僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

よんじゅうはちかいめ 世界の亀裂かな?

 ルネックスたちは援軍たち、テーラたちを全員集め、会議を行うことにした。作った街では収まりきらなかったので、王城の一室を借りることにした。
 またスイートルームなのは恐らくコレムの差し金だろう。諦めるが勝ち。
 ちなみに、前衛と後衛、中衛に分けるために部屋は三部屋借りている。

 奴隷達はあまりにも人数が多すぎるので会議には参加しない。竜界、魔界及びルネックス自身は前衛、次元を行ったり来たりする大英雄ヴァルテリア、しょっちゅうタイムリープする大魔導士ミネリアルスはルネックスたちと共に前衛。
 リンネ、リーシャ率いる魔女界も前衛で、今ココでのんきに茶を飲んでいる。
 前衛たちのいるこの部屋では、順調に任務が進み始めていた。

「ちょっとヴァルテリア! さぼらないなのですよ、大事な話なのですよ!」

「げっ、ミネリアルス……よくわかったな、俺が次元突破しようとしたの」

「当たり前なのですよ! ヴァルテリアがさぼる時間帯も心得ているなのです!」

 ―――そして、ほのぼのとしていた。フレアル率いる奴隷達前衛は、フレアル抜きで戦うことになるが優秀な司令官がいる。
 シェリア率いる奴隷達もシェリア抜きで戦うが、彼女らのグループは全員が優秀なので問題のつけようもなかった。
 フェンラリアの精霊界についてだが、息を殺して陰で動くそうだ。
 ルネックスは資料を捲りながら一息つく。一旦結果は出たものの、心配性な彼はまだこの結果でよいのか悩んでいる。

「まーまー完成だね。ミネリアルスとヴァルテリアはこれ以上ふざけたら処刑だから。おーけー? んでルネックスはどうよ」

 基本的にテーラたちは自由行動にしてあるので、彼女らが前衛の部屋にいるのはルネックスがいるからという理由だ。
 テーラたちの行動を制限してしまうとかえって不便になる可能性があり、彼女たちならば連携を取れるだろうという信頼からそうしている。

 テーラの言葉を受けたミネリアルスとヴァルテリアは「ぎくっ」と二人して声を跳ね上げ、大人しく座り込んだ。
 テーラはルネックスのめくる資料を覗き込み、問いかける。

「そうですね、順調に進んでいると思います。ああ、テーラさんは前衛に近い所にいてくれると助かります。セバスチャンさんは後衛に近いと助かります。ゼウス様は規格外なので……自由行動でいいと思いますね」

「む、我だけ仲間外れというのもなかなか怖いものだな……」

「……俺もまだまだか。もう超えられていると思うが、悔しいな、やはり」

 そう言ってセバスチャンとゼウスは苦笑いをしたが、ルネックスの話が正論だということは分かっている。
 彼らに出来ることは、前衛を任せられたテーラを羨まし気に見つめることだった。


 ♢  ♢  ♢


 一方、前衛たちの隣の部屋にいる後衛チームは暗殺系チームの者達と共に計画の再確認を行っていた。フレアル率いるチームの幹部レーイティアとフィリアも来ている。
 ただフェンラリアは空を見上げており、一向に話し合いに参加しようとしない。まあ、彼女は参加する必要もなくすべてを覚えているので、彼らもそれを見逃していたのだが、さすがに変だと思えてくる頃合いだ。

「あの、フェンラリアさん? どうしたんですか?」

「―――やっぱりだよ。せかいに亀裂がはしってる……このあたりでるねっくすのいうラグナロクがおこらないと、せかいの巡回がおこなわれず、このままはめつしてく。あたしにはどうしようもない。るねっくすは気づいているかは分からない」

「うっそぉ、世界の亀裂とかめっちゃくちゃ物騒なんだけど……」

 フィリアの問いにフェンラリアが神妙な顔をしながら答える。聖女たちを率いるフレアルが苦い顔をしながらそれに応える。
 後衛を担うことになったダンジョンに籠る元勇者アストライア、山奥に引きこもる中二病大剣聖ルシルファー、雲と同化しようとする白魔導士ウテルファイヴも同時に空を見上げる。
 最初に声を上げたのはアストライアだった。彼は一番先に世界の亀裂を天眼で見た。肉眼では見えない世界の亀裂だが、天を超える意味を成す天眼をもってすれば、世界に出来た傷を見るのは簡単だ。

 次に、その亀裂が何者かの力によって制御されているのを感じ取ったのは大剣聖ルシルファー。彼女は魔術が全くできないが、魔力を感じ取ることは得意なのだ。
 ウテルファイヴ、彼についてだが、その亀裂の中に雲と同化して入ってしまった。

「な、ウテルファイヴは何をしようとしているのだ……こ、この我では到底分からないと!? 嘘だ、この我の邪気眼が―――」

「ちょいルシルファーよ、黙ってくれんか? オレもよくわからんところなんだからよ……」

「―――問題、は、ない。あそ、こ、が、これ以上、広がる、目星は、ない」

 途切れ途切れの話し方で戻って来たウテルファイヴは告げる。青い生気のない瞳は亀裂のただ一点を見つめていた。
 次の瞬間、世界が揺れた。

 それについて告げる所だが、今は少し時間を戻す――――――。


 ♦  ♦  ♦


 中衛チームである、鬼界率いるシェリア、いつも姿を隠してる黒魔導士グロッセリア、ツンデレ神級鍛冶師ベアトリア、高飛車お嬢様の禁書庫管理者フレデリカたちの部屋は沈黙に包まれていた。
 何故か女子だらけになったこの部屋では、計画の後にラブトークが進められていた。勿論、黒魔導士であるグロッセリアはまるで付いて来れなかったが。

「……鈍感には何が必要か。ワタシでは到底考えられないけど、アピールよね。でもそんな小手先のデレより気持ちがいいと思うわ」

「アッハッハッハ! 自分ができないからって逃げてるッ……今こそアタシの精神攻撃が効きそうで結構! ルネックスくんはまあ仕方ないと思ってるんだけど」

 むう、という可愛い顔をしながら紫の髪をツインテールの縦ロールにした幼女ベアトリアは不貞腐れながら明らかに自分の身長より大きなハンマーを自由に弄びながら未だ鍛治を続けている。彼女曰く、何処だったとしても職業に専念するのだそう。そんな彼女をグロッセリアは一蹴する。
 そして、これまで目を瞑って黙っていたフレデリカが声を上げた。禁書庫から離れられないわけではなく、禁書庫を脳に収納できるのだ。

 これまでの無限の時間の中で、フレデリカは禁書庫の力を超えたというわけだ。つまり、禁魔導書も、禁じられた何もかもを引き出せる状態だ。

「そんなんだからグロッセリアもベアトリアも彼氏の一人すらできないんですのよ、シェリア様のご迷惑もお考えなさい。そんなんだから吠えることしかできない犬になり下がったままなんですのよ……精々ママのおっぱいでも帰ってお飲みなさい」

「ふぅん、アタシに歯向かうわけ。キレたわ。そんな長々としたセリフをたった一言述べるために吐くなんて、感謝しなきゃなんないくらいかな?」

「彼氏は作るものじゃないのよ! 気持ちよ、気持ち! ワタシは逃げたことなんて一度もないわ! あったり前でしょ!?」

「―――亀裂です!」

 微笑ましい光景を黙って見ていたシェリアが、ふと目を瞠目させある一点を見つめる。その内容をよく知る、ピンクの髪を足まで伸ばしたフレデリカが反応する。
 グロッセリアとベアトリアが同時に反応し、彼女らは反射的に武器を構える。

 そして亀裂から真っ黒い霧が噴出するとともに、天が真っ赤に染まった。鮮やかなほど黄色い雷が激しく地面にたたきつけられる。







 前衛の部屋で、後衛の部屋で、或いは、中衛の部屋でも合わさっただろうか。

 ルネックス、シェリア、フェンラリアは同時に口を開けた。

「―――来たよ。神界だ」

 どれほど願っただろうか、その戦いがついに幕を開ける。自分から願った戦いが、自分から願った巡回が。
 愚かな願いを、愚かな言葉を、現実に変えるその時が来た。

 この天変地異が歴史に記されるのは、英雄たちが消えるときか、或いは。或いは、今もそれを書き記している者がいるのか。





 ♢memory♢

 ―――この世界の全てが書きかけだというのなら。

 ―――私が物語を終わらせよう。

 ―――外に出られないただの意識体である現実を突きつけられるというのなら。

 ―――英雄たちを送りだせばいいじゃないか。

 ―――だてに管理者じゃないんだよ。

 ―――なぁ、聖神。私を恨むのは構わない。悪かったと思っている。

 ―――だから、だからどうか、どうか私の英雄たちに慈悲をくれ。

 ―――彼らの鮮やかな人生を、どうか守っておくれ―――


 歯車の中で祈る赤髪の女を嘲笑うかのように、世界の亀裂は増えて行く。どうして自分は何もできないのか、と彼女は涙を流す。
 自分に希望をくれた勇者ルネックスに、どうか慈悲を、と彼女は唄う。

 彼女がいる場所では、何もできない。むしろ、こんなところに置かれたことを彼女は嘆く。世界の惜しみにより女はそこに置かれているのだ。
 だが、彼女としては、そのまま意識すら消えてくれた方が良かった。

『……………………私は、どこを目指しているのだろうか』

 そっと、指を動かす。そっと、頬を撫でた。刻み付けられた傷。永遠に消えない傷。鮮やかな赤い髪でそれを覆い隠す。
 女はいつも逃げていた。仲間すらも自分のために見捨てた。
 分からない―――愚かな時代を、女はきっと伝説ルネックスに重ねていたのだろう。

『………………………行け、しっかりやれよ、ルネックス』

 小さく指を動かした。あの瞬間のまま血にまみれた指の先に、未だ諦めないと吠えるかのように大きな光が灯された。
 女は静かに目を閉じる。

 この光こそが、女を救った英雄ルネックスへの自分に出来る最後のお礼だった。

『……………………………………』

 女の意識は闇に落ちた。二度とここから目を覚ますつもりはない。『ルネックスと違って』全てを誤った女―――。
 しかしそれでも改めることだけはできなかった女―――。
 認めたくなくて、他の事に逃げるだけだった女―――。

 だが、ディステシアは、二度と逃げないことを、向き合うことを、決めたのだった。

(さようならだ、ルネックス。本当の意味の、さようならだ)

 一筋涙が流れたが、ただの意識である彼女が、それを気に留めることは無かった。







 ―――♢memory何処かの愚かな御伽噺♢―――

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