するには恐らく大きな力が必要なのでしょうね。魔王を軽く葬る力でなければ破壊は難しそう。」
水魔王は誰に言うでもない独り言を呟き、魔法の詠唱を始める。
「"厄水掌握"」
城の中から湧き出る厄水の霧が城下の街をも包み込み、ある程度まで広がると逆再生のように霧が城へと戻っていく。
勇者不在の間に力を得た水魔王が生まれた。
ヒヒィーン
魔王城で強化された風魔王を封印した翌日。
私たちを乗せた馬車を引く馬は、高い嘶きと共に停止する。
「あっ、街についたみたいね。ようやくって感じだよ。」
「くぁー、現代人が如何に恵まれてるか感じたなぁ。」
「飛行機とか快適ですもんね。たった半日ほどしか乗ってないのに疲れましたよ。」
私、拳成君、淳君が停止した馬車の乗り心地に、一日乗っていてもここまで疲れない飛行機や新幹線の有り難さを口にしつつ馬車を降りる。
「なんや、これ?」
先に降りた聡介君が馬車のすぐ横でそう呟く。
「どうしたんだ、風見。」
「国が燃えてたりしたか?」
聡介君の後ろをみんなが冗談を交えつつ順に降りていく。
「・・・馬が道を間違えた?」
「まさか。この馬は賢いって話だったろ?」
馬車を降りた私たちの目の前に広がるのは広大な更地。
何かに抉り取られたように地面が少しへこんでいる。
「なぁ、お前たちのご主人の元へ連れていってくれないか?」
ブルルルッ
剣慈君が馬にホースフェイスさんのところまで戻るように指示を出すが、馬は前足の蹄で地面を掻くだけで動こうとしない。
「どういうことだ?」
「わからない。馬が道を間違えたのか、ここが本当にあの街なのか。」
阿樟君の疑問に裕美さんが答える。
ここが本当に街だったのかは地図も持ってない私たちにはわからない。
「でもここが昨日の朝、俺たちが出発した街やったとして、何があったらこんな更地になるんや?」
聡介君の疑問に対する答えは、私が人が居ないか探すために唱えた魔力感知の魔法が示す。
「ひとつだけ、少し先に魔力の反応があったよ。」
「人か?魔物か?」
魔力感知の魔法を唱えていないみんなの視線が私に集まる。
「この大きさは・・・魔王。しかも強化されてた風魔王と同じレベルの大きさ。」
私がそこまで言ったところで、魔法の発動を感じたのか魔王がこちらにすごい速さで近づいてくる。
「まずい!今の魔法で気づかれたみたい。近づいてくるよ!」
その声でみんなはすぐに神器を構えて私の見つめる方向、見え始めた土煙に視線をやる。
「この魔力は、不味いな。本当に風魔王と同格やんか。」
「今回は不意討ち出来ないぞ?覚悟はいいか?<聖なる力よ、魔を打ち払う鎧となれ。>神聖羽衣!」
剣慈君の強化魔法がみんなに掛かってすぐに、肉眼で捉えられる範囲に魔王が近づく。
「女?」
「ってことは水魔王か!どうやって強化を、って聞くまでもないか。」
「多分街を消すと同時に封魔の環珠も壊れたんでしょう。それとも封魔の環珠を壊すために街を破壊したか。」
「真帆ちゃん、俺らが魔王の気ぃ引くから封魔の環珠頼むで!」
裕美さん、拳成君、淳君、聡介君はそういいつつ神器に魔力を込める。
「奴の足を止めろ、大蛇!」
「<闇の勇者が命じる。幾多の星を飲み込みし重力渦よ、顕在せよ。>"ブラックホール"!」
「<土の勇者が命じる。母なる大地よ、彼女に無慈悲なる抱擁を。>"封砂の棺"」
「目隠しと足止めメインで頼むで、桜ちゃん。暴嵐の監獄!」
迫ってきた水魔王を裕美さんの神器、大蛇から伸びた8本の光の帯が縛り、拳成君の魔法が体をその場に固定し、淳君の魔法で地面から伸びた砂の帯が体を包み、聡介君の放った台風のような風の渦が逃げ道を塞ぐ。
しかし水魔王は、大蛇を同じ数の水で作った鞭で叩き落とし、重力の渦には大質量の水を飲み込ませて打ち消し、地面から伸びる砂の帯は凍らせ、風の渦は水の渦を逆回転させて相殺する。
「嘘だろ!」
誰かがその光景に驚いているが、拘束を打ち払うために足を止めた隙を私は逃さない。
「<虚なる勇者が命じる。精霊よ、災厄撒き散らす者の放つ邪なる力を浄化し循環させ、覚めることなき永遠なる眠りをもたらせ。>"封魔の環珠"!」
ギュルンッ
足を止めた水魔王は私の魔法がどんな魔法かわからず、抵抗する間もなく玉になる。
「・・・やったな。」
「呆気なかったけどこれで終わりだな。」
「いや、だからこそ私たちがこの国の消滅に間に合わなかったことが悔やまれるな。」
剣慈君、阿樟君が肩の力を抜き、裕美さんは後数時間早くたどり着かなかったことを悔やむ。
「嘉多無、封魔の環珠ってこんな色だったっけ?」
間に合わなかったことに後悔していると、水魔王が封じられた玉を拾いに行った拳成君からそんな声が聞こえてくる。
「こんな色って?封魔の環珠は封じ込めた相手の魔力で色が決まるから青系になってると思うけど。」
私はそう返しつつ、風魔王の封印された玉と水魔王の封印された玉を見比べる拳成君に近付く。
「いや、水魔王の玉がどう見てもあ」
ピシュンッ
「おっ・・・?」
拳成君が振り向き、二つの玉をこちらに向けるところで背後から水のレーザーが拳成君ごと風魔王の封印された封魔の環珠を貫く。
「拳成君!?」
「拳成!大丈夫か!!」
「これは、なんだ?」
水のレーザーに貫かれた拳成君に駆け寄ると、拳成君の近くにモゾモゾと動く水の塊を見つけるが、私は構わずに拳成君の傷を癒す魔法を唱える。
「まだ息はある!今度は助けてみせるよ!」
「うふふ。御機嫌よう、勇者様方。」
私が拳成君に魔法をかけている間に、傍らに落ちていた水の塊は徐々に広がり、姿見ほどの大きさになると、そこに一人の女が映る。
「魔王。」
剣慈君の声に姿見の中の女が反応する。
「魔王?ふふふ。私をそんな弱者たちと一緒にしないでいただけるかしら?私は魔神。すべての魔王の力を統べた至高の存在なの。貴方たちもその命で、私を祝福して頂戴?"滅世の津波"」
石畳に響く足音。
その音を聴いた見回りの兵士二人は顔を見合わせる。その日城の見回りを任されているのはたったの四人。
基本的に二人一組で見回るので、もう一グループの足音だとしてもその足音は二つ聞こえる。
いや、足音以外にもフルプレートの全身鎧の擦れる音も聞こえるはずなのだが、今、彼らの耳に届いた音は一人分の足音のみ。
「誰か居るのか?」
見回る兵士もこの平和な街に暗殺を企てるような不埒な輩を想定しておらず、不審者ではなくメイド辺りだろうと思い声を掛けに行く。
だから見回りの兵士が何の躊躇いもなくその人物の目の前に出ていってしまったことは仕方の無いことだった。
「ごきげんよう。お父様を解放していただきにまいりましたわ。」
「なっ・・・」
ヒュッ
そこに居たのは、どこかの貴族らしき女だった。
「おい、どうした?」
兵士が動揺した気配が伝わったのか、もう一人も後に続くように彼女の前に姿を晒す。
パサッ
「ん?なんっ!」
兵士の肩に何かが触れる。
しかしその触れた何かを確認する前に床に倒れ、血溜まりを作る首の無い相方の姿を目にする。
「おい、どうし・・・」
ヒュンッ
兵士の意識はそこで闇に呑まれ、二人を殺した女は死体をそのまま放置して目的の場所へと足を進める。
コツコツコツ
深夜の城に響く足音は誰も居ない廊下を進み、目的地である宝物庫の前で停止し、その扉に手を伸ばす。
ガチャ、ガチャガチャッ
「くっ!?」
しかし、その扉の錠は女を拒むかのように強固に扉を繋ぐ。
「あらあら、おバカさんね。貴女には力を貸したでしょう?遠慮なく使いなさいな。」
廊下に姿無き声が響く。
その声を聞いた女は何かに集中するように瞳を閉じる。
ザワッ
女の意識に呼応するようにその髪が蠢く。
髪は徐々に長さを伸ばし、錠の鍵穴に入っていく。
ガチャッ、ゴトッ
そこから数秒後、宝物庫を塞いでいた錠は重々しい落下音を響かせて床に落ちる。
女はそのまま宝物庫に体を滑り込ませ、目的の物を探す。
「見つけた・・・」
そして部屋の一角に置かれる人一人が入れそうなサイズの箱を見つけ、蓋を押し開く。
その中には同じような形をしたガラス玉が数えるのも嫌になるほどたくさん詰められていた。
「くっ、これでは見分けがつきませんわ。もうここまででいいでしょう?後は貴女が探してくださいな。私はこのままお父様を解放しに向かいますわ!」
あまりの偽物の多さに女、ヒステリアはヒステリックに叫ぶ。
「あらあら、仕方ありませんわね。」
するとヒステリアの声に反応するようにその背後の空間が歪み、もう一人、女が出てくる。
「ここまで見つければ十分でしょう?貴女はここで本物でも探してなさいな。私はお父様の元へ向かいますわ。」
ヒステリアはもうここに用はないとばかりに踵を返す。
「そうだわ。どうしてもこの玉の中に隠れる秘宝を探してほしいと言うのなら、お父様の解放を手伝っていただけるなら手を貸すのも吝かではないのだけれど?」
女を通り越した辺りで、ヒステリアはこの強大な力を借りる誘惑に負けてそう口にする。
「はぁ、愚かね。」
ビシュッ
キザったらしく背中を向けて、肩越しに振り返っていたヒステリアの胸を一条の水が貫く。
「な、なんで・・・」
「ふふ、本当に愚かだわ。まさか私を利用しようとする人間が居るなんて。安心なさいな、すぐにこの世のすべての人間も貴女の元へと送って差し上げるわ。」
ドクドクと溢れる血の海に沈むヒステリアを一瞥し、女、水の魔王はその亡骸に向けて手を翳す。
するとヒステリアの出血が勢いを増し、体内の水分すべてが排泄されていき、水分を失った体は砂のように崩れていく。
「・・・これね、火が閉じ込められている封印は。」
ヒステリアから興味を失った水魔王は、百はあろうガラス玉のひとつを迷うことなく拾い上げる。
「馬鹿ね、形だけ真似しても溢れる魔力ですぐに分かってしまうのに。さて、これを破壊するには恐らく大きな力が必要なのでしょうね。魔王を軽く葬る力でなければ破壊は難しそう。」
水魔王は誰に言うでもない独り言を呟き、魔法の詠唱を始める。
「"厄水掌握"」
城の中から湧き出る厄水の霧が城下の街をも包み込み、ある程度まで広がると逆再生のように霧が城へと戻っていく。
勇者不在の間に力を得た水魔王が生まれた。
ヒヒィーン
魔王城で強化された風魔王を封印した翌日。
私たちを乗せた馬車を引く馬は、高い嘶きと共に停止する。
「あっ、街についたみたいね。ようやくって感じだよ。」
「くぁー、現代人が如何に恵まれてるか感じたなぁ。」
「飛行機とか快適ですもんね。たった半日ほどしか乗ってないのに疲れましたよ。」
私、拳成君、淳君が停止した馬車の乗り心地に、一日乗っていてもここまで疲れない飛行機や新幹線の有り難さを口にしつつ馬車を降りる。
「なんや、これ?」
先に降りた聡介君が馬車のすぐ横でそう呟く。
「どうしたんだ、風見。」
「国が燃えてたりしたか?」
聡介君の後ろをみんなが冗談を交えつつ順に降りていく。
「・・・馬が道を間違えた?」
「まさか。この馬は賢いって話だったろ?」
馬車を降りた私たちの目の前に広がるのは広大な更地。
何かに抉り取られたように地面が少しへこんでいる。
「なぁ、お前たちのご主人の元へ連れていってくれないか?」
ブルルルッ
剣慈君が馬にホースフェイスさんのところまで戻るように指示を出すが、馬は前足の蹄で地面を掻くだけで動こうとしない。
「どういうことだ?」
「わからない。馬が道を間違えたのか、ここが本当にあの街なのか。」
阿樟君の疑問に裕美さんが答える。
ここが本当に街だったのかは地図も持ってない私たちにはわからない。
「でもここが昨日の朝、俺たちが出発した街やったとして、何があったらこんな更地になるんや?」
聡介君の疑問に対する答えは、私が人が居ないか探すために唱えた魔力感知の魔法が示す。
「ひとつだけ、少し先に魔力の反応があったよ。」
「人か?魔物か?」
魔力感知の魔法を唱えていないみんなの視線が私に集まる。
「この大きさは・・・魔王。しかも強化されてた風魔王と同じレベルの大きさ。」
私がそこまで言ったところで、魔法の発動を感じたのか魔王がこちらにすごい速さで近づいてくる。
「まずい!今の魔法で気づかれたみたい。近づいてくるよ!」
その声でみんなはすぐに神器を構えて私の見つめる方向、見え始めた土煙に視線をやる。
「この魔力は、不味いな。本当に風魔王と同格やんか。」
「今回は不意討ち出来ないぞ?覚悟はいいか?<聖なる力よ、魔を打ち払う鎧となれ。>神聖羽衣!」
剣慈君の強化魔法がみんなに掛かってすぐに、肉眼で捉えられる範囲に魔王が近づく。
「女?」
「ってことは水魔王か!どうやって強化を、って聞くまでもないか。」
「多分街を消すと同時に封魔の環珠も壊れたんでしょう。それとも封魔の環珠を壊すために街を破壊したか。」
「真帆ちゃん、俺らが魔王の気ぃ引くから封魔の環珠頼むで!」
裕美さん、拳成君、淳君、聡介君はそういいつつ神器に魔力を込める。
「奴の足を止めろ、大蛇!」
「<闇の勇者が命じる。幾多の星を飲み込みし重力渦よ、顕在せよ。>"ブラックホール"!」
「<土の勇者が命じる。母なる大地よ、彼女に無慈悲なる抱擁を。>"封砂の棺"」
「目隠しと足止めメインで頼むで、桜ちゃん。暴嵐の監獄!」
迫ってきた水魔王を裕美さんの神器、大蛇から伸びた8本の光の帯が縛り、拳成君の魔法が体をその場に固定し、淳君の魔法で地面から伸びた砂の帯が体を包み、聡介君の放った台風のような風の渦が逃げ道を塞ぐ。
しかし水魔王は、大蛇を同じ数の水で作った鞭で叩き落とし、重力の渦には大質量の水を飲み込ませて打ち消し、地面から伸びる砂の帯は凍らせ、風の渦は水の渦を逆回転させて相殺する。
「嘘だろ!」
誰かがその光景に驚いているが、拘束を打ち払うために足を止めた隙を私は逃さない。
「<虚なる勇者が命じる。精霊よ、災厄撒き散らす者の放つ邪なる力を浄化し循環させ、覚めることなき永遠なる眠りをもたらせ。>"封魔の環珠"!」
ギュルンッ
足を止めた水魔王は私の魔法がどんな魔法かわからず、抵抗する間もなく玉になる。
「・・・やったな。」
「呆気なかったけどこれで終わりだな。」
「いや、だからこそ私たちがこの国の消滅に間に合わなかったことが悔やまれるな。」
剣慈君、阿樟君が肩の力を抜き、裕美さんは後数時間早くたどり着かなかったことを悔やむ。
「嘉多無、封魔の環珠ってこんな色だったっけ?」
間に合わなかったことに後悔していると、水魔王が封じられた玉を拾いに行った拳成君からそんな声が聞こえてくる。
「こんな色って?封魔の環珠は封じ込めた相手の魔力で色が決まるから青系になってると思うけど。」
私はそう返しつつ、風魔王の封印された玉と水魔王の封印された玉を見比べる拳成君に近付く。
「いや、水魔王の玉がどう見てもあ」
ピシュンッ
「おっ・・・?」
拳成君が振り向き、二つの玉をこちらに向けるところで背後から水のレーザーが拳成君ごと風魔王の封印された封魔の環珠を貫く。
「拳成君!?」
「拳成!大丈夫か!!」
「これは、なんだ?」
水のレーザーに貫かれた拳成君に駆け寄ると、拳成君の近くにモゾモゾと動く水の塊を見つけるが、私は構わずに拳成君の傷を癒す魔法を唱える。
「まだ息はある!今度は助けてみせるよ!」
「うふふ。御機嫌よう、勇者様方。」
私が拳成君に魔法をかけている間に、傍らに落ちていた水の塊は徐々に広がり、姿見ほどの大きさになると、そこに一人の女が映る。
「魔王。」
剣慈君の声に姿見の中の女が反応する。
「魔王?ふふふ。私をそんな弱者たちと一緒にしないでいただけるかしら?私は魔神。すべての魔王の力を統べた至高の存在なの。貴方たちもその命で、私を祝福して頂戴?"滅世の津波"」
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