TUTORIAL-世界滅亡までの七日間-
第12話-真実-
「さて、まずは僕の正体から。この世界でいうところの一代前の白銀色、唯一帰還の方法を持っている虚属性の勇者だ。本名は諸菱大也だけど、これまで通りリーさんでいいよ。」
「唯一帰還の方法を持ってる?」
「あれ、本名はスルー?まぁいいけど。この世界から地球に帰る帰還の力を持っているのは実は僕達虚の勇者なんだ。勿論同じ虚属性の君にもその力がある。」
「でも国王様の話では過去の勇者たちは、魔神封印の後、突然消えたって。」
「そうだね。帰還の方法は他の魔法と違って魔力を消費せず、精霊の生命力を代償に7人を帰還させる物だからね。世界を越える力だ。実際には代償や制限が多いんだよ。」
「例えば?」
「んー、そうだね。例えば君がこの世界なんてどうでもいい。今すぐにでもみんなを連れて帰る。と思ったところで帰還はできない。何故だと思う?」
「・・・方法がわからないから?」
「正解だ。精霊たちもむやみやたらに死にたくないんだろうね。魔王との戦闘までは身体能力の補正以上は力を貸してくれやしないんだ。だから帰れない。もし仮に力を貸してくれたとしよう君は帰還の方法を実行できる。・・・この世界の巻き戻しと引き換えにね。」
リーさんの言葉に私は言葉を失う。魔神を封印した後、帰還の代わりにこの世界の時間が巻き戻る。もしその事が本当なら、この世界を救うことなんて誰にもできない。
私の様子にリーさんは気分を変えようか、と前置きをし、話を一度切り替える。
「じゃあ昨日までの出来事について教えよう。薄々感づいてると思うけど、あれは現実だ。いや、あれも現実だ。と言うべきかな?簡単にいうと昨日までの世界は、もし、君たちが無知なままだったら起こってしまう未来だ。平行世界、とでも言えるのかな。僕が精霊に頼んで君たちに経験させたんだ。」
「私たちが死なないように?」
「いや、この世界を終わらせるために。」
「えっ!?」
リーさんの思わぬ言葉に私は頭が真っ白になる。
「オムファロス仮説を知っているかい?」
私は過去読んだ本の内容や学んだ内容を総ざらいするが、オムファロスという言葉は聞いたことがなく、首を振る。
「オムファロス仮説というのは<世界は神々によって、意図的に古びた感じに作られ、あたかも生命の起源があるように見える。>という昔の仮説なんだけれど、この世界ではそれが事実として存在するんだ。」
「そんなこと・・・」
あり得ない。とは言い切れなかった。リーさんがさっき言ったからだ。この世界は何度も同じ時間を繰り返している、と。
「この世界の理から外れた僕達が実際に見てきたんだ。過去数度、君たちと同じような境遇の異世界人が現れ、数百年間変化の無い、全く同じ時間を何度も繰り返しているところを。」
「見てきた?」
「そう。僕達の代の勇者は偶々皆が孤児やクラスぐるみの虐めや親に虐待されていたという過去を持っていて誰一人として帰還を望まなかった。その時に精霊の王から聞かされたんだ。<この世界は魔神を討滅するまでは無限の7日間を何度も造り直す。ここで帰還を選ばなければ僕達もこの世界と一緒に消えることになる。>ってね。何人かはそれでこの世のしがらみから解放されるならと受け入れようとしたんだけど僕がそれを止めて、この世界を何とか解放できないかみんなで考えたんだ。」
「そして、魔神を討滅することを選んだ?」
「うん。でも僕達で倒すには力が足りなかった。それも圧倒的に。次の勇者に助言しようにも世界が白紙に戻れば僕達は居ないわけで、手出しが出来なかった。だから望んだんだ。自分達も精霊としてこの世界に受け入れてくれ、と。そしてそれは受け入れられた。この世界に日記という楔を置くことで僕達をこの世界の一部としてくれたんだ。でもそれが間違いだとすぐに気付かされたよ。」
「どうして?」
「精霊はこの世界の人間に望まれない限りは精霊の世界からこちらに干渉できないんだ。僕達はただ見ることしか出来なかった。何十、何百とこの7日間が繰り返されるところをね。」
「でも勇者が私みたいに日記を見つけたことはなかったの?」
「いや、勇者たちは一様に一日目の深夜、メイドに誰か一人を操られて城を追い出されるか、もしくはメイドの色仕掛けに負けて背中を刺されて城の中を散策する余裕がなかったんだ。もどかしかったよ。少し目を向ければそこに僕達が居るのにみんな見向きもしない。拾ってくれれば助けて上げられるのに飛び越えて、散っていく。そんな時間をどれだけ過ごしたか。」
「その勇者たちの中に魔神を討滅しそうなグループは無かったの?」
「いや、日記でも書いたけど魔王は一人倒すと残りがかなり強化されるんだ。いくら勇者の元の身体能力が高くてもこの世界に来て、神器を与えられた時点から7日では3人の魔王を倒すことがやっとで一様に4人目で足止めを受けるんだ。大体は7日目を迎える前に全滅し、4人目の魔王まで辿り着いたグループは7日目の魔神復活に伴う世界規模の魔法で死んでいった。」
「リーさんたちは魔王を2人しか倒してないんだよね?どうして今ここに居るの?」
「あぁ、まだ言ってなかったね。僕達は魔神討滅以外の帰還の条件、7日間生き残ったんだ。」
「生き残った?」
「そう。ここからは予測になるんだけど、召喚された勇者が元の世界に帰る条件は恐らく三つある。一つは魔神の討滅。この世界も望んでいることだ。まだ成し遂げた人達は居ないみたいだけどね。二つ目は魔神の封印。これは僕達は直接見てないから王様の言葉からの予測だ。確証はない。そして最後、三つ目は7日間生き延びる。もっと具体的には、魔神復活に伴う"七月零落"から虚属性の勇者の身を守ること。"七月零落"を凌ぎきると虚属性の精霊が帰還の力になってくれる。」
「さて、ここで本題だ。君達は、いや、君はこの世界を本当に救う気はあるかい?」
リーさんの視線に貫かれ、私は逸らしそうになる視線を頑張って固定する。
「・・・本当に魔神を討滅すればこの世界を救えるんだよね?」
「わからない。」
「封印だけじゃ、また同じ時間を繰り返すんだよね?」
「確証はない。」
「もし失敗したら、世界の繰り返しを、リーさんたちはまた見続けることになるんだよね?」
「そうだね。」
「次に日記を見つける勇者が現れる確証は、無いんだよね?」
「・・・残念だけど。そうだね。」
「リーさんたちも、一緒に帰ることが出来るんだよね?」
「・・・わからない。」
「・・・・・私は、私は魔神を討滅してこの世界を、リーさんたちを助けたい!」
私は長考の末、世界を、リーさんたちをこの巻き戻される世界から救うことを決める。
「良く決心してくれた。では、君たちの覚悟に見合った力を与えよう!」
リーさんがそういうと私とリーさんの間に光の剣が現れる。
「君の思い浮かべる最強を現実に。僕も微力ながら力を貸そう。」
先にリーさんが剣の柄に手を掛け、私も同じように剣に触れる。
触れた途端、光の剣から魔力が流れ込んでくる。
そして剣は一際眩い光を放った。
「戻ってきた?」
光に目を閉じ、再び目を開けるとそこは白い部屋ではなく、神殿の祭壇の部屋だった。
私は祭壇を背にするように立っていたので振り返る。
すると振り返った先に私と同じように振り返った皆がいた。
「その様子だと、前回と違ったみたいだね。」
私の言葉に剣慈君がいち早く気を持ち直す。
「あ、あぁ。前回はシャボン玉に触れたら各々の神器に変化しただけだったんだ。まさか、過去の勇者にこの世界の真実を伝えられるとは思ってなかった。」
「っていうことは、みんなもこの世界が造り直されていることは聞いたんだね?」
「話だけなら信じられへんけど、実際に一回同じ世界を体験してるからなぁ。信憑性ありありやしな。」
他のみんなも頷く。
ゴゴッ
皆が神器を受け取ってすぐ、部屋の扉が音を立てて開いていく。
「勇者様、魔力の脈動が感じられましたので扉を開きました。・・・浮かない顔ですが何かありましたかな?」
開いた扉の外から国王様が声を掛けてくる。
部屋に入る前と後で私たちの僅かな表情の変化にも気づくとは、流石国王様か。
「いえ、先ほど教えていただいたこの国の歴史をもう一度思い出して気分が沈んでいたのです。ですが、ご安心を。新たな力で必ずやこの世界を救って見せます!」
流石にこの世界は繰り返されてるんですー。って言ったところで信じてもらえないので、何て答えようか悩んでいると剣慈君がすかさずフォローする。
「おぉ、よくぞ決心してくださりました。では、もう一度城へ戻り、今日のところは休みましょう。」
国王様に連れられて、私たちは執事さんの待つ馬車で城へと帰り、各自の寝室へ案内される。
さて、今夜が一つ目の山だ。
「唯一帰還の方法を持ってる?」
「あれ、本名はスルー?まぁいいけど。この世界から地球に帰る帰還の力を持っているのは実は僕達虚の勇者なんだ。勿論同じ虚属性の君にもその力がある。」
「でも国王様の話では過去の勇者たちは、魔神封印の後、突然消えたって。」
「そうだね。帰還の方法は他の魔法と違って魔力を消費せず、精霊の生命力を代償に7人を帰還させる物だからね。世界を越える力だ。実際には代償や制限が多いんだよ。」
「例えば?」
「んー、そうだね。例えば君がこの世界なんてどうでもいい。今すぐにでもみんなを連れて帰る。と思ったところで帰還はできない。何故だと思う?」
「・・・方法がわからないから?」
「正解だ。精霊たちもむやみやたらに死にたくないんだろうね。魔王との戦闘までは身体能力の補正以上は力を貸してくれやしないんだ。だから帰れない。もし仮に力を貸してくれたとしよう君は帰還の方法を実行できる。・・・この世界の巻き戻しと引き換えにね。」
リーさんの言葉に私は言葉を失う。魔神を封印した後、帰還の代わりにこの世界の時間が巻き戻る。もしその事が本当なら、この世界を救うことなんて誰にもできない。
私の様子にリーさんは気分を変えようか、と前置きをし、話を一度切り替える。
「じゃあ昨日までの出来事について教えよう。薄々感づいてると思うけど、あれは現実だ。いや、あれも現実だ。と言うべきかな?簡単にいうと昨日までの世界は、もし、君たちが無知なままだったら起こってしまう未来だ。平行世界、とでも言えるのかな。僕が精霊に頼んで君たちに経験させたんだ。」
「私たちが死なないように?」
「いや、この世界を終わらせるために。」
「えっ!?」
リーさんの思わぬ言葉に私は頭が真っ白になる。
「オムファロス仮説を知っているかい?」
私は過去読んだ本の内容や学んだ内容を総ざらいするが、オムファロスという言葉は聞いたことがなく、首を振る。
「オムファロス仮説というのは<世界は神々によって、意図的に古びた感じに作られ、あたかも生命の起源があるように見える。>という昔の仮説なんだけれど、この世界ではそれが事実として存在するんだ。」
「そんなこと・・・」
あり得ない。とは言い切れなかった。リーさんがさっき言ったからだ。この世界は何度も同じ時間を繰り返している、と。
「この世界の理から外れた僕達が実際に見てきたんだ。過去数度、君たちと同じような境遇の異世界人が現れ、数百年間変化の無い、全く同じ時間を何度も繰り返しているところを。」
「見てきた?」
「そう。僕達の代の勇者は偶々皆が孤児やクラスぐるみの虐めや親に虐待されていたという過去を持っていて誰一人として帰還を望まなかった。その時に精霊の王から聞かされたんだ。<この世界は魔神を討滅するまでは無限の7日間を何度も造り直す。ここで帰還を選ばなければ僕達もこの世界と一緒に消えることになる。>ってね。何人かはそれでこの世のしがらみから解放されるならと受け入れようとしたんだけど僕がそれを止めて、この世界を何とか解放できないかみんなで考えたんだ。」
「そして、魔神を討滅することを選んだ?」
「うん。でも僕達で倒すには力が足りなかった。それも圧倒的に。次の勇者に助言しようにも世界が白紙に戻れば僕達は居ないわけで、手出しが出来なかった。だから望んだんだ。自分達も精霊としてこの世界に受け入れてくれ、と。そしてそれは受け入れられた。この世界に日記という楔を置くことで僕達をこの世界の一部としてくれたんだ。でもそれが間違いだとすぐに気付かされたよ。」
「どうして?」
「精霊はこの世界の人間に望まれない限りは精霊の世界からこちらに干渉できないんだ。僕達はただ見ることしか出来なかった。何十、何百とこの7日間が繰り返されるところをね。」
「でも勇者が私みたいに日記を見つけたことはなかったの?」
「いや、勇者たちは一様に一日目の深夜、メイドに誰か一人を操られて城を追い出されるか、もしくはメイドの色仕掛けに負けて背中を刺されて城の中を散策する余裕がなかったんだ。もどかしかったよ。少し目を向ければそこに僕達が居るのにみんな見向きもしない。拾ってくれれば助けて上げられるのに飛び越えて、散っていく。そんな時間をどれだけ過ごしたか。」
「その勇者たちの中に魔神を討滅しそうなグループは無かったの?」
「いや、日記でも書いたけど魔王は一人倒すと残りがかなり強化されるんだ。いくら勇者の元の身体能力が高くてもこの世界に来て、神器を与えられた時点から7日では3人の魔王を倒すことがやっとで一様に4人目で足止めを受けるんだ。大体は7日目を迎える前に全滅し、4人目の魔王まで辿り着いたグループは7日目の魔神復活に伴う世界規模の魔法で死んでいった。」
「リーさんたちは魔王を2人しか倒してないんだよね?どうして今ここに居るの?」
「あぁ、まだ言ってなかったね。僕達は魔神討滅以外の帰還の条件、7日間生き残ったんだ。」
「生き残った?」
「そう。ここからは予測になるんだけど、召喚された勇者が元の世界に帰る条件は恐らく三つある。一つは魔神の討滅。この世界も望んでいることだ。まだ成し遂げた人達は居ないみたいだけどね。二つ目は魔神の封印。これは僕達は直接見てないから王様の言葉からの予測だ。確証はない。そして最後、三つ目は7日間生き延びる。もっと具体的には、魔神復活に伴う"七月零落"から虚属性の勇者の身を守ること。"七月零落"を凌ぎきると虚属性の精霊が帰還の力になってくれる。」
「さて、ここで本題だ。君達は、いや、君はこの世界を本当に救う気はあるかい?」
リーさんの視線に貫かれ、私は逸らしそうになる視線を頑張って固定する。
「・・・本当に魔神を討滅すればこの世界を救えるんだよね?」
「わからない。」
「封印だけじゃ、また同じ時間を繰り返すんだよね?」
「確証はない。」
「もし失敗したら、世界の繰り返しを、リーさんたちはまた見続けることになるんだよね?」
「そうだね。」
「次に日記を見つける勇者が現れる確証は、無いんだよね?」
「・・・残念だけど。そうだね。」
「リーさんたちも、一緒に帰ることが出来るんだよね?」
「・・・わからない。」
「・・・・・私は、私は魔神を討滅してこの世界を、リーさんたちを助けたい!」
私は長考の末、世界を、リーさんたちをこの巻き戻される世界から救うことを決める。
「良く決心してくれた。では、君たちの覚悟に見合った力を与えよう!」
リーさんがそういうと私とリーさんの間に光の剣が現れる。
「君の思い浮かべる最強を現実に。僕も微力ながら力を貸そう。」
先にリーさんが剣の柄に手を掛け、私も同じように剣に触れる。
触れた途端、光の剣から魔力が流れ込んでくる。
そして剣は一際眩い光を放った。
「戻ってきた?」
光に目を閉じ、再び目を開けるとそこは白い部屋ではなく、神殿の祭壇の部屋だった。
私は祭壇を背にするように立っていたので振り返る。
すると振り返った先に私と同じように振り返った皆がいた。
「その様子だと、前回と違ったみたいだね。」
私の言葉に剣慈君がいち早く気を持ち直す。
「あ、あぁ。前回はシャボン玉に触れたら各々の神器に変化しただけだったんだ。まさか、過去の勇者にこの世界の真実を伝えられるとは思ってなかった。」
「っていうことは、みんなもこの世界が造り直されていることは聞いたんだね?」
「話だけなら信じられへんけど、実際に一回同じ世界を体験してるからなぁ。信憑性ありありやしな。」
他のみんなも頷く。
ゴゴッ
皆が神器を受け取ってすぐ、部屋の扉が音を立てて開いていく。
「勇者様、魔力の脈動が感じられましたので扉を開きました。・・・浮かない顔ですが何かありましたかな?」
開いた扉の外から国王様が声を掛けてくる。
部屋に入る前と後で私たちの僅かな表情の変化にも気づくとは、流石国王様か。
「いえ、先ほど教えていただいたこの国の歴史をもう一度思い出して気分が沈んでいたのです。ですが、ご安心を。新たな力で必ずやこの世界を救って見せます!」
流石にこの世界は繰り返されてるんですー。って言ったところで信じてもらえないので、何て答えようか悩んでいると剣慈君がすかさずフォローする。
「おぉ、よくぞ決心してくださりました。では、もう一度城へ戻り、今日のところは休みましょう。」
国王様に連れられて、私たちは執事さんの待つ馬車で城へと帰り、各自の寝室へ案内される。
さて、今夜が一つ目の山だ。
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