僕のブレスレットの中が最強だったのですが
にじゅうさんかいめ 水魔術かな?
翌日、コレムから「ルネックスの連れが創ったものだ」という目立ちたくないルネックス達にとっては少し余計な文章を添えて全国民に薬丸が配られた。
そして国民からは感謝の声が上がり、昔助けた者達の中では「あの方が!」と喜びの声が上がっていた。
それはそれでいいのでは、とルネックスもまたその状況を認めた。
もう一言付け加えると、反論などしている暇がなかったからだとも言える。
今日はカレンが一人で国民たちに水を分け与える忙しい時期なのだ。
しかしシェリアの言う通り一人ずつ休めるならルネックスも一緒に行きたかったのだが「体力温存!」と止められて今現在部屋で留守番していた。
カレンにはひとつ、いい考えがあり、わざとルネックスを連れてきたくなかったのだ。
「皆さん……今かやる事に……驚かないでね……」
「驚きません!」
「キャー聖女様ぁぁあ!! 一生付き添っていきますわあ!!」
コレムの宣伝があり、ルネックスは勇者様、フレアルは女神様、カレンは聖女様、シェリアは賢者様、リンネは伝説の魔女様、リーシャは幻の少女と言われるようになった。
ルネックス自身は勇者くらいに戦えると思っていないが、実力はそれを上回っているらしい。
今、カレンがいるのはこの街、いやこの国で一番大きな泉の前。
彼女が振り返った先には老若男女とカレンを慕う者達のひとだかり。
現在、皆は慕うものが分かれている。
ルネックスが42%。フレアルは12%、カレンは22%、シェリアは16%、リンネは7%、リーシャは1%と全国民で別れて慕われるようになった。
勿論ルネックスの42%の中の女性陣は62%で、国民の半分以上の女性が慕っている。
そして。
女性陣の中でも一番の支持率を誇るカレンが、今国民を救おうと動き出している。
ちなみにこれはハーライトが何故か計算してきてくれた。
「……水の渦巻き、街を救い、全てを助け、拡散し、今こそ開かれよ! 【水渦】!!」
「きゃー! さすがカレン様最高ですわッ!」
「行けカレン! 親父を救うんだー!」
カレンが泉に向きなおし、手を天高く掲げた。
そして彼女のオリジナル魔術を詠唱すると、泉の水が渦巻き状になって浮き上がり、カレンの手が思い切り降ろされると、渦巻きは人々の見えないところまで広がった。
恐らく、国の国境線までだ。
「最終形態!【流せ、天使の涙!】」
オリジナルというのは詠唱が長く、慣れれば短い詠唱で使うことができる。
広がった渦が地面に向かって落ち、雨となって降る。乾いていた井戸には綺麗な雨水がたっぷりと入り込み、水に飢えて死にそうになった者達はコップの中に水を詰めて飲み干すという動作を続ける。
宿の者達はバケツに雨水を入れ、絶えず風呂場に送り込んでいく。
やがて枯れた野菜、しおれた木なども復活していく。周りで見ていた者達は皆歓声を上げ、カレンを褒めていた。
「皆さん……これからわたしは……宿を回って……水を補注しに行きます……ついてきたい方は……どうぞついてきてください……」
「一生ともに行きますわッ!」
「ありがとうカレンー!」
手を降ろし、一息ついたカレンは振り返って周りを囲っている者達に声をかけた。
これで彼女を慕う者はまた増えてくるだろう。
「ルネックスが……驚いてくれるかな……」
誰にも聞こえないようにそっとカレンはつぶやいた。
――――――一軒目の宿。
宿の親父さんはとても優しく、要らないと言ったのに料金をくれた。みんなに聞くとこの町一番の宿だそうだ。もしまた泊まる時が来たら、次は此処に泊まりたかった。
――――――二軒目の宿。
宿の主は通称「お兄さん」。彼は結構イケメンでカレン視点だとルネックスには少し劣っている。水の大量に入った入れ物を渡すと、イケメンスマイルで感謝してくれた。
――――――三軒目。――――――四軒目………………………………。
「はぁ……はぁ……」
いつのまにかついてきてくれる人も二三人になり、回った宿は九十三軒。全国を回ったのだから、この数もあり得なくはないだろう。しかしまだ、終わっていないと思う。
日は暮れて……暮れるどころか深夜になり、日が昇り始めている。やがてついてくる者もいなくなり、カレンは今一人で行動している。
やっとすべての宿を回り、定期的に水を与える約束もしたのだが、いつもこんな感じだとやはりカレンの体力が持たない。
「……どうし、よう……」
このままだと、ルネックスから嫌われるかもしれない。此処まで無能なのか、と切り捨てられるかもしれない。そんなことをする人ではないのはカレンでもわかっている。
―――しかし拭えない、ひとつの可能性でもあるのだから。
今、彼女の体力は限界。いくら身体強化をし、足に活用して飛行しながらだとしても、限界はある。全国を回っていればそうなることは当然だろう。
城はもうすぐで、門も見えている。しかしカレンはたどり着けない。足が、重いのだ。
「限界……いらない……もっと効率的に……全部終わらせたい……」
その時だった。
『スキル【限界突破】、【魔術植え付け】を手に入れました。限界突破というのは、LV1ですと一時間身体能力がリセットされ、二倍になります。レベルが上がるごとに時間も上がります。魔術植え付けというのは、指定した対象に好きな属性を植え付けることができます。なお、取り外しすることも可能です』
ご丁寧に説明もつけてくれて、機械の女性の声は遠ざかっていった。
つまり、カレンは今感情の爆発によって新たなスキルを取得したということ。
昔、ルネックスに教えてもらったことがある。
スキルとは縁がある者に渡され、強い感情によって繋がれる、つまりスキルを獲得するのは運命の一つでもあるのだと。
カレンは信じていなかったが、今になってようやく信じた。
「スキル【限界突破LV1】……はっ、ぁあああああっ」
白く美しい吐息。
限界突破をしながら、小さな掛け声をしながらカレンは走る。目指すは、城の正門。
『LV3になりました、LV4になりました、LV5に……』
そして脳内でも、声は延々と響いて行く。
「これで、いい!!」
門をくぐり、階段を駆け上がっていく。ルネックスが待ちくたびれていないか、仲間たちが嫌悪していないか。カレンはこれしか気にならなかった。
裏切られ、そして奴隷になったのだから、それも仕方がないのだろう。
「ルネックス……待った?」
白い息を吐きながら女神のような笑顔を浮かべ、美しい銀色の髪が汗で首に張り付き、額に汗がにじんでいる姿ははっきり言って危なかった。
ドアに手をかけて、カレンはルネックスに語り掛ける。
幸い彼はまだ眠りについてはいなく、カレンのことを待ってくれていたようだ。
「ううん、それ程待ってないよ」
「うそ……もう深夜だよ……ルネックス……いつもなら寝てる……」
「それよりもカレンちゃん疲れてるでしょ? ほら水!」
「カレンさん、無理をしてはいけません。体力がつらい時は言ってくださいね?」
どうやら子供のリーシャは先に寝かされているようだ、ベッドの上で可愛い顔をして寝息を立てている。こくん、とカレンは頷き、フレアルに渡された水を喉に通す。
いつも味わったりしないはずの、乾いた味のはずなのに。
今日は、甘くて少し苦みのこもっている、深みのある味がした。
優しくて、包み込んでくれる。苦みが心の痛みを相殺して消え去っていく。
「ありがとう……ありがとう……」
「え? ぼ、僕何か悪いことしたかな」
「る・ね・っく・す! これはこういのあらわれで、けっしてかなしいって思いでながしたなみだじゃないよ、どっちかというとうれしなみだだよ?」
感謝の言葉を伝えて、カレンは涙を流した。ルネックスは何か勘違いをしていたようで、フェンラリアがその勘違いを正す。
そっか、とルネックスは薄く笑った。
「そう言えばさ、ずいぶん前の話なんだけど僕のお父さんって前代大精霊の義理の息子の名前だったんなら、そのドラゴンのリアスさん? のことは最初から知ってたんじゃないの? 知っていたのなら、驚く必要はなかったんじゃないの? 説明はしてくれたけど、もうちょっと詳しく」
ルネックスがこの質問をしたのは、今少し気になり始めたからだ。
リアスがここを訪れたとき、フェンラリアが馴れ馴れしくしていたのはきっと関りがあったということだ。
「フィア」と「リアス」は同一人物で、最初からフェンラリアがそれを知っていなければルネックスに父だ、と教えることもできない。
なのに、フィアだと父の名を教えたとき、フェンラリアは驚いたのだろうか。
前に一度簡単に教えてくれた記憶がある、しかし詳しいことが分からない。
「ふぃあっていうなまえをしったちょくごに、ディステシアさまにれんらくしたの! そのときまできづかなかったんだよ。それでぜーんぶおしえてもらったの。るねっくすにでんごんしてね、ともつたえたよ」
「僕がこの質問をするのは想定内だったの?」
「うん。でももうちょっときづくのはさきだとおもってたけどね。だってかんたんにはせつめいしていたんだもん」
「る、ルネックスさん、だから歴史の話はよく分からないんですよ」
プライベート的な話をしている間、ずいぶんめり込んでしまったようだ。少し困った顔をしてシェリアがルネックスに声をかける。
他の者達も皆よくわからないように首をかしげている。
確かにルネックスは昔のことを両親のこと以外詳しく教えていない。父は過労死、母は奴隷という軽い一言のみ伝え、フィア改めリアスがドラゴンになっているなど教えてはいない。
この機会もあり、ルネックスは皆に自分のことを深く教えることにした。
「――――ルネックスさん! 世界征服したら、お願いがあるんです」
シリアスになってしまった雰囲気を挽回しようと、シェリアが口を開いた。
「メイドにさせてくださいませんか? 憧れていたんです。身の回りの世話をすることも慣れていますし、人の世話も慣れています。良いですか?」
「シェリア……考え……凄い……」
「やっぱりぃすごいねぇ、私はやっぱり前方でぇ戦いたいかなぁ?」
「はは、役割分担は征服してからにするよ、でもシェリアなら似合うかもね」
「ですよね!?」
「じゃあ、考えてみてもいいかな?」
ルネックスがそう言って薄く笑顔を浮かべると、シェリアが嬉しそうに微笑んだ。
「ルネックス……お願いがある……」
「ん? どうしたの?」
「明日わたし……もう一回水魔術を広めに行きたい……いい方法が……あるから」
「え、っと」
「水魔術の使い手を……増やしに……行ってくる」
ずいぶん原始的な方法へ出たものだ、とルネックスは苦笑いした。彼が思っているのは若い水魔術の使い手を宿屋の主にする、というものだ。
昔の広め方にしても一度は流行った方法であり、ルネックスも知っていた。
しかし、カレンのやりたい方法はルネックスの創造の範疇をはるかに上回る。
「るねっくすー、かれんそんないみじゃないとおもうよ。げんしてきじゃなくて、まじゅつてき! だとあたしはおもうよ」
「え? 魔術的って言われても、何をするの?」
「だぁかぁらぁ、魔術を使って何かするってことでしょぉ?」
「正解……リンネ……頭いい……」
読者的存在だと思っていたカレンが、今は一人のライバルだと認識したリンネは自分の知識と頭の良さを懸命にアピールし、好感度を勝ち取ろうとしている。
それにくらべてゆったりと勝ち取っていっているフェンラリアには余裕が感じられる。
とりあえず考えてもルネックスにはわからないため許可を出しておくことにした。
カレンなのだから、誘拐されても一撃で大人何十人くらいは倒せるだろう。何百二んあたりにでもなったら苦戦するかもしれないが、その可能性は考えにくい。
「分かった。でももうちょっと早く帰ってきてね、二回目だから」
「ん……了解……ZZZ」
「やっぱりもう眠くなってたんだね、じゃあ僕も寝る」
「あ、るねっくすいっしょにねよ」
「え!? それは変態扱いされなければいいと思うけどね」
精霊と人間なのだから問題ないとルネックスの不安をあっさりと打ち消したフェンラリアはルネックスの気付かないところで女子陣に勝者の笑みを向けた。
こうしてたくさんの勝負も挟みながら。
幸福を味わいあいながら。
好意が次第に恋に変わりながらも。
思いを乗せて、夜は深くなり、月が何もかもを知っているように全てを照らしている。
そして国民からは感謝の声が上がり、昔助けた者達の中では「あの方が!」と喜びの声が上がっていた。
それはそれでいいのでは、とルネックスもまたその状況を認めた。
もう一言付け加えると、反論などしている暇がなかったからだとも言える。
今日はカレンが一人で国民たちに水を分け与える忙しい時期なのだ。
しかしシェリアの言う通り一人ずつ休めるならルネックスも一緒に行きたかったのだが「体力温存!」と止められて今現在部屋で留守番していた。
カレンにはひとつ、いい考えがあり、わざとルネックスを連れてきたくなかったのだ。
「皆さん……今かやる事に……驚かないでね……」
「驚きません!」
「キャー聖女様ぁぁあ!! 一生付き添っていきますわあ!!」
コレムの宣伝があり、ルネックスは勇者様、フレアルは女神様、カレンは聖女様、シェリアは賢者様、リンネは伝説の魔女様、リーシャは幻の少女と言われるようになった。
ルネックス自身は勇者くらいに戦えると思っていないが、実力はそれを上回っているらしい。
今、カレンがいるのはこの街、いやこの国で一番大きな泉の前。
彼女が振り返った先には老若男女とカレンを慕う者達のひとだかり。
現在、皆は慕うものが分かれている。
ルネックスが42%。フレアルは12%、カレンは22%、シェリアは16%、リンネは7%、リーシャは1%と全国民で別れて慕われるようになった。
勿論ルネックスの42%の中の女性陣は62%で、国民の半分以上の女性が慕っている。
そして。
女性陣の中でも一番の支持率を誇るカレンが、今国民を救おうと動き出している。
ちなみにこれはハーライトが何故か計算してきてくれた。
「……水の渦巻き、街を救い、全てを助け、拡散し、今こそ開かれよ! 【水渦】!!」
「きゃー! さすがカレン様最高ですわッ!」
「行けカレン! 親父を救うんだー!」
カレンが泉に向きなおし、手を天高く掲げた。
そして彼女のオリジナル魔術を詠唱すると、泉の水が渦巻き状になって浮き上がり、カレンの手が思い切り降ろされると、渦巻きは人々の見えないところまで広がった。
恐らく、国の国境線までだ。
「最終形態!【流せ、天使の涙!】」
オリジナルというのは詠唱が長く、慣れれば短い詠唱で使うことができる。
広がった渦が地面に向かって落ち、雨となって降る。乾いていた井戸には綺麗な雨水がたっぷりと入り込み、水に飢えて死にそうになった者達はコップの中に水を詰めて飲み干すという動作を続ける。
宿の者達はバケツに雨水を入れ、絶えず風呂場に送り込んでいく。
やがて枯れた野菜、しおれた木なども復活していく。周りで見ていた者達は皆歓声を上げ、カレンを褒めていた。
「皆さん……これからわたしは……宿を回って……水を補注しに行きます……ついてきたい方は……どうぞついてきてください……」
「一生ともに行きますわッ!」
「ありがとうカレンー!」
手を降ろし、一息ついたカレンは振り返って周りを囲っている者達に声をかけた。
これで彼女を慕う者はまた増えてくるだろう。
「ルネックスが……驚いてくれるかな……」
誰にも聞こえないようにそっとカレンはつぶやいた。
――――――一軒目の宿。
宿の親父さんはとても優しく、要らないと言ったのに料金をくれた。みんなに聞くとこの町一番の宿だそうだ。もしまた泊まる時が来たら、次は此処に泊まりたかった。
――――――二軒目の宿。
宿の主は通称「お兄さん」。彼は結構イケメンでカレン視点だとルネックスには少し劣っている。水の大量に入った入れ物を渡すと、イケメンスマイルで感謝してくれた。
――――――三軒目。――――――四軒目………………………………。
「はぁ……はぁ……」
いつのまにかついてきてくれる人も二三人になり、回った宿は九十三軒。全国を回ったのだから、この数もあり得なくはないだろう。しかしまだ、終わっていないと思う。
日は暮れて……暮れるどころか深夜になり、日が昇り始めている。やがてついてくる者もいなくなり、カレンは今一人で行動している。
やっとすべての宿を回り、定期的に水を与える約束もしたのだが、いつもこんな感じだとやはりカレンの体力が持たない。
「……どうし、よう……」
このままだと、ルネックスから嫌われるかもしれない。此処まで無能なのか、と切り捨てられるかもしれない。そんなことをする人ではないのはカレンでもわかっている。
―――しかし拭えない、ひとつの可能性でもあるのだから。
今、彼女の体力は限界。いくら身体強化をし、足に活用して飛行しながらだとしても、限界はある。全国を回っていればそうなることは当然だろう。
城はもうすぐで、門も見えている。しかしカレンはたどり着けない。足が、重いのだ。
「限界……いらない……もっと効率的に……全部終わらせたい……」
その時だった。
『スキル【限界突破】、【魔術植え付け】を手に入れました。限界突破というのは、LV1ですと一時間身体能力がリセットされ、二倍になります。レベルが上がるごとに時間も上がります。魔術植え付けというのは、指定した対象に好きな属性を植え付けることができます。なお、取り外しすることも可能です』
ご丁寧に説明もつけてくれて、機械の女性の声は遠ざかっていった。
つまり、カレンは今感情の爆発によって新たなスキルを取得したということ。
昔、ルネックスに教えてもらったことがある。
スキルとは縁がある者に渡され、強い感情によって繋がれる、つまりスキルを獲得するのは運命の一つでもあるのだと。
カレンは信じていなかったが、今になってようやく信じた。
「スキル【限界突破LV1】……はっ、ぁあああああっ」
白く美しい吐息。
限界突破をしながら、小さな掛け声をしながらカレンは走る。目指すは、城の正門。
『LV3になりました、LV4になりました、LV5に……』
そして脳内でも、声は延々と響いて行く。
「これで、いい!!」
門をくぐり、階段を駆け上がっていく。ルネックスが待ちくたびれていないか、仲間たちが嫌悪していないか。カレンはこれしか気にならなかった。
裏切られ、そして奴隷になったのだから、それも仕方がないのだろう。
「ルネックス……待った?」
白い息を吐きながら女神のような笑顔を浮かべ、美しい銀色の髪が汗で首に張り付き、額に汗がにじんでいる姿ははっきり言って危なかった。
ドアに手をかけて、カレンはルネックスに語り掛ける。
幸い彼はまだ眠りについてはいなく、カレンのことを待ってくれていたようだ。
「ううん、それ程待ってないよ」
「うそ……もう深夜だよ……ルネックス……いつもなら寝てる……」
「それよりもカレンちゃん疲れてるでしょ? ほら水!」
「カレンさん、無理をしてはいけません。体力がつらい時は言ってくださいね?」
どうやら子供のリーシャは先に寝かされているようだ、ベッドの上で可愛い顔をして寝息を立てている。こくん、とカレンは頷き、フレアルに渡された水を喉に通す。
いつも味わったりしないはずの、乾いた味のはずなのに。
今日は、甘くて少し苦みのこもっている、深みのある味がした。
優しくて、包み込んでくれる。苦みが心の痛みを相殺して消え去っていく。
「ありがとう……ありがとう……」
「え? ぼ、僕何か悪いことしたかな」
「る・ね・っく・す! これはこういのあらわれで、けっしてかなしいって思いでながしたなみだじゃないよ、どっちかというとうれしなみだだよ?」
感謝の言葉を伝えて、カレンは涙を流した。ルネックスは何か勘違いをしていたようで、フェンラリアがその勘違いを正す。
そっか、とルネックスは薄く笑った。
「そう言えばさ、ずいぶん前の話なんだけど僕のお父さんって前代大精霊の義理の息子の名前だったんなら、そのドラゴンのリアスさん? のことは最初から知ってたんじゃないの? 知っていたのなら、驚く必要はなかったんじゃないの? 説明はしてくれたけど、もうちょっと詳しく」
ルネックスがこの質問をしたのは、今少し気になり始めたからだ。
リアスがここを訪れたとき、フェンラリアが馴れ馴れしくしていたのはきっと関りがあったということだ。
「フィア」と「リアス」は同一人物で、最初からフェンラリアがそれを知っていなければルネックスに父だ、と教えることもできない。
なのに、フィアだと父の名を教えたとき、フェンラリアは驚いたのだろうか。
前に一度簡単に教えてくれた記憶がある、しかし詳しいことが分からない。
「ふぃあっていうなまえをしったちょくごに、ディステシアさまにれんらくしたの! そのときまできづかなかったんだよ。それでぜーんぶおしえてもらったの。るねっくすにでんごんしてね、ともつたえたよ」
「僕がこの質問をするのは想定内だったの?」
「うん。でももうちょっときづくのはさきだとおもってたけどね。だってかんたんにはせつめいしていたんだもん」
「る、ルネックスさん、だから歴史の話はよく分からないんですよ」
プライベート的な話をしている間、ずいぶんめり込んでしまったようだ。少し困った顔をしてシェリアがルネックスに声をかける。
他の者達も皆よくわからないように首をかしげている。
確かにルネックスは昔のことを両親のこと以外詳しく教えていない。父は過労死、母は奴隷という軽い一言のみ伝え、フィア改めリアスがドラゴンになっているなど教えてはいない。
この機会もあり、ルネックスは皆に自分のことを深く教えることにした。
「――――ルネックスさん! 世界征服したら、お願いがあるんです」
シリアスになってしまった雰囲気を挽回しようと、シェリアが口を開いた。
「メイドにさせてくださいませんか? 憧れていたんです。身の回りの世話をすることも慣れていますし、人の世話も慣れています。良いですか?」
「シェリア……考え……凄い……」
「やっぱりぃすごいねぇ、私はやっぱり前方でぇ戦いたいかなぁ?」
「はは、役割分担は征服してからにするよ、でもシェリアなら似合うかもね」
「ですよね!?」
「じゃあ、考えてみてもいいかな?」
ルネックスがそう言って薄く笑顔を浮かべると、シェリアが嬉しそうに微笑んだ。
「ルネックス……お願いがある……」
「ん? どうしたの?」
「明日わたし……もう一回水魔術を広めに行きたい……いい方法が……あるから」
「え、っと」
「水魔術の使い手を……増やしに……行ってくる」
ずいぶん原始的な方法へ出たものだ、とルネックスは苦笑いした。彼が思っているのは若い水魔術の使い手を宿屋の主にする、というものだ。
昔の広め方にしても一度は流行った方法であり、ルネックスも知っていた。
しかし、カレンのやりたい方法はルネックスの創造の範疇をはるかに上回る。
「るねっくすー、かれんそんないみじゃないとおもうよ。げんしてきじゃなくて、まじゅつてき! だとあたしはおもうよ」
「え? 魔術的って言われても、何をするの?」
「だぁかぁらぁ、魔術を使って何かするってことでしょぉ?」
「正解……リンネ……頭いい……」
読者的存在だと思っていたカレンが、今は一人のライバルだと認識したリンネは自分の知識と頭の良さを懸命にアピールし、好感度を勝ち取ろうとしている。
それにくらべてゆったりと勝ち取っていっているフェンラリアには余裕が感じられる。
とりあえず考えてもルネックスにはわからないため許可を出しておくことにした。
カレンなのだから、誘拐されても一撃で大人何十人くらいは倒せるだろう。何百二んあたりにでもなったら苦戦するかもしれないが、その可能性は考えにくい。
「分かった。でももうちょっと早く帰ってきてね、二回目だから」
「ん……了解……ZZZ」
「やっぱりもう眠くなってたんだね、じゃあ僕も寝る」
「あ、るねっくすいっしょにねよ」
「え!? それは変態扱いされなければいいと思うけどね」
精霊と人間なのだから問題ないとルネックスの不安をあっさりと打ち消したフェンラリアはルネックスの気付かないところで女子陣に勝者の笑みを向けた。
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