僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

にじゅうにかいめ 調合師再開かな?

 そっと半分開いた扉のそばまで行き、中を見る。
 難しい顔をしている大臣と、コレムまでもが悔しそうにしていた。難しい顔をしている者達の中には、反乱の時にルネックスと一緒だった宮廷魔術師長などもいた。

 どうやらとんでもないほど重要な話のようだ。

 と、コレムやハーライトがルネックス達の存在に気が付いたようだ。

「おいルネックス! ちょいと重要な話だから来てくれ」

「は、はい。……フレアル、リンネとリーシャを連れて先に帰ってくれ」

「えぇ……なんでシェリアとカレンだけ」

「ふふふ……フレアルさん、ルネックスさんの言ったことには従ってくださいね??」

 ハーライトがルネックスを招くように手を動かす。
 そしてルネックスの出した申し出にシェリアが勝ち誇った笑みを浮かべ、カレンは誰も気付かないところで不敵な笑みを浮かべていた。

 しかし、フレアルはルネックスに好感を抱いているが故に悔しい顔をするだけで逆らうこと、抗うことは無かった。

「りょーかい」

 力ない返事をして、フレアルはリンネとリーシャを連れて部屋に帰る。

 実はルネックスがシェリアとカレンだけ入らせたのは二人に緊張感がなく、いつでも冷静に話が通るからである。
 微妙な雰囲気が漂っている原因を、彼は知らなかったのだった。

 まあそれはさておき、ルネックス達は疑問符を浮かべて謁見の間に入る。

「……ルネックスよ、結構前に私が貴様らに話したことを覚えているか? 反乱がおこるその前、私が国の現状を話した時だ」

「あ、はい、覚えています。林業、農業が減り、水魔術が減り、魔物の大量発生で生活がままならないんですよね?」

 街では人が普通に出ているが、森の近くへ近づくと共に冒険者しかいなくなったというのはドラゴン討伐ですでにルネックス達が知っている事実だ。
 特に疑問も浮かばなかったが、これは意外に重大なものだったらしい。

 そして、街を歩いて田舎まで行くと農家らしき田んぼも見るのに、何も植えられていなかった、それかすべて枯れていた、というのが殆どだった。

「そっか……僕も今までに気付くべきだったんだ」

「む、ルネックスよ、自身を責めなくても良い、ただこれはどうすればいいのかの話し合いなのだ。別に農家がいないわけではない、林業も失ったわけではない。しかし全てが水魔術の使い手が減ったことにより野菜も育たず、森の木も育たないのだ。そしてさらに水などが高価になったがゆえに人々は脱水症状など様々な病気まで起こしているのだ」

「コレム様……水魔術は……お任せください……此処に二人います……」

 そうだった。
 ルネックス自身もそうで、そしてカレンも水魔術の使い手だ。

 ちなみにリンネは闇属性ではなくそれに似た陰属性の使い手、リーシャは土魔術の使い手である。土魔術は今までなかったので助けになる。

 カレンの意見で、ルネックスはもう一度国を助けようと決意した。

「脱水症状などそういうのは治療を急がなければなりませんね、僕のグループには称号【調合師】が居ますのでそちらについては彼女にお任せください」

「魔物たちについては私とルネックスが対峙します」

「ということは……水魔術……わたしだけで……頑張る……!」

 普段表情を見せないカレンが、今日は目に見えて頑張る気満々だ。
 コレムが頼もしそうに笑い、これで大丈夫だ、と過剰評価をしている。

 勿論過剰と感じたのはルネックスだけで、この場に居る全員が同じことを思っていたのは誰も知ることは無い。いや、フェンラリアは察知できていたかもしれない。
 ちなみに魔物退治についてはフェンラリアも参加する。戦いたいと言っているために。

「頼もしいな……本当に。成果を期待していよう、これにて会議は終了だ」

 コレムは爽やかに笑った。

……
。。。

「えぇ!?」

 王城の一室、めったに入れないようなスイートルームにルネックス達はカレンの作った豪華な食事を楽しんでいた。
 ……と言っても、先程の会議の話し合いだったため楽しくはない。

 フレアルが調合師復活させることを知り、しばしの間驚いた。

「まあでも、私ならいける頑張るー!!」

 しかし、シェリアとカレンが活躍することを知って頑張る気満々でご飯をがつがつと食べ進めていく。リンネとリーシャは申し訳ないが家で待っていることになる。
 リーシャが居なければリンネが一人で残ることになるのでその辺良かった。

「リーシャ淋しいの嫌いです―――です! 連れて行ってくださいよ―――くださいよ」

「うーん、今回の任務はちょっと危険だからね、あと何で敬語……」

「リーシャ、私が一緒にいるからぁ、淋しくないよぉ!」

「ほんと? ならいいや―――いいや。でもリンネヤダ―—―やだ」

 何故かルネックスに対して敬語なリーシャだった。ちなみに後から聞いたところ彼女は人間の十二歳で、この中にいる誰よりも年下だった。
 甘えん坊で寂しがり屋&怖がりも許容範囲内である。

 リーシャはフレアルとルネックスにとても懐いており、シェリアを姉と見ていてフェンラリアを優しい人認定していて、カレン好き……なのだがリンネには妙に懐かないのである。

「まぁまぁ、僕らも忙しいことになるかもしれないからね。全部終わったら一緒に遊ぶからちょっと待っててね」

 それっきり、全てが終わるには何年もかかるだろう。
 フェンラリアはルネックスのポケットの中でそう思っていた。

「るねっくす! あたしもかつやくしたい~」

「うん、フェンラリアはね僕と一緒に魔物退治しに行くから」

「やったね! あれ、しぇりあはどうするの?」

「あぁ、言い忘れていましたが私も行かせていただきますよ」

 バチッ、とフェンラリアとシェリアの間で火花が散った。いつも二人は仲がいいのだが、ルネックスのことになると仲があまりよくなくなるらしい。
 今回シェリアがルネックスと魔物退治しに行くと提案したのは、フェンラリアが行くと思った前提があったからだ。いつも彼女は鋭い。

「じゃあ私は脱水症状とかに効く薬を作っていればいいの?」

「うん、できれば水による症状全部治せる薬がいいかな」

「でもそうすると神薬草ランクの薬草が必要になるんだよね」

「ふれある、しんぱいむようだよ! ブレスレットはさいきょうだからね?」

 そういえば、ブレスレットを本気で使うのは久しぶりだ。フェンラリアへの拘束も解けたことだし、たまには活用してみようと思っていた。
 薬草にはランクがあり、神薬草が一番上。勉強をしていたフレアルはその形を細かいところまで知っている。作り出すのは容易い。

 一方シェリアは何かリーシャを淋しがらせない方法を考えていた。

「あの、ルネックスさん。考えたんですけど、フレアルさんが調合をしている間、私たちは家に残っていていいですか? ひとつづつ完成させた方がいいと思うんです」

「それだと結構時間がかかっちゃうね……」

「水魔術については、たくさんの所に飛び回ったりしないと流通させられないので、それに一度にたくさんのことを解決してしまってはコレム様も手が回らないし……」

「分かったよ、分かったよ。リーシャ好きなのは分かったから。そうするよ」

 必死に弁解するシェリアを見てルネックスは彼女のリーシャに対する愛というか、母性に負けてしまったのである。
 だから世界では父が弱いのだった。

 一方のリーシャはシェリアへの好感度が上がり、これを許可したルネックスへの好感度も上がっていた。可愛い評価の高い彼女が何故ダンジョン攻略なんてしようとしたのか。

「あれ? フレアルは?」

「はなしてるあいだにブレスレットのなかにはいっちゃったよー」

 実はこのラブラブ風景に耐えられなくなって先に仕事へ移ったのだが。

 ピッ、ピッ、ピッ。
 壁に飾られた時計が一分一秒と動く。後ろではリーシャと女子陣がはしゃぐ声が聞こえた。


 三十分ほどたって、フレアルがブレスレットから出てきた。今気付いたのだが、人が出入りするときルネックスには全く感覚がないことが分かった。

「できたよー! まさか神超級まであったなんてね」

「かみちょうきゅう……って何? 薬草って神までじゃなかったの?」

「伝説級って感じかな、無いとされてたんだけど、まさかあったなんてね」

 フレアルが持っていたバスケット。その中には何百個、いや何千個もの虹色の、薬を練って丸くしたもの、通称薬丸が入っていた。
 三十分でこれ程の事が出来たのは紛れもなくフレアルの才能だった。

「じゃあ私コレム様の所に行ってくるね!」

「あ、待ってくださいフレアルさん。私も行かせてもらえますか?」

「シェリアも連れて行ってあげて、話が通りやすいから」

 フレアルの天然さは時に何か大きな出来事を起こしそうなため冷静なシェリアか、頭の回るカレンを連れて行かなければ何か起きると思ったルネックスの心がけ。
 しかしそれは伝え方の問題で屈辱にしか聞こえなかったわけで。

「ちょっとルネックス! 私一人で問題ないって」

「え? 僕はそんなつもりじゃ」

「フレアルさん。如何やらあなたは解釈を間違っているようです。ルネックスさんは人を屈辱するような方ではありませんし何より伝え方が下手です。分からないですか?」

 ルネックスにはひとつ疑問がある。ここ最近シェリアの言動がどんどん激しくなっているところだ。

 フェンラリアは全て知っているとでもいうようなどや顔をしてシェリアとフレアルをコレムの部屋まで送る転移魔術をかけた。

「えっと、これ何が起こってるのかな? 僕怒らせたつもりはないし、なんか遠回しに僕も屈辱されたよね……」

「仕方ない……教えてあげる」

「入って間もない私でもぉ察知できたよぉ? これはねぇ、好かれてるってしょーこ!」

「僕が、好かれてる?」

「気づかなかったです? ―――です? とっくに気付いてました! ―――ました!」

 ルネックスにはやはりよくわからない。
 今此処に居る全員に好かれているということも教えてもらった。シェリアとフレアルの行動はライバル意識であり、オブラートに包まないとルネックスの取り合いだ。

 初めて置かれた数えきれない角関係にルネックスは戸惑うのだった。

「―――――とはいえ、るねっくすをこまらせたのはゆるせない」

「フェン、ラリア……?」

「るねっくすをすきでありながらも、こまらせたということじたいが、しっかく」

「わたしも……そう思う……あの二人は……急ぎ過ぎてる……」

 あの時の、戦闘時に見せたフェンラリアの大精霊としての真面目な一面。そしていつも冷静に分析し、静かに空気を読むカレンの言葉。
 それをルネックスが否定することはできなかった。

 好かれていることは確定で、フェンラリアに教えてもらったのだがこれを「はーれむ」というらしい。言われたのは一回目ではない。
 つまり、この街に来る前からずっと好かれていたということだ。

「有ろうことか僕は、それに気づかなかった、と」

「ううん、それがるねっくすのいいところだとおもうんだ」

「―――――」

「たよれて、いつもれいせいで、だけどこういうことにかんしてはたんじゅんで、そんなるねっくすがすき。だーいすき!」

 フェンラリアの、誠心誠意愛を伝える言葉に、ルネックスは戸惑いを隠せない。カレンも、リーシャも、リンネも、フェンラリアの真剣な顔と同じ顔をして同感している。

 と。
 ここでドアを開けてシェリアとフレアルが戻ってきた。

「明日コレム様がみんなに分け与えるんだって」

「聞いてください、今までになく驚いていたんですよ、コレム様!」

 二人を見て、ルネックスは改めてフェンラリアの言葉を思い出す。

――――――案外、自分は居場所というものを確保できているのかもしれない。

 今は、そう思えた。
 たとえこの先何が起きても、今はそう思えた。それは、この先もきっと変わらない。

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