僕のブレスレットの中が最強だったのですが
異世界がなかったら—正月イベント—
アルティア高等学院では、三十八人というやけに大人数なクラスがあった。此処三年二組は異例の人数で、一組も三組も二十五人な中、何の因縁があったのか二組だけが三十八人なのだ。
しかし学生たちはさほど気にした様子もなく、放課の時間はまとまって遊んでいる。
三十八人でまとまってやるゲームの名物のひとつ、罰ゲームじゃんけんだ。三十八人の中二十人の負けた者が罰ゲームをやらされるという恐怖のゲーム。
魔法も何もない此処『地球』では、こうしたゲームがとても楽しいのである。
「おい自称大賢者……さっさと勝たねぇとお前マジで二十人に入るぞ」
「あー!? また負けた、また負けたッ! おら来い、ルネ――ックス!」
自称大賢者日之内優がチョキを出したままの手を天に掲げ悲痛の声を上げながら跪く。やけに外国人が多いために三十八人になったのかという噂もあるこのクラスだが、日之内が相手をしていた少年も、日之内が呼んだ気弱そうな少年も外国人である。
ハーライト・フェリアッサイド。混血なしのアメリカ人である。そしてオタクなのである。呼ばれた少年の名をルネックス・アレキ。
彼はオーストラリアと日本のハーフである。二人とも十分に顔が整っており、クラスの中でも幾度も告白された非リアに血泪を流させる者達だ。
そしてこの日本人の日之内だが、オタクの自称大賢者である。ハーライトと話が合うために友人同士なのだが、さすがの彼も彼女のように自信に称号を付けたりはしない。
自身は二重人格だと言ったり右腕が疼くと言ったり、まさに中二病の象徴なのである。しかし彼女は中二病とオタクは違って―――と訴え続けている。
そしてルネックスの後ろでじゃんけんに勝ったばかりの瀬戸口可恋が勝利の表情を浮かべてルネックスを見ている。
先程可恋は三回じゃんけんし、見事な運で罰ゲームをする二十人の中へ入る事を免れたのだった。
これは女のプライドである。曰く、女は自身のプライドのためなら運をもねじ伏せられる。そう。今回の罰ゲームは何処までも鬼畜だった。
そして発案者は―――
発案しておりながら負けまくって血泪を流している自称大賢者なのであった。
一応でも偏差値73の名門学院であるアルティア学院だが、皆頭が良すぎてプライドが高すぎて、放課の時間は勉強ではなく遊びにすることが定着しているのだ。
そして罰ゲームじゃんけんが流行ったのは、三年前の先輩達の布教のせいだ。
ちなみに三十八人の中から二十人を引いた十八人には正月専用の給食が出るようになっている。餅やらみかんやらおせちやら。
教員もどうやらこの罰ゲームじゃんけんにはノリノリのようである……。
「あ、すみません。僕は遠慮します」
「絶対負けたくないからでしょ! 今度こそこのボクが勝ってやらぁぁぁあ!」
日之内は空回りしている。ルネックスは辺りを見回すと、見計らったかのように短髪茶髪の少女が彼の肩を叩く。
クラスのマドンナ、藍野玲愛。彼女は後一度勝てば二十人から抜け出すことができるリーチ状態だ。
ルネックスは緊張しながらじゃんけんすると―――負けた。
「なっ! 僕はこんなにも運が悪かったのか……」
「ふふー。それじゃあ抜けさせてもらうね。ばいちゃー!」
「ルネックスさん、私とじゃんけんしませんか? 私も二十人に入りそうなので」
そろそろ負けすぎて顔を青くするルネックスに声をかけたのは玲愛に及ぶほどの美少女であり、清楚で純粋なお嬢様。
身なりも家もお嬢様なのだが、彼女は謙遜してばかりで一向に自分の良さを認めないネガティブ少女でもある紗月理亜。あだ名はしゃり。
理亜が声をかけた瞬間、非リア達の恐ろしいほどの視線が突き刺さる。
しかしルネックスは鈍感なのかバカなのか天然なのかそれには気付かず、じゃんけんをする―――負けた。
喜ぶ理亜と沈むルネックス、笑う自称大賢者日之内。そんな彼女を笑うオタク舐めんな主義者の北野永夜。
顔は普通。性格は残酷。勉強は最強。体育は凡人以下。とても偏りがある性格をしてはいるが、正真正銘日之内と友人である。
その北野永夜も二十人の中にすでに入っていて顔は青ざめている。日之内もつい先ほど如月霊名という小柄な少女と対戦し負け二十人に入っている。
二十人に入っているのは現在ルネックス、北野永夜、日之内、その他である。残り五人の枠には「何故だ」と叫びながらハーライトが入って来た。
そして玲愛が入って来た瞬間に、クラスに悲鳴が上がる。そして日之内は目尻に涙を浮かべながらやって来た三人―――揃った二十人に叫んだ。
「さぁやってやろうではないか! 公園に首輪をつけて四つん這いで徘徊を!」
「マジでやるのかよー……」
「やってやろうって、元と言えば日之内さんが発案したんじゃない……」
玲愛の遠い目。ハーライトの絶望の瞳。ルネックスの青ざめた表情。血泪を流す日之内、黒い炎を燃やす北野永夜―――。
最も表情の変化が激しかったのは彼らである。
公園に首輪をつけて四つん這いで徘徊する偏差値73のアルティア高等学院生など正気の沙汰ではない。しかも残った学生はのんきにおせち給食である。
※この学校は給食制である。
そしてなんと―――先生もノリノリなのであった。
くすくす、と霊名が笑う。彼女は勝ち抜けてきており、じゃんけんで一度も負けたことのない少女だ。これも誰にも負けぬ美貌である。
理亜や玲愛とはまた一味違った、鈴を鳴らすような美女。そして美術も体育も勉強も良く出来るオールラウンダー。
彼女の笑みに非リア達が顔を赤らめるが、彼女の好きな人はルネックスなのであった。
「みんなおせちたべられないねー。ひのうちは全然かわいそうじゃない」
「ひどいっ!?」
そして片方にとっては地獄、片方にとっては天国の時間が始まったのだった。
〇
おせち料理十八人分が運ばれてくる。たった十八人分なため、学院はこっちが青ざめるほどに金をつぎ込んでくれている。
たかがゲームで―――と思ったりもするが、校長にとっては有り余る資金を見せつけたり風聞のためという計算高い目的があったりする。
そのおかげで主食おせち、そして餅、みかんが机の上に乗せられた。
「やばい、ものすごくおいしそうだー!」
「れ、れれっ、れ、れいな、さん! そ、その、えと、えあ……ぅ」
「はっきりいいなさいよー」
少年は委員会があって掃除当番を代わってほしいと言いたいだけなのだが、絶世の美女を目の前にして言葉を言いきれなくなる。
後ろから理亜が少年の肩を叩き、訝しむ霊名にくすりと微笑みかけた。
「彼は委員会なので、掃除当番を代わって欲しいと言いたいようです。霊名さんは可愛いので、緊張してしまっただけかと」
「あたしはかわいくないよ。りあの方がめっちゃ可愛いから」
―――でもルネックス(さん)は渡さない(ですよ)。
誰にも聞こえないような小さな声で火花を散らす彼女らの後ろで、一人全てを聞いてしまった少年はルネックスの何倍も青ざめた表情をする。
窓をちらりと見ると、罰ゲーム実行をしに行こうとしているルネックス達が見える。そんな彼らにはカメラが付けられており、その映像はこのクラスで見れるようになっている。
初めて知った、この美しい少女達の好きな人。それは、日ごろからたくさんの人にちょっかいを出されている気弱な少年であったことに。
自分らには欠片もチャンスが来ることは無いと悟り、少年は席に戻ると涙を流しながらおせちを食い、そのおいしさに滂沱の涙を流した。
〇
また罰ゲームかと公園の中がざわざわする。告白罰ゲームだったりキスだったりという現場でよく使われるこの公園では、周知の事実である。
しかしいつになく「ずーん」という効果音が百回出そうなほど沈んだ彼らの表情を見て、尋常じゃない罰ゲームなのだろうと思う。
彼らの首には首輪が付いており―――それで大半の者が全てを察し遠い目をする。
二十人がまるで軍人のように一斉に敬礼してから、涙を流して四つん這いになる。何も知らない者が見れば、警察沙汰の変態軍団に見られるだろう。
幸いこの辺の警察は―――校長が全て買収してあるのDA……。
「ママー、あれは何してるの?」
「見ちゃだめよ。あんな高校生になったらママ許さないわよ……!」
女性が女の子の手を引いて歩き去る。どうやら何も知らない人らしい。それでもその言葉は強制的にやらされている身としては心に刺さる。
そして発案者は―――
「もうヤダああああああ!」
―――再度血涙を流しながら公園を高速徘徊していくのだった。
〇
給食を食べ終わった後、何故か先生たちが全員二組に集まり始めた。六人の先生が集結し何かを話し合っている。
それを見た学生たちは怪訝そうに眉をひそめてひそひそと話す。
勘が物凄い当たる霊名の力(?)をもってしても何を企んでいるのか全く分からない。
「我が学院の生徒諸君。至急学習室へ集合してくれ。しばらく待つことになるが、素晴らしい景色を見せてやろう」
ニヤリと笑う担任。学生たちは怪訝な思いを増幅させながらも、反抗するわけにはいかないのでぞろぞろと教室から出る。
六人が残された空っぽな教室では、教員たちが苦笑いを浮かべていた。
「全く日之内君は考えてくれたものだな」
「我々の仕事は増えるが、生徒が楽しんでくれるならばそれもありかもしれん」
暖かい笑みをこぼした一人の教員の震える手には、膨大な量の段ボールがあった―――。
〇
死人の顔で戻って来た学生二十人は二組の教室に入る。いつもは賑やかやらニヤニヤやらの声が響く教室には、何も音がしない。
それにも気づかない。それほど精神が終わっているのだ。
しかし舞台はそろった。先生たちに呼び戻された十八人の学生たちと二十人の罰ゲーム学生たちが鉢合わせになる。
「えーっと、何があったの?」
「わかんなーい。なんかせんせいに呼ばれて……呼び戻されて……」
霊名はお手上げと言わんばかりに苦笑いを向ける。そしてルネックスの首に未だかけられている首輪を見てくすくすと笑う。
爆笑が起こる。教室の扉を開けて、教員が「こほん」と大きく咳をした。
「入るがいい」
その短い一言で笑い声は止まり、学生たちはまた怪訝な顔をしながらも教室に踏み込む。担任がいつも使う黒板がある方の壁には日の出と富士山が描かれた絵。
あまり使わない小さな黒板がある方の後ろの壁には除夜の鐘の絵。おせちを食べられなかった二十人の席には年越しそばがあった。
掲示板をふんだんに使い、「あけまして」「おめでとう」「ございます」と貼られている。ひとつの掲示板には二~三つの言葉しか入らなかったようだが。
正月用にきれいに飾られ、どうだとどや顔を浮かべる教員たちを見て、日之内はにやっと口角を上げて笑った。
「言ったじゃん。ボクは発案者なんだから。そんな苦しい罰を受けるだけなんてさせるわけがないでしょ?」
―――日之内は、格好つけなくても、格好いい。
しかし学生たちはさほど気にした様子もなく、放課の時間はまとまって遊んでいる。
三十八人でまとまってやるゲームの名物のひとつ、罰ゲームじゃんけんだ。三十八人の中二十人の負けた者が罰ゲームをやらされるという恐怖のゲーム。
魔法も何もない此処『地球』では、こうしたゲームがとても楽しいのである。
「おい自称大賢者……さっさと勝たねぇとお前マジで二十人に入るぞ」
「あー!? また負けた、また負けたッ! おら来い、ルネ――ックス!」
自称大賢者日之内優がチョキを出したままの手を天に掲げ悲痛の声を上げながら跪く。やけに外国人が多いために三十八人になったのかという噂もあるこのクラスだが、日之内が相手をしていた少年も、日之内が呼んだ気弱そうな少年も外国人である。
ハーライト・フェリアッサイド。混血なしのアメリカ人である。そしてオタクなのである。呼ばれた少年の名をルネックス・アレキ。
彼はオーストラリアと日本のハーフである。二人とも十分に顔が整っており、クラスの中でも幾度も告白された非リアに血泪を流させる者達だ。
そしてこの日本人の日之内だが、オタクの自称大賢者である。ハーライトと話が合うために友人同士なのだが、さすがの彼も彼女のように自信に称号を付けたりはしない。
自身は二重人格だと言ったり右腕が疼くと言ったり、まさに中二病の象徴なのである。しかし彼女は中二病とオタクは違って―――と訴え続けている。
そしてルネックスの後ろでじゃんけんに勝ったばかりの瀬戸口可恋が勝利の表情を浮かべてルネックスを見ている。
先程可恋は三回じゃんけんし、見事な運で罰ゲームをする二十人の中へ入る事を免れたのだった。
これは女のプライドである。曰く、女は自身のプライドのためなら運をもねじ伏せられる。そう。今回の罰ゲームは何処までも鬼畜だった。
そして発案者は―――
発案しておりながら負けまくって血泪を流している自称大賢者なのであった。
一応でも偏差値73の名門学院であるアルティア学院だが、皆頭が良すぎてプライドが高すぎて、放課の時間は勉強ではなく遊びにすることが定着しているのだ。
そして罰ゲームじゃんけんが流行ったのは、三年前の先輩達の布教のせいだ。
ちなみに三十八人の中から二十人を引いた十八人には正月専用の給食が出るようになっている。餅やらみかんやらおせちやら。
教員もどうやらこの罰ゲームじゃんけんにはノリノリのようである……。
「あ、すみません。僕は遠慮します」
「絶対負けたくないからでしょ! 今度こそこのボクが勝ってやらぁぁぁあ!」
日之内は空回りしている。ルネックスは辺りを見回すと、見計らったかのように短髪茶髪の少女が彼の肩を叩く。
クラスのマドンナ、藍野玲愛。彼女は後一度勝てば二十人から抜け出すことができるリーチ状態だ。
ルネックスは緊張しながらじゃんけんすると―――負けた。
「なっ! 僕はこんなにも運が悪かったのか……」
「ふふー。それじゃあ抜けさせてもらうね。ばいちゃー!」
「ルネックスさん、私とじゃんけんしませんか? 私も二十人に入りそうなので」
そろそろ負けすぎて顔を青くするルネックスに声をかけたのは玲愛に及ぶほどの美少女であり、清楚で純粋なお嬢様。
身なりも家もお嬢様なのだが、彼女は謙遜してばかりで一向に自分の良さを認めないネガティブ少女でもある紗月理亜。あだ名はしゃり。
理亜が声をかけた瞬間、非リア達の恐ろしいほどの視線が突き刺さる。
しかしルネックスは鈍感なのかバカなのか天然なのかそれには気付かず、じゃんけんをする―――負けた。
喜ぶ理亜と沈むルネックス、笑う自称大賢者日之内。そんな彼女を笑うオタク舐めんな主義者の北野永夜。
顔は普通。性格は残酷。勉強は最強。体育は凡人以下。とても偏りがある性格をしてはいるが、正真正銘日之内と友人である。
その北野永夜も二十人の中にすでに入っていて顔は青ざめている。日之内もつい先ほど如月霊名という小柄な少女と対戦し負け二十人に入っている。
二十人に入っているのは現在ルネックス、北野永夜、日之内、その他である。残り五人の枠には「何故だ」と叫びながらハーライトが入って来た。
そして玲愛が入って来た瞬間に、クラスに悲鳴が上がる。そして日之内は目尻に涙を浮かべながらやって来た三人―――揃った二十人に叫んだ。
「さぁやってやろうではないか! 公園に首輪をつけて四つん這いで徘徊を!」
「マジでやるのかよー……」
「やってやろうって、元と言えば日之内さんが発案したんじゃない……」
玲愛の遠い目。ハーライトの絶望の瞳。ルネックスの青ざめた表情。血泪を流す日之内、黒い炎を燃やす北野永夜―――。
最も表情の変化が激しかったのは彼らである。
公園に首輪をつけて四つん這いで徘徊する偏差値73のアルティア高等学院生など正気の沙汰ではない。しかも残った学生はのんきにおせち給食である。
※この学校は給食制である。
そしてなんと―――先生もノリノリなのであった。
くすくす、と霊名が笑う。彼女は勝ち抜けてきており、じゃんけんで一度も負けたことのない少女だ。これも誰にも負けぬ美貌である。
理亜や玲愛とはまた一味違った、鈴を鳴らすような美女。そして美術も体育も勉強も良く出来るオールラウンダー。
彼女の笑みに非リア達が顔を赤らめるが、彼女の好きな人はルネックスなのであった。
「みんなおせちたべられないねー。ひのうちは全然かわいそうじゃない」
「ひどいっ!?」
そして片方にとっては地獄、片方にとっては天国の時間が始まったのだった。
〇
おせち料理十八人分が運ばれてくる。たった十八人分なため、学院はこっちが青ざめるほどに金をつぎ込んでくれている。
たかがゲームで―――と思ったりもするが、校長にとっては有り余る資金を見せつけたり風聞のためという計算高い目的があったりする。
そのおかげで主食おせち、そして餅、みかんが机の上に乗せられた。
「やばい、ものすごくおいしそうだー!」
「れ、れれっ、れ、れいな、さん! そ、その、えと、えあ……ぅ」
「はっきりいいなさいよー」
少年は委員会があって掃除当番を代わってほしいと言いたいだけなのだが、絶世の美女を目の前にして言葉を言いきれなくなる。
後ろから理亜が少年の肩を叩き、訝しむ霊名にくすりと微笑みかけた。
「彼は委員会なので、掃除当番を代わって欲しいと言いたいようです。霊名さんは可愛いので、緊張してしまっただけかと」
「あたしはかわいくないよ。りあの方がめっちゃ可愛いから」
―――でもルネックス(さん)は渡さない(ですよ)。
誰にも聞こえないような小さな声で火花を散らす彼女らの後ろで、一人全てを聞いてしまった少年はルネックスの何倍も青ざめた表情をする。
窓をちらりと見ると、罰ゲーム実行をしに行こうとしているルネックス達が見える。そんな彼らにはカメラが付けられており、その映像はこのクラスで見れるようになっている。
初めて知った、この美しい少女達の好きな人。それは、日ごろからたくさんの人にちょっかいを出されている気弱な少年であったことに。
自分らには欠片もチャンスが来ることは無いと悟り、少年は席に戻ると涙を流しながらおせちを食い、そのおいしさに滂沱の涙を流した。
〇
また罰ゲームかと公園の中がざわざわする。告白罰ゲームだったりキスだったりという現場でよく使われるこの公園では、周知の事実である。
しかしいつになく「ずーん」という効果音が百回出そうなほど沈んだ彼らの表情を見て、尋常じゃない罰ゲームなのだろうと思う。
彼らの首には首輪が付いており―――それで大半の者が全てを察し遠い目をする。
二十人がまるで軍人のように一斉に敬礼してから、涙を流して四つん這いになる。何も知らない者が見れば、警察沙汰の変態軍団に見られるだろう。
幸いこの辺の警察は―――校長が全て買収してあるのDA……。
「ママー、あれは何してるの?」
「見ちゃだめよ。あんな高校生になったらママ許さないわよ……!」
女性が女の子の手を引いて歩き去る。どうやら何も知らない人らしい。それでもその言葉は強制的にやらされている身としては心に刺さる。
そして発案者は―――
「もうヤダああああああ!」
―――再度血涙を流しながら公園を高速徘徊していくのだった。
〇
給食を食べ終わった後、何故か先生たちが全員二組に集まり始めた。六人の先生が集結し何かを話し合っている。
それを見た学生たちは怪訝そうに眉をひそめてひそひそと話す。
勘が物凄い当たる霊名の力(?)をもってしても何を企んでいるのか全く分からない。
「我が学院の生徒諸君。至急学習室へ集合してくれ。しばらく待つことになるが、素晴らしい景色を見せてやろう」
ニヤリと笑う担任。学生たちは怪訝な思いを増幅させながらも、反抗するわけにはいかないのでぞろぞろと教室から出る。
六人が残された空っぽな教室では、教員たちが苦笑いを浮かべていた。
「全く日之内君は考えてくれたものだな」
「我々の仕事は増えるが、生徒が楽しんでくれるならばそれもありかもしれん」
暖かい笑みをこぼした一人の教員の震える手には、膨大な量の段ボールがあった―――。
〇
死人の顔で戻って来た学生二十人は二組の教室に入る。いつもは賑やかやらニヤニヤやらの声が響く教室には、何も音がしない。
それにも気づかない。それほど精神が終わっているのだ。
しかし舞台はそろった。先生たちに呼び戻された十八人の学生たちと二十人の罰ゲーム学生たちが鉢合わせになる。
「えーっと、何があったの?」
「わかんなーい。なんかせんせいに呼ばれて……呼び戻されて……」
霊名はお手上げと言わんばかりに苦笑いを向ける。そしてルネックスの首に未だかけられている首輪を見てくすくすと笑う。
爆笑が起こる。教室の扉を開けて、教員が「こほん」と大きく咳をした。
「入るがいい」
その短い一言で笑い声は止まり、学生たちはまた怪訝な顔をしながらも教室に踏み込む。担任がいつも使う黒板がある方の壁には日の出と富士山が描かれた絵。
あまり使わない小さな黒板がある方の後ろの壁には除夜の鐘の絵。おせちを食べられなかった二十人の席には年越しそばがあった。
掲示板をふんだんに使い、「あけまして」「おめでとう」「ございます」と貼られている。ひとつの掲示板には二~三つの言葉しか入らなかったようだが。
正月用にきれいに飾られ、どうだとどや顔を浮かべる教員たちを見て、日之内はにやっと口角を上げて笑った。
「言ったじゃん。ボクは発案者なんだから。そんな苦しい罰を受けるだけなんてさせるわけがないでしょ?」
―――日之内は、格好つけなくても、格好いい。
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