僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

よんじゅうごかいめ 力不足、かな?

 テーラが連れてきたこの世界は、テーラ自身のスキルなのだという。多すぎて数えきれないスキルだが、ひとつひとつちゃんと脳に記憶している。らしい。
 たまにに忘れてしまうときもあるが、セバスチャンが覚えてくれるのだという。
 さて、と、この世界に見惚れているルネックスに話を切りだしたテーラ。

 リンネやシェリア達については、セバスチャンやゼウスが引き受けている。二人で何ができるのか、という愚かな質問はしない。
 彼らなら、あれだけの人数を指導することもあり得ると納得している。

「まず教えたいのはね、別に強くなくても最強にはなれるんだよ?」

「……強くなくても」

「うん。まあ神に挑むとかそういうのは置いといて、ボクを超えられない限り人間界ですら最強にはなれない……だから、知恵で最強になればいい」

「大賢者に知恵で勝つとか愚かですよね!?」

 ルネックスの悲痛な叫びに、テーラはくすくすとおかしそうに笑う。まず、ルネックス一人にテーラ一人と設定してくれたことに、意図があるのは当たり前。
 テーラがルネックスだけに集中し、ルネックスにテーラを超える才能がある、とテーラは最初にそう断言した。

 彼女が強くなろうとしたのは全て『全てを超える者』の称号にかけてだ。なので、本気で強くなろうとはしていない。
 出会いも全てうそだとまでは言わないが、わざと強くなろうとしたわけでもないし、現実を見せつけて若者の心をくじけさせようとしたわけでもない。

 ステータスも称号も属性も、相手の弱点もすべて把握したうえで、自分というのを理解し、それに合った人生を送って来ただけなのだ。

「それに対して君は違う……その時点で君はボクを十分に超えられる。だけど、知識が足りないんだと思うよ。キミの――【創造世界クリエイトスペース】なら、多分ちゃんとした知識がもらえる。活躍させないとね」

「【創造世界クリエイトスペース】は、聖神が作ったものなんじゃ、ないんですか?」

「正確には、ゼウス様とディステシアと聖神で作ったものだね。ブレスレットと、ネックレスと、イヤリングの形があるんだ」

 雪のように美しく、幻想を感じるテーラ自身のイヤリングを彼女は見せる。そこには大精霊アルフレットが宿っている。
 今いるこの世界は、アルフレットの世界と名付けられているものだ。

 ルネックスが驚いていると、テーラがふふん、と誇らしげに微笑んだ。三つの道具はぶつかり合うことを運命としている。
 持っている時点で、他の者とは敵になるか味方になるか。テーラは味方だが、ロゼスは敵となった。一応それの創造主は此処に二人いる。

 それでも有利が傾かないのは、単純に聖神自身が強すぎるからだ。

「ボクなら勝てるとか言わない。というか、聖神ランクはゼウス様でも苦戦するからね。ロゼスなら勝てるよ、苦戦するけど。君達の助っ人が神様や天使たちを足止めできるなら、キミがボクを超えてくれるなら、勝てる戦いだよ」

「そ、それは! 僕が大賢者様を超えるなんて―――」

「自分を過小評価しないの。ボクが保証するよ、ルネックスはボクを超えていく。一歩でも間違えたら傾くほどの戦い――有利にしてみたくない? 目的ある者は、目的ない者を覆せる。だから遠慮なくボクを超えていってよ」

 そういってテーラはルネックスの胸にこつん、と人差し指の関節を当てる。不意にルネックスは心のもやもやが晴れていく感じがした。
 嫉妬もない、妬みもない、単純に才能を持つ者が現れたことに、安心している。一番上などいらない、興味ない。
 ただ、守りたかった人がいて、その人は自分を守れるほど強くなった。
 ただそれだけだ。
 なので、テーラの次の目標は、自分を超える者を自分の手で育てることのみ。

「ボクの期待に応えてくれよ。なんなら弟子にしてあげよっか?」

「ははっ。大賢者様の弟子になれるのなら、それ以上の光栄はありませんよ」

「おっけー、なら今日からルネックスはボクの弟子ね!」

 意外にノリノリでそういった大賢者テーラは、ルネックスに思い切り抱きついた。ルネックスは「ははっ」と苦笑いをしながらそのままにしておく。
 しばらくしてテーラは離れると「こほん」とわざとらしく咳払いをする。

「まず、スキルのランクを最高5にする。最低1にする。ボクを4だとして、聖神とゼウス様を5だとしよう。それでキミを3にする」

「僕は、3……まだ、それだけしか成長をしていないのですか」

「厳しいこと言うけどね、君はまだ人外ですらないの。2にしておきたいところだよ。この世界の賢者やら剣聖やらそんな称号を持ってる奴らは、ルネックスに勝てる可能性だってまだあるくらいなんだから」

「僕は、自惚れていたのかもしれません。……これくらい生きて来た分際で、厚かましいことを言います。この世界には救いなんてありません。神様の存在を信じたって救われないような世界で、ほんの少しの奇跡に喜ぶ世界です」

「うん。信じたからってそう毎度毎度救われては困るから、世界の平均がなくなるから神は救わない。でもルネックスはそんな理由で神に挑んで居るんじゃないんでしょ」

「はい。そんな世界の中でも、僕は自分勝手です。少し不満となるような事が、耐えきれないことが起こっただけで、この世界を創った恩人に挑もうとしていることに変わりはありません。……それでもみんなはどうして、僕についてきてくれるんですか」

 ルネックス自身の、純粋な疑問だった。自分勝手に計画を進めて、計画の原因だって「ラグナロク」を起こさなくてはならない、という自分の判断のみ。そんな不確定な勘に、どうして皆は諦めてすらくれないのか。
 愛想を尽かすことすら、全くしてくれないのか?
 ルネックスはヘタレだと自分でもわかっている、肝心な時に向かう心が弱くなってしまうくらい、弱い人間だということを知っている。

 救うだなんて、超えるだなんて、そんな善人らしきことは言えない。そう自覚して分かっていながらもしていたことなのに、どうして。
 そんな疑問をぶつけられたテーラは、当たり前じゃない、と笑った。

「君に救われて、キミを信じているから。もっと言えば、ルネックスが好きだから。過小評価をするなって言ったでしょ? ボクは、ルネックスがボクより凄い人だと思っているんだ。ルネックスのやることなら間違っていない――そう信じられているんだよ」

「僕は、そんな、凄いことを、した覚えなんて、ないんです」

「うん。ないでしょ絶対。ルネックスにあるとはボクも思わないよ?」

 ルネックスの心が弱いことを知った上で、テーラはあえて心を切り裂くような言葉を容赦なくはなっていく。それが逆にいい方法となるから。
 ルネックスは「ぐふっ」と言いながら、その表情は硬い。やはりちゃんと理解していないのだろう、とテーラはため息をついた。

「今すぐ理解しろとか言わないからさー、とりあえず君の仲間を信じようよ。ボクは言ってあげる……神に挑もうとした時点で、既にルネックスは英雄さ」

 ルネックスはまだ何か言おうとしていたが、テーラは頑なにそれを遮った。テーラが教えてはいけない、自分で見つけてもらわなくてはならない。
 何故なら、その先の答えは誰一人として同じものはなく、テーラの見つけたものを刷り込むわけにはいかないからだ。

「じゃあまず僕に攻撃を放ってみてよ。君の欠点をひとつずつ出していくし、知識もずいぶんと増やしてあげる。この空間でいる間現実での時間は経過しないから、ボクのスケジュールも問題ないしね」

「は、はぁ、これだけ長い会話が一瞬……まあ、いいですね、では、行かせてもらいますよ―――!」

「了解!」





 ――――――二時間ほど経ったか。もう時間すら数えていない。
 倒れ伏すルネックスと、それを見下ろしながら平然と立つテーラが居た。驚いたのは、この空間での怪我は即座に修復されることだ。
 そしてやはりテーラに傷ひとつ付けられなかったのと、どんなに広範囲の魔術を使っても当てることができなかったこと。

「うん。やっぱりだね、今までの戦いを見てきてるけど、やっぱりだよ。そんな実力でゼロ2に勝っちゃうなんて……やっぱあいつ油断しやがったなー?」

「はあ、はあ、はあ……やっぱりって、もしかして、僕の決定的弱点とか、そういうのですか……?」

「それだよ。驚いたなあ、それブレスレットを使いこなせるまで、ボクは一年もかかったけど。でもまあまだ使いこなせてはいないね」

 はんっ、とテーラは鼻で笑った。ははっ、とルネックスは苦笑いで返す。ゼロ2の場合、場所が場所で、相手が相手で偶然勝っただけだ。
 圧倒したように見えなくもないが、ゼロ2は原始の力を発揮してはいない。手も足も出なかったのは、咄嗟にルネックスが言霊を使ったのと、ゼロ2が咄嗟にそれの対策が思いつかなかったから。
 それは長年力を使っていない彼女の力が鈍っただけで、実際今対決しろと言われたらルネックスが確実に負ける。

 言いたいことが多すぎてまとまらない、とテーラは苦笑いをする。

「まずね、手当たり次第にスキルを使うことが間違いだよ。相性の悪いスキルを使って相手のスキルを消滅させるとか、そのためにわざとスキルの力を弱めたのに、乗ってこないってのも間違いだね。圧倒的知識不足。うん」

「うぐっ―――」

「でもまあ仕方ないよ? その年だもん。ボクは悠久の時を生きるからね! ああ、不老ではあるけど不死ではないから死ぬよ?」

 少しだけ恐ろしいことを口にするテーラだが、大賢者が言うのだから妙に説得力があり、ルネックスは少し震えてしまう。
 あはは、ごめんごめん、と謝るが、どう見ても先程のあれは冗談ではない。

 二十歳すら超えていないルネックスが、テーラに知識で勝つというのも無理はあるが、それはできないことではない。

「だってボクが集めたものを君は一瞬で獲得できる。そして多分、明確な目標が【強くなる】ことになっている君なら、ボクよりそれを扱える」

「……僕が、人の研究成果を? そんなの盗んでいるように見えますよね」

「盗んで伸びるならそれでもいいんだよ。盗んだかそうじゃないかであーだこーだいうほど平和な世界にルネックスはいないでしょ?」

 確かにだ。平和に生きるなら、たまにはそういうことで喧嘩が起きたりするのも悪くはない。だがルネックスはいちいちそう言っていられる立場には居ないのだ。
 引こうにも引けないし、攻めようにも実力が足りない―――。

「まず天界は聖なる場所なの。【魔】が苦手なの。だから、闇属性を特化していく必要があるわけ。必死にレベル上げっぞこら!」

「は、はい! 師匠!」

 地獄のようなスパルタ―――しかしそれでも何かを見つけることができる。
 ルネックスはまだ見ぬ未来に、希望を浮かべながら訓練を続けたのだった。

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