僕のブレスレットの中が最強だったのですが
―幼馴染でごめんね―バレンタインイベント①
―――さあ。恋する乙女達―――
―――行きなさい。己の思いを叶える道へと、ゆくのです―――
―――恋愛とは美しい―――
―――恋の色をお見せなさい。鮮やかな青春を見せつけなさい―――
―――恋する乙女達よ、貴方らにはその使命があるのです―――
〇
「うっ……!?」
「おいどうしたんだよ日之内。今日こそ呪われて死に至ったかてめぇ?」
「え? うそ、え?」
元は大賢者ことテーラ・ヒュプスと呼ばれた彼女が異世界に行く前居た学校に転移したことに気付くのには、さほど時間はかからなかった。
何故なら彼女が歴史改革を望む理由である少年――朝霧零夜が隣にいたから。
さほど頭のいい学校というわけでもない正中高校の通学路は、既にたくさんの学生で埋まっている。零夜の不器用な暴言も、この瞬間も懐かしい。
しかし零夜に異世界での記憶が無くなっていることに気付くのもまた、さほど時間はかからなかった。
正中高校では零夜と関係を進めるどころか、後退するばかり。進んでは後退し、一向に進展がないままだったのだ。
積み上げてきた物の記憶が全て抜けている。日之内は唇をかみしめた。
その直後に、この世界が地球とも違うことに気付く。今の自分の姿は銀髪の――大賢者の姿に制服を着せただけの姿だ。
彼女の今の姿は、勇者であった零夜しか知らないのである。
この世界はコピーされた世界なのか、または……、その考えを切ったのは、零夜の言葉だった。
「いやお前、マジでどうしたんだよ。……って勘違いすんなよ、俺はお前を呪った覚えなんかねぇぞ!?」
「あぁん!? さっきから私が呪われた解釈をするな! ていうかそもそも零夜の方が呪われるべきだと思いませんかーっ!?」
嫌味たらしい敬語と明らかな同じ嫌味を含んだ暴言のぶつけあい。二人は幼馴染であり、学生にとってこの情景も日常茶飯事だ。
相変わらずの口喧嘩とは裏腹に、空は憎たらしいほどの晴天だった。
〇
「ふぇっ!?」
「どうしたの理亜? 何か見つけたものでもあった? 忘れ物?」
そしてシェリアこと紗月理亜も日之内と全く同じ正中高校に転移したことに気付く。脳内に彼女のこの世界での情報が膨大に流れ込んでくる。
オーストラリアと日本人のハーフである目の前の少年ルネックス・アレキは、間違いなく異世界アルティディアの勇者だ。
しかし彼の記憶は無いように見える。それくらい、理亜には容易に察せた。
「えっと、今日って何日でしたっけ?」
「今日? 今日は二月十日だよ。ほら、明日修学旅行に行くってみんなはしゃいでたじゃないか。それにしても理亜が日にちを忘れるなんて珍しいね」
「あ、その……何か意識が飛んでいたみたいで。もしかしたら修学旅行が楽しみ過ぎたのかもしれません。すみませんね」
「いや、大丈夫だよ。僕も今日は修学旅行が楽しみで眠れそうにないからね」
一方こちらは楽しく話を進めている。話すことが見つからず尋ねた今日の日にちだが、今日は修学旅行の前日だった。
それにしても二月十日か。
あと四日でバレンタイン。そして修学旅行から帰って来るのは二月十五日。驚異なくらい長い修学旅行の期間である。まるで嫌味かのように。
二人で会話に華を咲かせていると、対面から見知った銀髪の少女の姿が現れた。その隣には見知らぬ少年が立っている。
「あ、日之内さん、朝霧くん、おはよう」
「おーっす。ルネックスこそラブラブじゃねぇかこら。リア充デビューか?」
理亜が疑問の声を上げる前に、ルネックスは少年に向かって手を振る。日之内、朝霧、どちらも聞き覚えの無い名前だ。
疑念が膨れ上がるその寸前、日之内が理亜の肩を軽くとん、と叩く。
「ねえシェリアちゃん。此処はね、私が元居た世界なわけよ、でもその元居た世界を複製した世界なのね。つまり、神様からの試練場」
「テーラさん……でも、神様は私達にどのような試練を……?」
「恋愛じゃない? わざわざもう死んじゃった奴を複製してくれたんだからね。相当な時間と燃費でしょ、そんでわざわざ登校中に設定するなら、まあ確定でしょ」
自分のほかにも日之内も転移を自覚していることに気付いた理亜はほっと一息つく。先程までの緊張が嘘のようにほぐれている。
朝霧とルネックスが離している間、日之内と理亜も話を続けていく。そうこうしている間に、校門を潜っていたが四人は気付かない。
日之内の分析の言葉は少々難しかったが、理亜が理解できないほどでもなかった。これは恋愛のための試練であることは理解できたからだ。
それにしても、誰が、どうして、なんのために。一番重要なその三ポイントが理解できない今、やはり完全に警戒の力を抜くことはできない。
そのままこの世界の理解への進展は無く、一日は過ぎていったのだった。
〇
「うわーすげぇな。新幹線かこれ! でっけぇー……! さすがに感動するわ」
「へーほーあんたにも感動するお心があったわけね。新幹線でそんなに驚いてたら飛行機乗ったら窒息死だなお前」
「るせぇ! お前一度飛行機乗ったことあるからって調子乗ってんのか!」
「乗ってないのってない。調子乗ってる零夜の叩きなおしに言っただけ」
そして迎えた修学旅行当日。軽口を叩き合う二人の日常茶飯事を尻目に、後ろで理亜とルネックスも新幹線を見上げて目を輝かせている。
先程まで異世界で生活していた理亜は勿論、ルネックスも新幹線には乗ったことがなかった。この中で新幹線経験者は日之内のみである。
両親が航空会社の社員であるがゆえに日本を拠点にあちこちの国を飛び回り、その際に新幹線に乗った事があるのだ。
教師の掛け声が響いたので、学生たちはあわてて新幹線内に乗り込む。零夜とルネックスが隣同士、理亜と日之内が隣同士だ。
そしてそれぞれ左と右、同じ列という運命的な配置である。勿論、席の場所を選んだのは彼らである。こればかりは教師に貸しひとつだ。
「行くぞお前ら―――! 向こう行ったら迷惑かけんじゃねえぞ。ガンガン進むからついてこいよお前らぁ―――!」
学校名物の熱血教師の掛け声と共に、新幹線は発進した。
同時に全ての学生は思った。
―――新幹線の中で大声を上げて迷惑をしているのは、彼の方ではないか、と。
〇
新幹線で東京に向かうまで約二時間。愛知県の田舎部分から都会に行くのだから、学生たちはこれ以上興奮することは無い。
並びに、昔は東京に住んでいた日之内はそこまで興奮していないことを付け加えよう。
そしてまた並びに、そもそも体感では日本に来たことすら初めての理亜は日之内と真逆の反応を見せ、始終目を輝かせていた。
「ねえねえシェリアちゃんよ。バレンタイン近くじゃん。十二日から観光地指定がないんだよ。つまり自由に動いていいってことじゃん」
「ハッ、バレンタイン! そうでした。あまりにもの景色で忘れてました……確かにそうですが……」
「ちょっとその辺の女子の話題を聞いてみてよ。全員全く同じ話題してるじゃん、先生もこのために二日何とか先延ばしにしてるんだし」
正中高校の教師がそろいもそろって恋愛大好きである事は知れ渡っている。恋愛好きの教師が選ばれるなどという根も葉もない噂もある程だ。
そのためバレンタインのために教師が二日旅行期間を先延ばしにし、企画のために頑張っていたのだからこれを無視する術はない。
何より日之内のツンデレのデレを抜いた感じの性格より、ツンデレのツンを抜いたただのデレである理亜は必ずと言っていいほど渡せるだろう。
「そ、そうですかね。じゃあ、私も参加しましょう! という事は勿論テーラさんも参加するんですよね?」
「み、見かけよりぐいぐい行くねシェリアちゃん……。勿論私も参加させてもらうけど、シェリアちゃんより絶対上手くいかないから」
「大丈夫ですよ。―――本当に好きならあきらめないでくださいっ」
「おっ、言うじゃない、このこのっ」「ひゃああやめてくだひゃい!」
理亜の言葉にニヤリと口角を上げた日之内は彼女のほっぺを引っ張り、それを見ていた男子がある意味で喜んでいたのは別の話……。
〇
一方の男子二人は後ろも前の席も女子で埋まっており、あちこちで囁かれるバレンタインの話題に自分達も参加し始めた。
ほとんどが流れであり、皆が話しているから話して居ただけなのだが、それぞれ意中の女子がいるために段々とノり始める。
「んで、ルネックスよ、バレンタイン理亜に貰える確率は?」
「いやそんな、僕なんて貰えないでしょ。朝霧くんこそ、日之内さんから貰える自信はあるの?」
「んなっ、なんでここで日之内だよ、ていうかバカッ。聞こえたらどうすんだ……! そもそも一番貰える可能性があるのはお前だろ」
ルネックスの口を慌てて塞いで聞き耳を立てている者がいないことに気付くと、安心して落ち着きを取り戻していく零夜。
あちこちでバレンタインの話をしている中なのだからそこまで気にする事かとも思ったルネックスだが、確かに聞こえてほしいとも思えない。
なので改めて小さな声で言う。
「日之内さんに貰える自信ある?」
「……ぶっちゃけ、ねぇな。ていうか何言わせてんだお前っ……!」
「うんうん。でも向こうだってバレンタインについて討論してるみたいだから……あげる人がいるんだと思うよ」
ルネックスは自分で言いながらも眉をひそめた。その言葉を聞いた零夜は顔面蒼白になり、椅子に座ったまま石になったかのように固まる。
もし自分達じゃないのなら。二人で討論していた通り貰える自信がなく、そして本当にもらえなかったのなら。
言葉で話すのならまだしも、そのショックは一日二日では立ち直れないだろう。
「オイお前ら着いたぞ――! 迷惑かけんなよ! そしてバレンタイン楽しみやがれ、このリア充、リア充予備軍どもォ!!」
「「「先生俺ら/私達、非リアですよーっ!!」」」
まこと迷惑なことに、東京駅に着くと叫び始める学生たちだった……。
〇
四人でチームを組んで観光することを命じられたため、相変わらずの構成だが零夜、日之内、理亜、ルネックスでチームを組んだ。
「おーい零夜見てみて、あっちでお土産買うといいらしいよー!」
「おい、まだ一日目も終わってねーじゃん。お土産お土産言ってたら帰るころには持って帰れねえほど溜まるぞ、少なくとも十二日だろう」
「……十二日じゃだめなの、今日買い置きしなきゃダメなの。腐るならそれも良し……っていうか食べ物しか買わないと思ってんの!?」
あまりにも鬼畜な零夜の言葉に、日之内はやはりいつも通りヒートアップする。しかしハッハッハ、と曖昧に笑う零夜の様子が変だと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
〇
一方日之内らの横で、東京駅への到着を喜ぶ理亜。初めて見るアスファルトで整備された道路。そもそもこのように綺麗な建物もめったに見れたものではない。
そのため目を輝かせ、今にでも子供のようにはしゃぎ回らんばかりに、渋谷にいる女子高生のごとくはしゃいでいた。
「凄いですね。これが『とーきょーえき』なんですね! 圧巻です!」
「うん、そうだよね……僕も初めて見たから心の底から何かが湧き上がってくるよ」
一方の理亜も、何だかルネックスの言葉が回りくどい上に、表情がなんだかおかしいことに気付くのには時間がかからなかった。
未来の分からない、修学旅行。その始まりの日は、様々に絡み合う思惑で終わった。
―――さあ、お見せくださいませ―――
―――アルティディアの大賢者と英雄として―――
―――ふさわしい恋愛の光をお見せなさい―――
―――行きなさい。己の思いを叶える道へと、ゆくのです―――
―――恋愛とは美しい―――
―――恋の色をお見せなさい。鮮やかな青春を見せつけなさい―――
―――恋する乙女達よ、貴方らにはその使命があるのです―――
〇
「うっ……!?」
「おいどうしたんだよ日之内。今日こそ呪われて死に至ったかてめぇ?」
「え? うそ、え?」
元は大賢者ことテーラ・ヒュプスと呼ばれた彼女が異世界に行く前居た学校に転移したことに気付くのには、さほど時間はかからなかった。
何故なら彼女が歴史改革を望む理由である少年――朝霧零夜が隣にいたから。
さほど頭のいい学校というわけでもない正中高校の通学路は、既にたくさんの学生で埋まっている。零夜の不器用な暴言も、この瞬間も懐かしい。
しかし零夜に異世界での記憶が無くなっていることに気付くのもまた、さほど時間はかからなかった。
正中高校では零夜と関係を進めるどころか、後退するばかり。進んでは後退し、一向に進展がないままだったのだ。
積み上げてきた物の記憶が全て抜けている。日之内は唇をかみしめた。
その直後に、この世界が地球とも違うことに気付く。今の自分の姿は銀髪の――大賢者の姿に制服を着せただけの姿だ。
彼女の今の姿は、勇者であった零夜しか知らないのである。
この世界はコピーされた世界なのか、または……、その考えを切ったのは、零夜の言葉だった。
「いやお前、マジでどうしたんだよ。……って勘違いすんなよ、俺はお前を呪った覚えなんかねぇぞ!?」
「あぁん!? さっきから私が呪われた解釈をするな! ていうかそもそも零夜の方が呪われるべきだと思いませんかーっ!?」
嫌味たらしい敬語と明らかな同じ嫌味を含んだ暴言のぶつけあい。二人は幼馴染であり、学生にとってこの情景も日常茶飯事だ。
相変わらずの口喧嘩とは裏腹に、空は憎たらしいほどの晴天だった。
〇
「ふぇっ!?」
「どうしたの理亜? 何か見つけたものでもあった? 忘れ物?」
そしてシェリアこと紗月理亜も日之内と全く同じ正中高校に転移したことに気付く。脳内に彼女のこの世界での情報が膨大に流れ込んでくる。
オーストラリアと日本人のハーフである目の前の少年ルネックス・アレキは、間違いなく異世界アルティディアの勇者だ。
しかし彼の記憶は無いように見える。それくらい、理亜には容易に察せた。
「えっと、今日って何日でしたっけ?」
「今日? 今日は二月十日だよ。ほら、明日修学旅行に行くってみんなはしゃいでたじゃないか。それにしても理亜が日にちを忘れるなんて珍しいね」
「あ、その……何か意識が飛んでいたみたいで。もしかしたら修学旅行が楽しみ過ぎたのかもしれません。すみませんね」
「いや、大丈夫だよ。僕も今日は修学旅行が楽しみで眠れそうにないからね」
一方こちらは楽しく話を進めている。話すことが見つからず尋ねた今日の日にちだが、今日は修学旅行の前日だった。
それにしても二月十日か。
あと四日でバレンタイン。そして修学旅行から帰って来るのは二月十五日。驚異なくらい長い修学旅行の期間である。まるで嫌味かのように。
二人で会話に華を咲かせていると、対面から見知った銀髪の少女の姿が現れた。その隣には見知らぬ少年が立っている。
「あ、日之内さん、朝霧くん、おはよう」
「おーっす。ルネックスこそラブラブじゃねぇかこら。リア充デビューか?」
理亜が疑問の声を上げる前に、ルネックスは少年に向かって手を振る。日之内、朝霧、どちらも聞き覚えの無い名前だ。
疑念が膨れ上がるその寸前、日之内が理亜の肩を軽くとん、と叩く。
「ねえシェリアちゃん。此処はね、私が元居た世界なわけよ、でもその元居た世界を複製した世界なのね。つまり、神様からの試練場」
「テーラさん……でも、神様は私達にどのような試練を……?」
「恋愛じゃない? わざわざもう死んじゃった奴を複製してくれたんだからね。相当な時間と燃費でしょ、そんでわざわざ登校中に設定するなら、まあ確定でしょ」
自分のほかにも日之内も転移を自覚していることに気付いた理亜はほっと一息つく。先程までの緊張が嘘のようにほぐれている。
朝霧とルネックスが離している間、日之内と理亜も話を続けていく。そうこうしている間に、校門を潜っていたが四人は気付かない。
日之内の分析の言葉は少々難しかったが、理亜が理解できないほどでもなかった。これは恋愛のための試練であることは理解できたからだ。
それにしても、誰が、どうして、なんのために。一番重要なその三ポイントが理解できない今、やはり完全に警戒の力を抜くことはできない。
そのままこの世界の理解への進展は無く、一日は過ぎていったのだった。
〇
「うわーすげぇな。新幹線かこれ! でっけぇー……! さすがに感動するわ」
「へーほーあんたにも感動するお心があったわけね。新幹線でそんなに驚いてたら飛行機乗ったら窒息死だなお前」
「るせぇ! お前一度飛行機乗ったことあるからって調子乗ってんのか!」
「乗ってないのってない。調子乗ってる零夜の叩きなおしに言っただけ」
そして迎えた修学旅行当日。軽口を叩き合う二人の日常茶飯事を尻目に、後ろで理亜とルネックスも新幹線を見上げて目を輝かせている。
先程まで異世界で生活していた理亜は勿論、ルネックスも新幹線には乗ったことがなかった。この中で新幹線経験者は日之内のみである。
両親が航空会社の社員であるがゆえに日本を拠点にあちこちの国を飛び回り、その際に新幹線に乗った事があるのだ。
教師の掛け声が響いたので、学生たちはあわてて新幹線内に乗り込む。零夜とルネックスが隣同士、理亜と日之内が隣同士だ。
そしてそれぞれ左と右、同じ列という運命的な配置である。勿論、席の場所を選んだのは彼らである。こればかりは教師に貸しひとつだ。
「行くぞお前ら―――! 向こう行ったら迷惑かけんじゃねえぞ。ガンガン進むからついてこいよお前らぁ―――!」
学校名物の熱血教師の掛け声と共に、新幹線は発進した。
同時に全ての学生は思った。
―――新幹線の中で大声を上げて迷惑をしているのは、彼の方ではないか、と。
〇
新幹線で東京に向かうまで約二時間。愛知県の田舎部分から都会に行くのだから、学生たちはこれ以上興奮することは無い。
並びに、昔は東京に住んでいた日之内はそこまで興奮していないことを付け加えよう。
そしてまた並びに、そもそも体感では日本に来たことすら初めての理亜は日之内と真逆の反応を見せ、始終目を輝かせていた。
「ねえねえシェリアちゃんよ。バレンタイン近くじゃん。十二日から観光地指定がないんだよ。つまり自由に動いていいってことじゃん」
「ハッ、バレンタイン! そうでした。あまりにもの景色で忘れてました……確かにそうですが……」
「ちょっとその辺の女子の話題を聞いてみてよ。全員全く同じ話題してるじゃん、先生もこのために二日何とか先延ばしにしてるんだし」
正中高校の教師がそろいもそろって恋愛大好きである事は知れ渡っている。恋愛好きの教師が選ばれるなどという根も葉もない噂もある程だ。
そのためバレンタインのために教師が二日旅行期間を先延ばしにし、企画のために頑張っていたのだからこれを無視する術はない。
何より日之内のツンデレのデレを抜いた感じの性格より、ツンデレのツンを抜いたただのデレである理亜は必ずと言っていいほど渡せるだろう。
「そ、そうですかね。じゃあ、私も参加しましょう! という事は勿論テーラさんも参加するんですよね?」
「み、見かけよりぐいぐい行くねシェリアちゃん……。勿論私も参加させてもらうけど、シェリアちゃんより絶対上手くいかないから」
「大丈夫ですよ。―――本当に好きならあきらめないでくださいっ」
「おっ、言うじゃない、このこのっ」「ひゃああやめてくだひゃい!」
理亜の言葉にニヤリと口角を上げた日之内は彼女のほっぺを引っ張り、それを見ていた男子がある意味で喜んでいたのは別の話……。
〇
一方の男子二人は後ろも前の席も女子で埋まっており、あちこちで囁かれるバレンタインの話題に自分達も参加し始めた。
ほとんどが流れであり、皆が話しているから話して居ただけなのだが、それぞれ意中の女子がいるために段々とノり始める。
「んで、ルネックスよ、バレンタイン理亜に貰える確率は?」
「いやそんな、僕なんて貰えないでしょ。朝霧くんこそ、日之内さんから貰える自信はあるの?」
「んなっ、なんでここで日之内だよ、ていうかバカッ。聞こえたらどうすんだ……! そもそも一番貰える可能性があるのはお前だろ」
ルネックスの口を慌てて塞いで聞き耳を立てている者がいないことに気付くと、安心して落ち着きを取り戻していく零夜。
あちこちでバレンタインの話をしている中なのだからそこまで気にする事かとも思ったルネックスだが、確かに聞こえてほしいとも思えない。
なので改めて小さな声で言う。
「日之内さんに貰える自信ある?」
「……ぶっちゃけ、ねぇな。ていうか何言わせてんだお前っ……!」
「うんうん。でも向こうだってバレンタインについて討論してるみたいだから……あげる人がいるんだと思うよ」
ルネックスは自分で言いながらも眉をひそめた。その言葉を聞いた零夜は顔面蒼白になり、椅子に座ったまま石になったかのように固まる。
もし自分達じゃないのなら。二人で討論していた通り貰える自信がなく、そして本当にもらえなかったのなら。
言葉で話すのならまだしも、そのショックは一日二日では立ち直れないだろう。
「オイお前ら着いたぞ――! 迷惑かけんなよ! そしてバレンタイン楽しみやがれ、このリア充、リア充予備軍どもォ!!」
「「「先生俺ら/私達、非リアですよーっ!!」」」
まこと迷惑なことに、東京駅に着くと叫び始める学生たちだった……。
〇
四人でチームを組んで観光することを命じられたため、相変わらずの構成だが零夜、日之内、理亜、ルネックスでチームを組んだ。
「おーい零夜見てみて、あっちでお土産買うといいらしいよー!」
「おい、まだ一日目も終わってねーじゃん。お土産お土産言ってたら帰るころには持って帰れねえほど溜まるぞ、少なくとも十二日だろう」
「……十二日じゃだめなの、今日買い置きしなきゃダメなの。腐るならそれも良し……っていうか食べ物しか買わないと思ってんの!?」
あまりにも鬼畜な零夜の言葉に、日之内はやはりいつも通りヒートアップする。しかしハッハッハ、と曖昧に笑う零夜の様子が変だと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
〇
一方日之内らの横で、東京駅への到着を喜ぶ理亜。初めて見るアスファルトで整備された道路。そもそもこのように綺麗な建物もめったに見れたものではない。
そのため目を輝かせ、今にでも子供のようにはしゃぎ回らんばかりに、渋谷にいる女子高生のごとくはしゃいでいた。
「凄いですね。これが『とーきょーえき』なんですね! 圧巻です!」
「うん、そうだよね……僕も初めて見たから心の底から何かが湧き上がってくるよ」
一方の理亜も、何だかルネックスの言葉が回りくどい上に、表情がなんだかおかしいことに気付くのには時間がかからなかった。
未来の分からない、修学旅行。その始まりの日は、様々に絡み合う思惑で終わった。
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