僕のブレスレットの中が最強だったのですが
よんじゅうにかいめ 皆の集結と新たな発端かな?
久しぶりだ―――。少年はまぶしい太陽を遮るため、手を額に当てて空を見上げた。黄金に煌めく王城が目の前に見える。
兵士たちが洗練された礼をして、ルネックスを通してくれる。
カレンも同じように通され、彼女はあわててルネックスに向かって駆けだす。
先に着いた者達が久しぶりに、と王都に許可を取ってくれたらしいのだ。
「カレン。きっと僕らが一番遅いだろうね。早く行かないと待たせちゃう」
「ん……疲れてる……でも走る……そう言いたい……?」
「そう。疲れていると思うけど、今はもう少し頑張ってほしいな」
「分かった……頑張る」
相変わらず無表情のカレンだが、その瞳にはもう少し頑張ろうという決意の光が灯されている。今までの苦しみと比べたら、どうということは無いのだから。
ルネックスは頼もしい自分の仲間に、今までの事を思い出して微笑んだ。
―――走って走って、駆け抜けて。その先には、見慣れたいつもの部屋が佇む。
満面の笑みで扉を開けると、いつも通りの仲間たちがいる。
でも何だろう。ルネックスは、少し遠い視線で彼らを見ている気がした。
(すべてが終わった時、僕はそこに居ない。そう言うことなのかな)
「じゃあ、みんな。結果を聞かせてもらうよ。僕からも話はする。じゃあ言いたい人から順番に手を上げてよ」
「あ、私が言います。鬼界についてですが、全員が味方をしてくれました。一晩そこに滞在しましたが、鬼界は平和なようです。しかし鬼界の長に聖神の手が伸びている可能性がありました。あまり前線に出すことは控えた方がよさそうです」
「そうだね。その様子だと鬼界は中距離防御戦に挑むことになるか……」
しかしそれほど支持してくれているのだ。皆の顔を見ていても、鬼界は一番支持してくれているだろう。
フレアルはフィリアをレーイティアが説得してくれなかったら、リンネは樹がアルトを説得し、リーシャの活躍が無かったら、竜界と魔界もルネックスとカレンの強さが無かったら、説得は不可能だったかもしれない。
勿論鬼界征服もカレンの実力も含めるが、鬼界の絆が一番強い理由だろう。
ルネックスは苦笑いをするが、その手は地面に置いてある予備の資料をぎゅ、と握っている。
そんな平和な世界を崩す気は、本当に無かった。
でも、そんな気はないけれどやはり自分の欲望で為しているという事実に、自分をただ恨むしかなかった。
(ああ、そうか。終わった時に僕がそこに居ないのは、僕の罪を償わなければいけないのか。仕方ないよね、全部壊しちゃったのだから)
これがすべてルネックスの思い込みであることは、後々分かることになる。
しかしその機会をきちんと通ってくれるかは、ルネックス次第だ。
「じゃあ私はぁ、小さな喧嘩はありながらももっと魔女界を平和にさせながら協力させることに成功したよぉ」
「資料もきちんと渡しました―――ました。強さ的にも恨みの強さ的にも、前衛を任せた方が良いと思います―――ます!」
「確かに……魔女界の当主は神界に恨みがあるのか……資料的には前衛にしてあるけど、これで変更はなしだね。約束が果たせてよかったよ」
ルネックスの分厚い資料には、予想で前衛なのか後衛なのか中距離なのか、あとどう行動するかの予測データがある。
魔女界は前衛、鬼界は中距離となる予想は立ててデータにまとめていた。
ルネックスの言葉にリンネとリーシャはこくんと頷いて部屋に沈黙が流れる。
「じゃあ次は私が話すね。レーイティアは神に対しての強い恨みがあり、聖女フィリアはそんなレーイティアを守る形で協力してるみたい。フィリア的にはあまり前線に出たくないようで、回復薬や狙撃手、後衛を任せることにしたわ」
「うん。その辺は資料通りだね。じゃあ次は僕たちが話そう」
そう言ってルネックスはカレンに目配せをすると、カレンは頷いてルネックスにこの場を任せる意思を読み取った。
「僕の魔界には……ゼロ、魔の原始ゼロ2が僕の味方をしてくれている。ゼロ2がいるならば行動は早い、魔界は全体的に力で降伏相手を決める属性だからね。みんな強いから前衛にするとは資料に書いてあるよ」
「あとは……奴隷達を……どう配置するか……」
「それなんだけど、大体どこのグループでどんな訓練をしているのか報告は奴隷達から貰ったから、僕がもう決めておいたよ」
瞬間的に何をどこに配置するか決められたのは【思考速度上昇】のスキルのおかげだ。一度ブレスレットの力を借りて使用したものはステータスに反映されるように言霊で命令しておいたのだが、やはり聖神の力を借りているのがルネックスにとっては苦だ。
しかしフェンラリアが聖神との力の管理の糸を切ってくれたおかげで、聖神がこのブレスレットの力を止めることはできない。
しかし頑張ればきっと彼女ならブレスレットを壊すことならできる。
ルネックスはブレスレットを撫でて、資料の向きを整えてそれをみんなが囲む地面の真ん中に広げて置く。
「僕のグループは、後衛だ」
短く言葉を繋げて、ルネックスはさらにページをめくる。
「フレアルのグループは、前衛だ」
フレアルは顔をぱあ、と輝かせて誇らしそうにした。
「シェリアのグループは前衛。カレンとリーシャのグループは中距離」
シェリアはおお、と声を上げ、カレンとリーシャはどうして中距離なのか分かった。自分らだけがゼロと接したことから、それが聖神の耳に入っているかもしれないことを恐れて前衛に出ることを保留されたせいだからだ。
二人はそれを考えの中に入れているが、それは当たっている。
「リンネは、後衛だ。後ろは全て君に任せたと言って過言ではない」
「任されましたぁっ!」
リンネは明るく微笑みながらルネックスに敬礼をした。後衛は人数が少なく、背中はがら空きと言っていいほどだ。
しかしそこにひとつ強者を置いておくことで、少ないことを有利に、敵を呼び寄せて制圧することができる。
神は【一人一人】であって、団結力はない。
この計画を察する者もいれば察せない者もいる。察せない物を中心に削るだけ削っていけば神界の防御は手薄になるのだ。
そして察したものが前から来るならば、ぶちのめせばいいだけである。
―――それこそ、最初から聖神が来るのなら話は別で、その時にはどうすればいいのかルネックスは考えを終えていない。
「大賢者テーラ様にでも協力を要請するか……?」
もう二度も救援を貰っている。神聖地域にでもいって救援要請をすれば、応えてもらえる確率は低くも高くもない。
処置のひとつとして頭に入れておく必要はあるようだ。
神聖地域には聖神やロゼス達がいる可能性も高く、そんな地域に大賢者テーラがまだ居るのならば、救援してもらえる確率は低くなる。
しかしそのほかに行く場所も見つからず、テーラについては頭の片隅に置いておくことにした。
今優先すべきは人々の配置だ。
「まず、人間界に火の粉がかからないようにしなければいけないね」
「フィリアたちがどう登ってくるかも決めておかないと……」
フィリアとレーイティアとその兵たちについては、ルネックスのブレスレットから力を授けることになっている。
なのでフレアルの心配は無用である。
ルネックスはこれ以上考えると皆の疲労が高まると思い、優しく息を吐いて周りを見る。
「そう言えばフェンラリアがいないけど、どうしたの?」
「ああ、フェンラリアなら用事があると言って街に出ていきましたよ。凄く怖い顔をしていたので、何も言えませんでしたが」
シェリアはすみません、何も知らなくて、とルネックスに謝るがルネックスはシェリアに大丈夫だと言って怪訝そうにに顔をしかめる。
あのフェンラリアが怖い顔をするなど、神界と何か関係があるのか……?
必死に昔の記憶を呼び起こして、ひとつの結論にたどり着く。
(聖神が動いたか……? 完全に動かれる前に制圧したかったのかな……?)
どちらにしろ、フェンラリアの精霊界の話を聞けない以上勝手に計画を進めることはできない。戻ってくるまで待たなくては。
そう思ったが、もう一度まわりを見ると皆の顔が少々険しかった。
「どうしたの? 何か不安そうだけど……思い当たりでもあるの?」
「思い当たりと言えばあるんだけどね。昔に聖神の襲撃的なのがあったでしょ? また来るんじゃないかって予想はできるんだよね」
「フレアルの勘はよく当たるからね……見過ごせない、か」
フェンラリアが一人で行動したのは、恐らくもう誰も苦しませたくないし、もう誰も失いたくないからだろう。
しかしルネックスは心底怒りが沸いている。
一人ではもし聖神が動くならば絶対に殺される。
それに今は神界に攻める時期なのに、フェンラリアを失ってどうしろというのか。
たまにフェンラリアは天然になってよく考えないことがある。
しかしその性格がこの状況には裏目に出る。
「分かった。僕が探しに行くよ。もしそうだとしたら、フェンラリア一人で相手させるわけには行かない。撤退に集中させる」
「それだと……人間界に……被害が出る……人間界は……守らなきゃ……」
「そうだね。じゃあ、全員で行こう」
あまりにもあっさりとルネックスが即決し、皆は驚いてルネックスを見つめた。
「だって今僕が死んだりしたら今までのことが全部無駄になるじゃないか。最後に何をするかは僕しか知らないんだから。それに、これからの生活のためには確かに人間界は失うわけにはいかない」
並べられる正論の言葉に皆は反論も、言葉を繋げることすらもできない。ルネックスはため息をついて席から立つ。
チームワークを失いつつあるな、とルネックスは思う。
聖神の攪乱からたくさんの世界に行ったことで情の揺さぶり……、免れないことではあると言っても、どうすることもできないのはつらい。
国王コレムには全てが終わったあとも活躍してもらわないといけない。
伝説という存在を世界に知らしめるための活躍を。
「行くよ、みんな」
―――その声は、透き通って耳に入ってくる。
―――その声は、永遠に反論を許さない。
―――その声は、絶えず人を導き続ける。
――――――ゆえに、少年は頂点に立ち続けられるのだ。
「仲間をとりもどしに行かなきゃね」
これから何があるかもわからないのに、ルネックスは笑みを形作っていた。彼の後ろに付いて行く仲間たち。
彼らも。ルネックスも。この計画の勝利を信じて疑わない。
「「「「はいっ!」」」」
鈴を転がすような美しい声が、四つ重なって天に響いた――――――。
兵士たちが洗練された礼をして、ルネックスを通してくれる。
カレンも同じように通され、彼女はあわててルネックスに向かって駆けだす。
先に着いた者達が久しぶりに、と王都に許可を取ってくれたらしいのだ。
「カレン。きっと僕らが一番遅いだろうね。早く行かないと待たせちゃう」
「ん……疲れてる……でも走る……そう言いたい……?」
「そう。疲れていると思うけど、今はもう少し頑張ってほしいな」
「分かった……頑張る」
相変わらず無表情のカレンだが、その瞳にはもう少し頑張ろうという決意の光が灯されている。今までの苦しみと比べたら、どうということは無いのだから。
ルネックスは頼もしい自分の仲間に、今までの事を思い出して微笑んだ。
―――走って走って、駆け抜けて。その先には、見慣れたいつもの部屋が佇む。
満面の笑みで扉を開けると、いつも通りの仲間たちがいる。
でも何だろう。ルネックスは、少し遠い視線で彼らを見ている気がした。
(すべてが終わった時、僕はそこに居ない。そう言うことなのかな)
「じゃあ、みんな。結果を聞かせてもらうよ。僕からも話はする。じゃあ言いたい人から順番に手を上げてよ」
「あ、私が言います。鬼界についてですが、全員が味方をしてくれました。一晩そこに滞在しましたが、鬼界は平和なようです。しかし鬼界の長に聖神の手が伸びている可能性がありました。あまり前線に出すことは控えた方がよさそうです」
「そうだね。その様子だと鬼界は中距離防御戦に挑むことになるか……」
しかしそれほど支持してくれているのだ。皆の顔を見ていても、鬼界は一番支持してくれているだろう。
フレアルはフィリアをレーイティアが説得してくれなかったら、リンネは樹がアルトを説得し、リーシャの活躍が無かったら、竜界と魔界もルネックスとカレンの強さが無かったら、説得は不可能だったかもしれない。
勿論鬼界征服もカレンの実力も含めるが、鬼界の絆が一番強い理由だろう。
ルネックスは苦笑いをするが、その手は地面に置いてある予備の資料をぎゅ、と握っている。
そんな平和な世界を崩す気は、本当に無かった。
でも、そんな気はないけれどやはり自分の欲望で為しているという事実に、自分をただ恨むしかなかった。
(ああ、そうか。終わった時に僕がそこに居ないのは、僕の罪を償わなければいけないのか。仕方ないよね、全部壊しちゃったのだから)
これがすべてルネックスの思い込みであることは、後々分かることになる。
しかしその機会をきちんと通ってくれるかは、ルネックス次第だ。
「じゃあ私はぁ、小さな喧嘩はありながらももっと魔女界を平和にさせながら協力させることに成功したよぉ」
「資料もきちんと渡しました―――ました。強さ的にも恨みの強さ的にも、前衛を任せた方が良いと思います―――ます!」
「確かに……魔女界の当主は神界に恨みがあるのか……資料的には前衛にしてあるけど、これで変更はなしだね。約束が果たせてよかったよ」
ルネックスの分厚い資料には、予想で前衛なのか後衛なのか中距離なのか、あとどう行動するかの予測データがある。
魔女界は前衛、鬼界は中距離となる予想は立ててデータにまとめていた。
ルネックスの言葉にリンネとリーシャはこくんと頷いて部屋に沈黙が流れる。
「じゃあ次は私が話すね。レーイティアは神に対しての強い恨みがあり、聖女フィリアはそんなレーイティアを守る形で協力してるみたい。フィリア的にはあまり前線に出たくないようで、回復薬や狙撃手、後衛を任せることにしたわ」
「うん。その辺は資料通りだね。じゃあ次は僕たちが話そう」
そう言ってルネックスはカレンに目配せをすると、カレンは頷いてルネックスにこの場を任せる意思を読み取った。
「僕の魔界には……ゼロ、魔の原始ゼロ2が僕の味方をしてくれている。ゼロ2がいるならば行動は早い、魔界は全体的に力で降伏相手を決める属性だからね。みんな強いから前衛にするとは資料に書いてあるよ」
「あとは……奴隷達を……どう配置するか……」
「それなんだけど、大体どこのグループでどんな訓練をしているのか報告は奴隷達から貰ったから、僕がもう決めておいたよ」
瞬間的に何をどこに配置するか決められたのは【思考速度上昇】のスキルのおかげだ。一度ブレスレットの力を借りて使用したものはステータスに反映されるように言霊で命令しておいたのだが、やはり聖神の力を借りているのがルネックスにとっては苦だ。
しかしフェンラリアが聖神との力の管理の糸を切ってくれたおかげで、聖神がこのブレスレットの力を止めることはできない。
しかし頑張ればきっと彼女ならブレスレットを壊すことならできる。
ルネックスはブレスレットを撫でて、資料の向きを整えてそれをみんなが囲む地面の真ん中に広げて置く。
「僕のグループは、後衛だ」
短く言葉を繋げて、ルネックスはさらにページをめくる。
「フレアルのグループは、前衛だ」
フレアルは顔をぱあ、と輝かせて誇らしそうにした。
「シェリアのグループは前衛。カレンとリーシャのグループは中距離」
シェリアはおお、と声を上げ、カレンとリーシャはどうして中距離なのか分かった。自分らだけがゼロと接したことから、それが聖神の耳に入っているかもしれないことを恐れて前衛に出ることを保留されたせいだからだ。
二人はそれを考えの中に入れているが、それは当たっている。
「リンネは、後衛だ。後ろは全て君に任せたと言って過言ではない」
「任されましたぁっ!」
リンネは明るく微笑みながらルネックスに敬礼をした。後衛は人数が少なく、背中はがら空きと言っていいほどだ。
しかしそこにひとつ強者を置いておくことで、少ないことを有利に、敵を呼び寄せて制圧することができる。
神は【一人一人】であって、団結力はない。
この計画を察する者もいれば察せない者もいる。察せない物を中心に削るだけ削っていけば神界の防御は手薄になるのだ。
そして察したものが前から来るならば、ぶちのめせばいいだけである。
―――それこそ、最初から聖神が来るのなら話は別で、その時にはどうすればいいのかルネックスは考えを終えていない。
「大賢者テーラ様にでも協力を要請するか……?」
もう二度も救援を貰っている。神聖地域にでもいって救援要請をすれば、応えてもらえる確率は低くも高くもない。
処置のひとつとして頭に入れておく必要はあるようだ。
神聖地域には聖神やロゼス達がいる可能性も高く、そんな地域に大賢者テーラがまだ居るのならば、救援してもらえる確率は低くなる。
しかしそのほかに行く場所も見つからず、テーラについては頭の片隅に置いておくことにした。
今優先すべきは人々の配置だ。
「まず、人間界に火の粉がかからないようにしなければいけないね」
「フィリアたちがどう登ってくるかも決めておかないと……」
フィリアとレーイティアとその兵たちについては、ルネックスのブレスレットから力を授けることになっている。
なのでフレアルの心配は無用である。
ルネックスはこれ以上考えると皆の疲労が高まると思い、優しく息を吐いて周りを見る。
「そう言えばフェンラリアがいないけど、どうしたの?」
「ああ、フェンラリアなら用事があると言って街に出ていきましたよ。凄く怖い顔をしていたので、何も言えませんでしたが」
シェリアはすみません、何も知らなくて、とルネックスに謝るがルネックスはシェリアに大丈夫だと言って怪訝そうにに顔をしかめる。
あのフェンラリアが怖い顔をするなど、神界と何か関係があるのか……?
必死に昔の記憶を呼び起こして、ひとつの結論にたどり着く。
(聖神が動いたか……? 完全に動かれる前に制圧したかったのかな……?)
どちらにしろ、フェンラリアの精霊界の話を聞けない以上勝手に計画を進めることはできない。戻ってくるまで待たなくては。
そう思ったが、もう一度まわりを見ると皆の顔が少々険しかった。
「どうしたの? 何か不安そうだけど……思い当たりでもあるの?」
「思い当たりと言えばあるんだけどね。昔に聖神の襲撃的なのがあったでしょ? また来るんじゃないかって予想はできるんだよね」
「フレアルの勘はよく当たるからね……見過ごせない、か」
フェンラリアが一人で行動したのは、恐らくもう誰も苦しませたくないし、もう誰も失いたくないからだろう。
しかしルネックスは心底怒りが沸いている。
一人ではもし聖神が動くならば絶対に殺される。
それに今は神界に攻める時期なのに、フェンラリアを失ってどうしろというのか。
たまにフェンラリアは天然になってよく考えないことがある。
しかしその性格がこの状況には裏目に出る。
「分かった。僕が探しに行くよ。もしそうだとしたら、フェンラリア一人で相手させるわけには行かない。撤退に集中させる」
「それだと……人間界に……被害が出る……人間界は……守らなきゃ……」
「そうだね。じゃあ、全員で行こう」
あまりにもあっさりとルネックスが即決し、皆は驚いてルネックスを見つめた。
「だって今僕が死んだりしたら今までのことが全部無駄になるじゃないか。最後に何をするかは僕しか知らないんだから。それに、これからの生活のためには確かに人間界は失うわけにはいかない」
並べられる正論の言葉に皆は反論も、言葉を繋げることすらもできない。ルネックスはため息をついて席から立つ。
チームワークを失いつつあるな、とルネックスは思う。
聖神の攪乱からたくさんの世界に行ったことで情の揺さぶり……、免れないことではあると言っても、どうすることもできないのはつらい。
国王コレムには全てが終わったあとも活躍してもらわないといけない。
伝説という存在を世界に知らしめるための活躍を。
「行くよ、みんな」
―――その声は、透き通って耳に入ってくる。
―――その声は、永遠に反論を許さない。
―――その声は、絶えず人を導き続ける。
――――――ゆえに、少年は頂点に立ち続けられるのだ。
「仲間をとりもどしに行かなきゃね」
これから何があるかもわからないのに、ルネックスは笑みを形作っていた。彼の後ろに付いて行く仲間たち。
彼らも。ルネックスも。この計画の勝利を信じて疑わない。
「「「「はいっ!」」」」
鈴を転がすような美しい声が、四つ重なって天に響いた――――――。
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