大鎌使いの死神少女と辛辣な魔女 〜二人に好かれた場合俺はどちらを好きになればいいのだろうか?〜

片山樹

2

 10年前、第二次セカンド天災ディザストロが起きた。家はドミノの様に容赦無く、そして自然の怖さを幼少期の俺に思い知らせる様に壊れた。勿論、俺は家の中にいたため、瓦礫の下敷き状態って訳だ。視界は真っ黒で何も見えない。あるのは闇だけだった。右耳は天災の引き金となった爆音により鼓膜が破れた。そんな中、俺のすぐ近くを人が通る音がしたので俺は助けを呼んだ。必死に叫んだ。埃が口の中に入り、気持ち悪かった。苦しかった。そんな時、俺の視界に光が見えた。ある男が俺を瓦礫の中から発見してくれたのだ。
その男は「今すぐに助けるからね」と言って、瓦礫を次から次へと退かしてくれ俺を助けてくれたのだ。どうにか瓦礫から救出された俺はその男にありがとうの気持ちを伝えようと思ったが、先に先手を打たれた。
「無事かい?」と。
俺は少しだけ不思議に思いながらも妹がまだこの瓦礫の中に居ると伝えた。
全然、会話が成り立っていないと今の自分なら思うけど自分の事よりも美穂の事の方が大事だったんだなと思える。
その男は「わかった」とだけ言って、瓦礫を何度も何度も手で掻き分け探し出してくれた。
俺も瓦礫を掻き分けるが全然見つからない。だけど俺はその男が妹を見つけてくれると信じていた。でも、それは叶わなかった。
何故ならその男性は途中で倒れてしまったから。それもそのはずだ。
だって、その男性は俺に会った時には既に自分の腹に鉄パイプみたいなモノがグサリと貫通していたんだから。
だからあの時は本当に不思議に俺は思っていた。この人は凄いなぁーとか感心してずっと見てた。それが無邪気な俺だった頃の反省。
「おじさん……大丈夫?」
俺が声を掛けるが、男性の返事は無かった。
それにしても気持ち良さそうな顔で寝ているなと思い、起こす事はしなかった。
周りの人々の泣き叫ぶ声をバックグラウンドに俺も泣いた。この世界の変わりように。
人がバタバタと映画の様に倒れていく。
まだ、死なせたくない。妹を死なせたくない。だけど今の自分は無力だ。自分の力では何もできない。クッソ……俺は何もできないのか。
「助けて下さい……」
地面に拳を叩きつけ、懇願する。
誰もいないのに。怒りをどこかにぶつけたかったのだろう。
「この先、どんな事が起きたとしてもか」
後ろからとても美しく澄明で繊細な声がした。
「勿論です。何でもしますから。助けて下さい」
「そうか、少年……それでお前は何を望む?」
後ろを振り返ると黒いドレスを纏ったとても美しい女性がいた。
「妹を助けてほしい……」
俺は叫んだ。すると彼女は笑いながら言った。
「本当にそれがお前の望みか?」
俺は頷いた。
彼女は俺を呆れた顔で見た後、「家族と言うのはそんなにも良いものなのか?」と尋ねてきた。俺はもう一度、首を動かした。
「そうか……それがお前の望みか、少年。
だが、お前は代償を背負う事になるぞ?
それでもいいのか?」
「お願いします。妹を助けて下さい」
彼女のスベスベで綺麗な脚にしがみつく。
「んっ? そうか、それがお前の選択か。いいだろう、少年。だが、ここから先は企業秘密だ」
そう言って彼女の手が俺の視界を奪うと眠気が一気に襲った。そして気づけば、俺はベットの上に寝かされており、ベットの隅っこに上半身を預けている美穂の姿があったのだ。置き手紙が机の上にあり、そこにはこのように書かれていた。
『約束通り助けてやった。代償としてお前が死   んだら体を貰う』
意味は未だによく分からない。
でも結果として俺は美穂を助けた。
しかしそれは本来の世界線では無かった事だ。だから俺は世界を変えてしまった。
この世界に生まれるべき人間が居たかもしれないのにその世界を壊してしまったのかもしれない。自分の願望の為に。欲望の為に。都合の良い様に。
でも俺は助けて良かったと心の底から思っている。でもその影響で世界に歪みが生まれ魔女が生き残ったという過去ができ、死神が生まれた。どうしてそんな過去が生まれたのかは不明。魔女と死神は謎の因果関係があったみたいである。分かった事は魔女に俺は愛され、死神に疎まれているって事だ。それにしても昨日(昨日と言っていいのだろうか、それとも1週間後に起こる出来事として捉えていいのだろう)は学校だと思って安心しきっていたのが、迂闊だった。俺は死神に襲われ、魂を奪われてしまったからだ。だから奪い返す。
裁定者と言うのは少し特殊で時空の狭間を越える事ができるのだ。それは即ち、タイムリープできるということだ。どうにか自分が殺される前の1週間前に戻ってこれたと言って悠々とする時間は無い。もしかしたらこの世界も少しだけズレている可能性があるかもしれない。それを避ける為にできるだけ、1週間前と同じ行動を取っておく必要がある。でも手掛かりが見つかった。あの大鎌少女は俺と同じ学校の制服を着ていたはずだ。だから探せばすぐに見つかる。

「何考えてんの? お兄ちゃん? 朝から元気無いけど……」
「色々と高校生は忙しいんだよ。特に朝はな」
「へぇ〜そうなんだぁー。私も一応高校生なんだけど……」
言われてみると確かに美穂は高校一年生だ。
「訂正しておく。男は大抵朝は忙しいんだよ。これでいいか?」
「まぁ、いいけど……って、そんな事を聞いているんじゃなくて! 何か変だよ? お兄ちゃん」
何か変って言われてもな。
「ははは、ちょっと調子が悪くてさ。じゃあ、俺学校に行ってくるから鍵閉めよろしくな!」
俺はそう言って、ベットの上にあった鞄を掴み、玄関を開ける。
「おい!? 俺に付いてくんな!」
「分かったわ。姿は見えない様にするから安心して」
魔女はそう言って、姿を……消えてない!?
「あの、姿消えてないけど?」
「大丈夫よ。周りの人には見えてないから。やっぱ、あんた馬鹿ね」
言葉が少し棘があるけど仕方ない。
 そしてエレベーターに乗る為に待っていると光がチカチカと点滅して、俺の住んでいる階層に来たと思い、乗り込もうとしたら……あいつがいた。俺の首を撥ねたあいつが……いた。
「あの、乗らないんですか?」
彼女が俺を不思議そうに見つめていた。
俺は「乗ります……」と言って、エレベーターに乗り込む。

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