僕のブレスレットの中が最強だったのですが
にじゅうろっかいめ 一難去ってまた一難かな?
「えぇ!? 僕が籠ってたの意味なかったってことじゃん……」
「まあ……仕方が……ないよ……」
初めての夜更かしをして戻ると、ルネックスがきょろきょろして頭の上に疑問符を浮かべていた。シェリア達がいないからだろう。
フェンラリアがすべてを説明すると呆れた顔で納得した。
「まあ、そういうことになりますね。でも私たちも役に立ったんですよ、これからはリンネさんの指示でみんなを助けます!」
「僕、必要? リンネの魔力とシェリアの鬼の力、フレアルの才能とカレンの回復魔法だけでいいんでしょ?」
「それだと黒魔法的なのしか集まらなくって、聖なる魔法がカレンのしか頼りにならないじゃない? ルネックスの聖なる魔法が必要なんだよね!」
「あたしがりーしゃとあそんでるから、いってきて」
「……リーシャ頼りにならないです?です?」
「こんかいはかつやくしないけど、つぎはだいかつやくしよ♪」
フェンラリアの言葉でリーシャは笑顔になる。
戻ってきた時彼女は布団にくるまって淋しそうな顔をしていた。きっと起き上がった時にフェンラリアが真剣な表情をしていたため。彼女以外誰もいなかったために空気を読んで黙っていたのだろう。
しかしそれでも十二歳の少女にはかわいそうなことだった。
そして、フェンラリアの言葉で一気に彼女は「此処に留まる意味を見つけた」のだろう。
この言葉に深い意味があったのは、この場に居る誰も気付くことがなかった。
「じゃあルネックスはぁ、はやくブレスレットに入りなさぁ~いぃ!」
「あ、ちょっ!」
リンネがルネックスをブレスレットの中に押し込む。
ルネックスが吸い込まれたのを確認するとシェリア達を連れてブレスレットの中に入る。
フェンラリアがそれを見届けると、リーシャと話を始めた。
ルネックスに出会う前の話、ルネックスがどう皆を助けていったのか……。
「僕だけ扱いが荒いよね!?」
「え? なぁんのぉことかなぁ?」
ブレスレットに入るとルネックスが埃を払っていた。勿論ブレスレットの中に埃は無いのだが、服についていた埃が滑って転んだのと同時に巻き上がったのだろう。
リンネは「ピー」とやけに綺麗な音の出る口笛を吹いてごまかしていた。
よくあるごまかし方では騙せるわけがない。
「それで僕が思うには今度は薬丸じゃなくてもいいと思うんだ。全国に配るには少し面積が大きすぎるよ、魔力の中に……いや、上空に魔法陣を作ってもいいかもしれない」
「高レベル……でもそれこそ……スリル満点で……おもしろい……」
「魔法陣はルネックスさんと私が作ったらいいと思いますね」
「聖魔法と黒魔法が丁度よく混ざるしね!」
「あの、みんな。僕って聖魔法使えてるの? それとも僕の属性が聖なの?」
「わたしの……真偽判別で……聖魔法……使えてるって……分かった……」
ルネックスとシェリアは長い間一緒に居た分、フェンラリアからのスパルタ教育も均等にされているため二人の実力は問わなくても引き出せる能力はほぼ同じ。
今のルネックスの実力はシェリアの二倍ほどだが、活用できていると言われればシェリアと同じくらいかもしれない。要はスペックがまだなっていないということだ。
カレンの真偽判別はレベルが高いため奥に隠されたその者の属性を見ることができる。
その属性が一生明かされないこともあるが、ルネックスの場合は奥の属性が現れ出始めているのだろう。だからステータスでも「半覚醒」と出ているのだろう。
「ってことは僕とシェリアが魔法陣の作成、か」
「わたし……魔法陣に……回復魔法……組み込む……」
「じゃぁ私はぁ、それと同時にぃ魔女の力を組み込むぅ」
「私はみんなの補助をするね! 魔法陣の形がゆがんだり……」
「怖い怖い!!」
フレアルが「歪んだり」と言った時彼女の顔はいつになくゲスだった。ルネックスが若干引きながら自分の思いを素直に述べた。
魔法陣は慣れていない者が創るとゆがんだりすることがある。
魔法陣そのものが高レベルで精神も魔力も大量消費するため、少しでもゆがんだり壊れたりでもすれば創った者が負担を負うことになる。
そのためどんな魔法陣を作成するときも補助役がいるのが一般的だ。
「早く取り掛かりましょう、この間にも苦しんでいる者達が居ます!」
「うん、シェリアは魔法陣作成の呪文解る?」
「昨日、神智図書館で聖神の毒を解く専門の魔法陣の呪文を見てきました」
カレンとフレアル、リンネが魔力を活性化させたりタイミングなどを合わせたり、いわゆる作戦会議をしている最中、ルネックスにシェリアが呪文を教えていた。
はるか昔に聖神を封印した時に使った魔法陣を大賢者が面白半分に改造し、毒を解く専門の魔法陣という作用があることが確認されたために常用され図書館に置かれたその呪文。
勿論聖神が動くことそのものが珍しいため「常用」というわけではない。
この場合の「常用」は珍しい中での常用という意味だ。
「それで、覚えましたか?」
「うん、一応ね。結構難しいし魔力使うからさすが大賢者ってところかな。この難度を面白さ半分で開発とか、寒気しかしないよ」
「ルネックスさんがそういうのですから、とっても凄い方なのでしょうね」
「……僕を過大評価しすぎだよ、大賢者の方がもっとずっと凄いよ」
気のせいか、いや気のせいではない。
ルネックスは過大評価されすぎていて、頼られ過ぎている。
初めての感覚にどう応答すればいいのか分からないが、恐らくいつも通りで彼女たちは歓迎してくれるだろう。
最近大体人の感情を読めてきた。自分の感情も大体は読めてきた。
それはさておいて。
その大賢者がルネックスの思っているほど強いのならば、ラグナログに役立つのではないか。
「味方に、しなきゃなぁ……」
ぽつり、とルネックスがつぶやく。
これが終わったらルネックスは天界に行くつもりだ。
最初に会うのは恐らく天使たちだが、それを貫いて神界まで行けたら御の字である。
しかし、それも難しくはない。
ディステシアの力を借りれば神界までスリップすることができる。
伝説級の大賢者が神界に居ることが多いというのは数々の文献で知っている。
「星の瞬きよりも―――」
「光の輝きよりも―――」
強く、強くありたい。
それが大賢者の「すべてを超える者」という称号の証である。
そして彼女が自身を追い詰めて果てなく成長した、彼女自身の詠唱だ。
星の瞬きよりも、光の輝きよりも――――――。
カレンの回復魔法がフレアルの魔術の光と共に魔法陣に組み込まれる。
「強く、強く世界を支え」
「邪魔となる者は全て砕き」
犠牲も何ももはや枯れ果てた大賢者の自身への嘆きの言葉。
地面に綺麗な五角形が発光しながら描かれてゆく。
その五角形の中に描かれた複数の線は深く、果てしなくまで黒穴があるように。
リンネの魔女の力が黒く渦巻いて魔法陣に吸い込まれる。
「私達の願いをかなえなさい」
「永遠に強者となり続ける、私達の――――――」
「「星光瞬毒解」」
詠唱の言葉の意味は、本と共に記されていた。
感情も人間も、何もかもを犠牲にした強さは、だてではない。
最初は彼女も強くありたいわけではなかった。しかし周りからの期待の目と羨む目。それに耐えきれなくて、その皆の思いに応えたくて、此処まで強くなったのだ。
魔法陣が今までなく光が強くなり、天まで届く勢いになった。
「停止!!」
ルネックスが上空に手を向けると、魔法陣がブレスレットから出ていった。
術式が正しければ、街の上空にて停止しているはずだ。
「行こう、シェリア!」
「はい!」
「わたし達……部屋で……待ってる……」
魔法陣ができても、全体的に発動させなければならない。そのためには外へ行く。
カレンの言葉にうなずき、ナビ「アーナー」の転移を使って街の中心部にシェリアとルネックスで交互に立つ。彼らの頭上には綺麗な魔法陣がある。
周りから状態を見にいった者達も、目を輝かせて期待に満ちていた。
期待に、応えなければ。
ルネックスがそう思った瞬間、彼は自分でも気づいた。大賢者に似てきた、と。
幼いころから大賢者の名声を聞いていた彼はずいぶん昔から染まっていたのだろう。
「発動せよ――――――」
それらの考えも全て脳裏の隅に追いやり、詠唱の続きを詠む。
「すべてを超え、塵となせ!!」
いつもより鋭く真剣な声でシェリアが空に向かって手を掲げる。
一度は光を失った魔法陣が今度はもっと光り、空全体に向かって広がった。しばらくして実態を持たない、見ることしかできない粉のような物が降ってくる。
毒に感染された者達は一瞬にして顔色が良くなり何事もなかったように起き上がった。
わっ、と歓声が上がる。
魔法陣を作った時から魔力を大量消費していた二人は荒い息をしながらも応じた。
歓声が収まったのを見て、アーナーの転移で部屋に帰る。
「……はぁ、ちょっと疲れちゃったな」
「そうですね。疲れたどころじゃないですけれど、……?」
「るねっくす。かんがえてること、だいたいわかるよ」
疲れた、と言ってベッドに座るルネックスの顔は「終わった」という顔ではなかった。どちらかと言えばまだ何かやる事があると言った顔だった。
そしてそのやる事は決して良いことではないことも同時にわかった。
フェンラリアがルネックスに寄って、くすりと笑う。
リンネやリーシャはよくわからなく、首をかしげる。一方カレンとシェリアは何となくだが言いたいことが分かったようだ。
「どうやら私たちには手伝えないことのようですね……」
「行きたいのなら、一緒に行ってもいいと思うよ」
「本当……? 邪魔に……ならない……?」
「これからいくところはね、ひとがおおいほうがこうりゃくしやすいよ」
「……天界と神界」
ぽつり、とルネックスがつぶやいた言葉は全員に届いた。
「ルネックスさん。……鬼である私は、行くことを避けた方がいいと思われます」
「わたしは……行く……力に……なる」
「私もぉ、魔女だからぁあまり干渉はぁしたくないかなぁ?」
「リーシャ、行きたいです、です。でも邪魔って言われるかも? かも?」
「私はどっちでもいいかな、だってルネックスの言うことが聞きたいから!」
鬼族であるシェリア、魔女であるリンネは一応でも魔族である。聖なる地である天界や神界に踏み込めばどのような危険があるかは分かっていない。
過去、魔族が天界などに行った例はないのだから。
フェンラリアとルネックスは神界に恨みを持っているため行くことは確定だ。
天界に人間が行けるかという質問は今必要ない。
天界へはフェンラリアの精霊の力、神界に行く時はディステシアの力を使えばいい。
「やっぱり直接神界にいくよ、天界を通ってちゃ意味がない。フレアルはもし怪我でもしたら村長さんに失礼だから今回は待っててね。リーシャは……」
「―――フェンラリアお姉ちゃんと約束したんです――です。次は絶対活躍するって――するって!」
「るねっくす、こんかいはいかせてあげて。あたしがまもるから、ぜったいおおけがはさせないから、せめてかつやくさせてあげて!」
「……女のプライドってやつかな? 僕には執着する理由がわからないけど、フェンラリアがそこまで言うなら連れていくよ。カレンもいいよね?」
「うん……もちろん……わたしも……活躍する」
女のプライドというのも合ってはいるが実際包み隠さずいうとルネックスの役に立てていないということがリーシャにとっては嫌だったのだろう。
天界へ向かうメンバー、ルネックス、フェンラリア、カレン、リーシャは神界に乗り込むための準備をして眠りにつくのだった。
「まあ……仕方が……ないよ……」
初めての夜更かしをして戻ると、ルネックスがきょろきょろして頭の上に疑問符を浮かべていた。シェリア達がいないからだろう。
フェンラリアがすべてを説明すると呆れた顔で納得した。
「まあ、そういうことになりますね。でも私たちも役に立ったんですよ、これからはリンネさんの指示でみんなを助けます!」
「僕、必要? リンネの魔力とシェリアの鬼の力、フレアルの才能とカレンの回復魔法だけでいいんでしょ?」
「それだと黒魔法的なのしか集まらなくって、聖なる魔法がカレンのしか頼りにならないじゃない? ルネックスの聖なる魔法が必要なんだよね!」
「あたしがりーしゃとあそんでるから、いってきて」
「……リーシャ頼りにならないです?です?」
「こんかいはかつやくしないけど、つぎはだいかつやくしよ♪」
フェンラリアの言葉でリーシャは笑顔になる。
戻ってきた時彼女は布団にくるまって淋しそうな顔をしていた。きっと起き上がった時にフェンラリアが真剣な表情をしていたため。彼女以外誰もいなかったために空気を読んで黙っていたのだろう。
しかしそれでも十二歳の少女にはかわいそうなことだった。
そして、フェンラリアの言葉で一気に彼女は「此処に留まる意味を見つけた」のだろう。
この言葉に深い意味があったのは、この場に居る誰も気付くことがなかった。
「じゃあルネックスはぁ、はやくブレスレットに入りなさぁ~いぃ!」
「あ、ちょっ!」
リンネがルネックスをブレスレットの中に押し込む。
ルネックスが吸い込まれたのを確認するとシェリア達を連れてブレスレットの中に入る。
フェンラリアがそれを見届けると、リーシャと話を始めた。
ルネックスに出会う前の話、ルネックスがどう皆を助けていったのか……。
「僕だけ扱いが荒いよね!?」
「え? なぁんのぉことかなぁ?」
ブレスレットに入るとルネックスが埃を払っていた。勿論ブレスレットの中に埃は無いのだが、服についていた埃が滑って転んだのと同時に巻き上がったのだろう。
リンネは「ピー」とやけに綺麗な音の出る口笛を吹いてごまかしていた。
よくあるごまかし方では騙せるわけがない。
「それで僕が思うには今度は薬丸じゃなくてもいいと思うんだ。全国に配るには少し面積が大きすぎるよ、魔力の中に……いや、上空に魔法陣を作ってもいいかもしれない」
「高レベル……でもそれこそ……スリル満点で……おもしろい……」
「魔法陣はルネックスさんと私が作ったらいいと思いますね」
「聖魔法と黒魔法が丁度よく混ざるしね!」
「あの、みんな。僕って聖魔法使えてるの? それとも僕の属性が聖なの?」
「わたしの……真偽判別で……聖魔法……使えてるって……分かった……」
ルネックスとシェリアは長い間一緒に居た分、フェンラリアからのスパルタ教育も均等にされているため二人の実力は問わなくても引き出せる能力はほぼ同じ。
今のルネックスの実力はシェリアの二倍ほどだが、活用できていると言われればシェリアと同じくらいかもしれない。要はスペックがまだなっていないということだ。
カレンの真偽判別はレベルが高いため奥に隠されたその者の属性を見ることができる。
その属性が一生明かされないこともあるが、ルネックスの場合は奥の属性が現れ出始めているのだろう。だからステータスでも「半覚醒」と出ているのだろう。
「ってことは僕とシェリアが魔法陣の作成、か」
「わたし……魔法陣に……回復魔法……組み込む……」
「じゃぁ私はぁ、それと同時にぃ魔女の力を組み込むぅ」
「私はみんなの補助をするね! 魔法陣の形がゆがんだり……」
「怖い怖い!!」
フレアルが「歪んだり」と言った時彼女の顔はいつになくゲスだった。ルネックスが若干引きながら自分の思いを素直に述べた。
魔法陣は慣れていない者が創るとゆがんだりすることがある。
魔法陣そのものが高レベルで精神も魔力も大量消費するため、少しでもゆがんだり壊れたりでもすれば創った者が負担を負うことになる。
そのためどんな魔法陣を作成するときも補助役がいるのが一般的だ。
「早く取り掛かりましょう、この間にも苦しんでいる者達が居ます!」
「うん、シェリアは魔法陣作成の呪文解る?」
「昨日、神智図書館で聖神の毒を解く専門の魔法陣の呪文を見てきました」
カレンとフレアル、リンネが魔力を活性化させたりタイミングなどを合わせたり、いわゆる作戦会議をしている最中、ルネックスにシェリアが呪文を教えていた。
はるか昔に聖神を封印した時に使った魔法陣を大賢者が面白半分に改造し、毒を解く専門の魔法陣という作用があることが確認されたために常用され図書館に置かれたその呪文。
勿論聖神が動くことそのものが珍しいため「常用」というわけではない。
この場合の「常用」は珍しい中での常用という意味だ。
「それで、覚えましたか?」
「うん、一応ね。結構難しいし魔力使うからさすが大賢者ってところかな。この難度を面白さ半分で開発とか、寒気しかしないよ」
「ルネックスさんがそういうのですから、とっても凄い方なのでしょうね」
「……僕を過大評価しすぎだよ、大賢者の方がもっとずっと凄いよ」
気のせいか、いや気のせいではない。
ルネックスは過大評価されすぎていて、頼られ過ぎている。
初めての感覚にどう応答すればいいのか分からないが、恐らくいつも通りで彼女たちは歓迎してくれるだろう。
最近大体人の感情を読めてきた。自分の感情も大体は読めてきた。
それはさておいて。
その大賢者がルネックスの思っているほど強いのならば、ラグナログに役立つのではないか。
「味方に、しなきゃなぁ……」
ぽつり、とルネックスがつぶやく。
これが終わったらルネックスは天界に行くつもりだ。
最初に会うのは恐らく天使たちだが、それを貫いて神界まで行けたら御の字である。
しかし、それも難しくはない。
ディステシアの力を借りれば神界までスリップすることができる。
伝説級の大賢者が神界に居ることが多いというのは数々の文献で知っている。
「星の瞬きよりも―――」
「光の輝きよりも―――」
強く、強くありたい。
それが大賢者の「すべてを超える者」という称号の証である。
そして彼女が自身を追い詰めて果てなく成長した、彼女自身の詠唱だ。
星の瞬きよりも、光の輝きよりも――――――。
カレンの回復魔法がフレアルの魔術の光と共に魔法陣に組み込まれる。
「強く、強く世界を支え」
「邪魔となる者は全て砕き」
犠牲も何ももはや枯れ果てた大賢者の自身への嘆きの言葉。
地面に綺麗な五角形が発光しながら描かれてゆく。
その五角形の中に描かれた複数の線は深く、果てしなくまで黒穴があるように。
リンネの魔女の力が黒く渦巻いて魔法陣に吸い込まれる。
「私達の願いをかなえなさい」
「永遠に強者となり続ける、私達の――――――」
「「星光瞬毒解」」
詠唱の言葉の意味は、本と共に記されていた。
感情も人間も、何もかもを犠牲にした強さは、だてではない。
最初は彼女も強くありたいわけではなかった。しかし周りからの期待の目と羨む目。それに耐えきれなくて、その皆の思いに応えたくて、此処まで強くなったのだ。
魔法陣が今までなく光が強くなり、天まで届く勢いになった。
「停止!!」
ルネックスが上空に手を向けると、魔法陣がブレスレットから出ていった。
術式が正しければ、街の上空にて停止しているはずだ。
「行こう、シェリア!」
「はい!」
「わたし達……部屋で……待ってる……」
魔法陣ができても、全体的に発動させなければならない。そのためには外へ行く。
カレンの言葉にうなずき、ナビ「アーナー」の転移を使って街の中心部にシェリアとルネックスで交互に立つ。彼らの頭上には綺麗な魔法陣がある。
周りから状態を見にいった者達も、目を輝かせて期待に満ちていた。
期待に、応えなければ。
ルネックスがそう思った瞬間、彼は自分でも気づいた。大賢者に似てきた、と。
幼いころから大賢者の名声を聞いていた彼はずいぶん昔から染まっていたのだろう。
「発動せよ――――――」
それらの考えも全て脳裏の隅に追いやり、詠唱の続きを詠む。
「すべてを超え、塵となせ!!」
いつもより鋭く真剣な声でシェリアが空に向かって手を掲げる。
一度は光を失った魔法陣が今度はもっと光り、空全体に向かって広がった。しばらくして実態を持たない、見ることしかできない粉のような物が降ってくる。
毒に感染された者達は一瞬にして顔色が良くなり何事もなかったように起き上がった。
わっ、と歓声が上がる。
魔法陣を作った時から魔力を大量消費していた二人は荒い息をしながらも応じた。
歓声が収まったのを見て、アーナーの転移で部屋に帰る。
「……はぁ、ちょっと疲れちゃったな」
「そうですね。疲れたどころじゃないですけれど、……?」
「るねっくす。かんがえてること、だいたいわかるよ」
疲れた、と言ってベッドに座るルネックスの顔は「終わった」という顔ではなかった。どちらかと言えばまだ何かやる事があると言った顔だった。
そしてそのやる事は決して良いことではないことも同時にわかった。
フェンラリアがルネックスに寄って、くすりと笑う。
リンネやリーシャはよくわからなく、首をかしげる。一方カレンとシェリアは何となくだが言いたいことが分かったようだ。
「どうやら私たちには手伝えないことのようですね……」
「行きたいのなら、一緒に行ってもいいと思うよ」
「本当……? 邪魔に……ならない……?」
「これからいくところはね、ひとがおおいほうがこうりゃくしやすいよ」
「……天界と神界」
ぽつり、とルネックスがつぶやいた言葉は全員に届いた。
「ルネックスさん。……鬼である私は、行くことを避けた方がいいと思われます」
「わたしは……行く……力に……なる」
「私もぉ、魔女だからぁあまり干渉はぁしたくないかなぁ?」
「リーシャ、行きたいです、です。でも邪魔って言われるかも? かも?」
「私はどっちでもいいかな、だってルネックスの言うことが聞きたいから!」
鬼族であるシェリア、魔女であるリンネは一応でも魔族である。聖なる地である天界や神界に踏み込めばどのような危険があるかは分かっていない。
過去、魔族が天界などに行った例はないのだから。
フェンラリアとルネックスは神界に恨みを持っているため行くことは確定だ。
天界に人間が行けるかという質問は今必要ない。
天界へはフェンラリアの精霊の力、神界に行く時はディステシアの力を使えばいい。
「やっぱり直接神界にいくよ、天界を通ってちゃ意味がない。フレアルはもし怪我でもしたら村長さんに失礼だから今回は待っててね。リーシャは……」
「―――フェンラリアお姉ちゃんと約束したんです――です。次は絶対活躍するって――するって!」
「るねっくす、こんかいはいかせてあげて。あたしがまもるから、ぜったいおおけがはさせないから、せめてかつやくさせてあげて!」
「……女のプライドってやつかな? 僕には執着する理由がわからないけど、フェンラリアがそこまで言うなら連れていくよ。カレンもいいよね?」
「うん……もちろん……わたしも……活躍する」
女のプライドというのも合ってはいるが実際包み隠さずいうとルネックスの役に立てていないということがリーシャにとっては嫌だったのだろう。
天界へ向かうメンバー、ルネックス、フェンラリア、カレン、リーシャは神界に乗り込むための準備をして眠りにつくのだった。
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