僕のブレスレットの中が最強だったのですが
ごじゅうよんかいめ 犠牲と更なる進化かな?
「みんなは、まだテントにいて欲しいのぉ。あとは、任せてぇ!」
翌朝、といっても日にち関係のない神界では分からないが、何時間ほどか寝た後にリンネから皆に公表された言葉である。
元は万を超えていた人数は千を下回り、リンネはこれ以上なく焦っていた。
ロゼスが居て、取り巻きが二人いて、加えてもう甘えも油断もない聖神がこれから攻めてくる。引き出しがそれだけと言う可能性も低い。
つまり、負けてしまう可能性がどんどん引きあがっていっているのだ。
だから、リンネはこの時に決断したのだ。
誰も油断していないこの環境で、出せるものは出しつくさなければならない。―――たとえ。だれかを苦しめることになったとしても。
「ほ、本当に大丈夫なの?これから、厳しい戦いになるって約束されてるのに、一人で突破するなんてやっぱり無茶なんじゃないの?」
「魔女を舐めないで欲しいわぁ。これでも魔女の長代理なのよぉ?」
「僕はリンネを信じているよ。此処を突破できると思ってる。物語でもどの世界でも、クライマックスはだらだらと続かないんだ。つまり、戦闘が新たな展開を迎えるっていうのはもうすぐっていうことだ―――まだ攻めてこないけどね」
それぞれの世界の代表者、その中の一人である魔女界代表者アルト。魔女界からは動けない樹の加護を受け、元から強い上にもっと強くなっている。
傷ひとつないところから見て取れるだろう、神の域へ届こうとしていることに。
千人足らずの兵を率いて、中衛というものを無くし、ルネックス一行はすでに戦闘準備を整えてしまっていた。
前衛にはフレデリカとウテルファイヴを抜いてすべての英雄がそろっている。
フレデリカとウテルファイヴには後衛の守護を頼んであるため、此処にはいない。
ちなみに、戦闘が新たな展開を迎えそうなくらい、未だ誰も来ないことから此処に居る誰もが分かっていたことだ。
そして、ルネックスは気づいていた。
笑顔でドヤ顔なリンネの言葉が終わる瞬間、彼女の顔が少し暗くなったことを。
「それにしてもリンネ。魔女の知識について僕は自信があるけれど、一撃ですべて終わらせる術なんて見たことがないよ。良く見つけたね?」
「……これはちょっと例外なのよぉ。みたら分かるわぁ。説明はできないかもしれないけどねぇ、私自身もあまりよく分かってないしねぇ」
―――いいや、違う。一体リンネは何をしようとしているんだ?
聞けば聞くほど、リンネの意向が分からない。話している言葉に偽りがある上に、術の事についてまで偽りがある。
一体どういうことなのか。ルネックスはリンネの事を信頼している。
非道なことは想像すらしないが、何をしようとしているのか純粋に疑問には思う。
シュッ。
「避けろルネックス!」
後ろから聞きなれた―――ゼウスの声がかかり、同時にテーラに頭を強制的に抑えられ、ルネックスは目線を地面へ強制的に落とすことになる。
向こうで何かが誰かの発動した盾に当たり、砕ける音が聞こえた。
「敵襲です! 皆よ構えなさい! その精神をもって、その武力をもって、迎え撃つのです! さぁ、恐れないでください、敵は目の前!」
士気を上げるため、シェリアが声を張り上げて伝えるのを、頭を上げたルネックスが見る。頼もしい、と感じる暇もない。
ルネックスの横に居たリンネが、一番前に居たルネックスを超える。
「……さようなら。もう、会えないかもしれないけど」
「……! 何をするつもりなのかわかったよ。――僕は止めない。頑張れ」
「もちろんよぉ。失望なんてさせないわぁ。リーシャ、援護」
「はい、分かりました―――ました!」
そして、きっと実力的な意味でも超える。全てを。その代償が何なのか、そしてリンネの言葉が何を意味するのか。
それくらいわかれば、後は察することで全てが暴かれる。
だがルネックスに止めるつもりはない。あんなに決心した目をしていたのだ、あそこで止めればリンネの覚悟が無駄になってしまう。
何も知らない、何も分からないリーシャはいつも通りの笑顔を浮かべて杖を握る。
「……君に、世界の祝福がありますように」
「なぁに、それぇ?」
「こっちの世界で【いってらっしゃい】を意味する言葉だよ」
「―――私の名前、呼んでくれなぁい?」
「…………君の覚悟は素晴らしかった、永遠に心に刻み付けるよ。リンネ」
ルネックスの言葉を受けたリンネは、嬉しそうに、しかし儚く。紫の髪の毛がゆらりと揺れた。ガレクルとフェスタ。
ルネックスが顔を上げた瞬間に確かに見えた、あれはフェスタの弓の攻撃。
ゼウスがルネックスを押さえなければ、きっと自分の命はもうなかった。リンネとリーシャが杖を掲げる。
奥から、得意げにガレクルとフェスタ、聖神が現れる。
ロゼスは何処にいるのだろうか。辺りを見回してもロゼスの姿は見えない。
「投降した方が君のためだよールネックスー! 巡回なんて馬鹿げたこと、キミに出来るはずがないでしょー? だからさっさと―――」
「そうだったとしても、僕は一人じゃない。僕がここまで来た道を君が知らないのなら、そんなことを言う義務はない」
「あら、私は知ってるけどねぇ? でも――人間ってのはやはり愚か」
聖神の言葉には確かな憎悪があった。聖神の目には何もなかった。真っ赤な次元石と呼ばれる無限の回路を持つ石をはめ込んだ彼女の杖だけが揺れる。
何を体験したのか。彼女は言おうともしないし、まず教えられても聞くつもりはない。
くすくすと聖神は笑っている。神らしくもない、混沌の闇を含んだ瞳を持って。澄んだ瞳は、今や憎しみと妬みに渦巻いていた。
「貴方が憎悪で向かってくるというなら――僕はそれ以上の罪で貴方を撃ち返す。さぁ、話している暇はないよ。戦いは始まってるんでしょ」
「ええ。すでに包囲されてる。知らなかったのかしら?」
「そんなはずはない。何故ならゼウス様がそっちに向かっているから。此処に英雄様たちはいないけど、十分だよ」
「ずいぶん舐められちゃったなー。そこまで弱くはないよー?」
リンネはすでに詠唱を開始している。紫の瞳に蒼炎が灯され、杖には膨大な魔力が集まっている。ルネックスは目を閉じる。
全ての魔力回路を感じ、全ての才能を受け取っては吸収し、自分の物とする。
ルネックスに才能はない。ルネックスは天才じゃない。ならば、天才の、才能を持つ者の力を全て自分の物にすればいい。
奪ったものでも構わない。
何故なら奪った後使えないなら自分の物ではないし、使えるのならそれは真に【自分の物】なのだ。やれることは、やる。
模倣だと笑われるだろうか。小心者めと罵倒されるだろうか。それでもかまわなかった。立ちふさがる壁は―――壊す!
「これは―――魔女の唄―――これは―――全てを犠牲にする唄―――これは、混沌の闇へ導く唄―――さぁ、覚悟は良いか―――ゆけ、ソウル・グロッセア―――!」
「―――シールド―――なのです!」
リーシャが一拍遅れてルネックスから後ろへシールドを張る。勿論その中にはリーシャもいる。バキリ、と世界の亀裂が大きく割ける。
シールドの向こうは何も見えない。真っ白に光っている。ガレクルもフェスタも聖神も、リンネの姿さえも見えない。
ルネックスは分かった。シールドのない所全てへ捧げだす大爆発。そして【ソウル・グロッセア】という魔術の名前。
魔術を発見した女性の名をグロッセア・バスター。
彼女の魔力を持ってして、彼女の実力をもってして、彼女の全てを受け入れ吸収した、速度に特化したリンネが放つ一撃。
それも一瞬しか続かず、決定的な実力を持ってはいるが魂をも代償にする。
「リンネ……」
「へっ、リンネ―――さん?」
光が収まり、リンネはいなかった。フェスタの盾が壊れ、あちらにも決定的なダメージは入れられた。もう他に神はいない、というくらいに。
上級神が百人足らず程いるだろうか。それに聖神、ガレクル、フェスタ。そしてどこかに必ずいるだろうロゼス。
だが、リンネは彼らより実力が劣っていたのだろうか。はたまた、魂を使って能力がいつもより弱まってしまったのか。
神のように、塵となって、消えた。
リーシャは子供ながら色々知っている。彼女にはわかった。リンネが魂を代償にしたことを。シェリアが口を押え、フレアルが固まっている。
ルネックスは、小さく口を動かした。心の中を探る。何も、ない。真っ白な炎が、ルネックスの全身を纏った。
「知っているかい……怒りって、意味がないんだよ。妬みも恨みも意味がないんだ、聖神。無感情の方が、よっぽど自分の力を引き出せる」
「……き、さまは、仲間の死にすら悲しみもしないのか!?」
「優先順位が違うと言っているんだ。リンネはもういない。ねちねちと悲しんでいても、彼女は報われない。何を願ってあの決断をしたのか、色々経験していると思うあなたなら分かるはずだと思う。それともやはり―――分からないのかな」
壮絶な人生で歪んだのなら。仲間が何を願って死んでゆくのか分かりはしない。世界を混沌の闇へ導いたテロリストが、分かるはずもないか。
白い炎が白煙と共にさらに立ち上がる。怒りも、憎しみもない。
何故なら、怒りと憎しみと嫉妬、複雑な闇を通り過ぎた感情は―――無なのだから。全てを悟った人間は、もう怒ることは無い。
銀色のローブが生じた。はためく。リーシャは目を奪われ、カレンは瞠目する。シェリアは心配し、フレアルは未だ固まる。
フェンラリアはルネックスの成長をただ細目で見ている。フェンラリアにとって、ルネックス以上に重要なものは無かった。
「……感情の荒ぶりの分だけ、その戦闘の意味はなくなっていく。理性を失うことはいけない、声を荒げてはいけない。何事もなかったかのようにふるまうんだ。それが出来るようになれば―――それが本当の覚醒かな?」
ルネックスは片手を振り払う。白い炎がフェスタの頬に驚異のスピードで吹き飛び、その頬を傷つける。それは、次は致命傷へ至るぞという挑戦状だ。
残念ながら手袋は無いんだ、とルネックスは微笑みながら口にする。
ガレクルは見えない間に仲間がやられたのを見て「くそっ」と言いながら神剣を手にする。ルネックスは即座にそれを鑑定する。
「大罪魔剣か。神剣かと思ったよ」
「いいやこれは神剣だ。神剣に魔剣を埋め込んで、二つの力にしたんだ。努力はお前だけのもんじゃねぇんだよ! ロゼスくんだってフェスタだって、お前よりやってきたんだっつーの!」
「そんなの分からないでしょ……『見てわかる努力』なんてねぇ……愚かだよ」
迫りくる神剣もとい大罪神剣を見据えながら、ルネックスは白い炎を神雷霆ゼウスにまとわせ、ひとつの剣に形を変えるだけだった。
それを見たゼウスが後ろで「ほう」と感嘆の声を漏らし、テーラが口を押え、英雄たちが騒いだのは、また別の話。
ルネックスは、もう一段、更なる進化を遂げていたのだった。
翌朝、といっても日にち関係のない神界では分からないが、何時間ほどか寝た後にリンネから皆に公表された言葉である。
元は万を超えていた人数は千を下回り、リンネはこれ以上なく焦っていた。
ロゼスが居て、取り巻きが二人いて、加えてもう甘えも油断もない聖神がこれから攻めてくる。引き出しがそれだけと言う可能性も低い。
つまり、負けてしまう可能性がどんどん引きあがっていっているのだ。
だから、リンネはこの時に決断したのだ。
誰も油断していないこの環境で、出せるものは出しつくさなければならない。―――たとえ。だれかを苦しめることになったとしても。
「ほ、本当に大丈夫なの?これから、厳しい戦いになるって約束されてるのに、一人で突破するなんてやっぱり無茶なんじゃないの?」
「魔女を舐めないで欲しいわぁ。これでも魔女の長代理なのよぉ?」
「僕はリンネを信じているよ。此処を突破できると思ってる。物語でもどの世界でも、クライマックスはだらだらと続かないんだ。つまり、戦闘が新たな展開を迎えるっていうのはもうすぐっていうことだ―――まだ攻めてこないけどね」
それぞれの世界の代表者、その中の一人である魔女界代表者アルト。魔女界からは動けない樹の加護を受け、元から強い上にもっと強くなっている。
傷ひとつないところから見て取れるだろう、神の域へ届こうとしていることに。
千人足らずの兵を率いて、中衛というものを無くし、ルネックス一行はすでに戦闘準備を整えてしまっていた。
前衛にはフレデリカとウテルファイヴを抜いてすべての英雄がそろっている。
フレデリカとウテルファイヴには後衛の守護を頼んであるため、此処にはいない。
ちなみに、戦闘が新たな展開を迎えそうなくらい、未だ誰も来ないことから此処に居る誰もが分かっていたことだ。
そして、ルネックスは気づいていた。
笑顔でドヤ顔なリンネの言葉が終わる瞬間、彼女の顔が少し暗くなったことを。
「それにしてもリンネ。魔女の知識について僕は自信があるけれど、一撃ですべて終わらせる術なんて見たことがないよ。良く見つけたね?」
「……これはちょっと例外なのよぉ。みたら分かるわぁ。説明はできないかもしれないけどねぇ、私自身もあまりよく分かってないしねぇ」
―――いいや、違う。一体リンネは何をしようとしているんだ?
聞けば聞くほど、リンネの意向が分からない。話している言葉に偽りがある上に、術の事についてまで偽りがある。
一体どういうことなのか。ルネックスはリンネの事を信頼している。
非道なことは想像すらしないが、何をしようとしているのか純粋に疑問には思う。
シュッ。
「避けろルネックス!」
後ろから聞きなれた―――ゼウスの声がかかり、同時にテーラに頭を強制的に抑えられ、ルネックスは目線を地面へ強制的に落とすことになる。
向こうで何かが誰かの発動した盾に当たり、砕ける音が聞こえた。
「敵襲です! 皆よ構えなさい! その精神をもって、その武力をもって、迎え撃つのです! さぁ、恐れないでください、敵は目の前!」
士気を上げるため、シェリアが声を張り上げて伝えるのを、頭を上げたルネックスが見る。頼もしい、と感じる暇もない。
ルネックスの横に居たリンネが、一番前に居たルネックスを超える。
「……さようなら。もう、会えないかもしれないけど」
「……! 何をするつもりなのかわかったよ。――僕は止めない。頑張れ」
「もちろんよぉ。失望なんてさせないわぁ。リーシャ、援護」
「はい、分かりました―――ました!」
そして、きっと実力的な意味でも超える。全てを。その代償が何なのか、そしてリンネの言葉が何を意味するのか。
それくらいわかれば、後は察することで全てが暴かれる。
だがルネックスに止めるつもりはない。あんなに決心した目をしていたのだ、あそこで止めればリンネの覚悟が無駄になってしまう。
何も知らない、何も分からないリーシャはいつも通りの笑顔を浮かべて杖を握る。
「……君に、世界の祝福がありますように」
「なぁに、それぇ?」
「こっちの世界で【いってらっしゃい】を意味する言葉だよ」
「―――私の名前、呼んでくれなぁい?」
「…………君の覚悟は素晴らしかった、永遠に心に刻み付けるよ。リンネ」
ルネックスの言葉を受けたリンネは、嬉しそうに、しかし儚く。紫の髪の毛がゆらりと揺れた。ガレクルとフェスタ。
ルネックスが顔を上げた瞬間に確かに見えた、あれはフェスタの弓の攻撃。
ゼウスがルネックスを押さえなければ、きっと自分の命はもうなかった。リンネとリーシャが杖を掲げる。
奥から、得意げにガレクルとフェスタ、聖神が現れる。
ロゼスは何処にいるのだろうか。辺りを見回してもロゼスの姿は見えない。
「投降した方が君のためだよールネックスー! 巡回なんて馬鹿げたこと、キミに出来るはずがないでしょー? だからさっさと―――」
「そうだったとしても、僕は一人じゃない。僕がここまで来た道を君が知らないのなら、そんなことを言う義務はない」
「あら、私は知ってるけどねぇ? でも――人間ってのはやはり愚か」
聖神の言葉には確かな憎悪があった。聖神の目には何もなかった。真っ赤な次元石と呼ばれる無限の回路を持つ石をはめ込んだ彼女の杖だけが揺れる。
何を体験したのか。彼女は言おうともしないし、まず教えられても聞くつもりはない。
くすくすと聖神は笑っている。神らしくもない、混沌の闇を含んだ瞳を持って。澄んだ瞳は、今や憎しみと妬みに渦巻いていた。
「貴方が憎悪で向かってくるというなら――僕はそれ以上の罪で貴方を撃ち返す。さぁ、話している暇はないよ。戦いは始まってるんでしょ」
「ええ。すでに包囲されてる。知らなかったのかしら?」
「そんなはずはない。何故ならゼウス様がそっちに向かっているから。此処に英雄様たちはいないけど、十分だよ」
「ずいぶん舐められちゃったなー。そこまで弱くはないよー?」
リンネはすでに詠唱を開始している。紫の瞳に蒼炎が灯され、杖には膨大な魔力が集まっている。ルネックスは目を閉じる。
全ての魔力回路を感じ、全ての才能を受け取っては吸収し、自分の物とする。
ルネックスに才能はない。ルネックスは天才じゃない。ならば、天才の、才能を持つ者の力を全て自分の物にすればいい。
奪ったものでも構わない。
何故なら奪った後使えないなら自分の物ではないし、使えるのならそれは真に【自分の物】なのだ。やれることは、やる。
模倣だと笑われるだろうか。小心者めと罵倒されるだろうか。それでもかまわなかった。立ちふさがる壁は―――壊す!
「これは―――魔女の唄―――これは―――全てを犠牲にする唄―――これは、混沌の闇へ導く唄―――さぁ、覚悟は良いか―――ゆけ、ソウル・グロッセア―――!」
「―――シールド―――なのです!」
リーシャが一拍遅れてルネックスから後ろへシールドを張る。勿論その中にはリーシャもいる。バキリ、と世界の亀裂が大きく割ける。
シールドの向こうは何も見えない。真っ白に光っている。ガレクルもフェスタも聖神も、リンネの姿さえも見えない。
ルネックスは分かった。シールドのない所全てへ捧げだす大爆発。そして【ソウル・グロッセア】という魔術の名前。
魔術を発見した女性の名をグロッセア・バスター。
彼女の魔力を持ってして、彼女の実力をもってして、彼女の全てを受け入れ吸収した、速度に特化したリンネが放つ一撃。
それも一瞬しか続かず、決定的な実力を持ってはいるが魂をも代償にする。
「リンネ……」
「へっ、リンネ―――さん?」
光が収まり、リンネはいなかった。フェスタの盾が壊れ、あちらにも決定的なダメージは入れられた。もう他に神はいない、というくらいに。
上級神が百人足らず程いるだろうか。それに聖神、ガレクル、フェスタ。そしてどこかに必ずいるだろうロゼス。
だが、リンネは彼らより実力が劣っていたのだろうか。はたまた、魂を使って能力がいつもより弱まってしまったのか。
神のように、塵となって、消えた。
リーシャは子供ながら色々知っている。彼女にはわかった。リンネが魂を代償にしたことを。シェリアが口を押え、フレアルが固まっている。
ルネックスは、小さく口を動かした。心の中を探る。何も、ない。真っ白な炎が、ルネックスの全身を纏った。
「知っているかい……怒りって、意味がないんだよ。妬みも恨みも意味がないんだ、聖神。無感情の方が、よっぽど自分の力を引き出せる」
「……き、さまは、仲間の死にすら悲しみもしないのか!?」
「優先順位が違うと言っているんだ。リンネはもういない。ねちねちと悲しんでいても、彼女は報われない。何を願ってあの決断をしたのか、色々経験していると思うあなたなら分かるはずだと思う。それともやはり―――分からないのかな」
壮絶な人生で歪んだのなら。仲間が何を願って死んでゆくのか分かりはしない。世界を混沌の闇へ導いたテロリストが、分かるはずもないか。
白い炎が白煙と共にさらに立ち上がる。怒りも、憎しみもない。
何故なら、怒りと憎しみと嫉妬、複雑な闇を通り過ぎた感情は―――無なのだから。全てを悟った人間は、もう怒ることは無い。
銀色のローブが生じた。はためく。リーシャは目を奪われ、カレンは瞠目する。シェリアは心配し、フレアルは未だ固まる。
フェンラリアはルネックスの成長をただ細目で見ている。フェンラリアにとって、ルネックス以上に重要なものは無かった。
「……感情の荒ぶりの分だけ、その戦闘の意味はなくなっていく。理性を失うことはいけない、声を荒げてはいけない。何事もなかったかのようにふるまうんだ。それが出来るようになれば―――それが本当の覚醒かな?」
ルネックスは片手を振り払う。白い炎がフェスタの頬に驚異のスピードで吹き飛び、その頬を傷つける。それは、次は致命傷へ至るぞという挑戦状だ。
残念ながら手袋は無いんだ、とルネックスは微笑みながら口にする。
ガレクルは見えない間に仲間がやられたのを見て「くそっ」と言いながら神剣を手にする。ルネックスは即座にそれを鑑定する。
「大罪魔剣か。神剣かと思ったよ」
「いいやこれは神剣だ。神剣に魔剣を埋め込んで、二つの力にしたんだ。努力はお前だけのもんじゃねぇんだよ! ロゼスくんだってフェスタだって、お前よりやってきたんだっつーの!」
「そんなの分からないでしょ……『見てわかる努力』なんてねぇ……愚かだよ」
迫りくる神剣もとい大罪神剣を見据えながら、ルネックスは白い炎を神雷霆ゼウスにまとわせ、ひとつの剣に形を変えるだけだった。
それを見たゼウスが後ろで「ほう」と感嘆の声を漏らし、テーラが口を押え、英雄たちが騒いだのは、また別の話。
ルネックスは、もう一段、更なる進化を遂げていたのだった。
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