僕のブレスレットの中が最強だったのですが
にじゅうごかいめ 聖神が動くかな?
――――――国が、幸せの声に満ちている。
真っ白な部屋で、真っ白な女性が、水晶球を見て不機嫌そうに表情をゆがめた。
ニヤリと口をゆがめた女性はの持つ水晶球はルネックス達の情景を見ていた。
「……気に入らない。私のイケニエが、全部幸せにした」
女性は手を伸ばした。
見えない壁にはじかれて舌打ちをする。彼女の顔はその真っ白な髪に隠されて見えない。
封印されていることを示す術式にはじかれ、女性は無重力の世界に体を預ける。
「出たい。力を、使いたい―――――――――――――――――――」
出来ないはずの、抑えられているはずの魔力を精神力だけで活性化し、魔術をはじく術式をはじき返す。大賢者の術式を吹き飛ばせる者は世の中に二人しかいない。
創造全能神。そして。―――――――――聖神でしか、術式は破れない。
「聖神の力により命ずる! コレムの国へ、干渉を!!」
伸ばした手が白い空間を貫き、その手のひらから闇魔術が溢れた。それがコレムの国へどんな干渉を施すのか、聖神自身も分からない。
ただ、ルネックスに対しての妬みと、強くなっていく人間たちへの嫉妬が残された。
「ねたんでなどいない……嫉妬だってしていないよ!!」
もう聖神の魔術をはじかない見えない壁に手を叩きつけ、遥か昔に血が流れなくなってしまったその手はいくら肉が削れようとも血は出ない。
彼女の血は透明だからだ。
聖神のステータスにあるもうひとつの名称はだれにも知られていない。遥か昔のその昔に彼女の妬みと嫉妬が邪神の消える寸前に邪神まで届き、邪神はその力を聖神に渡した。
聖邪神。
これが彼女の強大な力のゆえんでもあり、彼女の黒い感情の原因でもあった。
「壊せ……すべてを、こわせぇええええ!!」
はるか昔、その昔に……。
聖神は、涙を捨てた。流れるものは血泪だったけれど、叫んだ時彼女は泣いていた。
その嫉妬と妬み、そして黒い感情が流れるたび、聖神は壊れていくのだ。
『貴様は、全てを壊したいのか? たとえどんな代償があったとしても』
「そう。私は、全部諦めてここまで来たの。今更幸せなんて見たくもないんだよね」
聞こえた声は、かつて消えたはずの邪神だった。
聖神はその力と邪神の力をミックスして邪神の力を超えた彼女が心の中にある邪神のかけらから邪神の「意志」を復活させて話すというのは容易くできることだ。
『私の力を、貴様はうまく使いこなせていない。分かるか?」
「……少しは、分かっているよ」
邪神の力は、本気を出せば世界に亀裂だって生ませることができる。
しかし聖神の力とミックスしているのに、彼女はどうだ。
恨んでいるだけで全く事態を動かすことができない、まさに負け犬のようではないか。
『ふ。その力を引き出すの、私も協力しようではないか』
「協力? あなたが? 私に何も関係は無いのに」
そうだ、聖神が邪神の力を持っていても「邪神」の「本体」とは何も関係がないのだ。彼が関わってくる原因も、聖神には想像ができない。
『私の力を使っているという時点で、十分関係はあるさ』
その言葉を最後に、邪神の力は聖神の力と完全に融合され、白い空間は破裂した。
彼女はその真っ白な手を地上に向け、にやりと笑った。
そこから、緑色の煙が雨に混ざって地上に落ちていった……。
……
。。。
ぽつり、ぽつり。
ルネックスが本を読みながら器用に窓を見ているうちに涙のような雨が降り始めた。
「あ……うん。誰も外には出ていないね」
後ろを振り返るとフェンラリア以外の者たちが寝ている。
フェンラリアはルネックスのそばでにこにこ微笑んでいる。
今日は特に何もないいわゆる休日のような日であるため女子陣は寝坊をしているのだが……。
もう十時を回っていても起きないのである。
「どれだけ寝れば気が済むの……」
『きゃあああああああああああああッ!! あなたっ! あなたぁ!!』
「るねっくす! そとだよ!」
「ん~……何が起きたんですか?」
「シェリアは此処で待ってて、僕はコレム様の所に行ってくるよ」
「その必要はねえ」
シェリア達も窓の外から聞こえてくる物音に驚き、眼をこすりながら起き上がる。
ルネックスはシェリア達をベッドの上で待機するように指示してフェンラリアの姿を隠してから扉に手をかけようと思った。
しかしその前にハーライトが勢いよく扉を開けた。
そしてルネックスの手を強制的に引いて向かった先はコレムの部屋。
「あの、何が起きているんですか?」
「俺にもわからねえ。だがコレム様が凄い形相で俺にルネックスを連れて来いっつったんだよ。今の状況は恐らくコレム様が一番わかってるさ、とりあえず行かねえとわかんねえよ」
「……」
――――――聖神の呪い。
コレムから信頼宣言をされたその日から夢も見なくなったし、考えないようにしていた単語。
しかし今はその単語が光速でルネックスの胸に回転し、どうしてもモヤモヤが離れない。
もしかしたら、と思っているとコレムの部屋のドアが開かれた。
「ルネックス。今の状況を教えよう……降っている雨に毒が混ざっている」
「え?」
「いきなり言われても分からないだろうな……しかし現実はそうなんだ」
「でも、毒って……」
「大丈夫だ。受けた者が死ぬことは無いが、様々な病に襲われるのだ」
コレムは机に座っており、その机には大量の資料らしき物が置いてあった。コレムには知り合いがおり、彼女は毒などの研究をしている者だ。
だからこそ、今回もすぐに毒だと見分けることができた。
聖神の毒を受ければ本当は死ぬが、大賢者という聖なる存在で「邪悪なる力」に襲われて「死ぬ」というのはその邪悪に直接戦わなければ存在しない概念だ。
光の属性を極めた聖なる大賢者の存在により、世界の平衡は守られているのである。
「それ、恐らく聖神の呪いです。……今からでも、国を出ていかなければ」
「待て。貴様が国を出て行かずともよい」
「何故ですか! 僕が此処に居ると災いが国にばらまかれるんですよ!?」
いくら信頼を築いていても、自分が苦労してここまで作り上げた国を傷つけられてなおその源であるルネックスを信じる王の姿勢に、ルネックスは思わず声を荒げた。
「確かに、貴様を此処に残らせても何も残らない。そして国が破滅するかもしれない。しかし貴様らの能力を知っている私からは理由にもならないな」
「どうしてですか!? 僕が原因で何が起きるかわからないんですよ、こんなに努力して作り上げた国を、壊されたいのですか!?」
「……貴様は、この国を出ていきたいかと問われば恐らく「いやだ」というだろう。そこまで私は貴様のことを分かっている。何が起こっても、直してくれる能力が貴様にはある。……そうだ、まるで無限に成長し、無限に救い、救われ続けた大賢者かのように……」
「―――――――――――――僕、は」
目を見開き、悲痛な言葉を叫ぶルネックスは誰もが見たことのない形相をしていた。姿を消しているフェンラリアは耳を塞ぎ、眼を閉じて震えていた。
しかし、コレムはそれに目をそらさず、ルネックスのことを見透かしていた。
ルネックスは反論する言葉もなくなり、コレムを見つめた。
「それが聖神の呪いだというのなら、私は他国に迷惑はかけたくない。それならば一番信頼を築いている私の国へいてくれたら、いつか解決できる方法も現れるかもしれん」
「でも、でも。……ここが僕の居場所で、いいんです?」
「あぁ。貴様がもたらした災いは貴様が正し、贖罪をしたいのなら国のためにそうすればいい。そしてその報酬に私が出来るだけ貴様の願いをかなえてやろう。そして最大限協力しよう」
「僕の計画を、手伝ってくれるのですか……?」
震える声と、静かに涙を流しながらルネックスはそう言った。そしてコレムはその姿には何も言わず、ただ静かに答えるように頷いた。
「フェンラリア、もう出てきていいよ」
「え? あたしをかくすんじゃ、なかったの」
フェンラリアの姿を見たコレムは驚き、そしてルネックスに向けて微笑んだ。
ルネックスもそれに応えるかのように微笑む。
フェンラリアがそれにつられて吹き出してしまう。
しばらくの間部屋は笑い声に包まれ、静けさに包まれた哀しさを消し去るかのように、優しく包み込むかのように弾けた。
「それほどの実力を持っているんだ、この現象を、直してくれるな?」
「えぇ、必ず」
もう一度微笑みあい、ルネックスをコレムは握手を交わした。
ルネックスはまだ見ぬ聖神を、そして聖神を止められなかった神々への怒りを……。
それを込めて、コレムの部屋を後にするのだった。
――――――――――――――――――――☆
神界が手を伸ばせなかった理由も分かっている。聖神の強さの次元が違うから。
それでも聖神を生んだ存在を許すことができない。
そしてフェンラリアも、ルネックスを狂わせた存在を許すことができなかった。
「はあ」
部屋に帰ってからブレスレッドにこもり、「知識の文庫」を創り出し、聖神の作った毒を壊す方法を懸命に考え、そして知識を頭に詰め込んでいった。
ルネックスだけでは何もできない、フェンラリアにはそれが分かっている。だから。
「それで、私に協力をしてほしいの?」
「うん。このままだとくにがきえちゃうし、いまもひとびとがくるしんでる。それに、聖神のつくったどくはふれあるの薬丸としぇりあのまりょくがないととけない……」
「そうですか。私も協力ができるのなら喜んでお受けいたします」
「リーシャ部屋で寝てる!! ―――てる!!」
「うん。それでね、りんねのまじょのちからもひつようなの。あしたるねっくすのいるブレスレットのはいってきょうりょくするから、それまでどうしたらとけるかしらべておこう!」
「わたしは……どうすればいい……?」
「うん、かれんのかいふくまほうもひつようになるとおもうよ」
「分かったよぉ! ほらフレアル、シェリア、カレン! 行くよぉ!」
リンネが嬉しそうにフレアルとシェリア、カレンの手を引いてとある場所に向かった。
昔大賢者がその手で書いたという本がたくさん並べてある「神智図書館」に向かっているのだ。
大賢者の力と知識は莫大で、測ることは誰にもできない。
コレムが密かに集めていたもので、普通の者は開けることもできない扉だ。
しかし、特別にルネックス達は立ち入りを許可されていた。
「またきちゃったぁ」
「リンネ様、こちらへ」
「……本当に居たんですね」
神智図書館の扉を開けると、メイド服で端正な顔をした少女が現れてリンネを導く。彼女は大賢者が作り出した魔導人形で、攻撃、礼儀など様々なシステムを組み込まれている。
そんな彼女に任されたのがこの図書館の管理と入って来た者が必要な本の置いてある場所へ連れていくという仕事。
伝説のゴーレムと呼ばれていた彼女が、本当に居たなんて、しかもこんなに身近に。
魔導人形とは土魔術で作る魔力を組み込んで作られるものだ。人型だったり、顔はどうでもよくただ戦闘能力に長けた物体を作ったり。
使い方は様々だが、命を持つ物を作りだせるという解釈で問題はない。
結局、夜が明けてルネックスが戻ってくるまで、彼女らは神智図書館で聖神の毒についての本を読み更けていたのだった。
真っ白な部屋で、真っ白な女性が、水晶球を見て不機嫌そうに表情をゆがめた。
ニヤリと口をゆがめた女性はの持つ水晶球はルネックス達の情景を見ていた。
「……気に入らない。私のイケニエが、全部幸せにした」
女性は手を伸ばした。
見えない壁にはじかれて舌打ちをする。彼女の顔はその真っ白な髪に隠されて見えない。
封印されていることを示す術式にはじかれ、女性は無重力の世界に体を預ける。
「出たい。力を、使いたい―――――――――――――――――――」
出来ないはずの、抑えられているはずの魔力を精神力だけで活性化し、魔術をはじく術式をはじき返す。大賢者の術式を吹き飛ばせる者は世の中に二人しかいない。
創造全能神。そして。―――――――――聖神でしか、術式は破れない。
「聖神の力により命ずる! コレムの国へ、干渉を!!」
伸ばした手が白い空間を貫き、その手のひらから闇魔術が溢れた。それがコレムの国へどんな干渉を施すのか、聖神自身も分からない。
ただ、ルネックスに対しての妬みと、強くなっていく人間たちへの嫉妬が残された。
「ねたんでなどいない……嫉妬だってしていないよ!!」
もう聖神の魔術をはじかない見えない壁に手を叩きつけ、遥か昔に血が流れなくなってしまったその手はいくら肉が削れようとも血は出ない。
彼女の血は透明だからだ。
聖神のステータスにあるもうひとつの名称はだれにも知られていない。遥か昔のその昔に彼女の妬みと嫉妬が邪神の消える寸前に邪神まで届き、邪神はその力を聖神に渡した。
聖邪神。
これが彼女の強大な力のゆえんでもあり、彼女の黒い感情の原因でもあった。
「壊せ……すべてを、こわせぇええええ!!」
はるか昔、その昔に……。
聖神は、涙を捨てた。流れるものは血泪だったけれど、叫んだ時彼女は泣いていた。
その嫉妬と妬み、そして黒い感情が流れるたび、聖神は壊れていくのだ。
『貴様は、全てを壊したいのか? たとえどんな代償があったとしても』
「そう。私は、全部諦めてここまで来たの。今更幸せなんて見たくもないんだよね」
聞こえた声は、かつて消えたはずの邪神だった。
聖神はその力と邪神の力をミックスして邪神の力を超えた彼女が心の中にある邪神のかけらから邪神の「意志」を復活させて話すというのは容易くできることだ。
『私の力を、貴様はうまく使いこなせていない。分かるか?」
「……少しは、分かっているよ」
邪神の力は、本気を出せば世界に亀裂だって生ませることができる。
しかし聖神の力とミックスしているのに、彼女はどうだ。
恨んでいるだけで全く事態を動かすことができない、まさに負け犬のようではないか。
『ふ。その力を引き出すの、私も協力しようではないか』
「協力? あなたが? 私に何も関係は無いのに」
そうだ、聖神が邪神の力を持っていても「邪神」の「本体」とは何も関係がないのだ。彼が関わってくる原因も、聖神には想像ができない。
『私の力を使っているという時点で、十分関係はあるさ』
その言葉を最後に、邪神の力は聖神の力と完全に融合され、白い空間は破裂した。
彼女はその真っ白な手を地上に向け、にやりと笑った。
そこから、緑色の煙が雨に混ざって地上に落ちていった……。
……
。。。
ぽつり、ぽつり。
ルネックスが本を読みながら器用に窓を見ているうちに涙のような雨が降り始めた。
「あ……うん。誰も外には出ていないね」
後ろを振り返るとフェンラリア以外の者たちが寝ている。
フェンラリアはルネックスのそばでにこにこ微笑んでいる。
今日は特に何もないいわゆる休日のような日であるため女子陣は寝坊をしているのだが……。
もう十時を回っていても起きないのである。
「どれだけ寝れば気が済むの……」
『きゃあああああああああああああッ!! あなたっ! あなたぁ!!』
「るねっくす! そとだよ!」
「ん~……何が起きたんですか?」
「シェリアは此処で待ってて、僕はコレム様の所に行ってくるよ」
「その必要はねえ」
シェリア達も窓の外から聞こえてくる物音に驚き、眼をこすりながら起き上がる。
ルネックスはシェリア達をベッドの上で待機するように指示してフェンラリアの姿を隠してから扉に手をかけようと思った。
しかしその前にハーライトが勢いよく扉を開けた。
そしてルネックスの手を強制的に引いて向かった先はコレムの部屋。
「あの、何が起きているんですか?」
「俺にもわからねえ。だがコレム様が凄い形相で俺にルネックスを連れて来いっつったんだよ。今の状況は恐らくコレム様が一番わかってるさ、とりあえず行かねえとわかんねえよ」
「……」
――――――聖神の呪い。
コレムから信頼宣言をされたその日から夢も見なくなったし、考えないようにしていた単語。
しかし今はその単語が光速でルネックスの胸に回転し、どうしてもモヤモヤが離れない。
もしかしたら、と思っているとコレムの部屋のドアが開かれた。
「ルネックス。今の状況を教えよう……降っている雨に毒が混ざっている」
「え?」
「いきなり言われても分からないだろうな……しかし現実はそうなんだ」
「でも、毒って……」
「大丈夫だ。受けた者が死ぬことは無いが、様々な病に襲われるのだ」
コレムは机に座っており、その机には大量の資料らしき物が置いてあった。コレムには知り合いがおり、彼女は毒などの研究をしている者だ。
だからこそ、今回もすぐに毒だと見分けることができた。
聖神の毒を受ければ本当は死ぬが、大賢者という聖なる存在で「邪悪なる力」に襲われて「死ぬ」というのはその邪悪に直接戦わなければ存在しない概念だ。
光の属性を極めた聖なる大賢者の存在により、世界の平衡は守られているのである。
「それ、恐らく聖神の呪いです。……今からでも、国を出ていかなければ」
「待て。貴様が国を出て行かずともよい」
「何故ですか! 僕が此処に居ると災いが国にばらまかれるんですよ!?」
いくら信頼を築いていても、自分が苦労してここまで作り上げた国を傷つけられてなおその源であるルネックスを信じる王の姿勢に、ルネックスは思わず声を荒げた。
「確かに、貴様を此処に残らせても何も残らない。そして国が破滅するかもしれない。しかし貴様らの能力を知っている私からは理由にもならないな」
「どうしてですか!? 僕が原因で何が起きるかわからないんですよ、こんなに努力して作り上げた国を、壊されたいのですか!?」
「……貴様は、この国を出ていきたいかと問われば恐らく「いやだ」というだろう。そこまで私は貴様のことを分かっている。何が起こっても、直してくれる能力が貴様にはある。……そうだ、まるで無限に成長し、無限に救い、救われ続けた大賢者かのように……」
「―――――――――――――僕、は」
目を見開き、悲痛な言葉を叫ぶルネックスは誰もが見たことのない形相をしていた。姿を消しているフェンラリアは耳を塞ぎ、眼を閉じて震えていた。
しかし、コレムはそれに目をそらさず、ルネックスのことを見透かしていた。
ルネックスは反論する言葉もなくなり、コレムを見つめた。
「それが聖神の呪いだというのなら、私は他国に迷惑はかけたくない。それならば一番信頼を築いている私の国へいてくれたら、いつか解決できる方法も現れるかもしれん」
「でも、でも。……ここが僕の居場所で、いいんです?」
「あぁ。貴様がもたらした災いは貴様が正し、贖罪をしたいのなら国のためにそうすればいい。そしてその報酬に私が出来るだけ貴様の願いをかなえてやろう。そして最大限協力しよう」
「僕の計画を、手伝ってくれるのですか……?」
震える声と、静かに涙を流しながらルネックスはそう言った。そしてコレムはその姿には何も言わず、ただ静かに答えるように頷いた。
「フェンラリア、もう出てきていいよ」
「え? あたしをかくすんじゃ、なかったの」
フェンラリアの姿を見たコレムは驚き、そしてルネックスに向けて微笑んだ。
ルネックスもそれに応えるかのように微笑む。
フェンラリアがそれにつられて吹き出してしまう。
しばらくの間部屋は笑い声に包まれ、静けさに包まれた哀しさを消し去るかのように、優しく包み込むかのように弾けた。
「それほどの実力を持っているんだ、この現象を、直してくれるな?」
「えぇ、必ず」
もう一度微笑みあい、ルネックスをコレムは握手を交わした。
ルネックスはまだ見ぬ聖神を、そして聖神を止められなかった神々への怒りを……。
それを込めて、コレムの部屋を後にするのだった。
――――――――――――――――――――☆
神界が手を伸ばせなかった理由も分かっている。聖神の強さの次元が違うから。
それでも聖神を生んだ存在を許すことができない。
そしてフェンラリアも、ルネックスを狂わせた存在を許すことができなかった。
「はあ」
部屋に帰ってからブレスレッドにこもり、「知識の文庫」を創り出し、聖神の作った毒を壊す方法を懸命に考え、そして知識を頭に詰め込んでいった。
ルネックスだけでは何もできない、フェンラリアにはそれが分かっている。だから。
「それで、私に協力をしてほしいの?」
「うん。このままだとくにがきえちゃうし、いまもひとびとがくるしんでる。それに、聖神のつくったどくはふれあるの薬丸としぇりあのまりょくがないととけない……」
「そうですか。私も協力ができるのなら喜んでお受けいたします」
「リーシャ部屋で寝てる!! ―――てる!!」
「うん。それでね、りんねのまじょのちからもひつようなの。あしたるねっくすのいるブレスレットのはいってきょうりょくするから、それまでどうしたらとけるかしらべておこう!」
「わたしは……どうすればいい……?」
「うん、かれんのかいふくまほうもひつようになるとおもうよ」
「分かったよぉ! ほらフレアル、シェリア、カレン! 行くよぉ!」
リンネが嬉しそうにフレアルとシェリア、カレンの手を引いてとある場所に向かった。
昔大賢者がその手で書いたという本がたくさん並べてある「神智図書館」に向かっているのだ。
大賢者の力と知識は莫大で、測ることは誰にもできない。
コレムが密かに集めていたもので、普通の者は開けることもできない扉だ。
しかし、特別にルネックス達は立ち入りを許可されていた。
「またきちゃったぁ」
「リンネ様、こちらへ」
「……本当に居たんですね」
神智図書館の扉を開けると、メイド服で端正な顔をした少女が現れてリンネを導く。彼女は大賢者が作り出した魔導人形で、攻撃、礼儀など様々なシステムを組み込まれている。
そんな彼女に任されたのがこの図書館の管理と入って来た者が必要な本の置いてある場所へ連れていくという仕事。
伝説のゴーレムと呼ばれていた彼女が、本当に居たなんて、しかもこんなに身近に。
魔導人形とは土魔術で作る魔力を組み込んで作られるものだ。人型だったり、顔はどうでもよくただ戦闘能力に長けた物体を作ったり。
使い方は様々だが、命を持つ物を作りだせるという解釈で問題はない。
結局、夜が明けてルネックスが戻ってくるまで、彼女らは神智図書館で聖神の毒についての本を読み更けていたのだった。
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