僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

じゅうにかいめ ショッピングかな?

 昨日のルネックスの意見、女子達や自分の服を買いなおすというものには四人とも賛成した。とはいえフェンラリアはタッコーと呼ばれるタコを包んだ食べ物を食べ続けているのだが。

 外に出たのは正午、朝ご飯はもう済ませてある。
 久しぶりに盛大にシャワーもさせてもらった。正直気持ちがとてもよかった。

 さすが美の街、たくさんのファッション店があり、何処から入ろうか困った。

 歩いてからフレアルがとある店にくぎ付けになっている。

 それほど綺麗とも言えない、ドアに少し錆びのある小さな、それでいて高貴な雰囲気を漂わせる神秘的な真っ白な店。

「ね、ね、ルネックス、入って見ない??」

「いいよ、ショッピングだしね。見て回るのも悪くないよ」

 そんなルネックスの答えに、フレアルは喜び、シェリアと共に店に入る。

 シェリアの鬼の角は、彼女の膨大な魔力により隠されている。
 そのため街でも怪しむ者はいない。

 「リア充爆発しろ」と言っている者はいるのだが。

「わ……わぁ……」

「ん? どうしたの……おぉ、凄い……僕も見て回ろう」

 フレアルとシェリアが感嘆の声を上げ、遅れて入ってきたルネックスも興奮する。

 店の中は大量の服で並んでいて、外からは見えないほど美しい雰囲気が漂っている。
 香水の鼻をつんざくような香りではなく、心地よくふんわりとした香りがふわりと舞う。

 中は三つの種類に別れていて、ワンピース、パジャマ、ラフ系と言った感じだった。

「すごい……私はラフ系とパジャマ見てくる!」

「私はワンピースとパジャマを見てきます」

「僕はラフ系とパジャマでいいや、ワンピースは着れないしね……」

 ルネックスの最後の一言はフェンラリアが聞き取り、ニヤニヤしていた。

 フレアルはラフ系の棚を見て迷っている。
 どれも身軽でかわいく、冒険者には最適な服ばかりだったのだが、それだからこそ選ぶのに困る。

 シェリアはワンピースの棚にてこれもまた迷っている。
 清楚で、可愛く、それでいて動きやすさも損なわれない弾力の良い服。交互に見つめて迷っている。

 ルネックスはラフ系で迷わず長袖のすこし大人っぽい動きやすい服と、袖が下に向かって広がっている古代のドラマのようなコートの二つ、そして直行でパジャマの棚へ向かい、柄がない真っ黒な、神秘的な雰囲気を漂わせるものを選んだ。

 そしてその時。

「お嬢ちゃんたちはどうやら迷っているようだね?」

 ギザ……っぽい男性が階段から優雅に降りてきて、シェリアとフレアルを見つめた。
 勿論二人にはルネックスがいるため動じない。

 フェンラリアは興味すら示さない。

「僕は「服作成」のスキル持ちだ、君達の好きな衣装を創り出してあげよう」

 そう言って掌をレジの机に向けると、そこには紫の袖でほかの部分は薄めの黒であり、横の部分に金色のハートの風船の刺繍が入っているワンピースが現れた。

 シェリアはそれを即気に入り、即買った。50クランである。

 もう一度掌を向けると、薄いピンクの半袖である下にひらひらのレースがかかっている、シャツとは思えないほど高級な記事で作られたシャツが現れた。

「凄い! 買います!」

 70クランでフレアルはそのシャツを買った。

 その後はそれぞれパジャマを買い、消費したクランは288クランだった。
 意外にも大きな消費だったが、金はこれから溜めていくと決めている。

 現時点で2112クランしか持っていないのだが、まあいいとしよう(よくない)。

 笑顔で四人は店から出たのだった。
 男性はにこりと笑って四人を見送った。常連になりそうだ。

「昼ごはんまでちょっと時間あるから、間食でもしようかな」

「賛成!! 私タッコー食べたい、フェンラリアだけなんてずるーい♪」

「あたしはもうたべたからいいや」

「そりゃあそうですよ、食べすぎはいけません~」

 本当は間食をしてしまったらクランが足りなくなるかもしれないが、一か月は宿泊費の必要がないためその間に集め直せる。
 これも計算して行っているのだ。

 屋台は数えきれないほど並んでいる。
 目的のタッコーがある店も少なくはない。

 とりあえず、一番安い20クランの屋台の前に並ぶ。やはり安いのがいいのか、前に二人いた。

「タッコー三つセットください」

「60クランだよ!」

 男に60クランを渡すと、代わりに三人分のタッコーが運ばれてきた。
 ほくほくした顔で食べていると男は満足そうにうなずいた。

「これはオレの母さんが残してくれた技術だ。美味しく食べてくれてありがとうな!」

「どういたしまして、これとってもおいしいと思いますよ」

 ルネックスはにこりと笑って応じた。
 男も手をひらひらさせて嬉しそうだ。

 邪魔になると悪いため、ルネックス達はその場から離れた。

「んん~! おいしいッ! 安くて絶品、これいいね」

「確かに。また間食食べたいときはこれが節約になるね」

「どうやらあたしがださなくてもいいみたい?」

「自立ということですね!」

 シェリアが嬉しそうにそう言った。
 ちなみに彼女はすでに食べ終わってしまっている。

 ルネックスはまだ何個か残っている。
 フレアルはひとつずつ味わいながら食べている。

「おいこるぁ! さっさと店仕舞って帰れぇ!! ここは俺らの場所だ!」

「ひっ……わ、分かりましたっ!!!」

 タッコーを買った屋台の男が不良に絡まれていたのである。
 街でも有名な不良らしく、野次馬は集まらなかった。

「助けに……ありゃ?」

 ルネックスが助けに行こうとしたとき、やけに露出度の高い服を着た女性が鞭を持って不良たちの後ろに立っていた。
 周りもざわめいている、如何やら本当にこの不良たちは実力者のようだ。

「オイ貴様らぁ!! 私につかまったら、もう終わりだなぁ!?」

 勢い良く振り下ろされた鞭は、一人の男に当たり、彼は力なく倒れた。
 『おいあいつ知ってるか?』『ああ、ここらへんで有名な奴隷商だろう?』『いやあもうあの不良たちともおさらばかあ』『助かったもんだなあ』
 と周りでは口々に冒険者や村人たちが声を上げている。

 奴隷商については全員聞こえたが、ルネックスは目標に一歩近づいたと思っていた。

「ハハハハハっ! 貴様らは罪人だぁ! 遠慮なぁく捕獲できるさぁ!!」

 詳しく話を聞いてみると彼女は国王公認の奴隷商らしい。
 罪人や必要のなくなった者、能力を封じられてしまった者の無限捕獲を許可されているらしい。

 これはまたものすごい国王だとルネックスは感じた。

「そいやっ!」

 鞭のもう一振りで、あっという間に立っている不良は一人だけになった。
 その不良はガタガタ震え、女性を見つめて「ひぃぃ」と声を上げた。

「ん……何なんだ……よ……くそっ……」

「逃がさんぞ!!!」

 しかし男は「転移」スキルを持っていたようで、女性は彼を取り逃がしてしまう。

「チッ、まあいいか。【移動】」

 女性が手をパチンと鳴らすと、男二人が消えていった。

 恐らく奴隷商の現場に。
 ルネックスはもう女性のことがどうでもよくなったため、四人で真ん中を通って帰ろうとする。
 奴隷商の場所はさっき聞いたため、滞在している理由はない。

「おい」

「え? 僕ですか?」

 なぜか、声をかけられてしまった。
 怒らせることもしていないし、怒るようなこともされていないのにだ。

「お前ら、さっきの現場見てよく私の前を通れるな?」

「え? 通ったらダメなのですか?」

 女性の一言に、シェリアが目を丸くした。
 シェリアの一言に、女性が目を丸くした。

 両方の返答が驚きでたまらなかったのだろう。
 そう言えば周囲の者たちも真ん中を避けて端を通っている。

「いいのだが……気に入った! 私の事は知っているか?」

「えっと、有名な奴隷商というところまでなら」

「私の名はハイレフィア・セレイド、奴隷の扱いをしている。奴隷に興味は……なさそうだな」

「いえ、興味はないということはありません。僕のとある計画の内です」

 ルネックスが応える後ろで、シェリアとフレアルはわずかに驚いていた。

 しかし「奴隷」というものも征服をするには通る道のひとつだと考えている。
 ただそれが今だとは思わなかっただけで、実質はそれほど驚いてはいない。

 フェンラリアは当たり前だという顔でその情景を見ている。

「そうか。奴隷とか必要になったら遠慮なく来いよッ! なるべく低料金でいい奴紹介してやるから」

「それはずいぶん、サービスですね……」

 その必要はない、男女関係なしでゆっくりと全員買い占めるつもりなのだから。
 この世から「奴隷」というもののイメージを変える、と言う最初の目標。

 これはきっと、ルネックスの母と重なってしまった故の目標だろう。

「おう! 私を誰だと思っている」

「もちろんわかってますよ。それじゃあ僕は行きますね」

 女性に手を振り、微笑んでからルネックスは真ん中をそのまま通って去っていった。
 シェリア達も急いで付いて行く。



「本気だったのですか? さっきの言葉は……」

「あぁ、奴隷について? それなら本当だよ、けどまだ教えられないかな」

 宿に戻ったルネックス達の元には、すでに夕食が置いてあった。
 トマトの酸っぱさと甘さが良く効いていて、肉には丁度良い脂っこさがあるミートソースパスタ。

 前も思ったのだが、この宿は高級なものがたくさんある割には安めなのだ。

「僕の目的は、叶うまで口にはだせない」

 元からそういう性格なのだ、とルネックスは続けた。
 出来るまで、大口は叩かないと決めているのだ。

 シェリアもフレアルも何を言っても無駄だということがわかり、諦めた。

 ただ、フェンラリアはすべてを知っていた。

「そうですか。悪い事には使わないと信じていますよ」

「信じてくれてありがとう。僕はきっといいことに使うよ」

「ルネックス、私も信じるよ」

「フレアルもありがとう、今このひと時が生きてきて一番幸せだよ」

 ルネックスは微笑み、二人の頭をそっと撫でた。

「ブレスレット……はいる?」

「え? なんで?」

「だってあしたじっせんしにいくんでしょ? ぽーしょんとかもっていかなくていいの?」

「じゃなくて、ブレスレットの中ってフェンラリアが居なくても入れるところなの?」

「はいれないよ? でもあたしは入って出れるようになったから、だいじょうぶ!」

 どうやら話している間にフェンラリアはブレスレットを行ったり来たりしていたようだ。
 それはそれで助かる。

 ポーションの費用が省かれるからだ。買うよりはいい。元々金はあまり持っていない。まあ、ブレスレットで作れるは作れるのだが。
 無駄遣いをする習慣をつけてしまうと、大変なことになるだろう。

「じゃあシェリアと入るから、フレアルは待っててね」

「……分かった」

「じゃあ私は行きますね……しっかりと、待っていてください♪」

 交わされたシェリアとフレアルの瞳はライバル心に燃えていた。

 陰でそれを見ていたフェンラリアは、つまらない戦いだ、とため息をついた。
 一番は自分なのだ、と心の中でそう言いながら。



「あぁ久しぶりに来た」

「そのたんけん、いりょくつよいからおいておく?」

「うん。僕の力だけで勝ちたいからね」

 創造世界クリエイトスペースの中はすでにポーションの海だった。
 いつの間に創造したか、と言われれば間違いなく答えるだろう。
――――『外で、一瞬の間に創った』
 と、きっと真顔で。

 ポーションを人数分とって、余分にまた二つとった。
 それでもポーションの海は減る気がしない。

 ルネックスは短剣を置き、ため息をついたのだった。

「このブレスレット、強すぎでしょ……?」

「仕方ないですよ、ルネックスさんは強いものを扱うべきです!」

「どこから来たのその自信は……」

 ポーションを取って部屋に戻ると、すでにフレアルは寝ていた。

 仕方ないな、と首を振ると、それぞれ買ったばかりのパジャマを着て眠りについたのであった。

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