僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

よんじゅういっかいめ 竜界征服かな?

 カレンとルネックスは全速力で竜界へのブラックホールを疾走している。カレンは良いが、魔界で戦ったばかりのルネックスから疲労の色が見える。
 それを承知の上で、カレンが足を止めることは無い。

 何故なら、ルネックスがカレンの前を止まることなく走っているからだ。

「ルネックス……そのリアスっていう人……信頼できるの……?」

「そう言えばカレンには説明してなかったね。色々あって竜になっちゃったけど、元人間の僕のお父さんだよ」

「え……!? わ、わたし……大変なことを……」

「ああ、それは気にしなくてもいいよ。信頼できないかできるか以前に、協力してくれるかどうかも問題なんだからね」

 父だからと言って、前にルネックスと戦ったことから容赦だけはしない人だ。それに記憶に残るのは、父のスパルタ教育。
 思い出したら少し震えるくらいには厳しい訓練を強いられたりした。

 でも、同時に微笑むことができるくらいには暖かい環境ではあったと思う。

「よし。降りるよカレン。準備をして」

「ん。分かった」

 トン、と足を地面に降ろすと、雲と雲の間にある、太陽の煌めく竜界が見えた。比較的平和であることがわかる。
 そして今からその平和を壊しに行っているということも、分かる。

 ステータスを駆使して風を切って走りぬく。
 王宮が見えたり、美しい柱が見えたりと竜界の現状が見え隠れしている。
 目を閉じて、平和の犠牲は仕方がない、と割り切る。今していることすべてが世界を平和に導くための計画なのだと言い聞かせる。

 別に人様の世界と平和を壊すことが趣味なわけではない。
 ただ、だからと言って自分の世界を放棄して他の世界を優先するわけには行かない。

 どこかの世界を壊してしまうこともあり得ないわけではない。
 目を閉じて心を落ち着かせると、竜の王者が滞在する帝園の扉をくぐる。

「―――来たな」

 重い声は、それほど大きな声ではなかったが、帝園の中を響く。
 その声は聞き覚えがあって、その奥では人間―――人化したリアス―――が立っていた。
 思わず歩みを止めてしまうが、すぐにまた歩き始める。

「……ということは、何のために僕が来たのか、分かっているってことですかね」

「まあな。分からんわけがないだろう。フェンラリアからの予知は大体当たるのだからな」

「フェンラリアの予知?」

「お前と戦った時にな、フェンラリアが予知をしてくれたんだよ。脳内からだったからオレとフェンラリアしか知らないがな」

―――そうか。フェンラリアも絡んでいたのか。
 フェンラリアが何かしているというのなら、ルネックスも納得できる。竜よりもワンランク上のランクである精霊ならば、接触も可能。
 あの襲撃の時にルネックスが気絶している間話す時間も十分にあった。

 にこり、と微笑むリアスは、ルネックスから話題を切り出すのを待っている。

「……神界を現在攻撃している。原因は、神への反感、それについての理由は資料に記されてる。それをもとに、竜界への協力を要請―――」

「勿論。一週間くらい前にオレは了承したぜ?? ただな、長老竜たちが聞かなくてよー、俺が説得したんだが、この方法しかねえみたいだぜ」

 言い切る前に、リアスの後ろに三体の白銀の竜が舞い降りた。真っ黒の瞳には威圧感を感じる。カレンは思わずルネックスの後ろに隠れる。
 やや小さめの竜だが、切れ味のよさそうな角を全身に取り付けている竜と、大きく存在感があり、完全攻撃型の竜、中くらいのサイズだが羽が大きく上から狙うのが得意そうな竜。ルネックスはそこまで読み取れた。

 リアスは苦笑いしながら後ろに下がっていく。

「ってことで、決闘だってね?」

「全く。父に会えたというのに、すぐに戦いとはね。驚いたよ」

 ルネックスはいつもの性格を壊し、リアスに苦笑いを返した。三人の長老竜は相変わらずルネックスをにらんだままだ。
 恐らく経験を頼りに何かを見通したいのだろう。計画を立てるとも言える。

 三対一だと不利なので、今回はカレンも戦いに参加することになる。

「ほっ」

 ルネックスは足に力を入れて、上空に体を預ける。上から三人の竜を見て弱点が分からないか探っていると、小さめの竜がルネックスと同じ高さに飛んできた。
 竜の顔は分かりにくいので、何を考えているかは分からないが予想はつく。

 カレンも足に力を入れてルネックスと同じ高さの上空まで飛んでくる。残り二人の竜も同じように上がってくる。
 ルネックスは余裕の微笑みを浮かべながら、三人を迎える。

『人間よ……我らを前にして、怖くはないのか……』

「怖いわけないじゃないですか。これから神界へ行くというのに。常識的には、神は竜の上に立つ者です。ここで怖がってしまえば後がありません」

『……神界より勢力が弱いということを知ったうえで、ということか』

「そうです。僕の計画はもう少し大きくなる予定ですので、勿論貴方達には神界に勝つことを優先としなくても良いですよ」

 竜界が滅んでしまえば、再度の協力の申し込みが受け入れられることは絶対になくなる。いくらリアスが此処に居たとしてもだ。
 それよりも優しさを見せて、竜界を縛っていた神界を巧みに滅ぼすことができれば、竜界の命の恩人となりこれからにも利益が出る。

 これからの計画を再現するためには、竜界の存在は必要不可欠なのだ。
 大きめの竜の声に、もう二人の竜も顔を見合わせてルネックスの顔と交互に見る。本気なのか、という顔だろう。

『利益を求めるのならば、普通は使い捨てが人間のすることなのだが……』

「僕をそんな人間と同じにしないで欲しいですね。僕はあくまで僕のためにやっていることなので、犠牲は少なくしたいところなんですよ」

 この言葉に嘘はない。ルネックスは人のためにやっているという自覚は無く、全ては自分の私情でやっていると思っているのだ。
 しかしこの計画が様々な人々の助けとなっているのは紛れもない真実だ。

 カレンは既にルネックスの後ろで最大魔術の詠唱をしている。久しぶりの本気を出しての戦闘に、ルネックスは肩を回す。
 これまでの生活を通して多少バトルジャンキーになっているようだ。

「ではいいですか? 【黒洞ブラックホール】」

『先手必勝ということ……かっ!? 何だこの威力はっ!?』

(残念ながら、このスキルも聖神の物なんだけどね……)

 苦笑いをしながら肩をすくめ、莫大な引力をもたらすブラックホールは三体の竜に向かって直進していく。
 まだ何メートルも離れているというのに、引力は三体の竜を引きずり、小さめの竜は羽を吸い込まれてしまっている。
 小さい体を不利にする、というのがルネックスの計画だ。

『反撃できぬと思うなよッ! 全てを押しつぶせぇっ―――』

 何トンあるだろうか、竜の魔力が心臓辺りから物体として抜き出され、ルネックスの頭上めがけて振り下ろされる。
 しかしそれこそが隙。一瞬で魔力を溜めさせないためには―――

「【風神神力】」

 カレンのこのスキルも、残念ながらこれも神の力を借りて放出していることがまた悔しさを呼び起こす。
 スキルマスターの神を屠れば、屠った者が新たにスキルマスターとなる。
 新しくどんな強いスキルだって作れる。しかしそれはまだ先の話だ。

 風の刃がきれいにルネックスだけを避け、魔力の塊を切り裂き、巨体を切り刻む。此処では巨体であることを不利とした。
 小さめの竜については完全に吸い込まれる前にブラックホールを消した。
 抗い続けて体力ももうないようで、地面(仮)にへたり込んでいる。

 あと残っているのは、中くらいの大きさの竜だけだ。

『……どうやら、実力に間違いはないようだな。しかし此処まで来たら我もバトルジャンキーになってしまうものだ。―――龍神よ、力をお貸しください!』

 さすがは竜。詠唱の仕方も違うな。―――ルネックスは余裕そうに場違いなことを考えていた。ブレスレットのついていない手を向かってくる業火にかざした。

「今回ばかりはキミの力をあまり借りたくないんだ」

 そうブレスレットに語り掛け、ルネックスの手からは竜の放った何十倍も強い威力の業火が、燃え上がった。
 比で火を相殺し、最後はカレンの手によって炎は消し飛ばされた。
 驚くべきルネックスとカレンの実力に、リアスでさえも絶句する。

「お、驚いたな、三人はオレが全力で向かってやっと勝てる相手なのに」

「父を超えた、ってことかな? それはそれで嬉しいな」

 何でもないようにくすり、と優雅に微笑むルネックスを見て、リアスも微笑んだ。続いてリアスは視線をルネックスの腰の鞘に向ける。
 あの日―――リアスがルネックスに残していった最強の剣。

「それ、まだ持っていたんだな」

「うん。僕の相棒に凄いこと言われちゃったから捨てれないし、捨てるつもりもなかったしね」

 リアスが悲しそうに告げるのを無視するかのように、ルネックスの言葉の語り方は変わらない。カレンの表情も変わらない。
 相変わらずで地面へのゆっくりとした降下を続けている。

 そんな無表情の中でのやり取りも、遥か昔はリアスがやっていたものだ。
 全く、真似る所が悪い、とリアスは悲しい顔を緩めてふわりと微笑む。その顔があまりにもルネックスに似ていてカレンは思わず固まってしまう。
 親子の再会で口を出すことは許されないことは分かっているが、体の反応はさすがに止めることはできない。

「良い仲間を手に入れたな、ルネックス」

 しばらくの沈黙の後、リアスは唐突に口を開いてそう言った。

「今の僕はとても幸せだ。それも、きっとこの世界がスイッチを開けたおかげだし―――神も、感謝するべき一員だと思ってる」

「ほう?」

「でも、彼らのしたことは僕が感謝するべきであると思える感情を全てかき消すくらいのことだったんだよ」

 そして、また訪れるひと時の沈黙。三体の竜が体力を回復させて戻ってきた時、彼らは空気を読んで資料に協力する証である印を封じた。
 印は魔法陣によって展開され、それはその者の魔力を記憶する。資料に描かれている魔法陣そのものはリアスが書いたもので、魔力が封じ込められているのでそれを起動させただけだ。
 リアスは、話すか否か迷ったが、しばらくして口を開いた。

「その道が正しいと思うのだな?」

「うん。少なくとも今の段階で諦めようとすることは無いし、これから先も決してそんなことは無いと思う」

「挑むのは、自分よりはるか上の相手であることを分かっているな?」

「分かっているよ。死ぬかもしれない危険性があることも含めてね。でも、きっとやめることは許されないんだよ」

 今までどれだけ応援されてここまで来たのか、もう数えきれないほど多い。その責任を背負って、全てを捨ててでも約束は果たす。
 変な所に似たな、とリアスはまた苦笑いで応じる。しかし険しい顔は変わらない。

「その計画が、親しい者を傷つけることも、分かっているな?」

「うん、勿論。代償になるとは言い切れないけど、代わりに僕が一番傷つくつもりだ。僕が一番、悪者になるべきだ」

 リアスは分かっている。そこまで性格が自分に似ているというのなら、何を問われてもこんな時覚悟が裏ぐことは無い。
 美しい髪を揺らして、リアスはルネックスに跪いた。

「ならば、私達をお導き下さいませ―――」

 暗く光る夜の星は、明るく楽しそうに踊っていた。
 ルネックスの肯定する声も、いつになく明るく響いていた。

―――きっとこれこそ、世界の明るみと世界の微笑み、というのだろうか。

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