僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

ななじゅうきゅうかいめ 人間界復旧

 バキッ。
 歓声が響き渡る中、その時間は突如として訪れた。地震によって地面が割れ、人々が思わず立っていられなくなり一般市民には座り倒れこんだりする様子も見られる。
 恐らくは急な世界の変化と、強い者が同じ個所に集結したことにより世界の処理が付いて行かなくなったのだろうとシャルとアデルは言う。
 しかしこの世界を自由に操れるルネックスにとって、この地震を収めるくらい造作もない。
 ぱちんと手を鳴らすだけで地面の割れは治る。世界に様々な処理システムも組み込んでおいたので、すぐに世界が慣れてくれることだろう。

『ぉおおおお―――っ!』

 ルネックスの実力をその目で見た民と兵達が今まで以上に大地を震わせ天に届く雄叫びを上げる。胸を叩き頭に響くその声だが、聴いていて気持ち悪いものではなかった。
 この瞬間が望みだった。と、ルネックスは少し恥ずかしそうにはにかみながら絶叫や叫びやエールを上げる民と兵らに手を振る。
 フレアルが耳を軽く押さえながら「うー」とうめいているが、その表情に嫌悪感はなかった。

 民や兵をかき分けて現れたのは、ハーライト達であった。出会えば目を輝かせ、風圧が起きるくらいの速さで飛んでくる。

「おかえりだな! 怪我はしてないか? あーシェリア嬢重症じゃないか!」

「私が治そう。あ、フィリア聖女殿は戻って来ておられるか? 実は、怪我より病気になっている者の方が多くてな。情けないが、治癒魔術の使える宮廷魔術師は少なくてな。私もハーライトも前線に出ていたんだ」

「戻っております。ただバカ息子レーイティアは冥界に下りました。あぁ、死んだわけではありません。愛しの者に会いに行くといって聞かなくて」

 ハーライトが叫ぶと、彼の後ろから出てきた優男魔術師ミェールが女子から黄色い声を飛ばされながらもシェリアの手を握って治療をした。
 本当は手を掲げるだけでいいのだが、彼なりの治癒方法なのだろう。その際少年らしくルネックスも何か思うところがあったようだが、そこまで影響する感情でもなかったのでさりげなく感情斬りスキルで頭の隅に追いやった。

 いつの間にかついてきていたフィリアが顔を出す。煌びやかないかにも聖女のような、全身を白でまとめた神聖な服を着た女性。
 男の間から暑苦しい雄叫びが届きながらも彼女は眉ひとつ動かしていない。
 そういえば、レーイティアの姿がなかった。フレアルが小声でルネックスに彼が神罰を受けたことと監獄者イーリアと引き離されたことを語った。

 苦笑いしながらも頷いたミェールが後ろを向くと、やれやれと言った表情でウリームが出てきた。

「ワシも共に行きましょう。何せ、少し傷を負ってしまってのう……この老体では、もう持たんかね、ほっほっほ」

「何を言うのです。神はお守り……ゼウス主神はお守りしてくださいますよ。それではルネックス様、神聖なる旅路のお供をさせて頂きありがとうございます。末代まで貴方の事は語り続けましょう」

「い、いや、末代まではちょっと遠慮願いたいかな……」

 と、ルネックスは謙遜して苦笑いをしながらぱたぱたと手を振るが、実際歴史書に大目玉で記されることとなるので末代まで語り継がれることになるだろう。

 ―――ルネックス・アレキ。

 かつて無名の何処にでもいる普通の、ちょっと自信のないだけが取り柄(?)の少年が、ずっと、そのずっと先まで語り継がれる事となるのである。
 それはさておき、腰を痛めたり擦り傷があったりで少しだが顔を歪ませているウリームと共にフィリアは聖女の柔和な笑みを浮かべて去っていった。
 ふう、と一息、ため息が奥から聞こえた。

「そんじゃ後で聞かせてもらうっすよ。どうやって戦ったとか全部っス。どうせ取材もされるんだから、そんくらいいいッスよね?」

 ぺチレイラストだった。相変わらず兵士の特徴色である緑の隊服を着た彼は、やや好戦的な視線をルネックスに投げかけながらそう言った。
 腰にかけた剣はしっかりと磨かれているのだろう、その御自慢の隊服はしわひとつなく伸びていることから、彼がどれだけ真面目なのかがわかる。

「それくらいなら構わないよ……でも色々やりたいことがあるから、先延ばしになるかもしれないけどね……」

「まあいいっすよ。いつでも構わないッス。僕も僕で、兵士団をすぐに騎士団に追いつくくらい高めたいっスからね。爺さんには負けたくないっすよさすがに……」

「まあまあいいじゃねぇかペチ君よ。ルネックス達も疲れてるんだ」

「何でペチ君って呼ぶんっスか!? ていうかアンタに一番負けたくないんすよ! アンタ途中で神格化されたじゃないっスかぁああ!」

 火花を散らしたぺチレイラストに軽いノリで答えるハーライトにかみついたぺチレイラスト。一番活躍していたハーライトに彼は一番何か物申したかったのに。
 でも自分の実力がないことは自分が一番わかっている。実は陰ながら脳筋四天王とか呼ばれているハーライト達の中で自分が一番弱いという事も。
 だからこそルネックスに戦ったデータを教えてもらおうとしているのだ。

 その真面目さは褒められる物である。それでも十九歳少年の感情丸出しでかかっていくぺチレイラストを咎めたのは三十五歳独身・・ミェールであった。
 独身独身と女の中で騒がれているが、彼が独身である理由はあまりにも脳筋すぎて彼女にかまってやる暇など欠片もないからだ。
 現在伝説の大商人ハイレフェアと交際中だと騒がれていたりいなかったり。

 それはさておき、ルネックス一行が疲れているのは確かなのでぺチレイラストが渋々喧嘩をやめながらも大人しく彼らを引き連れて王城に向かった。

「僕たちが来る準備ってできてるんですか……?」

「そうっス。コレム様は凄いんすよ。絶対帰ってくるって言って、高級な部屋全部開けてたんッスよ? ……でもまあ、部屋の数ちょっと多かったみたいっスね」

 新しい人が入り、古参の者が減り。それでも元の人数と同じ数分用意していた部屋は余ってしまっている。
 この世界の巡回で活躍した者が住むことになるだろうなとぺチレイラストは仮定を立てた。そしたら自分は勇者の部屋の隣が良いッス、と自分の活躍を疑いもしずに声を弾ませた。
 そりゃそうだ。彼も自分の実力には自信を持っている。第一線で結構な活躍をしたのは誰がどう見ても間違いないのである。

 久しぶりの王城に踏み込んだ瞬間に、懐かしさがよみがえる。

 世界の巡回によりこの世界アルティディアのシステムは色々と変わってしまったが、これからは神の支配ではなく人間界は自由に行動を起こせるだろう。
 しかし乱雑に暴力をし合ったりを避けるため、ルネックスはこれからいろいろとやらなければならないことがあるのである。
 ただ、眠いし体は重いし傷は痛い。明日以降になることは確実だろう。

 昔嗅いだ香り。昔、初めて王城なんて大層な所に踏み込んで緊張した思い出。この国を助けることになったこと。王コレムの姉の反乱を治めたこと。
 幾多の思い出が一気に戻ってきて、思わず涙ぐみそうになる。

「よし。コレム様も色々疲れてるだろうが、絶対お前に会いに来そうだもんな。俺が説得してくるわ。先に寝たり話したりでもしてろよ。部屋はどうする?」

「あ、ボクらは帰るから、とりあえず話すことになると思うから全員一部屋に突っ込むね。それから手当たり次第借りさせてもらうから」

「大賢者様、承知いたしました。忙しいと存じてはおりますが明日中に使用中の部屋をご報告願いたいのです。管理のためですから……なにとぞご了承ください」

「大丈夫ですよ。僕らも疲れが十分明日だけではとれないと思いますし、あまり急ぎませんよ」

 ルネックスのその言葉は本当だ。こちらをうかがってくるようなミェールの表情は、イケメン優男そのもので美しい絵になるほどだ。
 それでもさわやかに微笑むルネックスはフレアル達にとってミェールを遥かに超える格好良さで移ったのかもしれない。
 それはさておき話題を戻そう。

 明日から、神界に攻め入る前のように様々な世界をまた飛び回ることになるだろうが、あの頃よりも魔力も経験も随分高まっている。
 人間界の平和はできるだけ早く望みたいが、平和が訪れると共に自分たちが倒れたら意味がない。
 虚無精霊ヴィランカの業をルネックスが引き継ぐことになっている、と世界のシステムを通してシャルより伝えられていたからでもある。

 一日寝ただけでは実質何年もの疲れをいやすことなどできないだろう。重い体を引きずって動くしかないだろうと踏んでいる。
 だが、魔力の多い者の自然回復は早い。
 明日からいきなり急ぐのではなく、明後日からでも十分構わない。次元の穴をあけるのは昔より得意だし、テレポートも取得した。

 そう語ると、魔術に関してあまり得意ではないぺチレイラストが頭を悩ませ、ハーライトが頷くとコレムに伝えに行くため去っていった。

「やっぱ魔術も何かやっとかないとだめなんッスかねぇ……魔力は宮廷魔術師になれるほどじゃないッスけどそれなりにあるみたいで、でも小さいころから苦手なんッスよね、とくに今アンタらが言ってた魔力がなんちゃらとか言う論理は」

「魔力で体を強化することはどちらかというと簡単なので、魔力操作ができれば問題ないだけですからね。それを最初に学んでみてはどうですかね。それだけでも随分違うと思いますし、慣れないのなら剣だけに魔力を流し込むだけで強化になりますし」

 もっと高度な魔力強化には属性があり、風強化などと名がつく。ただ乱暴に技術なしに魔力を流すだけでは剣の耐久値が三分の一に下がる。
 ルネックスの今鞘に入れている伝説級の剣ならばメリットだらけであるが、兵士達が使うような剣では到底耐えられない。
 ただ、国が運営する兵士団の中でも隊長が持つのなら、国も考えてくれるかもしれないという考えがもたらした結果の意見である。

「集中が苦手な人がよくやるのは、目を瞑ってでも寝ててもできる部分強化です。視力を高めたり、臭覚を高めたりという物ですが、効果時間も短いですね」

「もっとなんか、伝説な魔術にも憧れてたんっすけどね……やっぱ集中できないとそんなもんッスか」

「治癒魔術何かは、傷が治るのをイメージするだけですから比較的簡単で人気ですが、光属性の適性を持つ必要があります。光や闇は天性的な物なので……」

「僕、持ってるッス。でも使えないんっす。ちょっと治癒魔術について色々考えてくるッス! 今日はありがとうっス! お疲れッス!」

 ルネックスの様々な意見をいつに増して真剣に聞き終えたぺチレイラストは、迷路のように長く同じ景色が続く王城の廊下を曲がったりでスイートルームにたどり着いた。
 別れを告げると、本日一番の笑顔でぶんぶんと手を振りながら非常に少年らしく上機嫌で走り去っていった。
 そしてまた数多の兵士が犠牲になったのは―――また別の話である。

 そんな彼を見届けたルネックスはやけに装飾されたぎらぎらと光る、広いが無駄に広いというわけではなくきちんとすべてがそろった部屋の中に足を踏み込ませた。
 後に続いて英雄たち、仲間たちも相変わらずの王城に呆れながら入ってくる。

「相変わらずだわ。マジで地震とかなかったみたい……」

「王城は結界があると聞いたからな。激しい揺れはあったみたいだが……ほら、此処にひびが入ってるじゃないか」

 独り言のようにつぶやいたテーラに、セバスチャンが不自然にはいったひびを指差して無表情で感想を述べた。
 やがて中間に全員が腰を下ろしたところで、テーラが場を仕切った。

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