TUTORIAL-世界滅亡までの七日間-
第9話-絶望-
私の魔力が4人を包むと僅かな浮遊感の後、目の前の景色がガラリと変わる。
目の前には温な森林が広がっており、魔族の魔法で抉れた地面や聡介君の技で薙ぎ倒された木々などの見る影もなかった。
「離脱、出来たのか?」
初めての転移体験、目の前の景色が一瞬で変化したことに気付いた阿樟君が呻くように呟く。
「魔法はきちんと発動したよ。今は皆の居る場所から2,3キロは離れたところに居るはず。」
「魔法っていうのは改めてスゲェな。一瞬で数キロ移動できるなんて。新幹線要らずだな。」
「ふふっ、何それ。」
阿樟君が真面目な顔で馬鹿なことを呟くので思わず私は笑ってしまう。
あとは、
「あとは皆が魔族を倒して拳成君に掛かった魔法が解けるのを待つだけだね。・・・負けたら許さないからね。」
カッ
私は誰に言うでもなく、雷雲渦巻く、皆が戦っているであろう方角へ向けてそう呟いた。
私が転移した後、魔族と皆の戦いは佳境に入っていた。
それは守るべき存在が安全な場所まで離脱したことで、魔王の攻撃が後方に居た私たちに流れないように気を使わなくて良くなり、これまで使うことが出来ずにいた広範囲に被害が及ぶ大技を3人が使うことが出きるようになったことが大きかった。
魔族との戦いは、私たちの姿が消えた瞬間、戦闘から蹂躙に変化した。
「あまり時間をかけていられないからすぐに終わらせる!"倍觕の猛進"!」
ジュオッ
片膝を付いた裕美さんの、水平に構えた弓から放たれる魔族の胸を穿った以上の速度、直径の、正にレーザーの様な一撃が放たれる。
「グオォッ!」
だが、その一撃は魔族の驚異的な反応速度により、片腕だけを穿つに留まり、威力に衰えのないその矢は背後の数百メートルに渡り、木々を消滅させ消える。
「グ、ルァァァッ!」
ダッ
「気ぃ抜いてええんか?"天裂の槍戟"!!」
魔族が再び失われた片腕を見て雄叫びをあげるが、裕美さんの攻撃を避けることを予測していたかのように聡介君が魔族の上空に位置取り、魔力を解放する。
すると途端に晴天だった空に雷雲が立ち込める。
バチッバチバチッ、カッ
雷雲は数度放電を繰り返す。その様はまるで次の獲物を探すかのような意思のようなものを伺わせる。が、その放電はすぐに収まる。
「ガッ・・・・」
バガァァァンッ
突然の落雷。
気付くのが遅れた魔族は空に殺気を感じると同時に防御の姿勢を取るが、その気合いとも取れる咆哮は天の裁きとばかりに降り注いだ雷により掻き消される。
轟音からの静寂、雷の規模に比べて立ち込める土煙が少なく視界をあまり遮らなかったのはその雷が聡介君の魔力によって作られたものであり自然界の物と全くの別物だったからだろう。威力は自然界の物と比べるべくもなく強力であったが。
薄くなり始めた土煙の中に見える影。
聡介君の国一つ滅ぼしてしまいそうな一撃を受けて尚、魔族はその原形を留め虫の息ではあるが生き残った。
「これで、終わりだっ。鞍馬は返してもらうぞっ!"光霊招喚"っ。」
カッ
光が爆ぜる。
その光はすぐに収まり、否、すぐに剣慈君の体に吸い込まれるように消え、代わりに剣慈君が後光を携えたかのように淡い光を放つ。
「はぁぁぁぁ!"天光"!」
ヒュンッ
気合い一閃。とは程遠い、力を入れた割に起こったことは剣で軽く空気を裂く音のみ。
それこそ剣を握ったことのない私にでも出来るようなとても小さなもの。
だがそれは勘違いであり、剣慈君の前方、扇形にごっそりと空に渦巻く雷雲も緑豊かな大地も果ては今居る山を含めた山岳数座を含め、広大な更地が産み出された。
明らかなオーバーキル。だがこの威力が剣慈君の心情を如実に表していた。
「・・・すごい。」
「ほんまになぁ。・・・下手したらもう魔神まで消してもうたんちゃう?俺らを呼んでくれた国諸共。」
目の前で起きた光景に素直に感嘆を漏らす裕美さん。それと対照的に冗談を溢す聡介君。
「大丈夫。来た方向はこっちじゃない。魔神は・・・倒せていたらいいけど。くっ。」
残心、(剣を振り切った状態)から神器を魔力に戻した剣慈君から光が抜け出し、その反動で膝を付く。
どこか怪我でもしたのかと駆け寄ろうとした裕美さんと聡介君に向けて、剣慈君から抜け出した光が走る。
「えっ、ちょっ、何!?」
咄嗟の事に二人は光に正面から衝突し、立ち止まる。
だが特に体に変化は現れない。
「剣慈、今のは?」
「わからない。体に異状は?」
「異状は、ないな。」
光を受けた裕美さんが訪ねるが、剣慈君は首を横に振るのみ。
「何かは分からんけど光は他に3つ飛んでいったみたいやな。まぁ何にせよ魔族は倒したんやからダンナは意識取り戻したんちゃうかな?」
「じゃあ合流・・・」
「全く、誰ですか?魔神様の根城を破壊してくれた愚か者は。あの根城は見てくれこそ悪いものの、時折良い風が吹き抜けたというのに。」
移動を開始しようとしたところに掛けれる声。
その声に3人は辺りを見回す。
「誰だっ!」
「誰だ、とはご挨拶ですねぇ。・・・さっきからここに居るではないですか。」
3人で背後を庇い合うように立ち、各方位を警戒しているとその三人の間の僅かな隙間から声がする。
ばっ、と振り返るとそこには確実に声がした時には居なかった人影。
ガガガッ
「ぐっ!」
「がはっ!」
振り返り様に浴びる打撃に聡介君と裕美さんは膝を付く。
顔を上げると少し離れた場所に立つ男の姿。
銀の長髪にグリーンの瞳、欧風の顔立ちに浅黒い肌。
慎重はそこまで高くない細身。
何より特徴的なものはその額に生える3本の角。
「魔族か!」
その男の風貌は先程倒した魔族と同じ、いや多少の違いはあるが肌の色と角から明らかに魔族と分かった。
「魔族なんてそんな一括りに呼ばれたくはないんですけどね。私はその中でも特別なんですから。ねぇ?人間の勇者さん?」
魔族はそう言って聡介君と裕美さんにあるものを見せる。
「そんなっ!」
魔族の背後に降りてきたのは何もない空中に磔にされ、自由に動くことのできない勇者たち。
つまり聡介君と裕美さん以外の全員の姿であった。
「さて、今しがた光の勇者は捉えたので一先ずはあの意味不明な威力の攻撃は封じたということで安心ですが、私と対になる属性は貴方と貴女のどちらでしょうかねぇ?」
「お前、魔王の一人か。」
「御明察。まぁこれだけヒントをばらまけば余程のお馬鹿さんでない限りわかりますよねぇ。分かったところで何も変わりませんが、ね。」
魔族、魔王の言葉に2人は歯噛みする。
「ゆーみん。あいつの口振りからしたら俺とゆーみんのどっちかが弱点っぽいけど、どーする?普通の魔族相手ですら大技連発してやっとやったやん?」
「何が言いたい?」
聡介君の口ぶりに裕美さんが少し声のトーンを落とす。
「いやな、あいつ魔族やなくて魔王やろ?もしどっちかが弱点やったとして、皆を巻き込まずに勝算ある?」
聡介君の意見は的を射ていた。が、感情が裕美さんの決断を鈍らせる。
「私がやる。すべて攻撃は上空から放てば問題ない。風見は皆が落ちてこないように風で巻き上げておいてくれ。」
「おや、今、風といいましたか?私と同じですねぇ。」
「「っ!?」」
聡介君たちの会話にさも自然に入る魔王。
その顔は楽しそうに歪んでいた。
魔王の言葉に二人は2つの意味で驚く。
1つは十メートルは離れているこの距離で小声でのやり取りを聞かれたこと。これではどんな作戦を立てようが相手に筒抜けになってしまう。仮に音が聞こえない距離まで離れようとしても、先程突然背後に現れたことから、この魔王の目を盗んで移動することは不可能に思えた。
2つ目はこの魔王の属性が聡介君と同じく風だということ。風の弱点は火であり、それは裕美さんではなく捕まっている阿樟君だ。その時点でどうにか阿樟君を解放しない限りは目の前の魔王を倒すことはできないと悟る。相手に裕美さんの属性がばれる前に何としても二人で皆を助ける必要があった。
「なら、今回は貴女が火ですね?申し訳ありませんが動きを止めさせてもらいます!」
ドンッ
魔王はそう言うと、また瞬間移動に近い速度で目の前に現れ、裕美さんに掌底を当てて他の勇者と同じくその体を風で拘束する。
速すぎる。と、聡介君は内心舌打つ。
この魔王の移動速度に目は付いていく。だが、肝心な体が追い付かない。それはこの魔王を正面から倒す手が無いことを意味した。
「ふふふ、これで私が傷付くことは無くなりましたねぇ。そして、貴方は運が良い。貴方の属性である風。それは私の大っ嫌いな土塊の唯一の弱点!魔王同士の殺し合いは禁止されていますので貴方に殺していただきましょう。何も難しいことはありませんよ?私が影ながらサポートしますので。・・・おや、噂をすると、ですかね?」
どうやってこの危機を乗り越えるか構えて思考を巡らせている聡介君に向けて魔王が話をしていると、更地の向こうから何やら土煙が向かってくる。
ゴゴゴゴゴゴゴ
その土煙の主はすぐにこの場所に辿り着く。
土煙の正体は巌のような全身分厚い筋肉で覆われ、額に短い角を3本生やした新たな魔王。
風魔王の口振りからすると恐らくこの金髪を短く整えた鬼の様な大男が土魔王なのだろう。
こちらは聡介君一人。向こうは魔王が二人。風魔王の言葉を信じるなら土魔王を倒すまでは手を出してこないだろうが、果たして土魔王に単騎で勝利できるだろうか。
これは明らかに王手だ。何とかして阿樟君は解放しないと・・・
勇者の考えは図らずも一致していた。
「おい、そよ風野郎!勇者を狩りに行くって言ってどれだけ掛かってんだ!」
土魔王が聡介君がまだ確保されていない事に気づき、地響きのような低い声で叫ぶ。
「はぁ、折角の楽しい気分が土塊風情のその威厳だけはある声で台無しですね。」
「何をっ!?」
風魔王と土魔王は余程相性が悪いのか出会って早々に険悪なムードが漂う。
キラッ
魔王たちが睨み合っていると、今度は更地ではない方向から複数の光が飛んでくる。
「おや?次は何ですか?」
「あぁん?」
その光に一早く気付いた風魔王の声に土魔王も視線をそちらにやる。
勿論、聡介君と捕まっている私たちも。
「3つの光球?」
「3つ?・・・まさか、今?」
視力も良いのか風魔王の呟きに聡介君、剣慈君、裕美さんがハッとした表情になる。
その光はそこそこの速度で近づいてくる。
・・・私たちに。正確には阿樟君、拳成君、淳君の3人に。
「人間の攻撃?狙いが逸れてますよ、お馬鹿さん。」
風魔王はその光を人間の魔法使いが離れたところから自分達に向けて放った魔法だと思い込み、自分に当たらないならと捉えられた私たちを動かそうともしない。
「あの光・・・。待て、そよ風野郎!避けるんだ!」
「何を言ってるんですか?まず狙いが逸れていますし、何よりあの速度では当たりませんよ。」
土魔王が何か思い出したのか風魔王に回避を要求するが、風魔王は土魔王が何を焦っているのか分からずにいた。
「違うっ!お前じゃない。狙いは・・・」
カッ
土魔王が最後まで言いきる前に光は勇者に辿り着く。
3人に光が当たった瞬間、私と剣慈君以外の勇者から光が溢れた。
目の前には温な森林が広がっており、魔族の魔法で抉れた地面や聡介君の技で薙ぎ倒された木々などの見る影もなかった。
「離脱、出来たのか?」
初めての転移体験、目の前の景色が一瞬で変化したことに気付いた阿樟君が呻くように呟く。
「魔法はきちんと発動したよ。今は皆の居る場所から2,3キロは離れたところに居るはず。」
「魔法っていうのは改めてスゲェな。一瞬で数キロ移動できるなんて。新幹線要らずだな。」
「ふふっ、何それ。」
阿樟君が真面目な顔で馬鹿なことを呟くので思わず私は笑ってしまう。
あとは、
「あとは皆が魔族を倒して拳成君に掛かった魔法が解けるのを待つだけだね。・・・負けたら許さないからね。」
カッ
私は誰に言うでもなく、雷雲渦巻く、皆が戦っているであろう方角へ向けてそう呟いた。
私が転移した後、魔族と皆の戦いは佳境に入っていた。
それは守るべき存在が安全な場所まで離脱したことで、魔王の攻撃が後方に居た私たちに流れないように気を使わなくて良くなり、これまで使うことが出来ずにいた広範囲に被害が及ぶ大技を3人が使うことが出きるようになったことが大きかった。
魔族との戦いは、私たちの姿が消えた瞬間、戦闘から蹂躙に変化した。
「あまり時間をかけていられないからすぐに終わらせる!"倍觕の猛進"!」
ジュオッ
片膝を付いた裕美さんの、水平に構えた弓から放たれる魔族の胸を穿った以上の速度、直径の、正にレーザーの様な一撃が放たれる。
「グオォッ!」
だが、その一撃は魔族の驚異的な反応速度により、片腕だけを穿つに留まり、威力に衰えのないその矢は背後の数百メートルに渡り、木々を消滅させ消える。
「グ、ルァァァッ!」
ダッ
「気ぃ抜いてええんか?"天裂の槍戟"!!」
魔族が再び失われた片腕を見て雄叫びをあげるが、裕美さんの攻撃を避けることを予測していたかのように聡介君が魔族の上空に位置取り、魔力を解放する。
すると途端に晴天だった空に雷雲が立ち込める。
バチッバチバチッ、カッ
雷雲は数度放電を繰り返す。その様はまるで次の獲物を探すかのような意思のようなものを伺わせる。が、その放電はすぐに収まる。
「ガッ・・・・」
バガァァァンッ
突然の落雷。
気付くのが遅れた魔族は空に殺気を感じると同時に防御の姿勢を取るが、その気合いとも取れる咆哮は天の裁きとばかりに降り注いだ雷により掻き消される。
轟音からの静寂、雷の規模に比べて立ち込める土煙が少なく視界をあまり遮らなかったのはその雷が聡介君の魔力によって作られたものであり自然界の物と全くの別物だったからだろう。威力は自然界の物と比べるべくもなく強力であったが。
薄くなり始めた土煙の中に見える影。
聡介君の国一つ滅ぼしてしまいそうな一撃を受けて尚、魔族はその原形を留め虫の息ではあるが生き残った。
「これで、終わりだっ。鞍馬は返してもらうぞっ!"光霊招喚"っ。」
カッ
光が爆ぜる。
その光はすぐに収まり、否、すぐに剣慈君の体に吸い込まれるように消え、代わりに剣慈君が後光を携えたかのように淡い光を放つ。
「はぁぁぁぁ!"天光"!」
ヒュンッ
気合い一閃。とは程遠い、力を入れた割に起こったことは剣で軽く空気を裂く音のみ。
それこそ剣を握ったことのない私にでも出来るようなとても小さなもの。
だがそれは勘違いであり、剣慈君の前方、扇形にごっそりと空に渦巻く雷雲も緑豊かな大地も果ては今居る山を含めた山岳数座を含め、広大な更地が産み出された。
明らかなオーバーキル。だがこの威力が剣慈君の心情を如実に表していた。
「・・・すごい。」
「ほんまになぁ。・・・下手したらもう魔神まで消してもうたんちゃう?俺らを呼んでくれた国諸共。」
目の前で起きた光景に素直に感嘆を漏らす裕美さん。それと対照的に冗談を溢す聡介君。
「大丈夫。来た方向はこっちじゃない。魔神は・・・倒せていたらいいけど。くっ。」
残心、(剣を振り切った状態)から神器を魔力に戻した剣慈君から光が抜け出し、その反動で膝を付く。
どこか怪我でもしたのかと駆け寄ろうとした裕美さんと聡介君に向けて、剣慈君から抜け出した光が走る。
「えっ、ちょっ、何!?」
咄嗟の事に二人は光に正面から衝突し、立ち止まる。
だが特に体に変化は現れない。
「剣慈、今のは?」
「わからない。体に異状は?」
「異状は、ないな。」
光を受けた裕美さんが訪ねるが、剣慈君は首を横に振るのみ。
「何かは分からんけど光は他に3つ飛んでいったみたいやな。まぁ何にせよ魔族は倒したんやからダンナは意識取り戻したんちゃうかな?」
「じゃあ合流・・・」
「全く、誰ですか?魔神様の根城を破壊してくれた愚か者は。あの根城は見てくれこそ悪いものの、時折良い風が吹き抜けたというのに。」
移動を開始しようとしたところに掛けれる声。
その声に3人は辺りを見回す。
「誰だっ!」
「誰だ、とはご挨拶ですねぇ。・・・さっきからここに居るではないですか。」
3人で背後を庇い合うように立ち、各方位を警戒しているとその三人の間の僅かな隙間から声がする。
ばっ、と振り返るとそこには確実に声がした時には居なかった人影。
ガガガッ
「ぐっ!」
「がはっ!」
振り返り様に浴びる打撃に聡介君と裕美さんは膝を付く。
顔を上げると少し離れた場所に立つ男の姿。
銀の長髪にグリーンの瞳、欧風の顔立ちに浅黒い肌。
慎重はそこまで高くない細身。
何より特徴的なものはその額に生える3本の角。
「魔族か!」
その男の風貌は先程倒した魔族と同じ、いや多少の違いはあるが肌の色と角から明らかに魔族と分かった。
「魔族なんてそんな一括りに呼ばれたくはないんですけどね。私はその中でも特別なんですから。ねぇ?人間の勇者さん?」
魔族はそう言って聡介君と裕美さんにあるものを見せる。
「そんなっ!」
魔族の背後に降りてきたのは何もない空中に磔にされ、自由に動くことのできない勇者たち。
つまり聡介君と裕美さん以外の全員の姿であった。
「さて、今しがた光の勇者は捉えたので一先ずはあの意味不明な威力の攻撃は封じたということで安心ですが、私と対になる属性は貴方と貴女のどちらでしょうかねぇ?」
「お前、魔王の一人か。」
「御明察。まぁこれだけヒントをばらまけば余程のお馬鹿さんでない限りわかりますよねぇ。分かったところで何も変わりませんが、ね。」
魔族、魔王の言葉に2人は歯噛みする。
「ゆーみん。あいつの口振りからしたら俺とゆーみんのどっちかが弱点っぽいけど、どーする?普通の魔族相手ですら大技連発してやっとやったやん?」
「何が言いたい?」
聡介君の口ぶりに裕美さんが少し声のトーンを落とす。
「いやな、あいつ魔族やなくて魔王やろ?もしどっちかが弱点やったとして、皆を巻き込まずに勝算ある?」
聡介君の意見は的を射ていた。が、感情が裕美さんの決断を鈍らせる。
「私がやる。すべて攻撃は上空から放てば問題ない。風見は皆が落ちてこないように風で巻き上げておいてくれ。」
「おや、今、風といいましたか?私と同じですねぇ。」
「「っ!?」」
聡介君たちの会話にさも自然に入る魔王。
その顔は楽しそうに歪んでいた。
魔王の言葉に二人は2つの意味で驚く。
1つは十メートルは離れているこの距離で小声でのやり取りを聞かれたこと。これではどんな作戦を立てようが相手に筒抜けになってしまう。仮に音が聞こえない距離まで離れようとしても、先程突然背後に現れたことから、この魔王の目を盗んで移動することは不可能に思えた。
2つ目はこの魔王の属性が聡介君と同じく風だということ。風の弱点は火であり、それは裕美さんではなく捕まっている阿樟君だ。その時点でどうにか阿樟君を解放しない限りは目の前の魔王を倒すことはできないと悟る。相手に裕美さんの属性がばれる前に何としても二人で皆を助ける必要があった。
「なら、今回は貴女が火ですね?申し訳ありませんが動きを止めさせてもらいます!」
ドンッ
魔王はそう言うと、また瞬間移動に近い速度で目の前に現れ、裕美さんに掌底を当てて他の勇者と同じくその体を風で拘束する。
速すぎる。と、聡介君は内心舌打つ。
この魔王の移動速度に目は付いていく。だが、肝心な体が追い付かない。それはこの魔王を正面から倒す手が無いことを意味した。
「ふふふ、これで私が傷付くことは無くなりましたねぇ。そして、貴方は運が良い。貴方の属性である風。それは私の大っ嫌いな土塊の唯一の弱点!魔王同士の殺し合いは禁止されていますので貴方に殺していただきましょう。何も難しいことはありませんよ?私が影ながらサポートしますので。・・・おや、噂をすると、ですかね?」
どうやってこの危機を乗り越えるか構えて思考を巡らせている聡介君に向けて魔王が話をしていると、更地の向こうから何やら土煙が向かってくる。
ゴゴゴゴゴゴゴ
その土煙の主はすぐにこの場所に辿り着く。
土煙の正体は巌のような全身分厚い筋肉で覆われ、額に短い角を3本生やした新たな魔王。
風魔王の口振りからすると恐らくこの金髪を短く整えた鬼の様な大男が土魔王なのだろう。
こちらは聡介君一人。向こうは魔王が二人。風魔王の言葉を信じるなら土魔王を倒すまでは手を出してこないだろうが、果たして土魔王に単騎で勝利できるだろうか。
これは明らかに王手だ。何とかして阿樟君は解放しないと・・・
勇者の考えは図らずも一致していた。
「おい、そよ風野郎!勇者を狩りに行くって言ってどれだけ掛かってんだ!」
土魔王が聡介君がまだ確保されていない事に気づき、地響きのような低い声で叫ぶ。
「はぁ、折角の楽しい気分が土塊風情のその威厳だけはある声で台無しですね。」
「何をっ!?」
風魔王と土魔王は余程相性が悪いのか出会って早々に険悪なムードが漂う。
キラッ
魔王たちが睨み合っていると、今度は更地ではない方向から複数の光が飛んでくる。
「おや?次は何ですか?」
「あぁん?」
その光に一早く気付いた風魔王の声に土魔王も視線をそちらにやる。
勿論、聡介君と捕まっている私たちも。
「3つの光球?」
「3つ?・・・まさか、今?」
視力も良いのか風魔王の呟きに聡介君、剣慈君、裕美さんがハッとした表情になる。
その光はそこそこの速度で近づいてくる。
・・・私たちに。正確には阿樟君、拳成君、淳君の3人に。
「人間の攻撃?狙いが逸れてますよ、お馬鹿さん。」
風魔王はその光を人間の魔法使いが離れたところから自分達に向けて放った魔法だと思い込み、自分に当たらないならと捉えられた私たちを動かそうともしない。
「あの光・・・。待て、そよ風野郎!避けるんだ!」
「何を言ってるんですか?まず狙いが逸れていますし、何よりあの速度では当たりませんよ。」
土魔王が何か思い出したのか風魔王に回避を要求するが、風魔王は土魔王が何を焦っているのか分からずにいた。
「違うっ!お前じゃない。狙いは・・・」
カッ
土魔王が最後まで言いきる前に光は勇者に辿り着く。
3人に光が当たった瞬間、私と剣慈君以外の勇者から光が溢れた。
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