TUTORIAL-世界滅亡までの七日間-

舘伝斗

第16話-旅立ち-

「お父様が捕らえられた!?それは本当なのですか?罪状はなんですか!」

 城下の屋敷の内の一軒。
 主を失ったその屋敷から女の金切り声が聞こえてくる。
 いや、その辺の屋敷よりも壁が分厚く作られたその屋敷から音が外へ漏れることなどありはしないので、比喩的な意味で、という注釈は付くが。
 この屋敷の強固さからも伺えるように、父である屋敷の主は誰よりも物理的、権力的な外敵から身を守ることを考えていた。そんな父が城の中で勇者が召喚されたその日に、正確には日付を跨いでいるので次の日に粗相を起こすとは考えられなかった。

「ヒステリア様、旦那様が捕らえられたことは事実です。なんでも先程城の使用人の中に紛れていた魔王の正体を勇者様が暴いたのです。」

「それがお父様を捕らえることと何の関係があるのです!」

 ヒステリアと呼ばれた、ゴテゴテと化粧を塗りたくり、無駄に大きな宝石を至るところに散りばめたドレスでその欲にまみれた肉体を包んだ女はヒステリックに使用人に喚き散らす。
 そんなヒステリアに、屋敷の使用人らしき者が言葉を続ける。

「いえ、問題はその後に旦那様が勇者様に向けて少々過ぎた言葉を掛けてしまったようでして。現在牢に入れられているとのことです。」

 使用人の言葉にヒステリアは顔を真っ赤にする。

「その程度でお父様は捕らえられたというのですか!?確かに勇者様はこの世界を救うお方です。ですがその程度、注意はありはしても投獄など!国王は気が狂いでもしたのですかっ。」

 ヒステリアの言葉は次第に貴族にあるまじき粗野な者へと変化していくが、この屋敷の中にその態度を注意する者はいない。
 いや、内心では止めようとするのだが、過去主へ物申した同僚が翌日、街の外れで魔物に食い荒らされていたという事件・・があってから使用人は誰一人例外無くイエスマンとなっていた。

「すぐに城へ向かいましょう!馬車を準備なさい。」

「お待ち下さい。」

 何も考えずに出ていこうとするヒステリアを使用人の一人が止める。その声にその場に居る者たちは声をかけた男の正気を疑う。

「なんですか?事と場合によってはお父様を失脚させようとした相手の手先ととりますよ?」

 何故そうなるっ!?使用人はヒステリアの凄まじい脳内変換を目の当たりにして目を剥く。
 声をかけた使用人も、少々額に汗を浮かべながら必死に言葉を探す。

「いえ、旦那様を解放するように国王様に具申するのはお止めしませんが、まだ日が出て時間が経っていません。国王様がどういうおつもりで旦那様を捕らえたのか図りかねますが、一時の感情であったとすれば時間を置いた方が冷静になっていただけるやもしれません。せめて日が完全に昇ってからにいたしませんか?」

 使用人の言葉にヒステリアは少し考える。

「確かに。では、午後一番で城へ向かえるよう準備なさい。」





 その日、私が目覚めたのは日が傾く少し前だった。
 私は少し寝過ぎたかな、と皆に弄られる覚悟を決めて食堂へ向かうと、そこに居たのは裕美ゆみさんだけだった。

「おはよう、真帆まほさん。それともこんばんは?」

「おはよー、裕美ゆみさん。みんなは?」

 私は辺りにみんなが居ないことを確認してから裕美ゆみさんに尋ねる。

「まだ部屋かな。私もさっき起きて来たところだし。」

「そっかー。裕美ゆみさんご飯は食べた?」

「いや、一人では流石に寂しいからまだ食べてないよ。」

「ふーん。」

 私はそう言って裕美ゆみさんの座るテーブルに並んだお皿を見る。

「・・・これはおやつだ。」

 私はもう一度、テーブルに乗たお皿たち・・を見る。

「・・・・・おやつだ。」

 裕美ゆみさんの反応が可愛くてもうちょっと弄りたかったが、そろそろ耳を赤くしてプルプルしだしたので諦める。

「うーん、みんなが起きてくるのいつになるかわからないし、晩御飯先に食べよっか。」

「そ、そうだな。」

 裕美ゆみさんはそう言って給仕に合図して、お皿を下げてもらい晩御飯の用意をお願いする。

「あ、裕美ゆみさんお腹一杯になってない?」

「・・・・・私の分は少し少な目で。」

 裕美ゆみさんの言葉に一瞬、間を開けて恭しく頭を下げた給仕のメイドの姿がやけに印象的だった。

「でさ、裕美ゆみさんって地球に居た頃彼氏とか居たの?」

 料理が運ばれて来るまでの間、この世界に来て初めての女だけの席なので気になることを聞いてみた。

「彼氏か?残念ながら居なかったな、生まれてこの方一度もね。」

「そうなの?以外だね、裕美ゆみさんなら何度も告白されてそうだけど。」

 私はそう言って運ばれてきたスープに手を付ける。

「告白されたことは何度かあるよ。ただその、何て言うか」

「好みじゃなかった?」

 言い淀む裕美ゆみさんはコクリと頷く。

裕美ゆみさんのタイプの男の人ってどんな人?やっぱり剣慈けんじ君みたいなしっかりした人?」

「そこで何故剣慈けんじが出てくるのかわからないが、あいつはダメだな。確かに顔も性格も良いが、八方美人タイプだしな。友としてはこれ以上無いほどだが、男としてみるとどうもな。」

「そうなの?じゃあどんな人がいい?」

「そうだなぁ、稼ぎが良くて老後に苦労しない人、かな。」

「・・・・・。」

「うん?どうした?」

「いや、それ、理想の結婚相手の条件じゃん。」

「ん?付き合うということはそういうことだろ?」

「いやいや、今の時分必ずしも付き合う=結婚じゃないから。」

「そうなのか。すまないな、まだまだ私には恋愛という経験が不足しているようだ。参考までに真帆まほさんはどうだった?」

「えぇっ!私?彼氏なんて出来るわけ無いよ。私なんて他の子みたいに可愛くないし、流行りを知ってる訳でもないし、運動できるわけでもないし。本ばっかり読んでたから授業以外で男子とも話さないし。」

「そうか?その割にはこの世界に来てから戦闘に付いて来れているし、風見かざみ君とも問題なく話せてるじゃないか?」

「まぁ話せるには話せるよ?自分からは行かないだけで。」

「そうか。つまり私たちは恋愛経験もないし、流行りも知らないから、俗に言うガールズトークは出来そうにないな。」

 そんなことを言う裕美ゆみさんに私は少し可笑しな気持ちになる。
 地球に居た頃の私は、基本的には本の虫で女友達も数少なく、男友達なんてものは一人も居なかった。虐められてもいなかったが、本ばっかり読んでたから浮いてはいただろう。
 なのにこの世界に来てからは、裕美ゆみさんや剣慈けんじ君みたいなクラスの皆をまとめるような人達と知り合い、聡介そうすけ君みたいな日常的に言葉を交わす男の知り合いもできた。
 裕美ゆみさんのような格好言い女の人と一対一で会話するなんて、一週間前までは考えられなかったと思わず笑みがこぼれる。

「ん?どうしたんだ?」

 そんな私に裕美ゆみさんが声をかける。

「一週間前までは女の子と一対一で会話するなんて殆んどなかったなぁって思って。」

「そうだな。私も弓道部の部員以外の女の子と話したのは初めてかもしれない。私たちは案外似ているのかもしれないな。おっ、寝坊助達が来たな。」

 私たちが晩御飯をつつきながら喋っていると、ようやく他の皆も起きて食堂へとやって来る。
 二日目の夜はこうして更けていき、昼間の事件を知ること無くみんな部屋へ帰っていく。
 その日の夜中、とある貴族の屋敷で後ろ暗い計画が立てられていることに気付いた者は誰もいない。





 翌日、太陽が中天にかかる少し前、私たちは用意してもらった鎧もしくはローブを身に纏って国王様に謁見していた。

「勇者のみなさん。昨日のことは大変感謝いたします。お陰で城が内部から破壊されることもなく、魔王を一人、それも7日後の世界崩壊の引き金かもしれぬ者を封印することができました。あの魔王は王家の抱える職人達の手で作られた無数のレプリカと共に宝物庫で保管しております。あの魔王の言葉が本当であればこれで一先ずは7日という制限は無くなったとみていいでしょう。」

 謁見の間で国王の言葉を聞いていた私たちは、周りから向けられる尊敬の眼差しや感謝の眼差しがむず痒く、ずっと頭を下げたままだ。

「いえ、勇者として当然のことをしたまでです。確かにあの魔王の言葉を信じれば7日後に世界が崩壊することは無いでしょう。しかし、問題の解決は早い方がいいです。元の世界に残った私たちの家族も心配していると思うので、これから残りの魔王の封印に向かおうと思います。」

 こういう時は、頼りになる剣慈けんじ君に会話を丸投げする。
 私たちが装備を整えてここに来たことで察していたのだろう国王様は、剣慈けんじ君の言葉に頷く。

「そうですな。勇者様とて、まだ20歳にも満たない。何も告げずに居なくなれば親も心配するでしょう。それにこの世界にとっての驚異が消えたわけではない。解決は早い方が良いですな。勇者様、我々に協力出きることがあれば何なりとお申し付けください。」

「いえ、こちらの防具を用意していただけただけで十分です。後は良い報せをお待ち下さい。」

「うむ。では我々はここで勇者様の活躍を期待して待とう。街の外に馬車を待たせていますのでお使いください。馬に乗ったことの無いものでも操れる馬を用意いたしましたので、勇者様だけでも問題ないと思いますが心配であれば馬車の側に控える者を御者としてお連れください。」

 国王様に見送られ、私たちは街の外へと向かう。
 そこには国王様の言った通り、二頭の馬がひく一台の馬車があった。

「お待ちしておりました、勇者様。こちらが王家が用意した馬車でございます。この馬車をひく馬は特殊でして、御者の言葉に反応して動き、別れ道の度に嘶きで教えてくれます。加えて自分の身と馬車を外敵から守る"引馬の務め"という固有の防御魔法を持った世界に十頭といない馬ですので、勇者様の旅のお供に最適でございましょう。」

「そんな貴重な馬車をこの旅のために与えていただけるんですか?」

 男の説明に剣慈けんじが尋ねる。
 私たちの中では、対外的な会話はすべて剣慈けんじ君の役目という不文律が完成しつつあった。

「左様でございます。勇者様の旅に危険は付き物でございますので、足手まといの御者を連れていく事はできないと、国王様から承りましたのでご用意させていただきました次第でございます。もしご不要となりましたら馬に"ホースフェイスの元へと戻れ。"と命じてください。そうすれば自分でこの街まで戻ってくることができますので。」

「わかりました。必ずこの馬はホースフェイスさんの元へ返します。少しの間お借りしますね。」

「では、お気をつけて。」

 剣慈けんじ君たちの会話が終わると、私たちは馬車の持ち主、ホースフェイスさんの馬面に見送られつつ街を後にする。

「この世界の人名、的を射すぎちゃう?」

「「「「「「ぶふっ!」」」」」」

 皆が思っていたことを聡介そうすけ君が呟く。
 そこから次の街に着くまでの間、私たちは"第1回、この名前居そうだな選手権"なるものを開催して旅の緊張を解すのだった。
 そこで裕美ゆみさんの思わぬ大喜利センスに聡介そうすけ君が戦慄したのはまた別の話。













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